【悲報】下江姉、エッチを知らない   作:スラバヤサトゥ

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誤字報告、評価…感謝です。

そろそろブルアカのメインストーリーが始まる…かも?


徘徊する者

昼の鐘が、静寂を破るように響いた。

午前を終え、喧騒へと変わる学園。

生徒たちが談笑しながら廊下を行き交い、カフェテリアや街の方へと急ぐ足音が響く。

暖かな陽光が大理石の床を照らし、窓辺に差し込む影をゆらりと揺らしていた。

 

そんな喧噪の只中で、委員会本部の部屋にてシオリは他より一足早くランチタイムを開始しようとしていた。

ランチョンマットを仕事机に広げ、その上に可愛らしい紙に包まれた手のひらほどの長方形を真ん中に置き、Ⅿサイズほどのカップに入ったコーラにストローを突き刺す。

紙になっていた一時期は絶望したものだったが最近は原点に戻りつつあるので良い傾向だ。

 

仕上げにカップに入ったシーザーサラダをポンと置いた。

 

「よしっ…」

 

準備万端。

祈るように手をこすり合わせ、舌なめずりをする。

 

そんな折、部屋のドアがガチャリと開いた。

目をやるとイチカちゃんが手に袋をぶら下げ「お疲れっす~」と入ってきた。

 

「お疲れ~」

 

「おっ、シオリもお昼っすか。ありゃ?他の皆は?」

 

「買い物か外で友達とランチじゃないかな」

 

「そんな中、私たちは寂しく職場でお昼かぁ~なんか華が無いって言うかなんというか」

 

「まぁまぁここで通報を受けれる人間がいないと…」

 

そう言い壁かけカレンダーの下に鎮座する固定電話をチラリと見る。

ダイヤル式のほぼアンティーク。

FAXを送る機能すらない…まぁ今この時代でFAXを使うかは知らないけど。

いい加減変えて欲しい、せめてプッシュボタンと子機を…

 

「とにかく食べないと…ってそれは…」

 

イチカは自分の席に座りながらシオリのお昼を見て文字通り目を見開いた。

 

「それ日替わりの…」

 

「あ!分かる?そう『デイリーランダムサンドイッチ』だよ。さてさて今日は何かなぁ」

 

ふふんと包みを手に取りイチカに見せるシオリ。

行きつけのカフェがやっている毎日中身が変わるサンドイッチを販売するサービス。

安いし、うまいしで中学の頃からお世話になっている。

胃がそこまで大きくない自分にとってはちょうどいいサイズなのもポイントが高い。

 

「へぇ」

 

すんすんとシオリが握っているサンドイッチを包み紙の上から嗅ぐ。

 

「匂い的にランチョンミートっすかねぇ?」

 

イチカがニヤリと笑いながらそう漏らす。

 

「へっ?」

 

友人の発言に抜けた声を出し、慌てて包み紙を開ける。

丁度いい焦げ加減のパンにはさまれたのはキャベツと角ばった長方形の塊。表面は滑らかで、ほんのりとした艶がある。淡いピンク色をしており、細かく刻まれた繊維のようなものが内部に散りばめられている…ご名答、ランチョンミートだ。

 

シオリは呆れたように目を泳がし、不貞腐れた。

 

「人の楽しみを奪うなんて…」

 

「え、ぇぇ…そこまでっすか?」

 

「そこまでって何さ!この世にはね、日々のほんの些細な事に人生の幸せを見出してる人もいるの!」

 

「なるほど?」

 

持論を展開し拳を震わせるほどの熱意をみてイチカは「う、うん」と小さく頷いた。

 

「まぁ私も言い過ぎたかもしれないけど…そういう事だから!」

 

シオリは切り替え、サンドイッチに噛みつこうとしたその時。

 

ジリリリ

 

例の電話が叫び始めた。

 

見つめ合う二人………ため息をついてシオリが受話器に手を伸ばす。

 

「こちら正義実現委員会」

 

「はい」

 

「…はい」

 

「はい?」

 

「…」

 

「分かりました…すぐ向かいます」

 

一分ほど通話が続く。

いつものように相手が興奮状態で話が拙い…と言った事はなくスムーズに現状が伝わってくる。

話を終えシオリはチンと受話器を置いた。

 

「なになに」

 

