【悲報】下江姉、エッチを知らない   作:スラバヤサトゥ

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お疲れ様です。楽しんでいただければ幸いです。


ネットショッピング

午後二時半。

リビングは、あたたかい日差しに包まれて、ほんの少し眠気を誘う空気に満ちていた。

テーブルの上には空のお弁当の容器と空のコップ。

 

ソファの上でコハルは丸くなり、スマホの画面を親指で上へ上へと動かす。

ご飯を食べ終えてからずっと同じ事をしている気がした。

何時間だろうか…何事にも限界は来る。

ついにスマホを放り出して天井を見つめた。

 

「……はぁ。ヒマ……」

 

姉は休日登校。ハスミ先輩がD.Uに行くらしく、その分の戦力低下を補うため…らしい。

元々二人での予定は無かったけど、まぁやる事が無い。

姉妹と言えど一人の時間は大事…けどなんだか寂しい。

 

「ん…」

 

こういう、なんの刺激もない日常は嫌いじゃない。

けど、やっぱりちょっと物足りないという気持ちは、確かにあった。

ソファから身を起こし、自室のドアを見る。

開いてない。誰もいない。もちろん、姉もいない。

 

(……別に、何かあるってわけじゃないけど)

 

再びソファに倒れこみ、体を横に向けて丸くなる。

顔の半分をクッションに押し付けながら、小さくため息をつく。

 

こうして一人でいると、時々、心がふっと浮かび上がるような感覚に包まれるときがある。

ほんの少し、体の内側がムズムズするような、曖昧で、ちょっと照れくさい気持ち。

 

自分の部屋に戻って、ベッドに潜り込んで――

ちょっとだけ、……なんて、ぼんやりと考えがよぎる。

 

(いや、でも……)

 

顔をクッションに埋め、目をぎゅっとつぶる。

 

(流石に、真昼間からはないかなぁ……)

 

そう思ってしまった自分を、ほんの少し恥ずかしく感じた。

なんとなく顔が熱い。意味もなく足と足をこすり合わせる。

 

誰にも見られていないはずなのに、どこか背徳感のようなものがくすぐる。

 

(まぁ…皆そんなもんよね…)

 

小さく苦笑して、頭を振る。

 

(……お茶でも淹れようかな)

 

立ち上がったコハルは、キッチンの方へ足を向けた。

 

「えっと…茶葉はどこにしまったっけ…」

 

そうつぶやきながら、棚の引き出しに手をかけ――

 

「あっ」

 

自分でも少し驚くくらい、自然に思い出してしまった。

別に『何だっけ』…と悩むような事もしていない…死角から銃弾を一発叩き込まれたかのように頭に浮かんだ。

 

「レポート…忘れてた…」

 

昨日の夜、頑張ってまとめてUSBに保存した奴。

週明けの提出だったけど、今のうちに印刷だけしておこうと思っていたのに、すっかり忘れていた。

正直、データのまま送信すればいいのでは?と思うが姉に聞いたところ…

 

『まぁみんな同じ事思ってるけど…伝統だからね…紙媒体がさ。今でもタイプライターを使ってる部活もいるらしいし』

 

って言っていた。

まぁ伝統なら仕方ないわよね。

ここでタイプライターなる物の存在を知ったのは秘密。

 

のんびりお茶を淹れている場合じゃない。

ソファに戻るつもりだった足をくるっと反転させて、パソコンのあるデスクへ向かう。

エリートになる為、提出忘れは許されない。

 

通学バッグを引き寄せ、筆箱の隣に入れてあったUSBメモリを取り出す。

ボフンと異様に座り心地の良い椅子に腰かけ、デスクの下を覗く。

 

「えぇ…と…この箱のボタンを押せば動くんだっけ?」

 

このデスクトップは共有の物だが、大体の事はスマホで片が付くのでそこまで使わない。ほぼ姉の専用機。

コハルのパソコン知識はそこらの老人と同じレベルだ。

 

ボタンを押してから数秒後、箱が唸りだしモニターが光を放ち始めた。

見慣れないロゴが画面いっぱいに広がる。

 

「……なんか、カッコいいかも」

 

スマホでは見ないような、無骨で機械っぽい起動画面。

口には出さなかったけれど、コハルにはちょっとした“野望”があった。

 

『自分専用のパソコンを手に入れ、姉に迷惑をかけないようにそう言うゲームをする』

 

ネットの片隅で見つけてしまった体験版のタイトル画面が、どうしても頭から離れなかった。

 

(べ、別にアレな意味だけじゃなくて……! キャラとか絵とか綺麗だし……!)

