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「待って、私も行く」
背後から落ち着き払った声が飛んできて、シオリの足が止まった。
振り返ると、アズサはすでにライフルを胸元で構え、装填を終えたばかりの弾倉をカチン、と最後まで押し込むところだった。
その熟練した仕草を改めて目にし、シオリは思わず息を飲む。
「あの爆発音的に『M16地雷』だ。それと梱包爆薬」
「えむしっくすてぃーん……って地雷!?」
シオリの目が一気に見開かれる。
『M16』、地雷の中でも跳躍型地雷と言われるもので、踏むかワイヤーを引っ張る事で起爆、その場で跳ね上がり、空中で金属片を撒き散らすなかなか厄介な一品だ。このタイプの地雷で最も有名なのはゲヘナの『Sマイン』だろうか。
「ねぇ、アズサちゃん…」
シオリは恐る恐る聞いた。
「どうかした?」
「もしかしてだけど私ってさ、アズサちゃんの地雷を完全に除去しきってない…?」
「私は言ったはずだ。
「…」
「シオリ?」
アズサの声音がやけに落ち着いていて、逆に不安が加速する。
シオリは無言でアズサの顔をじっと見つめ――
「いやいやいや!これ、マズいって!!!!あぁ、もう行かないと!!コハル!救急キット用意して!」
「えっ?う、うん!」
シオリはそう言い残し、真剣な表情でSMGを胸に抱き抱え、銃剣突撃でもするのかと言った前のめり姿勢で風のように走り出した。地面を蹴る音が乾いた連打になって遠ざかる。
「シオリちゃん!…って速!?」
「そりゃそうよ!委員会でも10本指に入る俊足の持ち主なんだから!」
コハルが誇らしさと心配の混ざった声で叫びながら、姉がご所望の救急キットを取り出すため鞄を漁る。また、間違って
「追おうか」
先生が冷静に靴を履きながらつぶやいた。
「ですね…一応の事を考えて先生は最後尾でお願いします」
「わかった。みんな、落ち着いていくよ」
こうして、先程までのほんわかした様子とは一転、張りつめた空気のまま玄関へと駆け出した。
シオリは玄関前でズザザーっとスライディングのような形で足を止めた。
合宿に使っているこの施設は地面から少し高い位置に土台が作られているため、入るには玄関前の数段ほどのステップを登る必要があるのだが、どうやらそこを覆う屋根の内側、そして柱の隅に赤外線センサー式に改造された地雷が仕掛けられていたらしい。
破片と委員会の手引きに載っている参考資料を比較するが、確かに『M16』だった。
煙が夏風に揺られながら立ち上り、現場一帯がうっすら白く霞んでいた。
連鎖した爆薬の跡は多いが、建物が崩れる気配はない。
ここは流石のキヴォトスの建築技術。こんな放置された建物も城壁並みの硬さだ。
「けほっけほっ。さてはアズサちゃんのやつ、私が一通り回収した後にコレのスイッチを入れたな?褒めたいけど褒めたくないよ、まったく…って…あっ!?」
ぷんすこ気味に独りごちていたシオリの声が、突然ひっくり返ったとほぼ同タイミングで背後から、息を切らした声が近づいてくる。
「あっ…アズサ!あんたも足速いのね…ゼェ…ゼェ…」
「うぅ…私も歳かなぁ…」
「先生はまだお若いですよぉ!」
一等賞はアズサ、誰かさんと同様にスライディングでのゴールイン。二番手のヒフミはリュックのベルトをグッと掴んでの到着。次にコハルは他より長いライフルを絶対に落とすまいと抱きしめていた。ハナコは何が…とは言わない重そうで、息切れ中。そして最後尾の先生がタブレット片手に額の汗を拭きながら現着だ。
全員、爆発の気配と火薬の匂いを嗅いだからか緊張して目が鋭い。
