【悲報】下江姉、エッチを知らない   作:スラバヤサトゥ

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生きてます、投稿続きます、頑張ります。





事の始まり

ピピピと電子音が薄暗い部屋に響く。

 

その音に反応したのかモゴモゴとピンクの毛布の下で膨らみが動く。

唸り声をあげ、毛布の下からワームのようにうねうねと何かを探しながら腕が伸びる。

 

音を出している元凶…それの息の根を止めるべく、ベッドサイドテーブルの上をガサゴソと動きまわる。

小さな手は何度か机上を跳ねまわった後、音を出していたデジタル時計上部のボタンを押した。

 

「…んぅん…」

 

部屋に静寂が戻ってからもう3分が経った。

カップラーメンを待つ場合ならば永遠とも思える時間だが、ベッドの上だとあっという間…寝床をタイムマシンに改造した覚えはない。

 

ピピピとまた電子音が鳴る。

今度は毛布の下からだ。

スマートフォンから二度寝防止用のアラーム。

 

「ふぁ~あ」

 

観念したように布がめくれ巣から出てくるコハル。

体を起こし、目をこする。背伸びをすると自然と声が出るモノだ。

LEDのリモコンに手を伸ばすより先にカーテンの方へと向かう。

 

シャっと勢いよく開くと暖かい光が部屋を満たす。

とても眩しく、本能的に目が閉じ頭の羽が更に上から守る。

高速移動のトンネルから出る瞬間と同じ感覚…時間経過で目が慣れていく。

 

「わぁ…!」

 

窓の外に広がる光景に思わず声を漏らすコハル。

 

雲一つのない晴天。太陽は元気よくその仕事を全うしている…朝から忙しそう。

…いや、考えてみれば24時間365日休み無しで働いている訳なので働き者どころの話じゃないかも。

 

「ふぅ」

 

腕を後ろにまわし、再び背伸び。

固まっていた筋肉がほぐれていくのが分かる。

 

自分で思うのもあれだがなんて健康的な一日の始まり方なのだろう。

 

「なんかいい事あるかも…!」

 

コハルは目を細め、口元にゆるりと笑みを浮かべた。まるで全世界が自分の味方になったかのような、余裕たっぷりの表情だ。

優雅に日光浴を満喫している彼女だったが、脳が本格的に起動しはじめてきたのかふと思い出す事があった。

 

今日は休日。姉を起こさねば。

 

使命を思い出してからの行動は早かった。

パジャマのまま自室から出て、姉の部屋まで直行し優しくドアをノック…そっと部屋に侵入する。

 

「お姉ちゃん?朝だよ」

 

忍びの如くベッドの横まで移動し声をかけてみるが反応は無い。

カーテンは昨日の夜からそのままの姿を維持しており、空気清浄機の駆動音と寝息が聞こえる以外は静かだった。

 

「朝よー!」

 

近所迷惑にならない程度の声量で叫ぶが…姉は指一本すら動かさない。

だがコハル自身こうなると分かっていた、この人の眠りの深さは海溝レベルである事を。

きっと王子様のキスでも起きないだろう。

 

耳や首を傷める覚悟でヘッドホンをしたまま就寝した事もあったが…ちゃんと痛めただけで起きる事は出来なかった。

 

挙句の果てに何を血迷ったのか、ハイランダーの車掌などが使う業務用の『定刻になると膨らむ枕』なんて最終兵器を導入しようとしたときはコハルが全力で止めた。

10万近い買い物だ、流石に家計に影響する。

普段の金遣いはコハルの方が悪いのだが…まぁ置いておこう。

 

「ん゛あぁん゛…まぅ朝?」

 

唸り声をあげ、目を開けないでシオリが反応する。

 

「うん、朝6時半」

 

含んでいたマウスピースを外し、ぽけーっと時計を確認した。

 

「…まだ寝てていい時間じゃん…」

 

「そう言ってお昼に起きるんだからぁ!」

 

「コハルも二度寝する癖に…」

 

「それは…!そうだけど…」

 

姉の体を揺らし、どうにか寝床から引きはがそうと奮闘するコハルだが寝起きの割りには手ごわい。

所謂、父親を起こす子供のシチュエーションだ。

 

「えーと…あぁ…買い物だっけ?」

 

「そう!せっかくのお休みなんだから」

 

「……ふぁ~あ。起きる、起きるからそれ以上揺らさないで…脳震盪が…」

 

上半身を起こし、目をこする。

古いPCを起動した時のように時間が経つにつれて体が活発化してくる。

 

「……朝ごはんつくらないと、何が良い?」

 

「スクランブルエッグと…ソーセージ、あとトースト?」

 

