ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「…………あれ?」
「気が付いたかい」
僕は階段を踏み外したくいなちゃんを庇って、気を失っていた。
あれからどうなったのだろう、くいなちゃんは無事だろうか。
身体を布団から起こそうにも、頭に激痛が走る。
「っ……!」
「起きないほうがいい、頭が切れていたんだ」
「くいなちゃんは……」
「すこし打撲があるだけさ。君が庇ってくれたおかげだよ」
どうやら無事だったようだ、ほっと一息つく。
しかしコウシロウさんの声は、どこか怒っているようだった。
「何も言わず、出て行こうとしたんだって?」
「……う、」
「フレバンスの事件に焦る気持ちもわかる。でも、相談くらいはしてくれたっていいんじゃないかな」
「……はい」
それは正論だった。
スロワーとの繋がりが切れた時、僕は衝動のままにシモツキ村を後にしようとした。その後のコウシロウさんやくいなちゃん、ゾロ君のことを考えずに。
別れはさっぱりとしたいのが僕の信条だが、これはあまりにも、渇きすぎている。
「何があったんだい?」
「……フレバンスで面倒を見ていた子どもに預けたモンスターとの繋がりが途切れました。あの子を守るように命令していたんです。だから、もしかしたら……と考えたら止まらなくなってしまって」
「なるほどね……。今の君の状態を教えよう。頭の切り傷に背中には打撲、そしておそらくだが脚の骨にヒビが入っている。そんな状態でも、フレバンスに行くつもりかい?」
「…………」
僕はちらりとデュエルディスクに表示された自分の残りLPを見た。
数値は残り5000。つまり、階段からくいなちゃんを庇って3000のダメージ……か。
「……なんだ」
「え?」
「軽傷じゃないですか」
「は?」
取り敢えず《ご隠居の猛毒薬》発動で1200回復。さらに《ふわんだりぃずの旅じたく》で500回復。これでライフは6700。ヒビは治った。頭の切り傷も塞がった。
よし、行ける。動ける。
「治りました。ごめんなさいコウシロウさん、僕は行かなきゃいけない」
「無茶だ! フレバンスはもう……!」
「それでも……僕は彼の生死を確かめたい! くいなちゃんには謝っておいてください、ゾロ君にも!」
僕は庭に《始祖神鳥シムルグ》を召喚して飛び乗った。
目指すは北の海、スロワーの繋がりが最後に途絶えた島。
「……! 絶対に死なないように!」
「はい! 今までありがとうございました!!」
そう叫んでシモツキ村を飛び出す。
無事でいて、ロー君、スロワー、トラファルガー家のみんな!!
*
上空から見たフレバンスは酷いものだった。
焼け野原と言って良い。全てが焼かれ、破棄され、壊されていた。降り立つことはしなかった。今だに生き残りを探す部隊が街中を彷徨いていたのだ。
気づかれないように、シムルグの限界高度まで高さを上げていたと言うのに、それでもわかる酷い惨状。もうきっと誰も生き残っていない。
でも、スロワーの繋がりが途絶えたのはここじゃない。
ここから離れたとある島だ。名前は知らない。
「こんにちは。流れの旅人なんですが……ここはなんて島ですか?」
「ん? ここはスワロー島だよ」
「ありがとうございます。街はどの方角でしょうか」
「南の方さ。看板があるからわかりやすいと思うよ」
「どうも」
雪が深々と降っている島だった。「スワロー島」と言う名前に、内心で空笑いする。《スロワースワロー》のつながりはここで途絶えた。
スゥのように、主人を僕じゃない誰かに変更したならそれで良い。彼らが選んだ新しい主人に一声かけておきたかった。
もし誰かがカードを破ったりしていたのなら、相応の報復をさせてほしかった。
街は少し荒れていて、どうやらなのある海賊が直近でここを荒らして、海軍も来る羽目になったらしい。
そんな少しざわついた街中を一人歩く。
つながりは途切れても、近くにあれば気配はわかる。確かにスロワーはまだ存在している。
それにどれだけ安心したか!
