ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
先日はご迷惑をおかけしました。
という事で船の掃除をしています。もうやらないと気が済まないんで!! とお願いしてモップを貸してもらいました。やったぜ。
キュッキュッ、キュッキュッと甲板を掃除する。ろびーなが肩でご機嫌に鳴いていた。さっき船員の一人からナッツを貰ったのだ。
ただの旅人なのに、ここまで良くしてもらえてるのは何故だろう? 僕のえんぺんの力もあるのだろうか。
ふと気になったので、白ひげさんに聞いてみた。
「お前は……海賊とは違う、でも海軍とも違う善人だ。俺とロジャーの覇気にも動じず、マルコを封じた実力者でもある。それ相応の対応をこっちも返してるってだけだ」
「うーん、僕はこの船に恩を売った覚えはないんですが……」
「あそこでちょこまか働いてるスゥがいるだろ」
雛神鳥シムルグは雛からとって「スゥ」と名付けられた。シムルグという名前は他カードにも共通しているので紛らわしいのだ。
スゥは器用に脚で雑巾を掴み、甲板や人手はなかなか届かない部分を跳んで掃除していた。
この船は広い、毎日の掃除だけでも一苦労だ。だから、スゥの働きは掃除番に大いに喜ばれている。
「船員の癒しにもなってるみたいだな。アニマルセラピーとは侮っていたが、なかなか効くやつには効くらしいぞ」
もううちの船の姫みたいなもんだ。と白ひげさんは笑った。笑い声にすらうっすら覇気が乗っている気がする。
確かにスゥは貢がれていた。ナッツやフルーツ、四番隊のみなさんの作った料理。女性乗組員からはリボンなんか着けられて撫でられている。
うむ、姫だなこれは。
「なーなー、ごっついデケェ鳥とか出せねーの!? なーなー!」
「だから白ひげ海賊団の客に絡みに行くんじゃねーよ馬鹿!!」
そして、あれからロジャー海賊団の船からシャンクス君とバギー君が遊びにくるようになった。基本的に、僕に鳥を出して欲しいと強請っている。
バギー君はハーピィのお姉さんにまた会いたいらしかった。止めつつも期待を抑えられない視線が僕にやんわりと触れてくる。
「うーん、今僕掃除中だからなぁ……」
「ちょっと出すだけ! 出すだけだから!」
「じゃあ二人でジャンケンして、勝った方の要望を聞こうか」
「バギー……おれはパーを出すぞ」
「小癪なマネすんな。じゃあ俺はチョキを出す」
じゃーんけーん! と白熱した勝負が繰り広げられるところを横目にモップをかけ続ける。甲板はちゃんと綺麗にしておかないと万が一で足元が滑ったときに洒落にならない。能力者が多数いる白ひげさんの船では特にだ。だから毎日徹底的に磨くことになる。
どんどん汚れが落ちていく木の板を満足げに眺めつつ、僕は勝敗が決したらしいシャンクス君の望みを聞いて、かっこいい鳥モンスターを出すことにする。
「《ダークネス・シムルグ》! ちょっと彼らと遊んであげてくれない?」
現れたのは黒い巨鳥。赤い瞳を爛々と輝かせて、そのぬばたまの翼をはためかせる姿はかっこいいの極み。
シャンクス君も目を輝かせて喜んでいる。うんうん、バギー君のハーピィはまた今度ね。
「すげー! なぁ、背中に乗って良いか?」
シャンクス君がそう聞けば、ダークネス・シムルグは僕に確認を取る。まぁダークネス・シムルグなら落とすようなマネしなさそうなのでオッケーを出した。
僕はもう知っているが、彼らの翼に乗って空を飛ぶのはとても爽快なのだ。
「バギー君も乗りなよ。子ども二人分の空きはあるよ」
「えっちょ、ちょっとおれは怖いっていうか……」
「何事も挑戦! それー!」
「ぎゃー!?!?」
ダークネス・シムルグの背にバギー君を投げ飛ばし、ダークネス・シムルグは出発した。ぐるりと船の周りを旋回するだけだが、シャンクス君の笑い声が聞こえてるあたり楽しんでいそうだ。
「悪いね、うちの見習いの面倒を見てもらって」
長い髪をかき上げた男性が、僕に労わるように声をかけてきた。ロジャー海賊団のレイリーさんだ。シャンクス君たちを迎えにきたんだろう。
「いえいえ! モンスター達にも優しくしてくれますし、なにより楽しそうなのが嬉しいですから」
「そう言ってもらえるとありがたいね。あの二人はヤンチャどころだから……」
あの年頃の子どもはやんちゃしがちだよね。確か13あたりなんだっけ? そんな年下に同年代と思われた僕よ……。
「良ければうちの船にも来たまえ。客人としてもてなすよ、今度はノンアルコールも用意してね」
「ははは……お見苦しいところを」
「君のその力は強大だが、使い所を間違えないように……。これは老婆心だがね」
「ありがとうございます」
レイリーさんは、それだけ言うとシャンクス君達を呼んで、一抱えにして帰って行った。一応だが敵船の見習いが長時間敵船の客人を拘束するのはダメなのだそう。僕は別に良いのだが、礼儀の問題? なのだろうか。
「あー、空が青ーい」
*
「そろそろこの船をお暇しようと思います」
その言葉を白ひげさんに伝えたのは、僕がこの船に客人として滞在して四日経った夜だった。
ロジャー海賊団とも別れたし(シャンクス君達の最後のおねだりはかわいらしかったがとても疲れた。召喚のし過ぎだ)そろそろ旅に出たいと思ったのだ。これ以上白ひげ海賊団のお世話になるわけにもいかない。
「そうか……好きにすれば良い。今生の別れでもないしな」
「そうですね、見かけたら必ず寄りますよ! お邪魔じゃなければ!」
「それで、こんな夜に来たってことは……今から発つのか」
「朝だと皆さん忙しいですし、そんな大きな別れにはしたくありませんから」
ここの船ではいろんな人と仲良くなった。
ジョズさんやビスタさん、ラクヨウさんにブレンハイムさん……。
他の船員さんともおんなじ鍋のご飯を食べた仲だ。でも、仲良くなりすぎるのも考えものなのだ。
何せこちらはあくまで客人で、白ひげ海賊団のメンバーではないのだから。
「失礼かもしれませんが、お別れもなしに飛び立ってすいませんとマルコさん達に伝えてください」
「ああ、わかった。……お前の力は本当に稀なものだ。気をつけろよ」
「はい、また会いましょう!」
僕は《霧の谷の巨神鳥》を召喚し、勢いよく飛び立った。閉じていた帆が大きく揺れる。もしかしたら何人か起こしてしまったかもしれないな。
夜間飛行は久しぶりだ。巨神鳥は夜でもスイスイと空を進んでくれる。
さぁ、次はどこへ行こう?
僕は特に行き先も決めないまま、そっとニューロンを起動した。
そこにはデッキの情報がしっかりと載っている。
「覇気から僕を守ってくれたのは、君なの……?」
画面に眠る“神”のカードは、沈黙したままに画面を照らすだけだった。