イチカはスプーンでカレーをすくいながら通話の内容を伺う。シオリは電話がかかってきた時点でかなり萎えていたが、内容を聞いてさらにどん底へと落ちたようだった。

 

「水着で歩き回っている生徒がいるってさ」

 

「……すっごい事する人もいるもんっすね」

 

「これって私達のどちらかが行かないといけないパターン?」

 

「そうかも?」

 

静寂が訪れる…が持て余している時間は無い。

 

再び向き合うと、お互いに拳を出し合う。

考えている事は一緒…古来より伝承する決め方。完成された娯楽。

どんな人気オンラインゲームよりプレイヤー人口を誇る、アレ。

 

「「せーの!じゃんけん!」」

 

 

 

 

「ん゛ん゛ん゛」

 

到底女子が出してはいけないような唸り声を出し、サンドイッチを食べ歩きするシオリ。

水分を持ってくるべきだったと後悔する、後で自販機に献金だ。

 

「てか私ってあんなに弱かったっけなぁ…」

 

左手を握ったり開いたりし眺める…いやまぁこの手に罪はないんだけど…土壇場であの結果だとね?

そもそもじゃんけんに強弱があるのか…ただ単に運が無かっただけ?

あぁ駄目だこれ以上考えると多分夜眠れなくなる。

 

 

シオリは残った昼飯を口に詰め込み、口元と指についたパンくずを掃う。

胃を満たしたおかげで脳にも余裕ができた気がする。

入れた物が逆流しないレベルの駆け足で現場へと向かった。

 

 

現場は騒然としていたーー

 

ってレベルではないけど少し人だかりができている、野次馬って奴だ。

そんな事をするならもっと他に時間の使い方があるでしょうよ…なんて言いたいけど、次の日の委員会への問い合わせが増えそうなのでごくんとのみこむ。

暴動の鎮圧だけが正実の仕事じゃない。

 

「…こ、この時期に水着…?」

 

「プール開きってもっと先じゃなかったっけ?」

 

「それどころの話じゃないでしょ今4月よ?」

 

「羞恥心をベッドの上に忘れてきたんでしょ…」

 

「てか、あの人って…」

 

「わお…」

 

シオリは自分の目を疑った。

本当に水着で歩いている人がいるではないか…優雅な微笑みを浮かべ、まるでリゾート気分のようにサンダルをはきながら歩いている。

電話で話を聞いた時は新手のいたずらかと思ってたけど…現実は小説よりなんとやら…

 

戦闘にはならなさそうなのでSMGを背中にまわし『徘徊者』に駆け寄る。

もしここで私が私服なら周りからの目がキツイだろうが…今はこの制服がある、ある意味防弾チョッキより強い。

 

「あの、すみません」

 

「はい?」

 

「正義実現委員会の下江と言います…少しお話を」

 

「あら、お仕事ご苦労様です~えーと付近で何か事件でも?」

 

いやアンタだよ…。

生徒はキョロキョロとあたりを見回す…とその彼女の視線に嫌悪感を感じたのか野次馬は引いていった。

 

「貴女に用があるんですよ…」

 

「あら?なんでしょうか」

 

「分かってるでしょう?その恰好ですよ…ここでは何です、場所を移しましょう…貴女の状況的にも…」

 

相手の顔から体へ視線を落とす…青っぽい色の学園指定水着…濡れた様子はない。

サイズの問題か、身体にぴっちりとくっついている。

……こんな事思いたくないけど中々に恵まれたボディをしているなぁとは思う。

 

「そうですね、うふふ…ではそこの公衆トイレなんてどうでしょうか」

 

にこにこ顔でぽつんと置かれたトイレを指さす。

 

「いやいや、狭いでしょ」

 

「なるほど…広い方がお好きですか…確かに空間に余裕があれば選択肢も増えますからね…」

 

「…はい?」

 

全くもって何を言っているのか分からない。

シオリは唇を噛みながら息を吸った。

 

「冗談もほどほどにしてくださいよ?」

 

「あら、私は冗談なんて言ったつもりはありませんが…」

 

「はぁ…はいはい、話は部屋で聞くから」

 

「はぁい、お巡りさん」

 

これには私も苦笑い。

ヴァルキューレ警察の人の苦労が分かった気がする、この感覚を味わったらもう簡単に批判はできない。

ここまでの変人というか…悪い人ではなさそうだけど気を抜いたら一瞬でもってかれそう…この人は濁流か何かだ。

 