「おっけ…とりあえず歯磨きと洗顔させて」

 

「うん、私もまだだから一緒に…」

 

さて動こうか…そんな時だった。

シオリのスマホが叫ぶ…個性のかけらもないデフォルト音だ。

アラームか?そう思いうるさい板に手を伸ばし画面を覗くと、とある友人並みに閉じていたまぶたが一気に開き、瞳孔が猫のように鋭くなった。

 

「お姉ちゃん?」

 

コハルが恐る恐るうかがう。

先ほどの眠気は何処へやら、シオリの雰囲気は職務を全うしている時のと同じモノ。

引きつった笑みをし、微かに震えた手でスマホの画面をコハルに向けた。

 

「……委員会から電話だ…」

 

 

 

 

 

 

空は透き通るように青く、いつも通り大きな光輪は浮かんでいる。

冷えた空気が肺の奥まで染み込む。まだ夏は先らしい。

 

シオリとコハルは、並んで歩いていた。

 

道は、昨晩の雨で少しぬかるんでいる。

歩くたびに靴が土に沈み込み、わずかに湿った音を立てると共にカチャカチャと愛銃の金属音も鳴る。

 

道の脇を進む彼女たちのすぐ横を、重厚な車両達がゆっくりと走っていく。

黒色に塗られた車体は日光で輝き、荷台に積まれた装備は揺れ、時折軋むサスペンションの音が聞こえる。

数台の車列とぽつぽつ見える人影…みんな正実の制服だ。

 

私が一般生徒だったらこの光景を見て『休みの日に仕事だなんて大変だなぁ…しかも日曜だよ?』なんて言いながらコーラをゴクゴクいっていたんだろうけど…笑ってられないや。

仕事だ仕事…振替休日とかないかなぁ…まぁ無いんだろうけど。

 

「……すごい景色」

 

コハルが、ふと口を開く。

 

「ん?」

 

「いつもは学園の中ばかりだから、こういうところ、なんだか新鮮……」

 

彼女の視線の先には、どこまでも広がる地平線。

トリニティ学園…その中心地から離れて数キロ地点の平野、この辺りはビーツ畑だったハズ。

都心部とは違った古き良き空気がここにはある。

カントリーサイド、いい響き…だけどやっぱダルさが勝つ。

 

「にしても何だか大げさじゃない…?さっきからトラックが何台も…」

 

「それ程騒ぎがデカいって事だね、動ける委員を片っ端から持ってきてるらしいし」

 

「お姉ちゃんも詳しく知らないんだ…」

 

「うん、招集の連絡と銃撃戦になる可能性あるよ~としかね」

 

「ふーん…」

 

コハルは不満げに唇を尖らせながら、ぬかるんだ道を進む。

非番の日に限って問題が起こる…この委員会に身を置いたからには覚悟はしているが…やっぱり悔しい。

 

本来なら、のんびりと過ごしているはずだった。

学園の喧騒を離れてちょっとした買い物でもして、その後、何かご飯でも……そんな穏やかな時間を過ごすはずだったのに。

 

「ねぇお姉ちゃん…『非番』ってなんだと思う?」

 

「果てしなく続く空、その向こうにある物」

 

姉の回答にコハルは深いため息をついた。

 

 

平原を抜けると、見えてきたのは即席の野戦司令部。

 

本来は穏やかな農地だったはずの場所に、軍用テントが立ち並び、土埃とオイルの匂いが入り混じっている。敷地の奥には、無理やり撤去された干し草の山が隅に追いやられ、代わりに無線機や武器ラックが置かれていた。トラックが数十台行き来し、その間を黒い制服に身を包んだ生徒たちが忙しなく走り回っている。

 

「なんていうか……混沌、だね……」

 

コハルが呆れたように呟いた。

 

「まぁ、即席のHQなんてこんなもんでしょ…設営開始が今日の朝7時らしいし」

 

まぁ重機を持ってきたりするのも一苦労だろうし…そう考えると仕方ないだろう、私は設営に一切かかわっていないから文句を言える立場じゃないし。

 

「お姉ちゃんが起きた30分後には始まってたんだね」

 

「なんかゴメン」

 

シオリは本部のテントを目指しながら歩いていく、すれ違う同僚に軽く声をかけたりしながらだ。コハルはというと…姉の後ろで小さく挨拶をしたりと同僚や先輩でもまだ人見知りが出てしまうらしいがこれは時間が解決してくれるだろう。

 