「シオリちゃん!結構大きな声でしたがまた何か…ってあら?」
ハナコが言いかけたところで、風が吹き、煙がスッと晴れた。
すると――そこに“人影”が現れる。
反応から見てハナコはその人影が誰かを知っているようだった。
「けほっ…とっ…突然爆発が…」
人影の正体は、橙色の髪にヴェールの下に隠れているケモノ耳が印象的なシスターさんだった。腰が抜けてしまったのか地面にペタンと座り込み、煙を吸ってしまい咳が止まらないようだ。
「やっぱり、マリーちゃんでしたか、大丈夫ですか?お顔に煤が…」
「は、ハナコさん…!?けほっ」
ハナコが短く言うと、コハルが驚いたように眉を上げる。
「知り合い?」
「えっと…まぁ」
そんなやり取りをしている間にも、マリーは涙目になりながら祈りの言葉を紡ごうとする。
「きっ…けほっ…今日も平和と安寧が……げほっ…はぁ…うっ…けほっ…あなた共に…かほっ…ありますように…」
「本当に大丈夫ですか!?今は人よりご自分の心配をしてください!」
咳き込みながらも指を組み祈り続けるマリーの背を、ヒフミが優しくさすって宥める。
シオリも駆け寄り、膝立ちになって顔色を確かめた。
「見た感じシスターフッドの人かな?とりあえず、大きな怪我はなさそうだね。別の場所でしっかりと見るから、肩…いやおんぶしたほうがいいかな」
「お、おんぶですか!?えとっ…」
マリーの耳がぴん、と立ち、戸惑いを隠しきれない。
「うん、楽だしさ。あ、やっぱり担架取ってきた方がーー」
「そっ…そこまでしていただかなくても…!」
「…?」
シオリは優しい顔で首を傾げると、マリーはかすかに視線を落として目を瞑り小さく唸った。
目の前の初対面の生徒がもつ、落ち着いた声色と、ふわりとした笑顔に押され、マリーはもはや断れなかった。そして何かを決断したように唾を呑み込んだ後、控えめな声量で言った。
「お、お手数を…おかけします…」
そんな控えめな声に、シオリも自然と笑みを返す。
「よしっ…じゃあ、どうぞ!ちょっと翼が邪魔かもしれないけど…そこはごめんね」
「いえっ…そんな…素敵な翼だと思いますし、おぶってもらう私が文句など言えません」
「えへへ。ありがとー」
シオリは背を向け、ゆっくりと腰を落として乗りやすい姿勢を作る。
ヒフミはマリーの肩を支えながら慎重に背へ乗せた。
翼に触れないよう気をつけながら、どこか恥ずかしそうにそっと腕を回す。高校生にもなって誰かにおんぶされるなんて状況が来ると、思ってもいなかったのだろう。
その光景をコハルはどこかもどかしそうに唇を結びながら眺めており、その横でハナコは目を逆Uの字にしながら掴みどころのない笑みを浮かべていた。
(うぅ…まさかハナコさんの前でこうなるとは……)
背中から伝わる微かな緊張に気付いたのか、シオリが優しく声をかけた。
「スタビライザーとかサスペンション積んでる訳じゃないから、揺れちゃうかもだけど振り落としたりしないから安心してね」
「そ、その…」
「なにかな?」
「お、重くありませんか?」
マリーの小声にシオリもしっかりと小声で返す。
「むしろ軽すぎてびっくりしてるくらいだよ〜。大丈夫?ちゃんと食べてる?やっぱ修道院ってあまり食べれないの…?」
「そ、そのような事はないです…大丈夫です、ありがとうございます」
「ならよかったよ」
マリーの頬をほんのり赤くなるのをハナコは微笑みながら見守り、庭へと戻る事にした。
先ほどの騒動が一旦落ち着き、ご飯を食べていた庭のパラソル付近に折りたたみ式のアウトドアチェアを置き、そっとマリーを座らせた。
