ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
《スロワースワロー》というモンスターがおりました。
フィールドに同じレベルのモンスターが2体以上存在する場合、このカードは手札から特殊召喚でき、またこのカードをリリースして次の自分ドローフェイズの通常のドローが2枚になる効果を持っています。
そう、ただのテーマ外の汎用モンスターでありました。
そんなスロワーはある日、赤子のお守りをすることになりました。他でも無いマスターが与えてくれた仕事です。スロワーはスロワーなりに頑張って、この仕事を完遂する事を誓いました。
赤子は黒髪の、目つきは悪いですがかわいい男の子です。
さっきまで大泣きしていましたが、スロワーのすがたを見るとまるでタンポポのように笑うではありませんか。スロワーは一気にこの子が愛おしくなりました。
黄色い花の雨を降らせると、その顔がさらに弾けんばかりの笑顔となり、きゃらきゃらと笑うのです。
スロワーはこの赤子の笑顔が大好きでした。
数年も経てば、赤子は幼児となり自分で立ったり歩いたりできるようになりました。
それでもスロワーのやることは変わりありません。この子をただひたすらに笑顔にさせ、遊び相手になり、外敵から守ることです。
修道院のいじめっ子は頭を突いてやり、陰口を言う子にはその花と愛嬌で骨抜きにしてやりました。
幼児は強い子です。ですが人と関わることがあまり得意では無いようでした。
ならば、やはり自分の出番です。
友達が少ない彼の唯一の友であるように、スロワーはずっと花を持ち続けます。
マスターがこの土地を去っても、スロワーは少年となった彼のことを守っていました。
もうスロワーがあやさなくても、自分で涙を止めることができる強い子です。また、聡い子でもありました。
それでも、海の戦士を真似てチャンバラごっこで遊ぶ様には幼気な可愛らしさが滲みます。
妹という第二の守る存在も増え、スロワーは幸せでありました。
それが崩れ去ったのは、少年が10になった頃でした。
スロワーが予見した通り、この鉱石は人を蝕むものだったのです。
一人、また一人と病院に運び込まれては死んでいきました。
少年の両親も手は尽くしましたが、結局何も間に合わず、いつしか国は戦争へと発展してしまいます。
少年は気を強く持っていました。
いつかこの病の解決方法が見つかることを信じておりました。
その度に泣いているように思えて、スロワーは花を降らせることしかできないのであります。黄色い花は尽きません。だから、たくさんたくさん降らせました。少しでも彼の涙の数が減るように。
*
少年の家族がしにました。
少年の友がしにました。
少年の先生がしにました。
少年の国のみんながしにました。
生き残ったのは少年とスロワーだけです。
死体が運ばれるコンテナに少年は紛れ込み、こっそり国境を越えました。あの時のスロワーを包む優しい圧を、スロワーは一生忘れません。少年の体は冷えていました。きっと心も凍りついているでしょう。
スロワーは彼の心が少しでも温かくなるように、あの頃見た笑顔を思い出しながら、そっとタンポポを咥えるのです。
少年はそれをじっと見つめていました。
スロワーは逃がされることになりました。
少年が決めたことです。少年は今から海賊の船に乗ります。もう全てを壊したくて、終わらせたいそうです。寿命も残りわずかしかありません。
これから彼は後ろめたいことや酷いことを沢山するのです。その手を赤や黒に染めて、自分で自分の首を絞めていくのです。
スロワーは悲しくてたまりませんでした。
スロワーは彼が堕ちるなら自分も堕ちるつもりでした。
それなのに彼はスロワーにだけは綺麗であれと言うのです。
スロワーは悲しくて悲しくて、少年の元から飛び立ちました。いえ、飛び立つフリをしました。
スロワーの役割は彼に祝福を与えることです。少年はスロワーの大切な愛しい友でしたが、スロワーの主人は紫の目をした彼でした。彼の使命を途中で放り出すわけにはいきません。なにより、スロワーほんにんが我慢できそうにありませんでした。
少年は様々な罪を犯し、様々な傷を負いました。
しかし確実に成長もしていました。
それを遠くから見守るのはやきもきしましたが、スロワーはずっと耐えていました。
そしてある日、モフモフの大男が少年を攫ったのでございます!
スロワーは慌てました。スロワーは攻撃力も守備力も100しかありません。少年を守るにはいささか悲しい数値でした。
しかしスワローは思い直します。彼は少年の病を治すために動いていました。
なによりその瞳が、魂が、あまりにも美しかったのでございます。
スロワーはすっかり感心して、この人が少年にふさわしいか見定めることにしました。
突然帰ってきたスロワーに少年はたいそう驚きましたが、それでも今もスロワーの事を慮ってくれました。
スロワーは大男にも花の雨を降らせます。
その心にどこか影がさしていると感じたからでした。
*
スロワーは大男と共にいました。少年の病を治す「悪魔の実」が見つかったそうです。
悪魔の実はスロワーも知っていました。その悪魔の実のおかげでスロワーはマスターと話せるようになったのですから。
だからその実を確実に手に入れるため、スロワーはドジっ子な大男についていくことにしました。
もうこの頃には、スロワーは大男のことをすっかり信用して、少年と同じくらい守りたい存在に思っていました。
だからドジを踏まないように、迷わないように懐に潜り込むことにしたのです。
今思うと、それはスロワーの人生最大の慧眼でありました。
*
「もう放っておいてやれ!! あいつは自由だ!!」
その言葉と共に、銃声が鳴り響きました。
スロワーは生きておりました。大男がなんとか今までの暴行からスロワーを庇ってくれたのです。なんて優しい男でしょうか、ちっぽけな小鳥のために、血だらけになって骨が折れてもスロワーの存在も少年の居場所も表に出さなかったのでございます。
だからスロワーも、ちっぽけなレベル1モンスターのできる最大限のことをしようと思ったのです。
ああお許しくださいマスター、マスターをマスターと呼べなくなってしまう自分をお許しください。
スロワーは主人設定を紫の彼から大男に移しました。
そして守備表示になります。
ドン! ドン!
銃弾が撃ち込まれます。フィールドに出ているスロワーが、主人である大男より優先して攻撃されます。
スロワーは攻守100ずつしかない弱いモンスターです。
それでも耐えました。
何発もの銃弾を、ただひたすら気力を振り絞って、耐えました。
何度も体が消えかけましたが、それでも耐えました。
やがて死んだと思ったのでしょう、大男を撃った人達は去っていきました。
大男はまだ息があります。これなら、頑丈な彼なら生き延びられるでしょう。
少年はまだ大男の能力で音が消えたままのはずです。無事でしょうか、もうわかりません。
スロワーの意識はほとんど無くなって、右も左もわからなくなっていました。
だんだんと体が薄くなり、カードに戻っていきます。マスターを変更してしまったので、紫の彼の元には戻れません。
大男の血でプロテクターを汚しながら、スロワーは消えゆく最後、そっと大男の首元にタンポポを添えました。
雪の中、黄色い花だけがちっぽけに咲いていました。