「こんにちは」
「え? ああ……こんにちは」
その気配はこの大柄の男性の胸元にあった。
酒場のテーブル席に勝手に座らせてもらう。少し警戒されているようだが、それはこちらも同じだ。
スロワーはこの人を主人と定めたのだろうか? その人は、ロー君を知っているだろうか?
「それ、美味しそうですね。なんてメニューですか?」
「ただのテキーラだよ」
「すいません、彼と同じものをお願いします」
酒はマルコさんに止められているので、飲むつもりはない。ただ話す口実を作るだけだ。
「この島、なんだか物騒ですね。僕は旅をしているんですが、こんなピリピリした島には初めて来ましたよ」
「……へぇ」
テキーラが運ばれてくる。ウェイトレスのお姉さんにチップを払いつつ、僕は単刀直入に気に出した。
「『スロワー』と言う単語に覚えは?」
「──!?」
男は咄嗟に自分の胸元を見る。当たりか。
彼がもしスロワーを脅しに使い、ロー君に何かをしていたのなら……ただじゃおかない。
「なぜそれを……」
「すこし、お話ししましょうか。あ、自己紹介がまだでしたね。僕は遊鳥旅途……その《スロワースワロー》の、
「!」
男はパチンと指を鳴らす。
すると、周囲の音が一瞬にして消えた。能力者か。
「アンタが、ローにスロワーを託したっていう奴か」
「はい。僕も能力者で、その鳥は能力で実体化させたモンスターです。……それで、何故あなたがそれを持っていて……スロワーに主人と認められているんですか?」
つとめて穏やかに、しかし冷たさを交えて僕は笑った。
しかし、僕の警戒とは裏腹に、男はその言葉に大粒の涙を流し始めた。
突然の豹変に驚く。
「お゙れ゙のせいでっ……! こいつはこんな姿になっちまったんだ! おれがローを逃がすために、おれの代わりに何発も銃弾を受けてっ……! あんた、こいつを治せねぇか!? そうしないと、おれはローに顔向けできねぇっ……!」
そう大泣きする男に、ああきっとこの人は善人なんだと思う。スロワーは脅されてなくて、自分からこの人を守るために、攻撃対象を自分に変更するために主人を変えたんだ。
そう察した。
プロテクターには血がついていて、カードも少しひしゃげている。
それでも、スロワー本体は汚れひとつなくプロテクターの中に収まっていた。
「ロー君に、何があったのか教えてください。僕は彼と関わりがあります」
「……わかった、場所を変えよう」
*
通されたのは、彼が借りているらしいボロの集合住宅の一室だった。壁も薄いだろうが、ナギナギの実の能力者だという彼の能力で防音性はバッチリらしい。
「俺とローは……もともとはドンキホーテ海賊団にいた」
そこから語られたのは、ローと男──ロシナンテさんの壮絶な日々だった。
最初こそ信頼しあっていなかったものの、徐々に信用し、頼り頼られ、スロワーも共に旅して病院を回った。
オペオペの実を入手したところまでは良かった。
そこから兄であるドフラミンゴに見つかり、スロワーが身を挺して守ってくれたこと。スロワーはカードの姿になり、それから一切反応してくれなくなったこと。
ローの行方は、無事だと信じているがどこにもわからないこと。
自分は下手に海軍に戻るわけにも行かず、ここで燻っていたこと。
「そうですか……。取り敢えず、スロワーのカードを貸してください。再召喚します」
「っできるのか!?」
「はい、プロテクターも新しいものに変えましょう」
僕はロシナンテさんからカードを受け取ると、まずプロテクターを新しいものに変えた。ピカピカの新品のプロテクターは、かわいいスロワーの姿をよく見せた。
そして、デュエルディスクに置く。
「《スロワースワロー》を召喚」
ふわり、と黄色い花が舞った。