 

口笛を吹き、自分に言い訳しながら、USBメモリを手の中でくるくると回す。

なんだかまたまた顔が熱い。

お茶を啜って一度リラックスだ…なんでたかがパソコンの電源をつけただけでこんな気分にならないといけないんだか。

 

パソコンの画面はすでにホームまで起動していて、姉の名前が入ったアカウントが自動でサインインされていた。

壁紙はどこかのんびりとした田舎町の風景画。

淡い水彩タッチで、やさしい色づかい。

なんだか凄く懐かしい気分。

 

「……お姉ちゃん、こういうの好きなんだ」

 

コハルは思わず、ふっと口元を緩めた。

パソコンの壁紙にこんなほんわかした絵を設定してるあたりほんとの意味でピュアな人なんだなと感じてしまう。

正直、現代社会をどう生きればあんなホワイトになるのか疑問だが…まぁ置いておこう…今は課題だ。

 

「ん?」

 

下のバーでアイコンが弱々しく点滅している。

小さな主張でも気になってしまうが人間の性だ。

カーソルをその上まで動かし、クリックする。

 

「わっ…って…あれ?」

 

ほんの僅かの遅延もなく画面が切り替わり、そこに映っていたのは通販サイトの『Amason』

キヴォトスで最大手の通販サイト…文房具から防具まで何でも揃う、学生たちの“第二の購買部”みたいな存在。

コハルも日常的に使っているし、正直すごく便利だと思っている。

 

「やっぱ、このロゴだけはちょっと怖いんだよね……」

 

ロゴの下には、にっこりと笑ったような矢印がついている。

けれど、普通の“笑顔マーク”と違って、その矢印はやたら鋭角で、まるで黒幕がニヤリと笑ってるような形をしていた。

 

どこかで悪巧みしてそうな、腹黒さを感じるカーブ。

違法なサバイバルゲームを主催していて、薄暗い部屋で手を組みながら『くっくっくっ』とか笑ってそうな感じ。

もちろんそんな意図はないのだろうけど……そう見えてしまうのだから仕方ない。

 

無意識にマウスを動かす。

 

画面は、購入履歴のページがそのまま開かれた状態だった。

 

「え……開きっぱなしじゃん、これ……」

 

ほんの、軽い気持ちだった。

ペンの替え芯とか、サブマシンガンの弾とか…あとはちょっとした小物とか…姉の事だ、それぐらいのモノしか買ってないだろう。

そう思って、軽くスクロールしてみる。

ちょっとだけ…どんなお金の使い方をしているのか気になっただけだ。

 

それが――地雷原に足を踏み入れる第一歩だった。

 

 

 

マウスホイールを、なんの気なしに回す。

画面に並ぶのは、購入日付と、商品名のリスト。

 

最初は本当に、なんでもなかった。

 

「えーと…モバイルバッテリーね。そういえば壊れたって言ってたっけ」

 

15ワット…容量は10000ミリアンペアアワー、値段は3000円程度。

まぁスペック的には一般的だろうか。

問題はその見た目だ…白地の本体に…例の『目がイっている鳥』の顔がプリントされている。

名前は…えっと……ダメだ、思い出せない。いらない情報すぎて脳が思い出すのを拒否している。

…なんだか卑猥な響きだったのは思い出す。

何だか負けた気分だがこのモヤッとする気分を解消するためにそのページを開く。

答えはそこにあった。

 

「あぁ…ペロロか………ごめんお姉ちゃん、そのセンスは良く分からないかも」

 

ページを戻し、再び履歴の一覧へ。

ホイールをカラカラ回し、下っていく。

 

「これは…カップうどんね、12個入り」

 

玄関近くに段ボールが置いてあるのを良く見る。

夜遅く帰ってきて、料理するのが面倒くさいから…みたいな理由だろうか?

上級生は夜の巡回任務もあるらしいし。

よーく見たら定期便になっている…しかも1年前から…たまにラーメンを挟んでいるかと思ったら、そんな事はなくうどん一本…飽きないのだろうか。

 

「まぁ普通っちゃ普通ね、と言うかサラリーマンみたいな履歴してるじゃない…私と大違い」

 

何がどう違うのかなんて言えない、誰もいない自宅だとしても絶対に言いたくないけど。

一ページ目が終わりを告げ、二ページ目へ。

 

「え?えぇ…」

 

この人、下着を通販で買ってるよ…Tシャツとかは分かるけど、下着だよ?

