ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず   作:月日は花客

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☆15:とらふぁるがー×すろわー

 

 これは少しだけ未来の話。

 

 11歳になったローは珀鉛病を発症していた。

 一年前、フレバンスで一斉に謎の病……珀鉛病が発症。大勢の人間が倒れ、トラファルガー病院は大混乱に陥った。

 何故かトラファルガー一家は珀鉛病の発症が遅れていたが、それは珀鉛から少しだけ遠ざかった生活を送っていたからだろう。今思うと、何故だか両親は珀鉛製のものを避けていた。

 木製のカトラリー、珀鉛の使われていない塗料で塗られた白いレンガ、真鍮の時計。

 家にいるときだけは、真っ白で目が潰れそうな世界から離れる事ができる。そんな家だった。

 穏やかな生活だったと思う。物心ついた時から一緒にいるスロワーという鳥と、妹のラミ。さんにんで遊んで、たまに両親に医療知識を教わって。平穏な日々だった。

 自分とラミを世話していたらしいベビーシッターは、二人が大きくなってからはいつのまにか来なくなっていた。きっと契約が終了したのだろう。あの優しい紫の瞳が見られなくなるのは残念だったが、子どもながらに仕方がないと諦めた。

 せめてお別れの言葉くらいは欲しかったと思ったけれど。

 

 珀鉛病はみるみるうちに国を蝕み、病院は患者でごった返す。やがて職員も珀鉛病となり、街どころか人の身体まで真っ白になっていった。

 いつしかそれを外部の人々は「致命的な感染症」と結論づけた。

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 人が撃たれていく。

 

 ガン! ガン! ガン!

 

 人が討たれていく。

 

 もうそれは戦争と言えただろうか? 駆除を待つだけのラットのように、簡単に珀鉛病患者は殺されていった。

 父と母は戦っていた。

 

「珀鉛病は感染症じゃない! 中毒だ! 鉛中毒なんだよ!!」

「どうして誰も信じてくれないの!? 珀鉛を身体から取り出す方法は必ずあるはずなの!!」

 

 そう叫んでも、誰も信じない。ただガスマスクと銃を持って、こちらを殺しにかかるだけだ。

 戦争がさらに激化の一途を辿る頃、ふと父が溢した。

 

「ああ、彼の言ったことは本当だった。これならもっと早く他の島に移り住んでいれば……!!」

「“彼”……? 父さま、それ、誰のこと?」

「! ああ……覚えているかな、ロー。お前の世話をしてくれた青年がいただろう?」

「あの紫の目の?」

「ああ、そうだ。彼はこの事を……珀鉛中毒のことを忠告していた。危険なものの可能性があると。スロワーをお前に託したのも彼なんだよ」

「珀鉛病は、感染症じゃない……?」

「鉱石による中毒症状だ。鉛を体外に排出する方法が見つかれば治る。感染しない。しないんだ……! それを何故政府は報道しない!?」

 

 父もこの状況に切羽詰まっているのだろう。かつての穏やかな笑顔は無く、一気に老け込んだ白くなった肌で悲痛を表現する。

 

「──……」

 

 スロワーは珀鉛中毒になっていなかった。何年も生きているが、どうやら通常の鳥とは違う生態を持っているらしい。人と同じものが食べられるし、その鞄から黄色い花はいくらでも出てくる。

 人の言葉を理解しているように、囀り、ローに寄り添ってきた。

 今のローが比較的他の患者より落ち着いていられるのは、スロワーのおかげだ。

 ローが悲しむと、スロワーは困ったように黄色い花の雨を降らせるのだ。涙を拭えない翼の代わりに、その花で笑ってくれと祈るように。

 

「スロワー、おれたちは大丈夫だよな、治す方法だって、きっと見つかるよな」

 

 その言葉に、スロワーはそっと黄色い花を咥えた。

 

 *

 

 現状から言うと、フレバンスは滅んだ。

 父も母も妹も死んだ。いや、駆除された。

 シスターも、同い年の子どもたちも、関係あるなしに、みんな死んだ。

 生き残ったのはローとスロワーだけ。ローにとっても、もうスロワーしか心のありかはいなかった。

 死体に紛れながら国境を超えた時も、ローはスロワーがなるべく汚れないように、汚いものを見ないように抱え込んで丸まった。スロワーの鞄から溢れ出る黄色い花が、色のない死体たちの中で鮮烈に綺麗に映って。

