ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「ああ……スロワー! スロワー!」
スロワーは無事に召喚された。僕の勘が言っている、あの時のスロワーとおんなじ個体だと。
僕のデッキの中にスロワーは2枚入っていたが、おそらくカードごとに精霊がいるんだろう。
ロシナンテさんは小さなスロワーに抱きつき、大声で泣き始めた。
スロワーはそれを、ただ黄色い花を咥えて笑っていた。
「……落ち着きましたか」
「ああ、かっこ悪いとこ見せちまったな、悪い」
「いえ……スロワーをそこまで思ってもらってるなら、この子が主人に選ぶのも妥当だなと」
言ってしまえば、ただのレベル1特殊モンスターにそれだけの涙を愛を重ねられるなら、スロワーを任せても問題ないだろう。
「でも、こいつの本来の主人にしたかったやつはきっとローだ。ローに……会いたい……」
「そういえば、僕とロー君の関係を話していませんでしたね」
「たしか、ローはベビーシッターとか言ってたな」
「そうですね、0歳から8歳までの彼と、彼の妹の面倒を見ていました。スロワーもとても協力してくれていたんです」
「ちっちゃい頃からの友達って言ってたな、スロワーは」
「ふふ、まぁ実際は保護者みたいな感じでしたけどね……。ね、スロワー」
スロワーはすっかり元気で、「当然」とばかりに鳴いている。
それにまたロシナンテさんは鼻水を啜っていた。ちょっと涙もろい人だ。
「スロワーとの繋がりが切れた時は焦りました。ロー君が死んでしまったと思いましたよ」
「いや……あいつは死んでない。今気づいたが、俺の凪はまだあいつに作用している」「! なら──スロワー、ロー君の居場所はわかる?」
「──! ──!」
ずっとロー君と一緒にいたスロワーなら、ロー君の居場所がわかるかもしれない。
そう願いを込めて聞けば、スロワーは外に向かって飛び出した。きっと、わかっている。
「行きますよ、ロシナンテさん!」
「えっちょっここ4階うわあああああ!?」
ロシナンテさんの手を引いて、4階から飛び降りる。同時に《始祖神鳥シムルグ》を召喚し、街を飛び立った。
「始祖! スロワーを追って!」
「ちょ、ま、速い怖い!!」
爆速で向かってしまおう、ロー君の元へ!
*
おれはヴォルフのじいさんと日々を過ごしていた。
ギブ&テイク。それがヴォルフの突きつけた条件。俺はヴォルフの手伝いをし、ヴォルフはおれに安全な居場所を提供する。
騒がしいこともあったが、案外穏やかな生活だった。
でも、おれの心にはまだ影がさしている。
コラさんと、スロワーのことだ。
宝箱越しに、おれはふたりが消えていく音を聞いた。銃声は重くのしかかり、たまに悪夢に見る。
その度に脂汗を拭いて、ベタベタになったシャツを着替える羽目になった。
あの鳥は、黄色い花は、もう二度と見れない。そう思うと、温室に咲く野菜の黄色い花を見るだけで吐き気がした。何もできなかった自分を呪ってやりたくなった。
それでも、珀鉛病から逃げ切ってドフラミンゴの手から逃れたおれは、生きなくちゃいけない。おれの大事なものふたつを奪ったアイツに、復讐しなくちゃいけない。
そういえば、おれにスロワーを託してくれたあの人はどうしているだろうか。
両親曰く悪魔の実の能力者だったらしいから、スロワーが死んだこともわかっているのかもしれない。
彼は、失望しただろうか。スロワーを殺すことになってしまった原因のおれに復讐しに来るだろうか。
死ぬわけにはいかないが、ボコボコにされても文句は言えない気がした。
「おい! 今すぐ家の中に入れ!」
ヴォルフがやけに焦った声でおれに叫んだ。なにかあったのか、緊急事態か!? まさか、ドフラミンゴが……!!
