ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず   作:月日は花客

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☆13:ふわんだりぃず×べびー

 

「と言っても、全然手がかからない」

 

 泣き叫んで数多くのベビーシッターを辞めさせてきたと言うロー君はどんな暴君だと思いきや、スロワーがあやせばすぐに泣き止んで遊び始める。

 スロワーはすごい。泣きそうな気配を感じたらすぐに飛んできて、その鞄から取り出した花の雨を降らせたり、周囲を飛び回って簡単にロー君を笑顔に変えてしまう。

 ロー君も飽きずにスロワーと遊んでいるから、正直僕の仕事はご飯とおしめの変えくらいしかない。

 

 確かに、ロー君は普通の積み木やぬいぐるみなんかはすぐに飽きてしまう。ポイっとその辺に放って、そのままだ。

 しかしスロワーが何時間も相手をしているとなると、スロワー自身が疲れてしまうのではないか?

 モンスターに疲労があるかはわからないけど、普段も考えて……あとロー君が飽きるのを防ぐため、新しいモンスターを召喚することにする。

 

「《こけコッコ》、ロー君と遊んでくれる? 嘴と足の爪には気をつけて」

「──!」

 

 こけコッコは鶏型のモンスターだが、少し大きめのぬいぐるみサイズだ。ロー君のお気に召すだろうか。

 こけコッコ本人……本鳥? はやる気なので、是非ともロー君と仲良くなって欲しいのだけれど。

 

「あう! あう!」

「──? ──!」

 

 スロワーと交代するように、こけコッコがロー君の前に出た。すると、ロー君はそのふわふわの尾羽を頬に当て、楽しむように触り始めたのだ。これは成功と見て良いだろう。

 モンスターについては、トラファルガー夫妻に事前に伝えて、怪我には十分注意して接させる許可を得ている。

 流石に《ダークネス・シムルグ》とか《ふわんだりぃず×いぐるん》なんかは危なそうなので出していない。

 

「スゥは元気にやってるかな〜」

 

 白ひげ海賊団と離れて多分もう数ヶ月経っている。あの船のお姫様は今も可愛がられているんだろう。

 今はロー君がうちの王子様だ。

 

「ロー君、そろそろご飯にしようか」

 

 ロー君はもう離乳食なので、ドロドロに溶かした食材達を皿に盛りながらこけコッコとロー君を見守る。

 関係性は良好、小鳥型モンスターなら彼の友達になってくれるだろう。

 

「……? どうしたの、スロワー」

 

 ふと、休憩していたスロワーが何かを伝えた方に小さく鳴いた。まるでロー君には聞こえないようなコソコソ話で。

 

「────」

「……それ、本当?」

「────」

「……わかった、伝えてみる」

 

 それは忠告……というか心配だった。

 スロワーは端的にそれを伝えると、またロー君の世話に戻っていく。アレだけ飛んで羽ばたいていたのに、まだ全然平気らしい。やはりモンスターに疲労は存在しないのだろうか。

 

「白鉛……か」

 

 この街は珀鉛による産業でとんでもない収入を得ている。それが、もしかしたら危険な……人体の死を招く鉱物かもしれない。

 それがスロワーが伝えてきた言葉だった。

 鉛中毒、というのは僕も大学時代聞いたことがある。鉛を摂取、吸収することで起きる中毒症状。心臓や肺にまで影響を及ぼすことだってある。

 それが、珀鉛にも適用される……?

 

「だからって……避けようがない……」

 

 ここの食器は全て珀鉛でできている。家だって外装に使われているし、街には珀鉛が溢れてる。

 島単位で引っ越すわけにもいかないだろう。なによりトラファルガー夫妻の負担になってしまう。でも、もしもそれで取り返しのつかない事態になったら……?

 

「あーもう、なんでこう厄ネタを引っ張っちゃうかな、僕は」

 

 ロー君を守ろうにも、環境がそうさせてくれない。そもそも中毒症状がいつ出るかもわからない。

 時限爆弾の存在を自分だけ知っているみたいになってしまった。どうしよう。

 

「取り敢えずトラファルガーさん達には共有しておくか……? いやでもそれは街の否定に……」

 

 ブツブツと用意していると、ロー君がぐずりだした。お腹が空いたのだろう。

 僕は慌ててロー君を椅子に座らせ、離乳食を口に持っていく。すんなり食べてくれたので、やっぱりお腹が空いていたようだ。

 汚れたスタイは後で洗うとして、食べ終わった食器を片付けていく。

 

 ロー君には健やかに育ってほしかった。

 

 *

 

「珀鉛による鉛中毒……か」

 

 トラファルガー夫妻には、念の為打ち明けておくことにした。

 スロワーと遊んでいるロー君は笑顔で、僕はやはりこの笑顔を守りたいと思ってしまう。だからこそ、打ち明ける決心をした。

 

「可能性、とだけ……。僕もスロワーが教えてくれるまでなんにも分かりませんでしたし」

「いや、可能性はある。生まれた時から珀鉛に囲まれていたから違和感を感じていなかっただけかもしれない。すこし研究した方がいいね」

「ええ、完全に否定はできないもの。こうしている間にも私たちの体に鉛が蓄積されているのかもしれない」

 

 トラファルガー夫妻は思ったより深刻に受け止めてくれた。これで街を貶したと思われたらどうしようかと思っていたが、杞憂だったようだ。ありがたい。

 

「ところでローの様子はどうからしら?」

「いやぁ、びっくりするほど手がかかりませんよ。スロワー達にもすっかり馴染んでるし、基本遊ぶか寝てます」

「貴方が来る前はほとん一日泣くか泣き疲れて寝てるかだったのに……不思議ね、本当にありがとう」

「いえ……僕としても、宿を提供して頂けるのはとてもありがたいことですから」

 

 トラファルガー夫妻は善人だ。海賊みたいに物騒でもないし、ただのお医者さんな一般人。だからだろうか、どこか安心する。

 実家の母と父を思い出すというか……。そういえば僕はあっちの世界では行方不明になっているんだろうか、そう考えると親不孝をしてしまったな。

 

「若いのに一人で旅をしているなんて、すごい人だと思ってたのよ。まだお酒も飲めないでしょう?」

「あっいや、僕は成人してます。21歳です」

「え!? ご、ごめんなさい。あまりにも若く見えたから……」

「よくあることなので、気にしないでください……」

 

 本当に僕は何故こんなにも幼く見られるのか。普段の言動か? カードゲームに心を躍らせる少年心を持っているからか?

 いやカードゲームで心躍らせるのは悪くないだろ。

 

「とにかく、特に食器なんかに珀鉛が使われているものは避けた方がいいかもしれません。本当に、あくまで憶測なんですが」

「いや、こちらも一度検査してみるよ。これは一人で抱えておくには重い事態だ、話してくれてありがとう」

 

 珀鉛には少し注意をおく……ということで、この話し合いは終わった。あとは今日はロー君がどんな喃語を話していたとか、スロワーと遊んでいたとかの話題に切り替わっていく。

 

「ロー君、健やかに育ってね。どうか君にとって幸せな未来を掴んで」

 

 ベビーベッドに寝転ぶロー君は、いつのまにか可愛らしい寝顔で寝息を立てていた。

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