シオリはしゃがみ込み、彼女の負傷箇所がないか丁寧に確認していく。
委員会で衛生と応急処置はある程度叩き込まれているため、この程度なら朝飯前だ。まぁ専門の衛生兵には劣るが十分だろう。
「怪我はないけど、煙吸っちゃってるから後で救護騎士団に行った方がいいかも、友人が働いてるからその人に言うと早いと思うからこれ渡しとくね」
「す…み…鷲見さんですか?」
「うん、行ってみて!いい人だよ。桃色の髪してるからすぐわかると思う」
シオリはウエストポーチから小さなメモを取り出し、サラサラと『鷲見さんへ 煙吸っちゃったみたいだからよろしくね 下江より』と書き添えて手渡した。
“鷲見さん”とは救護騎士団、二年の『鷲見セリナ』の事だ。シオリの戦闘スタイルのおかげか、お世話になる事が多いのと、個人的な友人なので信頼できるとし彼女に託したのだろう。
本当は名前で書きたかったが、公的な話になりそうなので苗字で統一したのだ。
「ん?」
ピロンと音がした。何の変哲もない、デフォルトのシンプルなスマホの着信音声だった。
着信音をカスタマイズしている者はポケットやカバンに手をのばさずに辺りを見回す。
アズサなんかはそもそも気にしていない。
そのような中、自身の端末を確認しているのはシオリだけだった。
「私だ。えと……モモトークか。誰から~って」
『わかりました!しっかり救護しますね!』
『あと今度久しぶりにお茶しませんか?まってます!』
「……え?」
「はいこれ、お茶」
コハルが冷えたグラスを手渡すとマリーはこくこくと飲み始めた。
「ぷは。…ありがとうございます…あぁ、お紅茶以外のお茶を飲んだのは久しぶりです」
「冷えた麦茶美味しんだけどなぁ」
「そもそも冷たいモノを好んで飲むという人間がトリニティには少ないですから。最近は変わってきてる感じはしますけど」
「うーん、そっかぁ」
マリーは胸の前で手を重ね、ふうと息を落ち着ける。
「それにしても、本当に驚きました…階段を登り切ったと思ったら突然、足元と頭上に衝撃と熱風が」
「「アズサちゃん…」」
ヒフミとシオリの声が重なった。そのいつもより数トーン低い声と微妙な表情に流石のアズサも冷や汗をかいて肩をすくめた。
そんな彼女の腕を、後ろからコハルが眉間にしわを寄せながらひっぱり、そのままマリーの前まで移動させた。
「アズサ、謝らないと」
「……う、うん。ごめん、敵襲だと思ったから…」
「て、敵襲……?えと?」
困惑しながらも、マリーはアズサの謝罪を真面目に受け止め、小さく首を振って微笑んだ。
「ところで、シスターさんがこちらに何用だったのかな?」
「あ、それはですね…こちらに補習授業部の方々がいらっしゃるとお聞きしまして…えと、まさかハナコさんがここにいらっしゃるとは…」
「私も成績があまり振るっていないので」
にこりとそう返すハナコ。それに少し間を空けてマリーが「そう…でしたかと」口にする。
何か引っ掛かる様子だった。
「補習授業部に用…と言ってもその様子では、私に会いに来た訳ではないのでしょう?」
「そうですね…本日は白洲アズサさんを訪ねてこちらに参ったのですが…」
「私だ」
「あっ…そうなのですね、なるほど」
(わお、気まずいな)
爆発をお見舞いしてきた相手が、用事のある人物だった訳だ。シオリはこれ以上突っ込むのも無粋だと思い、ひとまずランチの続きを咀嚼し始めた。ちょっとパンが硬くなった気がするし、スープは完全に冷めてしまっている。
「えと、そうですね。数日前でしょうか、アズサさんが助けてくださった生徒さんの方から、感謝をお伝えしたいとありまして。ですが諸事情の為、私が代わりに」
