ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
ヴォルフが事故を起こした。
いくつもの内臓が破裂し、部品が刺さり、出血が酷い。
「ロー君! ヴォルフさんが……ヴォルフさんが……!」
「落ち着け遊鳥さん! おれが……おれがオペをする!!」
正直容態はかなり危険だ。助かるかわからない。おれの手術が成功しても、どうなるかはヴォルフの生命力次第になりそうな惨状だった。
「ロー君、君はオペに集中して欲しいんだけど、そばにいて良いかな。絶対に邪魔にならないから」
「遊鳥さん、アンタは万が一のために病院に……」
「それはコラさんが行ってる! お願い、僕の……
その気迫は、まるで戦場に赴く戦士のようで……おれはその圧に負けて頷いた。
「《ギフトカード》……《恵みの雨》……なんでもいい、なんでもいいからヴォルフさんを回復させなきゃ……!」
そうブツブツ言いながら、遊鳥さんの周りにカードがグルグルと舞う。
そのカード一枚一枚が光るたびに、ヴォルフの傷が治って息が安定していった。どう言う能力だ? 遊鳥さんも誰かを癒すような力を持つ能力者だったのか?
しかしそんな疑問は頭の何処かに放っておいて、俺はひたすらヴォルフのオペに集中した。
たまに、俺自身の体力も回復する感覚があった。遊鳥さんが何かをしたんだろう。
手術は何時間にも及んだ。急に能力を全開で使ったから、頭がとんでもなく痛い。しかし手元は一切ふらつかせず、何本ものメスや針を同時に動かしていた。
遊鳥さんは虚な目でひたすら何かの名前を呟き続けている。その度にヴォルフかおれの体力が回復し、傷が治っていく。
やがて手術が終わる頃には、ヴォルフはまるで無傷のようにベッドに横たわっていた。
「おわっ……た……」
「お疲れ様、ロー君。いまさっき街のお医者さんをコラさんが連れてきてくれたから、ゆっくり休んで」
「う……遊鳥、さんは……」
「僕はまだ大丈夫、ほら、スロワーも心配してる。今は寝なさい」
その穏やかな声色に、オペで疲れ切った俺はすぐに意識を手放した。
*
あれから、ヴォルフの容態を街の医者が見てくれた。完璧なオペだと褒められて、ぶっきらぼうながらに返事をする。
数時間寝たからか、おれの身体は案外楽になっていた。体力がついたわけじゃない、確実に遊鳥さんが何かをしてくれていた。
おれはそのことが聞きたくて、遊鳥さんの部屋に入った時。
手に持っていた二つのティーカップを落とした。
「遊鳥さん!?」
「ぁ……ろー、く……」
「何があった!? くそ、血を吐いてるじゃねぇか!!」
「だい……じょぶ……すこ、し、ねる……」
遊鳥さんが床に倒れ込んでいたのだ。その口からは大量の血を吐き、着ていたパジャマが真っ赤に染まっている。
ヴォルフの容態は安定したと言うのに、今度は遊鳥さんが危険な状態に陥っていた。
スキャンすると、何故か心臓に多大な負荷がかかっていることがわかった。そこから他の内臓も傷ついて、吐血に繋がっている。
なんで、こんな、こんなことになっている?
