ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず   作:月日は花客

12 / 34
☆12:ふわんだりぃず×ふればんす

 

 そこは白い町だった。

 

 あれから僕は、のんびりと孤島でキャンプしてみたり《霧の谷の巨神鳥》の背中の上で眠ったりしながら、旅をしていた。

 この世界はほとんどが海だ。広く青い大海原が一面に広がっている。大抵は人のいない無人島で、僕は適当に地面に降りつつ、大半を巨神鳥の背中の上で過ごしていた。

 

 そして今日もまた、無人島だと思っていたのだ。

 しかし、その予想とは違いとても発展した町……真っ白な建物が特徴的な、人の営みがあった。

 孤独に弱いわけではないし、デッキのみんなと交流できるので精神は満ちていたけれど、久しぶりに人と接するからドキドキしながら、僕はその町の近郊、林の中に降り立った。

 

 街の名前は「フレバンス」と言うらしい。口遊ぶと、なんだか華やかな名前に思える。

 その感覚は間違っていなくて、珀鉛という鉱石でこの街は随分と栄えているようだった。

 街を歩けば、露天商や玩具屋の広告、屋台の美味しそうな匂いが五感を刺激してくる。

 適当に串焼きを一本買ってつまみつつ、僕は真っ白で美しい街並みを楽しんでいた。

 

 ふと、その穏やかな静けさが破られる。

 赤ちゃんの泣き声だ。それも特大の。

 人というのは赤ちゃんの声には本能的に反応してしまうもので、僕もつい音の方向を向いてしまう。

 そこにはおくるみに包まれた赤ちゃんが、母親らしき女性の腕の中で泣いてきた。母親らしき女性は笑顔を浮かべつつも、疲れた顔で赤ちゃんをあやしている。

 

「ゔあああああああん!!!」

「よしよし、大丈夫よー……怖くないからね……」

 

 その言葉には明らかに疲労が見えて、おそらく家であまりにも泣くものだから気分転換に外に出てきて、それでも泣かれてしまったのではないだろうか? と思考が行く。

 町の人はそれを労わりながらも何もしない。いやできないのだ。

 しかし中には赤子の泣き声に不愉快そうに眉を顰める人もいて、このままではなにかよからぬ輩に絡まれそうだと予想がよぎる。

 その時にはもう、食べ終えた串をゴミ箱に捨てて歩き進めていた。

 

「こんにちは、赤ちゃん元気ですね〜」

「ああ、こんにちは……元気すぎて困っちゃうくらいです。かわいい子なんですけどね」

「赤ちゃんのお顔を拝見しても?」

「え? ええ……どうぞ」

 

 余程疲れているのか、危機感なく母親は子どもの顔を僕に見せてくれた。

 黒髪に、少し目つきが悪いけれど確り我をもってそうな強い瞳。きっとこの子は大きく育つだろう。

 僕は何かを包むように赤ちゃんの目の前で手を合わせてみせた。

 大泣きするいのちがそれに合わせてふっと静かになる。

 

「見ててね、君に祝福をあげる」

 

 手を開いて出てきたのは、一匹の青い翼を持った燕。《スロワースワロー》だ。

 黄色い花を咥えたスロワーは、その翼をはためかせて赤ちゃんに風を送る。

 その微風に、赤ちゃんはくすぐったそうにきゃらきゃらと笑った。

 

「うそ、泣き止んだ……」

「スロワーのこと、ずっと見ててね。君のことを祝福してくれるんだ、笑顔になってほしいんだよ」

「──!」

 

 スロワーが高く小さく鳴いた。それに返事をするように、赤ちゃんも喃語を返す。

 母親は「あんなに泣き止まなかったのに……!」と驚いていた。

 

「ふふ、お役に立てたならよかったです。このままだと余計なトラブルに巻き込まれそうだったので。突然すいません」

「いっいえいえ! この子がこんなにご機嫌になるなんて久しぶりで……。よかったら、うちの家でお昼でも食べませんか?」

「それは……いいんですか?」

 

 串焼き一本では男子大学生の胃を満たせない。特段死ぬほど空腹というわけではないが、一食くらいなら普通に入りそうだ。

 母親はもちろん、と返すと僕の手を引いて歩き始めた。

 

「あ、そういえば名前を言っていなかったですね。僕は遊鳥旅途、流れの旅人をしています」

「私は……トラファルガーと申します。この子はロー。トラファルガー・ローです」

 

 真っ白な街によく映える色の薄い髪を靡かせ、婦人は笑った。抱えられたロー君は、スロワーの花を掴もうと手を伸ばしてはあやされている。

 宗教画みたいだ、とほんのり思ったのを、黙って心の中にしまった。

 

 *

 

 トラファルガーさんの家はお医者さんの家らしい。しかも結構でかい。つまり、ロー君は良いとこの長男なわけだ。

 父親も母親も医者で、その中で子育て……しかもよく泣く子の世話は相当大変だろう。育休なんてシステムがこの世界にあるか知らないけど、両人の目の下の隈から疲労は有り余るほど察せられた。

 

「気難しい子で……一度泣いたら数時間は泣いたままだったんです。それなのに、あの小鳥さんが現れたらすぐに泣き止んで」

「しかもオモチャにも数十分で飽きてしまう。我ながら手のかかる子だと思っていたんですがね……」

 

 ロー君は、ベビーベッドの上を飛ぶスロワーにきゃっきゃと遊んでもらっていた。

 時折尾羽が頬や手を掠めるのが楽しいのか、さっきからずーっと笑っている。

 それがトラファルガー夫妻によってとても驚くべきことだというのはわかった。

 気難しい赤ちゃんが一瞬で小鳥の虜になってしまった。

 

「お二人ともお仕事があるんですよね? ベビーシッターなど雇われないんですか?」

「それが……この子があまりにもぐずるものですから、数日でいつも辞めてしまうんです」

「こちらとしても病院を開けるわけにはいかないのですが……」

 

 困ったように笑うトラファルガー夫妻。そんな彼女らを、僕は純粋に助けたい、お手伝いをしたいと思った。

 幸いスロワーを気に入ってくれてるみたいだし、あの調子だと下手にスロワーが消えたら大泣きが再発しそうだ。

 

「良ければ、僕がベビーシッターの代わりになりましょうか? 小鳥……スロワーも、あの子のことが気に入ったみたいですし」

「それは……願ってもないことですが、いいんですか?」

「自分は旅人なので、宿さえ提供していただければお給金なんかも要りませんよ。ロー君の面倒は僕とスロワーで担います」

 

 そう言うと、トラファルガー夫妻は喜んで承諾してくれた。ふふふ、宿ゲットだぜ。

 大学時代に再従兄弟(はとこ)の世話をした事があるので、赤ちゃんのそれについてもある程度知識はある。

 流石にお給金は出すと言われたが、金に困ってないので格安にしてもらった。宿はトラファルガー家のゲストルームを使う。

 

 念の為契約書を書き、それに署名をした僕は、この日からトラファルガー・ロー君のベビーシッターとなった。







こちら遊鳥のイメージ画像です。自作で描きました。
見なくても本編に支障はないです。
こんなイメージで書いてるよ〜ってだけですね。

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。