「感謝?」
「アズサちゃん、人助けを?」
「その方はクラスメイトの方々から、どうやらいじめを受けていたらしく……当日も呼び出されては、なんだか要求だとか命令?…のようなものを言い渡されていたと」
「…そんな事が」
「い、いじめっ……!?」
ヒフミは目を丸くし、コハルが声を荒げる形で怒りを露わにする。その横でシオリは静かに…だが先ほどより明らかに力を入れてサンドイッチを咀嚼しごくりと飲み込む。
そして、
「………チッ」
口元をさりげなく隠しながら小さく舌打ちをした。
「っ…」
本人は周りに聞こえない程度のつもりだったのだろうが、すぐ隣のハナコだけには届いてしまった。
ハナコは初めてシオリの怒りの感情を見て少々鳥肌が立つ。
勝手な決めつけであるのはわかっているのだが、どうしても彼女は笑顔のイメージしか無かったため、余計に何かオーラ的なものを感じた。
いや…怒りを持つのは人間としてはごく普通なのだが、彼女は一定の何かに対する認識の完全な欠如を持っているのも事実……。
そっと横目で様子を窺うと、そこにあるのはいつもの穏やかな笑みではない。
普段は綺麗に輝いているワインレッドの瞳の奥が濁る。その色は酸素を供給し終えた血液のそれだ。
そしてハナコはそっと視線を逸らすのだった。
「やっぱ、あるよね…悔しいけど」
「……えぇ。聞かない話ではありませんね。みなさん狡猾に…しかもかなり陰湿に行うようですから、中々表には出にくいのがなんとも…」
「うん、ウチは組織全体で撲滅に動いてるし、それ専門の部隊まで編成されるほど。でもゼロにはならない。あの情報部ですら掴めない件もある。もしかしたらプロの犯罪者よりも事の隠蔽が上手いよ、そあの手の連中は」
「…シオリちゃんも取り締まった事が?」
ヒフミが聞くと、シオリは小さく首を縦に振った。
「まぁね……『下級生が上級生をいじめてる』とか…『知らない所で家族がやられてた』ってのとか……中々な話をね。そう言う案件に出くわすと数日ぐらいお腹が痛くなるんだよね」
胃薬が効かないタイプの腹痛だ。銃弾を受けるみたいな衝撃じゃなくて内部からジワジワとくる痛みだから、そっちの方が苦しい。
銃弾は別に当たっても逆にやる気がでるし、その場限りだから良い。けれどもそう言う案件が原因のやつは痛みは引いても重っ苦しい何かがしばらくは続く…まぁ被害者のそれと比べたらちんけなモノだね。
「その後は…」
「一年の頃の話だったからさ。私は下っ端中の下っ端で“その後は上に任せろ”って言われて終わり。今ならデータベースにアクセスできるけど、まぁね」
シオリの言葉にヒフミは何も言えず、ただ頷くことを繰り返すしかなかった。先生もどこか表情が暗い。
「シスターマリー。そのいじめの件、被害者本人の告白で知ったって感じ?」
「はい。……ようやく、という状況でした」
「なるほど」
マリーは小さく息を吸い込み、続けた。
「呼び出された日…偶然通りかかったアズサさんが、その方を助けてくださったそうで」
「そう言えば、そんなこともあったな」
「そんなことって…」
コハルが呆れたように言う。
「ただ数にものを言わせて、弱者を虐げている行為が目障りだっただけだ」
淡々とした口調でアズサは当時の事を振り返る。
「その後アズサさんに無残な姿にされた方々が、正義実現委員会に通報されたみたいで…」
その言葉にピクリと反応する姉妹。
「どこで情報が歪曲したのかは分かりませんが…結果アズサさんに対して、急行した正義実現委員会側から発砲が」
(え?それって…!)
