ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
ふわんだりぃず、というカード群がある。
あだ名は害鳥、ペンギン、除外鳥。
特殊召喚メタを張り、人によっては初動札を見ただけでサレンダーする。
ぶっちゃけ、絵柄の可愛さに反して嫌われている。悪さをし過ぎたともいう。
しかし僕はこのテーマが好きだった。
遊戯王というカードゲームの中で、ふわんだりぃずが一等好きだった。
それこそ、大学に持ってきてしまうくらいは好きだ。大学には同じ学部に遊戯王プレイヤーは何人かいるし、ネットの世界に潜ればそれこそ無数と言って良い。現代文明万歳。
僕は
しがない21歳の大学生決闘者だ。使用デッキはもちろん《ふわんだりぃず》!
好きなカードは《ふわんだりぃず×ろびーな》、好きな召喚はアドバンス召喚。座右の銘は「フィールドから離れた場合に除外される」。
趣味は遊戯王だけど旅も好きで、いつか都道府県全制覇や海外にも行ってみたいと旅費をコツコツ貯める男でもある。まぁ遊戯王の新弾で消し飛んだりするけど。
「えーと、来月の25日は遊戯王の日だからカドショに行くとして、もうちょいふわんだりぃずカードを買い足したいな。もうちょい帝王と混ぜたやつも作ってみたいし」
僕は大学帰り、スマホで家計簿アプリを見つつ歩いていた。
僕はデッキごとにカードを買う派なので、なにかとふわんだりぃずカードを買い足している。もう家にろびーなが20枚はある。
ふわんだりぃずは新規が全然来ないので、新弾で戦争になるということは特にないのだが(とても悲しい)、デッキを作るたび買い足すとなると費用がかかる。
バイトと仕送りで一人暮らしをしている僕は家計をちゃんと付けないとすぐに火の車だ。今月の支出を見ながら、カードをどれだけ購入するか、近所のカードショップ「雨だれ屋」のふわんだりぃずの在庫を思い出す。
そんな僕は、目の前の道が
「────え、」
ふわりと浮遊感に襲われる。夢で落下する夢を見て体を震わせて起きるみたいな、ガクッと上半身が大きく動くアレみたいな感覚。
思わず目を瞑ってしまったが、突然の眩暈が何かかと思って、額に手を当てながらゆっくりと視界を取り戻そうとする。
目の前に写っていたのは、知らない部屋だった。
「おお、成功だ!」
「我々を救ってくださる
「は? え?」
青にも緑にも見える沼色のローブを着た不審者に取り囲まれている。
狭い石畳の部屋は冷たい空気で頬を撫で、足元に置かれた蝋燭はほのかにゆらめいて足元を照らしている。チョークで描かれているのは魔法陣にも似た何かだ。
あまりにも
やんややんやと自分たちを褒め称え僕の登場を喜ぶ彼らは異質で、不気味だ。今まで感じたことない怖気に背中が冷えていく感覚がする。
「神子様! ご降臨おめでとうございます、こちらはほんの供物でございます。どうぞお食べください」
「…………」
目の前に、美しい鳥の姿に飾り切りされた奇妙な果物……? のようなものを差し出された。果物にしては真っ青で、所々に藍色が混じり、白もマーブル模様を描いている。とてもまともな食べ物だとは思えなかった。
毒だろうか、と頭が警告するが、この状況で食べないを選択した時の末路が怖くなる。下手に抵抗すれば激昂して殺されるか痛めつけられるかもしれない。頭のおかしい誘拐犯に常識や理性があるとは思えない。
丁寧にフォークまで添えられた皿を受け取ると、僕はなるべく小さく切り取り一口だけそれを口にした。
瞬間、壮絶なえぐみと臭み、独特の青臭さが僕の口内を襲った。刺激物のような痛みが舌に走るし、後味も最悪だ。錠剤薬を口内で噛み砕いてもこんな味はしないだろう。
思わず吐き気に呻きながら、僕はその一口を飲み込んだ。
これを食べろなんて、新手の拷問か?
