ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず   作:月日は花客

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☆17:ふわんだりぃず×くいな

 

「今日こそ勝つ!! かくごしろよろびーなぁ!!」

 

 ゾロ君の叫びが道場に響いた。

 

 あれから4年、ゾロ君は少年に、くいなちゃんは少女に成長していた。

 まだ4歳だと言うのに、ゾロ君は剣道で大人に勝つほど強くなっていた。くいなちゃんもだ。

 僕はなんだかんだ一心道場の居候として、家事などを手伝わせてもらいながら暮らしていた。更に家事スキルが上がった。

 今ゾロ君と戦っているのは、ろびーなである。

 

 いや、ゾロ君が、どうして幼い時から剣道もやらない僕がこの道場に居候しているのか、聞いてきたのである。

 

「最初は君たち二人の面倒を見たり、育児の相談役をしてたんだけど……最近は道場で試合をしたりしているよ。見たことなかった?」

 

 と、言ってしまったのだ。

 

 と言っても、僕自身が剣道に目覚めたわけじゃ無い。僕剣道の才能はマジで無かった。コウシロウさんに「まぁ人によって向き不向きはあるから」と言われるくらいは無かった。

 相手をしているのはろびーなやいぐるんと言ったふわんだりぃずの面々である。

 人では無い相手にも動じずに戦えること。それは一心道場の新しい方針でもあった。

 

 ろびーなやいぐるんは、攻守ともにそこまで高くないが、飛べると言うアドバンテージがある。

 それによって剣士を翻弄し、転ばせたり剣を奪ったりすることは簡単にできた。

 それにコウシロウさんは新たな強さを見出したのである。

 

 なので、僕はろびーなやいぐるんを召喚したらあとは見学。と言う形なのだ。これをやってるのは大人やある程度年齢が高い青年たちなので、まだ4歳で体も小さいゾロ君は見たことなかったらしい。

 くいなちゃんは方針を決める際に一緒に話し合いの席にいたから知っていたのだが……。

 

「小鳥なんて、おれだって余裕で倒せる! 勝負させろ!」

 

 ゾロ君はその話を聞くや否や竹刀を持って僕に突撃してきたのである。

 コウシロウさんに目を向ければGOサイン。いいのかそれで。

 というわけで、ためしにろびーなと戦わせてみたのだが……。

 

 圧倒的なまでのろびーなの勝利だった。

 

 まず地面に降りることで相手の姿勢を低くし、下段を振り被らせたところで大きく音を立てて飛び立つ。相手の視線が上に行ったところでさらに頭上に下り体制を崩す。

 そうすればゾロ君はあっという間に尻餅をついた。ついでに竹刀も落としてしまう。

 負けであった。

 

「なっ……! なっ……!」

「ほら、言ったじゃん。ゾロにまたろびーなは早いって〜。私にも勝ててないくせに」

 

 くいなちゃんが煽る。

 ゾロ君はくいなちゃんにも勝てていなかった。もう100戦はしているだろうに、一向に勝てない。それでも勝負を挑むゾロ君にちょっと感心してしまう。

 

 この時、ゾロ君にはくいなちゃんと同列の相手にろびーなが加わったのである。

 

「ぎゃー!」

「あ、また竹刀取られてる」

「毎日毎日よくやるねぇ。次はくいなちゃんに勝負を挑む頃かな」

 

 3時のおやつである練り切りを頬張りながら、僕はろびーなの活躍を縁側から眺めていた。

 

「くそっまた負けた! くいなぁ! 笑ってないでおまえも竹刀持ってこいよ!」

「ほらね」

「もーしょうがないなー」

 

 ゾロ君とくいなちゃんは一心道場の期待の星かついつものやりとりとして、大人たちに微笑ましい目で見られていた。

 ライバル、というには力関係が偏っているけれど、お互いにお互いを高め合う相手として認めているのだろう。

 ろびーなはやれやれと言った様子で戻ってきた。

 

「ろびーな、お疲れ様。3連戦は大変だったね」

 

 練り切りを少し切って渡せば、ろびーなはそれをパクパクと食べる。

 手を抜いたらゾロ君に怒られるので、ろびーななりに本気で相手をしているのである。その視線はもはや仕方のない後輩を見る先輩のようであった。

 

「ほら、相手してあげるよ」

「今度こそ勝つからなー!」

 

 そんな二人を眺めつつ、今日の新聞を読む。大見出しには「フレバンスで感染症、戦争が勃発」……………………は?