「そのまま戦闘が拡大、アズサさんが教材用の弾薬庫を占拠し、正実に対して防御戦闘を開始…最初に突入した部隊はものの数十分で壊滅したとか…」
「た、確かにハスミ先輩もマシロも他のみんなもボロボロだったけど…」
「狙撃班のあの人らがやられるって相当だよね、ホント…イヤ、屋内戦だったから仕方ないのかな」
「後続部隊相手にもしばらく善戦。正実側のエース一名が突入するも、相打ちで二名とも騎士団送り…確かこのような話だったと私は聞いています」
「やっぱそうよ!あの時の!『
「弾薬庫に正実…?あぁ、あの時か。もしかしてコハルもいたのか?」
「あ、いやそっちには私は行ってないけど……」
「そうか。何がどうあれ、売られた喧嘩は買う。あの時、弾薬がもう少しあれば、シオリとの戦いに多少の余裕を持って挑めたんだけど、マガジンがあと数個しかなかった。爆薬も正実の先発隊に対してほとんど消費していたのが、ダメだったな…現地にあった催涙弾は訓練用であまり使いモノにならなかったのも痛い」
「あぁ…!アズサちゃんとの出会いがあれだったね。あれで弾薬不足って…私がやり合ってきた中で二番目ぐらいには強敵だったのに…てかエースって私?…私“敵機を5機以上撃墜”なんてしてないよ?ゲームとかだと一機で艦隊全滅させたりとかしたけどね?いやぁ…あそこのストーリーは感動したなぁ」
「いや、お姉ちゃん…そういう意味のエースじゃないわよ…えっと、ツルギ先輩にハスミ先輩、イチカ先輩とかマシロとかと同じ感じの意味…だと思うけど…」
「わお、名だたるメンバーだね?」
「分かってない…」
そこでマリーがおずおずと手を上げた。
「あの、そのすみません…お名前をうかがってもよろしいでしょうか…?」
シオリはにへらっと笑い、気楽に答える。
「シオリ。下江シオリだよ。正実所属の二年。よろしくね」
名前を言った後に、フルネームを言うタイプの自己紹介。これをいつかどこでやりたいと思っていたが、まさかここで出来るとは。
「よろしくお願いします。シオリさん。下江…なるほど……って二年生!?私、先輩におんぶを…いや、年下でも同級生でもあれですが…」
「確か…私がコハルちゃんと出会った日もあの日でしたね♡」
「はいはい厄日ね」
「それにしてもアズサちゃん強かったなぁ〜翼でクイック機動とか見せられたから、ビビったよ。あれどうやるの?」
「教えてあげてもいいけど、シオリの翼の大きさだと難しいかも」
「ちぇ。やっぱりかぁ」
がっかりしたように肩をを落とし、翼をパタパタ動かす。揺れる翼の様子をヒフミはつい目で追ってしまった。
そしてマリーが本題を戻した。
「それで、その方が報告もかねてシスターフッドを訪れてくださったんです。アズサさんに感謝がしたいけれど、学園のどこを探しても見当たらないと。それで私がこちらを訪れました」
アズサはふいっと視線をそらし、ぼそりとつぶやいた。
「別に…感謝されるような事はしていない…最終的には私は捕まり、ベッドの上だ」
シオリは首を横に振った。
「違うよ、アズサちゃん。理由はどうあれ、いじめを見逃さずに止めた…素晴らしい行動だよ」
シオリの言葉に自然と一同が頷く。心のどこかで、アズサの事を『敵』として見ていたコハルも素直に首を縦に振ったのだ。
「……白洲アズサさん。貴女は今『危険人物』としてとあるリストに載ってる。これはランキング制みたいなのを導入していて、まぁ要するにやべー奴ほどリストの上位に名前が連なるって訳。例えば、そうだねぇ…あの「七囚人」とか「有名なゲヘナのテロリスト」とかがいたりする。まぁアズサちゃんは一回確保されてるからそいつらと比べたら下だけど、名前が載ってるのに違いはない。ちょろっと別件で資料見た時に知ったんだけどさ…これに載ってると監視がついたりするから生活に支障が出ると思うんだ」
アズサの表情は微動だにしないが、まつげがわずかに揺れた。
「それは…私達に公表していいモノなんです?」
「ヴァルキューレが出してる【wanted】の懸賞金無し版みたいなもんだしセーフセーフ。別に学園の運営とかに関わる話じゃないしね」