奥に行くと本部と思われる他より大きいテントが見えてきた、屋根にはでかでかとトリニティの校章が刻まれている。

その入口前に止めてあったスタッフカーのフロントに腰掛けながら缶のコーンポタージュを吞んでいるイチカの姿が見えた。

彼女も下江姉妹の到着に気づいたらしく、残りを飲み干し笑いながら近づく。

 

「おはようっす~遅いっすよ」

 

「ごめんごめん、皆集まってる?」

 

「一人を除いて。ヤバイかもしれないっすね~」

 

「うっ…本当にスミマセン……じゃあコハル、また後でね」

 

「うん…!」

 

シオリは妹に一旦別れを告げ、イチカと共にテントに入っていく。

 

「…」

 

一人残ったコハルはというと愛銃をぎゅっと抱きしめ、警戒するようにあたりを見回していた。

 

本部テントの中は、湿った空気とざわめきに満ちていた。軍用テントを思わせる大きな帆布の天幕の下、即席の作戦会議が行われている。中央には折り畳み式の長机が置かれ、その上には作戦地図が広げられていた。

そして流石はトリニティと言ったところか全員分のカップが置かれているが…肝心の中身は完全に冷え切っている。

 

「お、お疲れ様です~」

 

入った瞬間、先輩や同級の皆さまからの視線が痛い…それと見知らぬ顔、他の所からもおいでなさって…スミマセン。

保健室に行ってて遅れた時とかお腹を下してた時とか…それで教室に戻った時のアレとは比にならないほど胃がキュッとする。

 

テント内が静かになりシオリの胃痛が加速する…誰かと目が合わないようにある程度下を見ながら流れでイチカちゃんの隣にスッと座った。

 

「そろったみたいです」

 

「ですね、予定より三十分ほど余裕がありますが…早速始めましょうか」

 

あ、遅刻じゃなかったんだ…イヤまぁ私が時間管理をしっかりしていないのもあるけど…『ヤバイ』って言われたら焦るじゃんか。

シオリは鋭い瞳孔でイチカの方を見たが…『遅刻とは一言も言ってないっすよ~』と小声で返ってきただけだった。

ヤバイって汎用性高すぎるでしょ。

 

「事前の通達で大まかな事は理解しているとは思いますが…『第38予備弾薬庫』が不明集団に占拠されました」

 

ハスミは地図の上に手を置き、周りを見ながら静かに…だが迫力がある声で話し始める。

何が起きているのかは知っていたが、こう口頭で言われるとやっぱりピリピリする。

その場の者達は各々頷くが…どこかぎこちない。

 

「副委員長、聞きますが…ゲヘ公が相手って訳ではないんですよね」

 

「情報部からの聞いた話ではそう言った情報はありません、きっと自治区内部に潜んでいた不良か何かでしょう」

 

「では、いつも通り不良さん達を締め上げれば終わりですね。ここまでの戦力を集結させる意味ありました?」

 

「それがあるんですよ…ですよね?」

 

ハスミが右斜めに座っていた生徒に確認すると、全員の視線がその人に向いた。

 

正実の黒い制服ではなく、白を基調とした制服…だが一般生徒向きの服ではなくおそらく()のモノだろう、淡い青や金色のアクセントが入っており、胸元には『情報部』のエンブレムが刺繍されている。

ロングストレートのダークネイビー…美人さんだ。

 

「そうですね羽川副委員長。おっと申し遅れました、情報部より参ったナカノと申します」

 

ナカノさんが起立しお辞儀したので私達も返すように礼をした…噂には聞く情報部だけどそこの人を目にするのは初めてだ…正直陰謀とかソッチ系の話しか聞かないからちょっと怖い。

 

「奪還目標の『第38弾薬庫』ここではサンパチと呼称しましょうか。アレはただの弾薬庫ではありません…実はとある物と直結していまして…」

 

「砲か?」

 

三年生が短く問うとナカノも短く頷いた。

 

「デカさは?」

 

「8インチの連装、自動装填装置付きですね」

 

「すまんが、ヤーポンはさっぱりなんだ」

 

「20.3センチです…トリニティの一般生徒ならそれぐらい分かるでしょうに

 

「は?」

 

「おっと…そう言えば正実の皆さまは一般生徒ではありませんでしたね、失敬失敬」

 

「副委員長、この人殴っていいですか」

 

ハスミは苦笑いしながら『落ち着いてください』と宥めた。

送り出した部員が顔にあざを付けて帰ってきたとしたら後々問題が起きるに決まってる。

まぁハスミ本人も先ほどの発言には何かを感じている様子ではあった。

 

「えーと…なんでそんな代物がこんな片田舎にあるのか不思議でしかたないのですが…」

 

「所謂『要塞砲』って奴ですね…座標と弾着観測がしっかりしてれば既にこの本部も火の海です」

 