買う人はいるかもしれない。

でもコハルにとっては、「肌に一番近いもの」を画面越しの情報だけで買うという行為は、どうにも信じがたいものだった。

普通の店頭にないような“特殊なヤツ”だったらネットで買うかもしれないけど、普段用はなぁ…

 

しかもスポブラにボクサーパンツって…面白味ないし…

 

「まてまてまて、コハル…何、お姉ちゃんの下着に面白味を求めてるのよ!」

 

息を吐き、両頬をぺしぺし叩く。

心のなかでシオリに謝りながら再び手を動かし始めるコハル。

次に彼女の目に留まったのはアイマスクと入浴剤だった。

 

「……疲れてるのかな、お姉ちゃん」

 

画面に映るアイテムのセット的な雰囲気を感じ、ぽつりと、誰に言うでもなくそう言った。

最近は委員会の活動も忙しそうだったし、報告書や巡回ルートの整理で、夜遅くまでデスクに向かっていたのを何度も見ている。

今の時期は新人教育が一番の重責だろうか。

負担は大きいだろう…私も一年生、早く一人前になって少しでもいいから負担を軽減してあげたい。

 

「頑張らないと…そうよ…!一人前になるにはこんな覗きしてないでレポートを印刷しないと!」

 

こんな馬鹿な事してられないと、ブラウザを閉じようとしたときだ。

画面に並んだ“とある機械”を見たとき、やる気に満ちたコハルの表情が凍り付いた。

 

【購入履歴】

・全自動肩用リズムマッサージ機(大型・防音)×2

玄関前 置き配済み

 

「………………えっ?」

 

 

そこだけ、フォントが太く見えた気がした。

目をこすり、もう一度見直す。

 

変わらない。

 

バン!とモニターにがっつく。

 

「……マッサージ機……? 肩用……?」

 

一瞬、脳が処理を拒んだ。

商品画像をクリックして拡大する。

手が動き、その振動が伝わりプラスチックがカタカタと震える。

汗が沸きだし、マウスと小さな手の間はほぼ熱帯雨林のような空気と化していた。

 

商品画像をクリックして拡大する。

白くて、丸くて、細長くて、持ち手がついていて――

 

「……これ……あの形……」

 

見たことがある。

SNSの片隅、動画、漫画に出てくる“例のやつ”。

 

白くて、振動して、防音で――

見た目は確かに“マッサージ機”。でも、それは表向きの話であって。

 

「あのお姉ちゃんよ!?これは本当に肩用で……」

 

とんでもないレベルで真っ白けなシオリがそう言う目的で買う訳ない…普通に癒されたいだけで奇跡的にこのタイプのマッサージ機に行きついただけ…そうコハルは自分に言い聞かせる。

悪いのはコレをそんな世界へ持ち込んだヤツだ。

 

もう頭の中では完全にアレな映像作品が展開されていた。

休む事なく稼働し続けるモーター音…ウォーター的な音…そして誰かの声。

 

コハルは顔を両手で覆った、同時に頭の翼も目元を覆う素晴らしい防護システムだ。

 

「…でもポイントで二個ってどういうことなの……!!?」

 

彼女の脳が勉強している時よりも回転する。

 

「二刀流って事…!?野球!?」

 

「ダブル!?クロス!?…バケモノでも狩る気!?」

 

「も…もしや…だ、誰かと使う気じゃ…!?」

 

頭を抱えてキーボードの上に突っ伏す。

価格は0円。

一個で大体2、3千円程…それだけのポイントを溜めこんでいた事にも驚きだが…それよりも二個も買うという行為のショックがデカすぎる。

『ついでにもう一個買っとくか』のようなノリだったのだろうか。

 

「い、意味わかんない!! 」

 

コハルは画面から顔をそむけた。

目をぎゅっと閉じる。

――思い出される、あのニヤリと笑うAmasonのロゴ。

 

(あいつ、分かってて勧めてるでしょ……!)

 

そう思わせる程度には、商品ページの「おすすめ」欄がピンポイントすぎたのだ。

 

彼女の瞳孔は鋭くなり、歯はキシキシ鳴る。

 

「ぐぐぐ…」

 

パニックになるのも無理はなかった。

そう言った話題にコハルは人一倍敏感だ。

 

「落ち着け~コハル~」

 

今、この家には自分しかいない。

この履歴を目撃したのも自分だけ。

つまり――この情報をどう扱うかは、コハルに委ねられている。

 

そっと、サイトを閉じる。今回は素早かった。

 

「墓場まで持っていくって…こう言う事なのね…」

 

マウスを握りしめながら、コハルは決意した。

その時だった。

 

ガチャリと玄関から音がした。

 

「ただいま~」

 

ほんわかしており少し疲れを感じる、聞き慣れた声。

普段なら安心するモノだが今は違う…悪魔の叫び…威嚇用吹鳴機…ジェリコのラッパ。

 

シオリが帰った。

中々のタイミングだ。

 

「あぁ…」

 

完全に油断していた。

もっと遅く帰るものだとばかり思っていた。

大丈夫、サイトは閉じたし…パソコンをいじっている理由はある。

このまま印刷作業を進めれば良いだけだ。

 

