ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず   作:月日は花客

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☆21:ろー×ゆとり

 

 遊鳥旅途という男は、どうしようもなく優しい人間だった。

 

 おれにスロワーを託してくれて、祝福を与えてくれた。それも、ただ俺が街中で泣いていたから、なんて理由らしい。

 そこからおれの面倒を甲斐甲斐しくみてくれて、遊んでくれて。

 しまいには、おれの安否を心配して怪我の中三日三晩不眠不休で捜してくれた。

 

 遊鳥は、今年で33になる。それを聞いた時、遊鳥さん以外の全員が飲み物を噴き出した。なんせ彼の見た目はせいぜい16とか、17とかに見えたからだ。

 本人はよく言われると笑っていたけれど、悪魔の実を無理やり食べさせられてから、まるで時が止まったようにこの姿のままらしい。

 神にされかけたと言う過去を知っている俺からすると、それは永遠に「神」という道具として搾取し続けるための相手の策だったのではと勘繰ってしまう。

 両脚を切り落とし、逃げ場をなくして、片目を抉り抵抗できなくさせる。そうして、自分たちに都合のいいように能力を使わせる奴隷にする気だったんだろう。

 遊鳥さんはその話はベポ達にする予定はないらしかった。聞かれないなら、言わない。そういうことらしい。

 

 遊鳥さんはヴォルフにすぐに気に入られた。遊鳥さんの家事スキルは高くて、ヴォルフやシャチより美味しい料理を作ることができたのだ。

 

「君の離乳食だって作ってたんだから」

 

 そう言われた時、おれは自分が彼に世話されていた時のことを思い出して顔に熱が集まるのを感じた。せめてベポ達の前では言わないでほしかった。

 

 コラさんはヴォルフに一番こき使われている。

 相変わらずドジを踏むが、なんだかんだ街で仕事を見つけて、おれたちと同じように働いていた。

 遊鳥さんは、その間家を掃除したり、ヴォルフの飯を作ったり、実験に付き合ったりと、俺たちが仕事を始めてできなくなった雑事をこなしてくれている。

 ペンギンとベポとシャチはいつも遊鳥さんの作る料理の取り合いをしているし、コラさんはスロワーに煙草を取り上げられている。

 おれとヴォルフはそれを叱ったり笑ったりして、穏やかな日々を過ごしていた。

 

「なぁ、遊鳥さんってローさんとどう言う関係なんですか?」

 

 ふと、七人で夕食をとっていた時、ペンギンが聞いてきた。

 おれは、遊鳥さんが倒れた時からずっと、彼との関係についてはぼんやりと誤魔化していた。なんだか、この関係に自分が名前をつけるには、幼くて忘れてしまったことが多い気がしたのだ。

 だから、おれと遊鳥さんの関係はなんなのか、自分ではわからなくなっていた。

 昔なら、元ベビーシッターと答えていたと思う。でも、なんだかそれは今の関係には合わないと思った。

 

「年の離れた友達だよ」

 

 遊鳥さんは、そう言って笑った。

 その言葉に、なんだか無性に泣きたくなったけど、子分の手前我慢した。スロワーがまた俺に黄色い雨を降らせてくる。

 食事中はやめろと言うにも言えなかった。

 

 スロワーは主人(マスター)の設定をおれに移した。

 別にコラさんのままでも良かったのだけれど、スロワーが拘ったらしい。

 遊鳥さんがスロワーに下した命令は「ロー君に祝福を」だったそうだ。だから、スロワーはおれをマスターにすることを選んだ。

 良いのかと聞いたら、他にもそう言うモンスターが前にもいたらしい。

 あの子は元気にしてるかな、と目を細める遊鳥さんは、その時だけはなんだか年相応に見えた。

 

「8年間一緒に過ごしてたんだけど、僕の都合で離れててね。4年経った今ようやく再会したんだ」

「へー! その4年間は何処にいたんですか?」

「前から思ってたけど、僕に敬語はいらないよ。離れてからは東の海にいたんだ」

「へー! ……待って、ここから東の海まで海路で何日かかる?」

「ふふ、僕は空路だから短いんだよ」

 

 そう言う遊鳥さんを、おれはジトっとした目で見つめた。海路より短い期間で渡れるからと言って、不眠不休で飛んできて良い理由にはならない。

 遊鳥さんもそれに気づいているようで、どこか冷や汗を垂らすように笑っていた。

 

「あの鳥はすごかったもんな。おれぁ泣くかと思ったぜ」

「あの時乗ってきたのは《始祖神鳥シムルグ》っていう鳥です。大きくて、乗り心地よかったでしょう?」

「堪能するより前に速度が怖かったな」

 

 コラさんは顔を青くしてスープを飲み込んだ。今日のメニューはコロッケにコーンスープ、サラダとベーコンだ。コロッケの中にはうずらの卵が入っている、豪華な食事だった。

 

「そういえばさ、『スワロー島の財宝伝説』って知ってるか?」

「なんだそれ? 財宝伝説!? この島に財宝があるのか!」

 

 そう言って、ベポが食いついたのをペンギンはニヤリと笑った。

 ペンギンの話曰く、60年前の海賊が遺した財宝が、この島にあるかもしれない。と言う話だった。

 正直信じにくいとは思った。

 

「噂といえば、おれも『海中を飛ぶツバメ』っていう噂を聞いたなー」

 

 シャチがそう言った時、全員の視線が遊鳥さんに向いた。スロワーにも。

 遊鳥さんは少し焦ったように、「僕の力は悪魔の実だから、海に入ったら消えちゃうよ。スロワーもね」と噂の元であることを否定した。

 

 そのツバメの鳴き声は、おれも聞いたことがある気がして……少し考え込む。

 

「この間、俺が仕事が休みだった時……遊鳥さんも居ただろ? キィィィンって音がしたよな」

「ああ、あれね。なんだったんだろう」

「すげぇ! やっぱり、海中を飛ぶツバメは実在するんだよ!」

 

 ペンギンが嬉しそうに叫んだ。

 

「なーなー、遊鳥さんの力で海中を飛ぶツバメを捕まえらんねぇかな」

「お前なー、能力者は海に出れないんだって前教えただろ」

「僕と、コラさんと、ロー君は海には潜れないね……」

「うーん、じゃあどうやって捕まえよう?」

 

 おれたちが海中を飛ぶツバメや財宝伝説の話に花を咲かせるのを、遊鳥さんは皿を洗いながら微笑ましげに眺めていた。

 前、遊鳥さんが目覚めた時に「友達ができた」という言葉を否定しなかったことを思い出す。あの時は油断していた。動揺していなかったら、「あいつらは友達じゃなくて子分だ」と言ってやったのに。

 でも、そんなことを言ったらさらに目線が生ぬるくなりそうで、やっぱり言わなくてよかったかもしれない、とも思う。

 

 コラさんが「そろそろ寝るぞガキども〜」と布団に足を引っ掛けて転びながら言いにくるまで、おれたちはそんな冒険の話をずっとしていた。

 

 スロワーはそんなおれたちに時々相槌を打ちながら、俺の頭の上で休んでいる。

 ほんのりとした重さが、おれは心底大切に思えた。

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