 

「フレバンスで、戦争……?」

「ああ、どうやら大規模な感染症が発覚して……八方の国がそれを自国に持ち込ませないように戦争が始まったらしい」

 

 呆然とした言葉に、コウシロウさんが返事を返してくれた。その手にはお茶がお盆に乗っかっている。

 

「そんな……あそこは平和な町で、戦争なんてものと無縁だったはず……!」

「どうしたんだい、まさか」

「僕は8年フレバンスでお世話になっていたんです。どうして、どうして……!!」

「落ち着いて、遊鳥くん。何があったのか話してご覧」

 

 突然様子がおかしくなった僕をコウシロウさんが宥めてくれる。

 トラファルガー家はどうなったんだ、感染症……いや、きっと珀鉛中毒がついに発症したんだ! 間に合わなかった? 彼らはまだ生きている? どうしてどうしてどうして。

 

「はーっ! はーっ!」

「落ち着いて……落ち着いて……。フレバンスにいたんだね? 君は」

「はい……そこで、とある家族のベビーシッターをしていました。子どもが大きくなったので、契約を終えて旅に戻ったんです」

「感染症は大丈夫なのかい?」

「あれは感染症じゃありません。鉛による中毒症状です。でも、治療法は……」

「……取り敢えず、お茶を飲みなさい。今の君は明らかに動揺している」

 

 差し出された湯呑みのお茶を、ぐいっと一気飲みした。あつい、すこし舌を火傷したかもしれない。

 しかしその熱が、僕をすこし正常に戻してくれた。

 

「あの家族にはお世話になりました……戦争で不幸が起きてないか心配で」

「……だからといって、ここからでは何もできない。無事を祈るしかないだろう」

「はい……」

 

 僕はスロワーの気配を辿った。まだスロワーはフィールドに存在している。

 ということは、まだきっと無事だ。スロワーは彼らに何かがあったら身を挺してロー君だけでも守るはず。今はスロワーの気配だけがロー君達の無事を確かめる術だ。

 

「戦争はすでに始まっている。今から向かうなんてことは考えないほうがいい。最悪君も殺されてしまうよ」

「はい……はい……。すいません、取り乱して」

「いや、長年いた場所が戦争に巻き込まれるなんて、正気でいられるほうが奇特さ。今は取り敢えず、その家族の無事を祈ろう」

「はい」

 

 スロワー、君だけが頼りだ。こんな大役を押し付けてしまって申し訳ないけれど、君だけでもロー君を守ってくれ。

 僕はそう願いながら、ゾロ君とくいなちゃんの試合を眺めた。

 彼らも、健やかでありますように。

 

 *

 

 あれから5年経った。僕はまだシモツキ村に居候している。

 ゾロ君達は9歳になり、より一層剣の腕を磨いていた。

 僕は僕なりにトラファルガー家の無事を祈りながら、毎日フレバンスの記事がないか新聞に目を通した。

 しかし、何かに隠されているかのようにフレバンスの記事はあれから見つからない。

 スロワーの気配だけが、僕をロー君と繋いでいた。

 

 しかし、それが途切れた。

 

「…………は?」

 

 ある夜のことだった。

 スロワーとの繋がりが、ぷちりと千切れたのである。

 僕は布団から飛び起きて、必死にスロワーの気配を手繰ろうとした。しかし、何も感じないし見つからない。

 叫び出しそうになったが、隣室で寝ているコウシロウさんたちを起こさないように必死で耐えた。

 

「ロー君が……死んだ……? いや、まだわからない。三つ、三つ考えるんだ」

 

 一つ、フレバンスの情報が足りない。トラファルガー家の生死はまだ確実ではない。

 二つ、スロワーとの繋がりが途切れたが、これはカード自体が破られたか主人が変更された可能性がある。

 三つ、スロワーとの繋がりが途切れたこととロー君の死はイコールではない。

 

 しかし僕はもういてもたってもいられなかった。

 素早く着替えて旅の準備を整え、そろりそろりと部屋を出る。

 

「行っちゃうの?」

 

 ふと、背後から声がした。くいなちゃんの声だ。起こしてしまったか。

 

「うん……僕はもうシモツキ村を出るよ。ごめん」

「フレバンスに、行くの?」

「僕のモンスターとの繋がりが途切れたんだ。途切れたところに向かうよ」

「……行かないでって、言っちゃダメ?」

「…………」

 

 くいなちゃんは悩んでいた。自分は世界一の大剣豪になれるかなって。

 女の身体であるから、筋肉量なんかはどうしても男に劣る。だから、無理かもしれない。今はゾロ君に勝ててても、いつか追い抜かされて、そのまま追いつけないかもしれない。

 

 そう相談された時、僕は言った。

 

「なら、世界一じゃなくてゾロ君いちの大剣豪になればいいんじゃないかな」と。

 

 ゾロ君はきっとくいなちゃんを、永遠にライバルとして見てくれるだろう。そもそもゾロ君に勝てなくなっても、ライバルじゃないなんて言う性格じゃない。

 それにくいなちゃんも、今はずっと勝っているゾロ君をライバルと認めている。

 それでいいんじゃないかな、と。

 

 そう言った時、くいなちゃんはなんだか憑き物が取れたような顔をして、笑ってくれた。

 でも、今はその顔も暗闇でよく見えない。

 

「ごめんね」

「待って、行かないで! ──あっ」

 

 背を向けて降りていた途中の階段を降り切ろうとした時、くいなちゃんの身体が浮くのが見えた。

 

 そのまま、僕は来るであろう衝撃に目を瞑った。

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