シオリはもう一度相手の体をちらっと見たのち、制服の上から来ているパーカーを脱ぎだした。

体温調節の為にも上着は大事だ。

 

そんなシオリの行動を見てか、手を開き口元に置きながら驚く水着の生徒。

 

「あらあら…大胆ですn…?」

 

彼女が言い切る前にシオリは脱いだパーカーを丸めて差し出した。

目を見開く生徒。

 

「まだ、夏どころか梅雨も迎えてないんだからさ…ここで風邪ひかれても困るし」

 

「それにさ…」

 

「?」

 

一拍置いてシオリは言った。

 

「…その恰好のまま移動させられないよ」

 

 

場所は変わって正義実現委員会本部…の取り調べ室。

伝統的なつくりではなくしっかりとした現代的な部屋。温かみはなく無機質で青っぽい。

刑事ドラマでよく見る感じ、まぁ逆にアレンジしろって言われても何も思いつかないや。

 

「はい、お茶」

 

「あら、ありがとうございます♪」

 

優雅にお茶を飲む姿を観察するシオリ。

…仕草は優雅だし、髪はきれいだし顔は整っている…模範的どころか完璧なトリニティのお嬢様…って感じだが、恰好が全てをぶち壊している。

 

そんな分析をしつつ、自分もカップに手を伸ばす…目を細め観察に集中するあまりかハンドルを持たずにカップごと持ち、豪快にお茶をすすってしまった。

ちょっとしたティータイムを終え、本題に入る。

 

「まずは、名前と学年を」

 

「うふふ、浦和ハナコです。二年生です♡」

 

名乗りを終えた後、笑顔でお手本のようなダブルピースを披露するハナコ。

なんだかフリー素材で使えそうなレベル。

 

(それじゃ4年生では?)

 

そんな疑問を心に抱きながらシオリは記録用の紙に彼女の名前を書く。

『浦和ハナコ』この名前に何かを感じ一瞬ペンの動きを一度止めたが…気のせいかとまた書き始める。

 

「字…これであってる?」

 

「はい、あってますよ。ぴったりですね」

 

「おーけー。えーと早速本題にはいるけどさ、なんであんな場所で水着を着ていた訳?適してないでしょあの場に」

 

「何故…と言われましても…普段とは趣向を変えて嗜んでいただけです、水着も制服の一部なのに皆さん着ないのが不思議です」

 

「わっつ?」

 

突飛な発言に声を出してしまったシオリ。

一瞬だが宇宙に飛ばされた感覚に陥る…なんだか綺麗な銀河系が見えた気がする…それとネコ。

 

「いや、趣向を変えすぎでは?というか、水着が制服の一部?」

 

「制服の採寸をして購入した時…水着も同じタイミングで確認しましたよね?」

 

「まぁ…そうですね」

 

入学前にそのような事をしたのはシオリも覚えている。

セーラーとスカート…人によってはブレザーにローファー

試着し、サイズを確認する流れだった。

ハナコの言う通り同じ日、同じ場所で水着の採寸もしたが…

 

「いやいやいや!だからって、水着を制服と言い張るのは無理でしょ!」

 

「水着は仲間はずれですか……?」

 

「…」

 

眉をひそめながらシュンとするハナコ。

見え見えの演技だとシオリは分かってはいたが、どうも擬人化されると情がでてしまう。

が、これは仕事…私情は切り離す必要があるのだ。

うなじを二、三回かき感情を切り替える。

 

「とにかく、ダメ!あんな場所でそんな格好したら皆驚くでしょ!」

 

「とにかくって…何故ダメなんですか?校則には『水泳の時間外に水着を着用してはいけない』と言う項目は無いハズですよ…?まさか校則も理解せずに取り締まりをしている訳ではありませんよね?」

 

「前例がないから記載がゼロなの!」

 

「あら、私がファーストペンギンですか」

 

「貴女のせいで3円ぐらいインク代が増えそうだよ…それにね…!」

 

勢いよく胸ポケットをまさぐり、小さな冊子を取り出す。

赤色のカバーに金色の文字で『school rules』と『Justice Task Force』の文字が。

 

「ポケット版の校則!これを覚えるのにどれだけ苦労した事か…なのにこれ以上記載が増えるなんて…」

 

「ご苦労様です」

 

「ホントだよ!はぁ…」

 

早口と大声で喉に負担がかかったのか少しばかりせき込む。

 

