ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
突然の強風が僕を巻き込んだ。
大学デビューで染めた青い髪が揺れる。白い雪混じりの風は僕を中心に囲うように吹き、やがてしんしんと霜を降らせて止む。
そして目の前にいたのは、カードの中にいた《ふわんだりぃず×すのーる》……。キョクアジサシをモチーフとした主人公の鳥三羽と、一羽のシロフクロウ。
「ふわんだりぃず……嘘……」
「──!」
高い音で帽子をかぶった子が鳴いた。まるで「やっと会えた!」とでも言っているかのようだ。何故だか、言葉はわからないのに言いたいことがわかる。不思議な感覚だ。
目の前にいるのは確かに実態がある遊戯王モンスターで、僕の相棒のような存在だ。
僕の体にそっと寄り添う四羽。その暖かさに、思わず涙がこぼれる。
「あ、ああ……」
ポロポロと流れる涙を、すのーるがそっと拭ってくれる。その動作にさらに泣いてしまうのだからしょうがない。
僕はどうして彼らが実体化したのかわからないまま、メンタルが安定するまでそっと地面に座り込んでいた。
*
「……ありがとう、落ち着いたよ」
幸運なことにローブたちの気配は無い。
しかしこの場所を早く去ったほうが良いだろう。僕は何処へ行こうか、辺りを見回すと、ゴーグルを被った子が僕のカバンを羽で指して鳴いた。
「……? デッキ?」
オレンジのデッキケースを取り出せば、その中の一枚をそっと咥えられる。
《霧の谷の巨神鳥》だ。
「……! そうか、君たちと同じように実体化させたら!」
きっと背に乗って飛んでいける。
しかし、実体化……召喚する方法がいまいちわからない。名前を呼べば来てくれるんだろうか。
恐る恐る、僕はまたカードの名前を口にする。
「《霧の谷の巨神鳥》……」
また、大きな突風が吹く。今度は霧混じりのぬるい風で、その風と霧は黄色い大きな巨鳥が姿を現すと同時に消えた。
召喚に成功したようだ。
「な、なんだ……!?」
「なんだあの鳥は!!」
「うわっ、拙い」
巨神鳥は想像以上に巨大で、ここら辺の木々など簡単に追い抜くほどの大きさだ。僕が乗っても大丈夫そうなのは良いが、ローブ連中にも気づかれてしまった。急がないと。
「巨神鳥……アイツらに追われてるんだ! 逃げる助けをして欲しい!」
「……!」
巨神鳥は寡黙に頷くと、僕を背に乗せて地面を飛び立った。すのーるたちもそれに続く。
数本木を薙ぎ倒して離陸した巨神鳥は、ぶわりと島を旋回する。どうやら僕がいた場所は孤島だったらしい。
「こんな場所知らない……! と、とにかくここから離れよう。お願い、巨神鳥!」
巨神鳥はまた頷き、僕を乗せて大きく翼を広げた。
辺り一面は青一色で、ここが本当に日本なのかも怪しい。
どうしてカードを実体化できたのだろう。もしかして、いわゆる異世界召喚とか、なんかそういう流行ってるやつなのだろうか。飛んだ迷惑だ。遊戯王の対戦イベントがあったっていうのに。大学もあるし、行方不明にはなりたくなかった。
明らかにローブの奴らは僕を召喚したみたいな言動をしていたし、たぶん予想は合っているのだと思う。
「これからどうしよう……」
帰る場所も行くあてもなく、情報も何もなかった。
ハッキリ言って野垂れ死ぬ可能性は大いにある。
「──!」
「…………うん、そうだね。ありがとう」
すのーる達がそっと僕に声をかけてくれる。そうだ、僕は一人じゃ無い。ふわんだりぃずや、デッキのみんながいる。
状況は何もわからないけれど、君たちといるならきっと最強だ。
「まずは人のいる他の陸を探そう。この世界の情報とか……ここは何処なのかとか、調べなきゃ」
「──!」
「ああでもこの不思議な力についても知りたいな。なんで君たちは実体化できるの? スマホはニューロン以外無くなってるし……」
「──!」
「『呼ばれた』? うーん、ただ呼んだだけで実体化……?」
そもそもすのーるや巨神鳥は高レベルの大型モンスターで、リリースを必要としていたはず。名前を呼ぶだけでお手軽に召喚できているのは何故だろうか。本来は《ふわんだりぃず×ろびーな》からの展開が必要なのに……。