「デカい黄金の鳥が、こっちに向かってきてる!!」
鳥。
そう聞いて、おれはヴォルフの叫びを無視して空を見た。
ベビーシッターは鳥を召喚する能力者だったと聞いている。まさか、まさか、まさかとその大鳥を探した時。
目の前に、あの黄色と青が飛び込んできた。
「え……」
「──! ──! ──!」
ああ、黄色い雨が降っている。
タンポポが、俺の頭にたくさん降りかかる。青い翼が、ふわふわの帽子をたまに尾羽で撫でながら旋回している。
「すろ、わー?」
「──!」
それは、死んだと思っていたあの愛しい小鳥だった。
「良かった! 生きてた!!」
「ロ゙ー!!」
大きな鳥は、黄金の羽を広げて目の前に降り立った。
神の使いのような大鳥には、二人、誰か人間が乗っていた。
そこに、見慣れた黒の帽子とメイクがあって──
「ロ゙ー! やっと会えた! ごめんなぁ、痛かったよな、怖かったよなァ! 生ぎてて良かっ゙たぁ゙!!」
「はっ──!? こら、さん……?」
あっという間に、大きな……見覚えのある背丈に抱きつかれる。紫のふわふわが、ローの頬をくすぐった。
声も、抱きつく直前に転んで雪まみれになったドジも、その涙も全部知っている。
死んだはずの、あのひと。
「夢でも、みてんのかな……コラさんと、スロワーが、いる……」
「夢じゃないよ、ロー君」
そう言って、いつの間にか消えていた大鳥の辺りに、紫の瞳のひとがいた。
幼い頃、いろんな本を読み聞かせてくれた。スロワーと遊んでくれた。一緒に勉強してくれた。あの人は。
「ゆ……とり……さん」
「覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ、忘れられてるかなと思ったんだけど」
忘れるはずもない。おれにスロワーを託してくれた、ラミとも遊んでくれた、いつの間にか消えていたかの人。
まるで年齢の変化を感じさせない姿で、雪の中立っている。
「ロー君、これは夢じゃない。スロワーも、ロシナンテさんも、生きてるんだよ。生きて、君の元に戻ってきた。これは現実だ」
「げん……じつ……」
そう言われて、どっと実感が津波のように襲ってきた。能力者であるおれは、その津波に飲まれて、巻き込まれて、どっと涙を流した。
「うわ゙あ゙あああああああ!!! コラさん! スロワー!」
「ロー! ロー! 生きてて良かった! 生きてて良かった!」
「ふふ、感動の再会だね? スロワー」
「──!」
スロワーは黄色い花を降らせている。
それは帰ってきた祝福の証。そして「ただいま」といつスロワーの気持ちだった。
*
「──で、コイツがお前さんの言っていた恩人か」
「ああ、コラさん、遊鳥さん、この人はヴォルフ。おれをこの家に置いてくれてるガラクタ屋のじーさんだ」
「発明家と言え!」
落ち着いたところで、ヴォルフさんから「説明を求める」という要請があったのでお邪魔させていただくことに。
あのままだと寒さで凍えそうだったしね。
実はシモツキ村にコートを忘れてきてしまって、シャツ一枚でこの雪の中を飛んできたのである。普通に寒さでLPが減っている。
僕らはとりあえず、今までの事を話すことにした。
「僕は遊鳥旅途。悪魔の実を食べて、モンスターを召喚できるようになった旅人です。このスロワーと呼ばれている鳥は僕が召喚した鳥なんですね」
「ふむ、さっきの大鳥もその能力か」
「はい。数日前、スロワーとの繋がりが途切れたことに異変を感じ、ロシナンテさん……コラさんと言った方がいいですかね? と合流。破壊されていたスロワーを再召喚し、ロー君を探していました」
「コラさんはなんで生きてたんだ?」
「スロワーが主人を遊鳥からおれに変えて、身を挺して銃弾から庇ってくれたんだ。その後はカードになっちまってたんだが、遊鳥が治してくれた」
スロワーはロー君と再び会えたことがよほど嬉しいのか、さっきからずっと黄色い花の雨を降らせている。おかげでロー君の帽子に黄色い花が降り積もってきていた。
「スロワーはどうやらロー君の居場所がなんとなくわかるみたいだったから、二人で空を飛んでスワロー島じゅうを探し回ってなんとか見つけたんです。三日三晩かかりました!」
「軽いな……」
コラさんにちょくちょく《非常食》を食べさせながら、睡眠も取らせながら、僕はずっと飲まず食わずでロー君をスロワーと探した。
不安で食事も睡眠もままならなかったのだ。
「とりあえず、無事に会えて良かったぁ〜……」
「ああ、そうだ──遊鳥さん?」
「ぁ…………」
ぷち、と後頭部の傷口が開く音がして、僕は意識を暗転させた。
最後に吐いた吐息は、安堵だったか痛み故のものだったのか、どっちなんだろう。
あっという間に20話までこれました。まさかこんなロー君がメインになると思わなかったし、スロワースワローが重要な位置に来るとも思わなかった。
みんなスロワーをデッキに入れましょう。
まだまだ続きます、これからもよろしくお願いします。