「でしょうね」

 

「何がでしょうねだ、笑えねぇ」

 

腕を組んで沈思する者、目頭を押さえる者…小声で議論交わすものと様々。

テントの中に漂っていた緊張が、より濃くなった。

 

「過去の学園防衛計画の産物です…敵は結局内側にいた訳ですが…まぁいいでしょう

 

「砲は委員長に何とかしてもらうとして…敵兵力は?」

 

「少なくて100…多くて300から400と言ったところでしょうか、偵察ドローンが撃墜された為それ以上は分かりません。私からは以上です」

 

「大隊規模だね…どこから湧いてくるんだか、シンクのハエだよ」

 

「相手方の要求などは?」

 

金か領土か、武器か…相手が何を欲しているかで対応が変わってくる。

人質がいると言う話が無いだけでかなりやりやすいが…どうだろうか。

 

「特にありません、ドローンがすぐに撃墜されてしまうのでコミュニケーションが取れない状況です」

 

「そんな未開の島の蛮族みたいな」

 

「ただ暴れたいってならそこらの不良と変わらないけど…持ってるもの次第では"ただの不良"じゃなくなる」

 

「不穏分子は先に潰しておけ…と」

 

「えぇですので今回は上の方々も注目しているそうです…『速やかに事態を終息させよ』と」

 

上の方々と言うと茶会さんか。

こう言う事に関しては仕事が早いと言うか耳が良いと言うか…情報部のおかげかな?

 

「そこまで言うんですから何か動いてくださっているんでしょうなぁ?」

 

「動いているさ、大々的にな」

 

迫力ある声が答えた。自然と発声元に視線がゆく。

カーキ色のジャケットに、茶器と戦車が融合したようなユニークな装甲部隊のエンブレムのバッヂ。

下を見れば伝統的なチェック柄のスカート。

頭の上には金色の刺繍が施されたクラシックなベレー帽。

正直帽子を見ただけで分かった、茶会だ…茶会がいる。

 

「今回の軍事行動…我々親衛戦車隊も参戦する運びとなった。正義実現委員会と共に泥を踏める事…光栄に思う」

 

「という訳でティーパーティー傘下…親衛戦車隊が作戦に参加します…一応指揮権は我々にあります」

 

 

「これって夢?

 

「さぁ…夢は夢でも悪夢かも」

 

「まさか実質的な私兵を投入ねぇ…」

 

「見知らぬクルセイダーがあると思ったら…なるほどそう言う事っすか」

 

みんなヒソヒソと話し合うが…ハスミがわざとらしい咳払いをし止める。

まぁ驚き、噂するのも無理もない…生徒会がボディーガードを治安維持に投入したのだ。

『砲兵隊』『戦車隊』『近衛兵』…ティーパーティの保有戦力だが…しっかりと戦ってる光景を見る事になるとは…

 

「えーと、隊長さん?」

 

「あぁ。何かな」

 

「その作戦は?」

 

その質問に対し隊長は腕を組み凛々しい表情で言い放った。

 

「クルセイダーの速度を存分に生かし、突撃そして吶喊からのチャージでスーサイドアタックだ」

 

「突っ込んでしかねぇし、最後の最後で自爆してますがな」

 

「考えてみたまえ、戦車は塹壕を突破するために生まれた兵器だ」

 

「まぁ…そうですね」

 

そこは歴史的な事実なので同意する。

それにクルセイダーは巡行戦車なので突破や攪乱が仕事なのも理解はしている…しかし今回は歩兵の支援が仕事だ、果たして全うしてくれるのだろうか。

 

「つまり突撃するための兵器だ、下がる事など許されん」

 

「下がれないって…レッドウィンターじゃないんだから」

 

あぁこの人あれだ、政治ができないタイプの軍人さんだ…現場での叩き上げでこうなったのかまたは元々からこんな思考なのか分からないけど、お嬢様が多いトリニティの上層部にこう言うタイプの人がいるとはね。

 

「…」

 

先輩達と外部の方々の言い争い、そしてそのファランクスに挟まれるハスミ、下手に口を出したら飛び火しそうだ。

 

「…イチカちゃんこれどうする?」

 

「ん~まぁ…」

 

「まぁ?」

 

「ツルギ先輩が来たらおさまるんじゃないっすか?」

 

カップの縁を指でなぞりながらイチカは軽く呟く。

その瞬間…テントの外に何か強い気配を感じるシオリだった。




めちゃくちゃイチカにヤニ吸わせたかったですが…JKなんでね…

ナカノさん→トリカス

隊長→紅茶が足りても足りなくても突撃する人


次回に続きます。
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