謎が多すぎて頭がまとまんないや。
「でも……こんな異世界にまで、君たちはついてきてくれたんだね」
「──!」
当然、とでも言うようにバンダナの子が鳴いた。それが嬉しくて、また目元が潤う。
愛してきたデッキが応えてくれた。それが決闘者としてなにより甘美な響きで。思わず緊張が緩み、巨神鳥のふわふわの羽毛に埋もれた。
巨神鳥は静かに、しかしかなりの速度で飛んで陸を探してくれている。安定感抜群で、このまま眠れそうだ。
大学帰りなのもあって、疲れが溜まっていたのか、僕はそっと意識を手放した。
ああ、波風の音がする。
*
「──!!」
「……っは、寝てた!? どうしたの!?」
巨神鳥が大きく鳴く。
その轟音に飛び起きると、どうやら巨神鳥が島を見つけたようだった。
ポツンとある孤島だけど、中には大きな街も見える。港もあるようだし、結構発展していそうだ。
「島……さっきの所みたいな場所じゃないと良いけど。とりあえず、森の方に降りよう。頼んだよ」
「…………」
巨神鳥は翼をはためかせ、街とは離れた森林に向かう。
「見たことない動物がいる……やっぱり、ここは地球じゃないんだな……」
巨神鳥が降り立った先では、突然現れた巨大な鳥に野生動物たちが一目散に逃げていくのが見えた。
その動物達は皆カラフルであったり、尻尾が2本あったりして、おおよそ地球ではあり得ない見た目をしている。
その姿に、やはりここは地球ではないのだと不安が募った。
「取り敢えず巨神鳥はカードに戻って。すのーるたちも。僕が危なくなったらすぐ呼ぶから」
そう言えば、すのーる達はカードの中に入っていった。
どこか心配気だったけど……しばらくずっと飛んでいたから、休憩したいだろうし。
なにより、人の街で変に浮きたくなかった。
僕は街に足を踏み入れると、近くでパン屋を構えていたおばさんに声をかける。まずは情報収集だ。
「すいません、この島ってどこにあるなんて島ですか? 迷ってしまって」
「おんやまぁ、それは大変だね。ここはグランドラインにある春島、リー島だよ」
「グラ……?」
言葉は通じるが、単語がわからない。
グランドライン? 春島?
「ログが貯まるのは三日くらいで、近くに他の島もあるから結構栄えてる島さ。マリンフォードは遠いから治安はあまり良くないがね」
「は、はぁ……」
わからない単語がさらに増えた。
なんなんだ、ここ。
でもあんまり基本的なことまで聞くと不審者に思われそうだし……どうしよう。
本とかに書いてあるだろうか?
「この島に図書館はありますか?」
「図書館は無いけど、本屋ならあるよ。あの通りの方さ」
「すいません、ありがとうございます」
図書館はこの島には無いのか。文化レベルとかもわからないから、島単位でどれくらいの施設があるのかも知らないと。
本屋……自分はこの世界のお金を持っていないけど、立ち読みくらいは許されるだろうか。
手持ちにはデッキ、プレイマットとニューロンしかないスマホ。そして財布くらいしか無い。大学は今日は行事で顔を出すだけだった為、教科書なんかは入っていない。
財布の硬貨を美術品的なもので換金できないだろうか……?
本屋は大通りを行けばすぐだった。
カランコロンとドアベルを鳴らせば、偏屈そうな店主がちらりとこちらを見る。
「すいません、地理系の本を探していて……」
「それならあそこの棚だ」
ついと指を刺された先、そこには大量の分厚いハードカバーの本が並べられていた。
タイトルは全て英字。頭の中で英語の知識を引っ張り出しながら、簡単な地理関係のことが書いていそうな本を手に取る。
「…………」
僕はその内容に眉を顰めた。
読めない。
僕がそこまで英語に詳しく無いのもそうだけど、知らない単語がやはり多い。
新世界? レッドライン? カームベルト?
新たに飛び出した意☆味☆不☆明単語を咀嚼しようにも、英語の壁もあり頭が痛くなってきてしまう。
僕の大学は英語より日本語を中心とした文系コースだった。
他にも数冊本を開いてみるけれど、やはりちんぷんかんぷんで終わってしまう。
諦めて店を出ようとした時、さっきのパン屋さんの方向からおばさんの悲鳴が聞こえた。