先生と出会ってからいろんなことがあって、つまらないと思うことが減った。
あの後、アビドスで先生やアビドスの子たち、便利屋68と共闘してゲヘナの風紀委員と戦ったり、ホシノがいなくなってカイザーの小隊をワカモと一緒に壊滅させたりした。
アビドスでのあれこれが終わった先生はシャーレに戻って、たまにアビドスに顔を出しているらしい。
「待ちやがれっ!ユズリハ!!」
「待たないよ、ネル」
放たれたSMGの弾を回避して曲がり角を曲がって船の奥へと逃げ込む。
私は後ろから迫るネルの弾丸を回避しながらどうしてこうなったのかって思った。
アビドスの一件から暫く経ったけど私は隠れ家を使ってブラックマーケットで生活していた。
今日はいつも行くカジノとは別にある豪華客船にあるカジノでイベントをやっているらしく向かったら、ミレニアムの犯罪者が逃げ込んでいたらしくC&Cと遭遇してしまった。
ネルやアスナはまだ見ていないけど明らかにC&Cと言えるであろう後輩の子達がいるのを見てしまった。
どうしようかと考えていたら、中央にある巨大スロットでアスナが大当たりを引いたのを見てしまった。相変わらずの豪運で変わっていないことに安堵した。
ただ、姿を出している時間が長かったらしくアスナと目が合ってしまい、そこからは隠れるように移動して、お金を増やしていくことにした。
どうやら、ミレニアムの生徒の一人がここに逃げ込んだらしく、その子の確保でC&Cが駆り出されたらしい。
「ありがとね、スタッフさん。また夜はよろしくね?」
そう言うと質問に答えてくれたスタッフの女の子が顔を赤くして走り去っていく。
どうしようかな〜。このままネル達に見つかるのはめんどくさいけど、ゲームもそんなに楽しんでいないしなぁ。
考えながら歩いていると曲がり角で見知った顔と会った。
“久しぶりだね。ユズリハ”
「久しぶり、先生。それで先生は何でここに?」
“あぁ、それはね”
ミレニアムの1年生であるコユキっていう子が電子系のハッキングに長けているらしく、その子を野放しにできないからこうして捕まえに来たらしい。
先生と話すのを途中で切り上げて、カジノに向かう。
相変わらず簡単なゲームでクレジットを増やしていく。
イカサマされた時はそれにかかりつつもマイナスにはしないようにしてプラスを取っていく。
「大分儲けが出てきたかな」
持ってきた時よりも大幅に増えたクレジットをみて私は呟く。
久しぶりにお高めの店に行って一人祝勝会でも良いかもしれない。
そう考えていたところでアスナから連絡を受けたらしいネルがやってきて今の銃撃戦となっている。
そういえば、なんでネルとアスナはバニー服着てるんだろう?流行り?
「逃げるんじゃねぇ!ミレニアムに連れ戻してやる!」
「だーかーら。私はいま犯罪者なの、今戻ったって迷惑かけるだけだから。戻らないよ!」
「関係ねぇよ!!ヒマリがお前の事をどれだけ心配しているのかわかっているのかよ!?」
「……わかってる。あの日から一年以上も連絡していなかったから」
「なら!とっとと帰ってこいっての」
「だからだよ。今更、私はあの子のまえには戻れない」
ネルの弾幕をハンドガンで直撃するものを撃ち落としながら、逃げ道のルートを模索する。
そして、持ってきていたスモークグレネードと閃光弾を使ってその場を離脱する。
「逃がさないよ!」
「久しぶり。だけど、それは読めてるよ」
「えっ」
予測通りにスモークの中を直感で突破してきたアスナに向けてグレネードを投げて、ハンドガンで誘爆させる。
もと来た方向へ吹き飛ばされたアスナに心の中でごめんと謝りつつその場を離脱して船から降りていく。
「部長!大丈夫ですか?!」
「問題ねぇ。くそっ!!また逃げられた」
煙が晴れるとさっきまでいたはずのユズリハはいなくなっており、近くにはカリンに肩を貸してもらっているアスナの姿があった。
「ごめんね、リーダー。逃げられちゃった」
「いや、アスナ悪くねぇよ。......それにしたってあの頃の戦闘のセンスと銃の腕前は健在かよ」
「部長。あの人は?」
「雪名ユズリハ。ミレニアムの三年生で全生徒のなかで現在の最高戦力だ。あいつは今まで行方不明ということになっていて、形見のように残されたあいつの愛銃がエンジニア部に預けられている。知らないうちにいつの間にか七囚人になっていやがるし」
「最高戦力?それは部長よりも強かったのか?」
ユズリハとは直接あったことがないカリンとアカネが気になった様子でこちらを見てくる。
「あぁ。戦闘センスはほぼあたしと同格レベルや知略に関してはリオよりも上だ。それに、慈悲がないから親しいやつ以外には徹底的な攻撃を入れる事で3年の中では有名だ」
「あたしも正直苦手だな~。無表情で何考えているかわかりにくいし」
「そうだな。だけどな、あいつはあたしやアスナに対してはめちゃくちゃ構ってくるんだよな」
「そうなんだよね〜。まぁ、任務は手伝ってくれるしご飯もおいしいから嫌いにはなれないんだよね」
「そうだったのですか」
「あぁ、とりあえず今は撤収するぞ。話について詳しいことが聞きたいなら、エンジニア部のウタハに聞いてこい」
「わかりました、それでは撤収しましょう。アスナ先輩とりあえず部屋に戻って応急処置をしてしまいましょう」
「ありがと~、アカネ」
(早くかえって来いよ。ヒマリが、そろそろ限界になっているみたいだからな)
振り返れば、任務について来ていた先生が、心配そうな顔をしてこちらへ走ってくるのが見えた。
あたしは心の中でため息をつきながら、仲間達の方へ歩いた。
ネルとアスナを撒いて隠れ家へと向かうために走っていると雨が降ってきた。
「わかってる。わかってるんだ。わかってるんだよ。戻らなきゃいけないことぐらい。⋯⋯だけど!」
雨が私の心を焦らせる。
強く握り込んでしまった指。
手のひらに刺さった爪から赤色の雫を流し始める。
死を覚悟したあの日。
受話器越しに聞こえたヒマリの呼び止める声が私の中をこだまし続ける。
わかってはいる。向き合わないといけないことだって、私の理性もそう言い続けてきてる。
でも怖かった。
二度と帰らないと思われた私が帰ってきて、あまつさえ犯罪者になっているのだから。
私は生き残るためとは言え、なりふり構わなすぎた。
背負わなくてもいいものを罪を背負いすぎてしまったから。
あの子にこれ以上のこの重荷を背負わせるわけには行かないから。
あの子にこれ以上、特異現象捜査としてあいつらに関わらせてはいけない。
「うん。覚悟を決めるときが来たってこと」
走っている間に大雨と変わった空模様は私をずぶ濡れにして、体を冷やしていく。
冷たくなっていく体温を感じながら私は次の移動先を考えているうちに冷えた体からさらに冷たい汗が背中を通るのを感じた。
私の勘が言っている。
あの時に戦った記憶が警鐘を鳴らす。
砂嵐の中で、工場の中で、空に近しい場所で。
そして、
私が消息を絶った。死を覚悟した氷塊の上での戦いが。
強く、強く、何度も、頭が割れるほどに音が鳴る。
近い内にミレニアムで。
私の生涯において、取り返しのつかない、行かなければ後悔してしまうことが起きそうな予感がする