なんなら普通に懸賞金つけて公開した方が委員会的にも助かると思うんだけどねぇ。キヴォトスじゃバウンティハンターはメジャーな仕事だし、懸賞金用の資金の方はまぁ余裕だろうし。
……いやでも、懸賞金狙いで来た人達が、街中で色々やらかすって話は他の自治区で聞く話だから…うちもそうなるとめんどくさいかもしれない。余計な事して仕事増やすのはダメか。
「まぁ確かにアズサちゃんと正実は一戦交えたよ、負傷者も結構いた。けどね……人助けをしていたアズサちゃんが『一般の優良生徒にいきなり暴力をふるった挙句、テロ行為をして甚大な被害を出した極悪人』として扱われてるのに私は憤りを感じるね」
腕を組みながら、唇をぐッと上の前歯で噛む。
「この件は必ず報告する。補習中だろうが関係ないよ。絶対にアズサちゃんの濡れ衣を無くすし、加害者さんには………まぁね?弾薬庫の話は、弾の消費期限が迫ってたらしいし、負傷者に関しては正実だけだったから大丈夫かなって」
風船から空気が抜けるような乾いた笑いを漏らすと、キリっとした視線をマリーに向けた。
「シスターマリー。被害者に負担をかけない為にもあなた達が入手した情報…それをどうか提供して欲しい。シスターフッドが秘密主義で不干渉を貫いているのは重々承知しているし、そのスタンスを変えろだなんて言わない……けれど、正義の為に、どうかお願いしたい…そのいじめ犯を放っておくのはイヤなんでね」
シオリの言葉にマリーは深く頷いた。
「先輩方に確認してみます」
「ありがとう。そして、白洲アズサさん。正義実現委員会を代表して謝罪します。元をたどれば発砲はこっちからだし」
そう言って深々と頭を下げるシオリ。コハルも同じようにした。
「…そうか…ありがとう」
アズサ一瞬目を逸らしたがすぐに視線を戻し、小さく頷いた。
「マリーだっけ?その生徒に一言ある。あの時のことは気の毒に思う、けれどいつまでも虐められてるだけじゃダメだ。それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることを止めるべきじゃない」
「……そうかもしれませんね。しっかりと伝えておきます。アズサさんは『暴力を信仰している氷の魔女』なんて噂もありましたが…やはり噂というモノはあてにならないですね」
「確かにそうですが、アズサちゃんには“氷の魔女”らしい所が意外とありますよ?例えば表情が読めなかったり」
「手から氷を出したりね」
「シオリ、それは『氷の女王』だね」
「どっちも同じようなもんですよ先生」
「そう…かなぁ…?」
「こ、こっちを見られても困りますよ先生…」
「魔女…ってのは分からないけど、氷ってのは分かるかも、アズサちゃんのお肌は何だかひんやりしてるしね」
そう言って、シオリは自然な動作でアズサの頬に手を伸ばした。
親指がゆっくり、もちもちと頬の柔らかさを確かめるように押して、撫でて、また押す。
アズサの白い頬はひんやりとしているが、痛みがある冷たさではない…シオリの指の温度がそこに触れるたび、冷たさがほんの少しだけ溶けていくように感じられた。
アズサはまぶたすらほとんど動かさず、ただそのまま黙ってシオリの指を受け入れていた。
ハナコの発言通り、なかなか表情が読めないが嫌がってはいなさそうだ。
「ふふ。では私はそろそろお暇させていただきます」
「……マリーちゃんがお元気そうで良かったです」
「はい。私はですが……」
「うふふ。では玄関まで送りますね。あ。アズサちゃん、他に地雷は残って…?」
「
「ヒフミまで…」
「行きましょうマリーちゃん」
「で、では皆さんお邪魔いたしました。先生も、突然の訪問ですみません」
「大丈夫だよ、気を付けて帰ってね」
「はい。シオリさんも、話が進み次第ご連絡します。こちらが私のモモトークです。では、またどこかで」
「ありがとね~」
軽く手を振り、見送る一同。
伊落マリーの補習授業部訪問はこれで終わった。
たまっ…たま、マリー回だっただけです。
デザートイーグルで脅したりはしません、ごめんなさいね。