口をつぐみ、震えた手でUSBをさし…PDFをいじる。

全てを飲み込み、態度は普段通りにすれば良い。

そう思い、パソコンの横にあるプリンターの電源を入れようとしたその時だった。

シオリがコハルの名を呼ぶ。

 

「ごめんコハル~!手が塞がっててさ、開けてくれないかな?」

 

「え!?う、うん分かった!ちょっと待ってて」

 

一瞬、肩をびくつかせたが言われた通りドアを開けに行く。

手が塞がっている…何か荷物でもあるのだろうか。

バタバタと足音を響かせて、ドアノブを回す。

 

「お帰り、お姉ちゃ……」

 

「ただいま~助かったよコハル。なんか思ったよりハスミ先輩がすぐ帰ってきてさ~でもD.Uで戦闘になったらしくて」

 

「あ…」

 

「コハル?」

 

がちゃりと開いたドアの向こう。

そこには、いつも通りの優しげな笑顔――そして、白い段ボールを両手に抱えたシオリの姿があった。

 

コハルはその場で、ぴたりと動きを止めた。

彼女の目に映る白い箱。

例の黒幕みたいなニヤリ口。

 

「そ、それは?」

 

「ん?あ、これ?これ、ネットで買ってたやつ。玄関前に届いてたの」

 

「……」

 

そうだ!そうだった…2個と全額ポイント購入がデカすぎて忘れてたけど…

はっ…配達済みだった!

絶対にアレよね、アレ以外に届く予定のモノ無かったもん。

 

「コハル? どうかした?」

 

「……………っ!! な、なんでもないよ!? あははっ!!な、何買ったの?」

 

声が震えるのを、なんとか笑顔で誤魔化す。

でも、身体は正直だった。

目線は段ボールから逸らせない。

 

「気になる~?」

 

コハルの質問にニヤニヤとしながら段ボールをテーブルの上に置くシオリ。

いつの間に取り出したのか彼女の手にはすでにナイフが。

 

「う、うん…」

 

自分の心臓の音がここまで聞こえたのは初めてだ。

ナイフはすーっとガムテープを切っていく。

 

「これだよ」

 

「…っ」

 

聞こえないハズの効果音と共に出てくる小さな箱。

その箱に印刷されているのは…

 

「まっ…マッサージ機…」

 

「そう!良く分かったね」

 

「ま、まぁ…」

 

一体どんな反応が正解なのか分からない。

 

「最近肩がこっちゃってさぁ…やっぱりスリングで銃を肩にかけて更にバッグもってなればかなりの負担にもなるよねぇ…」

 

「そ、そうだね」

 

やっぱりこの人あれだ、世間の裏側に全く触れないで生きてる…イヤ触れてるけど分からないから何事もないのだろう。

と、とにかく安心だ…ガチの目的で買ってる事が確定した…いやまぁそれが普通なんだろうけど。

聞いた事ある、とある界隈では食器乾燥機がなんだか違う目的で重宝されているとか…それと同じ感じなのだろう。

でもどんな確率でピンポイントにコレに行きつくのか?

 

「ねぇお姉ちゃん…なんか2個あるんだけど…」

 

「ん?あぁこれコハルにあげる用だよ。コハルも肩掛けカバンだから肩こるでしょ?」

 

「え?あっ…アリガトウ…ゴザイマス…」

 

「いいのいいの、ポイントが使用期限がもう少しだったからさぁ~」

 

(それで買うのがマッサージ機なのね…と言うか…)

 

コハルは手元を見下ろす。

両手で持った、細長い箱…それなりの重みがある。

目をつむり、深呼吸。

姉にバレない程度に歯を食いしばる。

 

(欲しかったよ!? 正直ちょっと気になってたよ!?でもまさかこの状況で手に入るなんて誰が想像するの!?)

 

複雑すぎる感情が胸の中をぐるぐると回る。

目の前では早速、起動しようとしている姉の姿。

 

(なんか……なんか罪悪感で死にそう……)

 

自分だけが、この道具の“もうひとつの意味”を知ってしまっているというこの罪悪感。

 

「お、おぉ~ブルブルずる゛~」

 

(でも、ありがたくいただきます……!)

 

こうしてコハルは、姉の純粋さと、自分の煩悩のはざまで、静かにひとつ成長したのだった。

冬ほどとはいかないが春の夜はまだ長い。




今更ですがシオリの紹介です。

所属   トリニティ総合学園 正義実現委員会
誕生日  5月5日
学年   2年生
年齢   16歳
身長   160cm
趣味   銃器整備 夜食
武器   SMG  エフォートパイプ

こんな感じです。
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