ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず   作:月日は花客

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☆14:ふわんだりぃず×はくえん

 

 あれから数年が経っていた。

 ロー君は8歳になった。

 妹のラミちゃんも生まれ、トラファルガー家は幸せそうな日常を楽しんでいる。僕もロー君とラミちゃんの面倒を見るベビーシッターもどきの仕事をまだ続けていて、今日も今日とてスロワーとラミちゃんとロー君のご飯を作っていた。

 ここ数年で家事スキルが大幅にアップした気がする。

 

 珀鉛のほうは、研究は芳しくなかった。

 検査しても異常は出なかったが、それは潜伏されているのか本当に無害なのか、それがわからない。

 トラファルガー家はなるべく珀鉛製のものを家に持ち込むのをやめ、身近なところから珀鉛製のものを抜き取っていった。

 カトラリーは木製に、壁は白く塗ったレンガに、時計は真鍮のものに。

 それを不思議がる近所の人には、子どもが冷たい金属のものを嫌がるのだと伝えている。フレバンスの人たちはいい人たちで、子どものためと分かればすっかり納得してくれた。

 

「研究するにしても、まだ症例や資料が足りない……。外の島から取り寄せるにも時間がかかる。まだまだ珀鉛の危険性は解明できそうにないよ」

「そうですか……本当に、何もないといいんですけど」

 

 時限爆弾は未だ保たれたまま、僕はトラファルガー家で日々を過ごしている。

 旅が好きな僕がここまでの時間フレバンスに留まれたのは、ひとえにロー君の影響だろう。

 彼はスロワーを親友のように扱い、一緒に「海の戦士ソラ」という絵本を読み上げたり、スロワーを敵役のジェルマ66に見立てて戦いごっこをしたりと、楽しそうに過ごしていた。

 スロワーもすっかりロー君の保護者ぶっている。この前も町で年上の子にロー君が絡まれた時、頭をつついて追い返したのだとか。

 

「ラミちゃんはロー君と違ってよく笑う子ですね」

「ああ、とてもいい子だよ」

「……病院にも職員が増えましたし……そろそろ、ラミちゃんもずいぶん大きくなりましたね」

「……まさか、そろそろ旅に戻るつもりかい」

 

 この島には長く居すぎた。このままだと、僕はこの国に骨を埋めてしまうかもしれない。

 それは性に合わなかった。

 この国に不満があるわけじゃないけれど、このままじゃ僕の心のどこかが退屈なままなのだ。

 トラファルガー病院は大きくなって、職員や伝手も増えた。僕がいなくても、きっと大丈夫だ。

 

「……君には本当にお世話になった」

「珀鉛の研究は止めないわ。忠告してくれて本当にありがとう。ローも、ラミも、あなたの事が大好きなのよ」

「ふふ、僕も感謝しています。流れの旅人なんかを信用してくれて、ロー君にもラミちゃんにもたくさん構ってもらいましたよ。モンスター達も」

 

「いくぞスロワー! たぁー!」

「──! ──!」

「おにーちゃん、頑張ってー!」

 

 今もロー君とスロワーは海の戦士ごっこをしている。特にスロワーの演技には熱が入っていた。

 

「スロワーは……置いていきます。ロー君と一緒の方が良いでしょう」

「いいんですか? 貴方の仲間でしょう」

「スロワーは僕が彼に与えた祝福のようなものです。彼のそばで、彼の成長を見守るのがずっと良い。モンスターは歳をとりません。ずっと彼の友達でいれます」

 

 ロー君は実のところ、あまり喋らない子どもだった。理知的で、聡いが故に無口なのだ。スロワーの前ではとてもはしゃぐんだけどね。だから、同世代の友達が少なかった。

 両親も僕も、それを心配しつつ彼らしく生きられれば良いと思っていた。

 だから、彼の友達でいられるスロワーを取り上げるなんてことできない。

 

「もう出発するの?」

「はい、別れはさっぱりしてた方が僕好みなんです。なに、これが今生の別れじゃありませんよ。またフレバンスに寄った時は会いにいきます」

「ああ、いつでも君のためにゲストルームを空けておくよ。今まで本当にありがとう」

 

 スロワーには前日に、ロー君についていくことを決めてもらった。だから、もう振り返らない。

 僕はトラファルガー家を出ていく。町から森へ進み、人気のない場所で《ダークネス・シムルグ》を召喚した。白い町には目立つ、黒い羽根。しかしそれは森の中の木陰にすんなりと馴染んでいた。

 

「行こう、ダークネス・シムルグ。今度はどんな出会いがあるだろうね?」

 

 飛び立った下を見れば、真っ白な街が幸せそうに活気を満たしている。

 その中に、ロー君とスロワーもいる。

 

「バイバイロー君、次会った時、成長した君の姿を見せてよ」

 

 さて、どこへ行こうか?

 また当てもなく旅をするのも良いし、どうせなら行き先を決めるのも良い。トラファルガー家でここら辺の地理を教えてもらったから、余程遠くなければ簡単に行けるはず。

 

「どうせなら東の方に行ってみようよ。あっちのが平和って聞いたし、そろそろあったかい島に行きたいかな」

 

 北の海はやっぱり寒くて、えんぺんやすのーるなら喜んだかもしれないけど僕には少し寒かった。なんせ僕の服は春秋ものの臙脂のシャツとジーンズだ。肌寒い。一応フレバンスで買ったコートも羽織っているけど、耳や頬にダイレクトに冷気が伝わるのであったかいところに行きたかった。

 あとなるべく平和なところ。

 

 この世界にはカームベルトという海王類? が多数存在する危険な海がベルト状にあるらしいが、空路の僕には関係無い。

 ということでしばらくは空旅だ。僕はダークネス・シムルグの背に寝っ転がった。

 

「《ふわんだりぃず×すのーる》を召喚」

 

 ぱっと、デュエルディスクにカードを置けば四体の鳥が現れる。

 

「何かあったら知らせて……僕はちょっと、眠い……」

 

 昨日も夜遅くまでロー君のベッドで読み聞かせをしていたから、寝不足なのだ。子どもは興奮するとなかなか眠らない……。

 そっと目を閉じる。

 鳥の背中で見る夢は、やっぱり空を飛んでいる。

 

 *

 

「──」

「島が見えた? 僕そんな長く寝てたっけ……。え、12時間以上寝てた? マジで?」

 

 どうやらかなり寝過ごしてしまったようだ。

 すのーる曰くすっかり東の海に入っていて、平和そうな村を見つけたからそこに降り立つのはどうか、という事らしい。

 

「オーケー、そこに降りて。ダークネス・シムルグたちはお疲れ様」

 

 真っ白なフレバンスと違って、木々の緑が目立つ平地。おそらくそこまで発展していない村なのだろう。

 いつも通り人里から少し離れたところに降り立って、村へと足を踏み入れる。

 

「すいません、旅のものなんですが……ここはなんて村ですか?」

「旅の人かい、珍しいね。ここはシモツキ村。剣道が自慢の辺鄙な村だよ」

 

 その人の腰には、木刀がしっかりと存在を主張していた。








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