「大丈夫ですか?」

 

「心配どうも…」

 

潤いを取り戻すためお茶をすする。

 

「制服をアレンジする生徒さんは沢山います…ですが私は指定水着をそのままの姿で着用しています…どちらが健全でしょうか」

 

「いやいや、釣り合わないからそこ。水着は確かに指定されているけど、それは授業や活動のためだし。アレンジ制服が許されるのは、あくまで“制服”としての役割を果たしているからさ。あとよっぽどだったらそっちも注意するし」

 

「そんなに違いますかね」

 

「…違うから。とにかく、TPOだよ…家庭科で習ったでしょ」

 

TPO、“時(Time)、場所(Place)、場合(Occasion)” に応じた、適切な行動を取ること。

例えば…

 

『結婚式にジャージで行かないのは、フォーマルな場にふさわしい格好をするため』

 

『プールにスーツで入らないのは、水に適した服装があるから』

 

シオリの言葉に唇を尖らせ黙るハナコ。

ついに観念したか…と肩の荷を下ろそうとしたのもつかのま、ハナコが口を開く。

 

「……私は、“私にとって最適なTPO”を考えた結果、水着を選びました♡私の辞書で『TPO』と引いた結果がこれです」

 

「そんな辞書今すぐ発禁にして焚書だよ」

 

「それに『制服は必ずこうあるべき』という考え方自体、ただの“常識”です」

 

「その常識が大事なの」

 

「では常識は常に変わるモノです。新しい時代には、新しい服装の概念が必要では?」

 

なんだお前は…革命家か?それならレッドウィンターに行ってよね。

成功すれば革命家、失敗すれば反逆者だよホント……彼女に関しては成功したとしても英雄扱いされなさそうだけど。

 

「例えば、昔はズボンを履いた女性が少なかったそうですけれど……今ではごく普通です」

 

「そうだねぇ…」

 

呆れたように頬杖をついて話を聞くシオリ…普段だったらどんな相手でもこんな態度はとらないが、相手が相手だ。

 

「ならば、『水着を制服として着る時代』が来ても不思議ではありませんよね?」

 

「変わるとしても、少なくとも“今”は変わってないから…」

 

「むぅ…」

 

「はぁ…そう言えば水着徘徊は初めて?」

 

なんてトンチキな質問なんだと自分でも思う。

多分もう一生使わないでしょ、コレ。

 

「はい♪初めて…です。だから優しくしてくださいね?」

 

「ハナコさんの態度次第だよ」

 

最初は丁寧に書いていた書類だが、途中から文字が雑になっているのが一目瞭然だった。

結局最後まで雑な書体が元の姿を取り戻すことはなく終わった。

 

「まぁ…直接的な被害はないし…頼りの”規則”が曖昧だからそこまで咎める気はないよ、今回は警告ね」

 

これ以上の言い合いは塹壕戦並みの泥仕合になりそうだったので無理やり切り上げる。

対応があまいって?大丈夫、イエローカードは出してるからさ…ほぼ執行猶予だよ。

 

「あら、牢屋に連れ込んであんなこと、こんなこと…」

 

「でっきたらいいな♪…じゃなくて。私ってそこまで残酷な人間に見えるの…?でも次やったらそうなるかもね!」

 

「ふふふ」

 

「はぁ…」

 

シオリは深いため息をついて席を立った。

なんか負けた気がする…マラソン大会の完走直後より疲れた、今すぐコハルに癒してもらいたい。

 

「反省してよね」

 

「はぁい、反省します」

 

取調べ室のドアを開けハナコを手招きする。

 

「あ、最後に一つ」

 

「?」

 

「割とマジで体は大事にね、二年生はまだ始まったばかりだし…夏はまだ先だからさ」

 

「そうですね…」

 

「うん」

 

「では、夏まで水着はお預けですね!」

 

「それってプールでの話だよね?」

 

シオリの言葉にこたえる事はなく、ハナコはニコニコしながら去っていった。

 

「…帰すんじゃなかったかも」

 

そう、ぽつりと呟いた。

 




ハナコです。浦和ハナコです。今のところただ変人です。


体温調節とか言いつつシオリは夏でもパーカーを着るタイプです。
流石に新人時代はきっちり制服を着ていたとは思いますが、多分どっかしらで先輩に触発されたんでしょうね。

多分コハルは姉の影響です。
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