「遊鳥さん! クソ、ベボ! シャチ! ペンギン! コラさん! オペの準備だ!!」
「ほんとに、だいじょ……うぶ、だから……。かってに、なおる……」
「馬鹿、自然治癒だけに頼ってたら死ぬんだよ!!」
おれはすっ飛んできた子分達に指示を出し、すぐにオペの準備を始めた。
ヴォルフほど酷くはないが、本人の体力が無いのと輸血ができないせいで危険度は同じくらいに高い。
俺はもう一度、今度は手元がブレそうなほどの頭痛に襲われながら遊鳥さんをオペした。
手術自体は短時間で終わったが、遊鳥さんの意識が戻らない。
心拍は安定している。街の医者にも「原因不明」と言わしめたこの現象は、いったい何なのか。
聞きたいことが増えていくのに、その紫が収められている瞳はその夜開かれることがなかった。
*
ヴォルフが元気に飯を食うようになっても、おれがタトゥーを彫っても、オペオペの実の真の力を聞いても、遊鳥さんは起きなかった。
ただこんこんと、ずっと眠り続けている。息も脈拍も安定しているのに、ただ目を覚さない。
ジワジワと不安が募る。何処も悪くなってないから、おれにできることはもう無い。いくらスキャンしても、遊鳥さんの身体は全快しているとわかる。しかし、目を覚さない。
ふと、遊鳥さんが前言っていた数値のことを思い出した。
おれは遊鳥さんが眠っている部屋に行くと、その左腕に装着された機械に目を向ける。
そこには、7999、と表示されていて……数秒後に、8000になった。
「……うん?」
「遊鳥さん!」
その瞬間、遊鳥さんが目を覚ました。
「遊鳥さん! 遊鳥さんが目を覚ましたぞ、お前ら!!」
「えっえっ本当!?」
「遊鳥! 生ぎでてよかったぁ!!」
もうすっかり動けるようになったヴォルフや、ペンギン達、コラさんが遊鳥さんの部屋に押しかけた。
「大丈夫なのか?」
「うん、LPも8000だし全快全快」
「それじゃあ、何で急に倒れたのか教えてくれ」
おれは至極真面目に、遊鳥さんにそう尋ねた。
ヴォルフたちも、どうして突然遊鳥さんが吐血し倒れたのか、原因を知りたいようだった。
ひっそりとした空気が、あたりに満ちる。
「……僕の悪魔の実の能力は、自分で作り出したカードの効果を発動できる、召喚できるというものです」
遊鳥さんは、ベッドサイドのテーブルに四色のカードを並べた。
「これらは40から60枚のセットにして使います。ただし、同じカードは3枚までしか入れちゃいけない。ものによっては1枚しか入れてはいけないものもある」
遊鳥さんは緑のカードを一枚、手に取った。《ギフトカード》と書かれたそれは、ヴォルフの手術の時に遊鳥さんが呟いていたものと一致する。
「これは相手の身体を回復するカードです。僕はこれをヴォルフさんに3枚以上……何枚も何枚も使い続けました。ロー君にも。だから、ペナルティというか……反動が来たんだと思います」
「そのペナルティが、内臓の損傷……」
「あと、僕は怪我をしたりしてもこういったカードで治せますが、あんまり使いすぎると自然にLPが回復するまで寝続けちゃうみたいです。心配をかけてごめんなさい」
遊鳥さんは、しおらしく身体を小さくして謝った。
俺は、オペの時にやけに体力が回復する感覚や、ヴォルフの治癒速度が速くなったことに合点がいった。
遊鳥さんが、その身体を犠牲にして回復し続けてくれたのだ。
「なんで……何でそんなことした! アンタは輸血もできねぇ! 死ぬかもしれなかったんだぞ!?」
思わず、そう叫んでしまった。
突然大声を出したおれに遊鳥さんも皆んなも驚いていたが、遊鳥さんは薄く笑って、血色が戻った顔で唇を動かした。
「そうするべきだと自分が感じたから、そうしたまでだよ。誰も悪くないんだ、僕が自分で選んだことなんだよ」
その言葉に、おれは悲しさよりも怒りが湧いてきた。何でそんな自分を大切にしないんだ。まるで自分はそうあるべきで、他人の「道具」として使われることを望むみたいな表現じゃないか。
「僕は自由だよ。自由だから、今回のことにも踏み切れた。それに、天才のお医者様がいたからね」
泣かないで、と遊鳥さんに言われて、自分が泣いていたことに気づいた。
これは悲しくて泣いてるんじゃない。悔し涙だ。
もっと強くならなくちゃいけない。オペ程度で倒れるくらいじゃ、きっとまたこの人は無茶なカードの使い方をする。
強くなって、知識をつけて、技術を磨いて。
この人が無茶をしなくても、完璧な手術ができるようになろう。
おれは、誰にも言わずにそう決心した。
いつもコメントしてくださる方に「愛しています」と叫びたい日々です。