続きを食べようか迷っていると、半ば取り上げられる形で皿を下げられる。なんなんだ、一体。
「神子様、これから降臨の儀を執り行います」
「それが済めば神子様は晴れて我々の神となり、我々を全ての厄災と穢れから救ってくださる力を得ます」
「ささ、どうぞこちらへ」
促されるままに、連れられて部屋を出ると、廊下ではなくさらに別の部屋につながっていた。
ただ、その光景に思わず僕は目を見開き、固まる。
そこにあったのは鎌に鎖に焼きごてと、あまりに拷問じみた血に塗れた部屋だったからだ。僅かにする腐臭に僕は今度こそ胃の中のものを吐き出す。
「神子様が神の証を刻まれた時、我々は全ての労働、欲望、罪悪から解放されるのです!!」
「ああなんと素晴らしき神子様よ! 我らが神よ! 無足一眼の身体になることで、あなたはより高次の存在となられるのですよ!」
「っ……ふざ、けるなよっ!!」
僕は僕の手を掴んでいたローブの男の手を振り払い、逃げ出した。
拷問部屋にある二つの扉のうち、入ってきた扉とは違う扉。
そこを開けると、先の見えない長い廊下が僕の目の前に現れる。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
「お待ちください神子様! まだ儀式は終わっておりませぬ!」
「神子様! 神子様!」
「あなた様がここツュジマ島の神にならずして誰がなるのです!?」
追ってきているローブの連中を振り切るために、僕は全速力で走り出した。
一目散に、普段なかなか走らないからかなり不恰好だろうけど、走る。
長い廊下は何度か扉を挟んでいて、逃げ出さないようにしているのか、鍵がかけられていたが火事場の馬鹿力で破壊する。幸いボロボロの木製の扉は数度蹴ればバキリと折れ曲がった。
「なんだよ、なんだよここ……!」
動揺のままに、何度か扉を抜けた先、ようやく外に出られたと思った時──僕の目の前に現れたのは、いっそ鮮烈過ぎて目が潰れそうなほどの青だった。
「海……!?」
僕の大学は内陸にあり、海なんて電車や車の距離でしかない。それこそちょっとした旅行になるレベルだ。
まさかそれほどまでの遠距離に拉致されていたのか。どうやって帰るか、そもそも通報は……? と様々な感情で心が塗りつぶされていく。
とりあえずローブの奴らに見つからないよう森の中の方へ駆け出し、背の高い草木に身を隠した。
「スマホ、通報? 連絡、うわうわうわ」
パニックになりながらスマホを開くと、そこには「圏外」と表示された無情な文字が。そのままロックを開くと、ニューロン以外のアプリが全て、そう、設定やカメラなど絶対にあるであろうアプリでさえ全て削除されていた。
ぽつんと青いアイコンが真ん中に表示されている。
絶望した。
警察に連絡もできない、ここが何処だかわからない、頭のおかしい連中に神にされかけている。
日常からの非日常はあまりに急な転落で、自分の命がゴリゴリと削られていく感覚を覚えた。
「ゲホッゴホッ、ヒュー、ヒュー」
走ったせいで肺の中に空気が足りない。
なんとか安定させようとしても、襲ってくる不安感がそれを邪魔する。
ふと、自身の胸ポケットの中に硬い感触があるのを感じ、恐る恐る取り出した。
カードだった。
《ふわんだりぃず×すのーる》だ。ふわんだりぃずのエースモンスターで、裏守備や通常召喚3回追加などかなり強力な効果となっている。
はて、僕はポケットにカードを入れただろうか。
見慣れたカードに少し安心したからか、そんな疑問がふわりと湧いてきた。
すると、カードの中の絵柄……三匹の鳥たちが、こちらを見た気がした。
「……!?」
羽をパタパタとさせて、まるでアニメのように動くそれ。カードが動くなんて、マスターデュエルじゃよく見ていたけど、紙ではあり得ないはず。
でも、どう見てもこちらに何か伝えようとしている。
まるで、自分たちを……「カードの名前を呼んで!」とでも言っているかのような……。
「ふわんだりぃず……すのーる……?」
そう呟いた瞬間、ぶわりと大きな風が舞い上がった。