 その時、ああ自分の好きな色はこの黄色なのだとふと思った。

 

 ドンキホーテ海賊団に拾われた時、ローはスロワーを逃そうとした。

 これから先、己がやるだろう事をこの綺麗な鳥に見せたくなかった。スロワーはあれからずっと黄色い花を咥えている。餌も食べていないのに、全く衰弱する様子も無い。やはり特別な鳥なのだ。

 

 自分はこれから非道を犯す。

 何もかも壊したい。でも、スロワーだけは、この小鳥だけはローの世界で綺麗に映っていた。

 スロワーは、そっと黄色い花を一輪ローに降らすと、そっと去っていった。

 もう、後戻りはできないと思った。

 

 *

 

「スロワー!? お前……どうして……!?」

 

 それはコラソンがローを攫い、病気を治すと小舟を出した時だった。

 かつて去った筈のスロワーが、ローの目の前に現れたのだ。変わらない、美しい翠の翼を広げ、黄色い花が詰まった鞄をもって。

 

「なんだその鳥は?」

「うるせぇ! スロワー、どうして、どうして俺の居場所がわかったんだ?」

「──!」

「まさか……ずっとついてきてたのか!?」

 

 優しく囀るスロワーに、ローはこの小鳥が今までずっと、ローの事を遠くから見守ってきた事を察した。

 ローが隠したかった悪行、非行、非道全てがこの美しい鳥に見られていたのだ。そのことにローは真っ青になると同時に、それでもこの鳥が自分の元へ帰ってきてくれたことに特大の歓喜を覚えた。

 

「キレーな色した鳥だなぁ、その鞄はなんだ?」

「す、スロワーに触るな! 俺のちっちぇえ頃からの友達なんだ!」

「──」

「わ、なんだ、花?」

 

 ローはこんな誘拐犯にスロワーを触らせたくなかった。

 しかし、スロワーはひょいとローの緩い拘束を抜け出すと、コラソンにもあの黄色い雨を降らせた。

「この人は安全」とでも言うように、優しい視線を向けるのである。

 ローはスロワーがショックで壊れてしまったのでは無いかと、最初怖くなった。

 

 しかし、コラソンと過ごすにつれ、彼の本性が……どうしようもない優しさが見えてくる。

 あの時のスロワーの行動は正解だったのだと、感じるようになってくる。

 

「痛ェのはお前の方だったよな……かわ゙いそうによォ……!」

 

 その言葉を夜に聞いた時。

 ああ、この人にならスロワーを撫でさせても良いかもしれない。

 そう思った。ただ、泣きながら。スロワーは睡眠を必要としないのか、そっとローに寄り添って尾羽で頬をくすぐっている。

 愛しい愛しいスロワーは、今日も黄色の花をローに降らせてくれた。

 

 *

 

「ロー、愛してるぜ!」

 

 その言葉を反芻しながら、ローは宝箱の壁を叩き続ける。

 何も聞こえない、何も音を出せない。凪いでいる。自分が、自分だけが。

 

(スロワー! ……スロワー!?)

 

 その時、そういえばスロワーがいないことに気づいた。

 たしか、ドジをしまくるコラソンを心配して──もうこの頃にはスロワーはコラソンのことも仲間だと認めて懐いていた──コラソンにもついていってて……。

 

「──ぁ、」

 

 ローはその時の絶望を一生忘れないだろう。

 スロワーはコラソンの懐に潜っていた。道案内や火を起こした時の消火を担当するために。今、まさに殺されようとしているコラソンの懐の中に。

 

(スロワー! コラさん! スロワー! スロワー!)

 

 どれだけ叫んでも、喉が裂ける感覚がしても、音が出ない。この慟哭は聞こえない。

 スロワーはコラさんと一緒にいる! スロワーは普通の鳥では無いが、きっと銃で撃たれたら死んでしまう。あんな、あんな綺麗な鳥が、ローの精神をここまで生かしてくれた愛しい小鳥が。

 恩人と共に、死んでしまう!!

 

「もう放っといてやれ!! あいつは自由だ!!」

 

 銃声が響く。

 何発も、何発も響く。

 自分の声が聞こえない。自分の叫びが聞こえない。

 スロワーの黄色が、コラソンの黒が、見えない、見れない、触れない!!

 

 ローは泣き叫んでいた。心も体も泣いているのに、ドフラミンゴの接収した宝箱から抜け出しても、その声は聞こえることがなかった。







ちょっと鬱が続きます。
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