ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「僕、そろそろまた旅に出ようと思う」
そう言ったのは、みんなで朝ごはんを食べていたとある日だった。
ロー君と再会して一年ほど経った、スワロー島にしては暖かい朝だった。
ぽろり、とコラさんがプチトマトをさらにこぼす。
「もう行くのか」
「はい、元々ここに来た目的はロー君の安否確認ですから。今は病気の心配もなく元気にやっていると判断したので、旅に戻ろうかと」
「えー! ここを出てっちゃうのかよ!」
「なんでー? ここの生活、嫌いになっちゃったの……?」
シャチ君やベポ君がそう言うけど、別にこの生活が嫌ってわけじゃ無い。
「僕は元々、あんまりひと所に留まらない性格なんだ。ここだとあんまりモンスター達も飛ばせてあげられないし、そろそろ潮時かなって」
「なぁに、もう二度と会えないわけじゃ無いだろう! 本人が決めたことじゃ、黙って見送ってやれい」
ヴォルフさんには事前に話しておいたので、すっかり見送ってくれる気のようだ。助かる。コラさんも、寂しさはありつつも納得してくれたようだった。
問題は子供たちだ。
「……本当に行っちまうのかよ」
「もう遊鳥さんのご飯食べられなくなっちゃうの? それは嫌だよー!」
「旅になんて出るなよ、もうちょっとここで過ごしていこうぜ!」
「…………」
少年たちが口々に名残惜しい言葉を叫ぶ中、ロー君はただ黙っていた。
スロワーはロー君の頭の上、黄色い花を咥えている。
「ごめんね、この生活が悪いわけじゃ無いんだけど、これは僕の気質なんだ」
「我儘を言ってないで、ほれ、見送る準備をせい」
「えっこの後すぐ行っちまうのかよ!?」
「雪が降ってないスワロー島は珍しいし、この天気もいつ崩れるかわからないからね」
「うう……ぜ、絶対また会いに来てくれよな! 俺たちもいつか海に出るんだ!」
「うん、絶対会えるよ」
ベポ君が泣きながら僕の手を握った。ふわふわしている毛皮の感触が、暖かく僕の手に伝わってくる。
ペンギン君とシャチ君も、僕に固く握手をする。剣ダコができた二人の手は、努力を重ねた戦士の手になりかけていた。
「……ちょっと、話がある」
ロー君が、他のメンバーからは少し離れた場所に僕を呼んだ。
周りも空気を読んでか、追いかけてはこない。僕とロー君は二人で向き合った。
「……あんたは無茶ばかりする」
「ごめんね」
「でもおれの恩人だ、スロワーもこれからは絶対に破壊なんてさせない」
「うん、頼んだよ」
「だから……絶対に、あんたも死ぬな。おれを置いていくな」
「……わかった。約束する」
その言葉に、僕はゆっくりと頷いた。
ロー君はきっとこれからどんどん大きくなっていく。もう身長は僕を超えているし、声だって低くなってきた。
もう、あの頃の弱いロー君じゃないんだ。
今度は僕が心配される側になってしまった。
「また会おうね、みんな。スロワーをよろしくね」
「ゔん゙! 絶対だからな! 絶対だからなー!」
「またコロッケ作ってよねー!」
「スロワーの世話は任せろ!」
「いやアンタが世話される側だろ!?」
「じゃあな、遊鳥さん」
僕は《霧の谷の巨神鳥》を召喚し、朝日を浴びながら飛び立った。
ロー君たちが米粒みたいに小さくなって、もうその手が振られているのかわからなくなるまで、声は聞こえていた。
*
「かと言って、次はどこにいくと言う当てがあるわけでもなく……」
僕はスワロー島を出発し、朝霧の深い上空を飛んでいた。
毎回僕は行き先を決めない。それはこの世界の地理が全然わかんないからである。なんだかグランドラインはすごい特殊な海域であること、カームベルトには怖い魚?がいっぱい潜んでいること、聖地マリージョアというところには行かない方がいいことを教えられたが、それ以外の地理はさっぱりだ。
どうしようかな、と巨神鳥の背中に寝転んだとき……。
「おーい! 遊鳥ー!」
ふと、懐かしい声がした。マルコさんの声だ!
「っマルコさん!? 白ひげ海賊団の皆さん!」
少し高度を下げると、大きな白鯨を模した船が目に入る。紛れもなく白ひげ海賊団の船だ。
僕は迷うことなくそこに降り立った。
「お久しぶりです!」
「本当に久しぶりだよい……元気にしてたか?」
「はい! スゥも久しぶり、調子はどう?」
「──!」
スゥ……《雛神鳥シムルグ》も元気そうだ。かわいくリボンなんかで飾り立てられて、可愛がられているのが一目でわかる。
「遊鳥はなんでまたこんなグランドラインの端に?」
「この前まで北の海にいたんですけど、特に当てもなく放浪してた感じです。マルコさんたちは?」
「うちはナワバリの島を巡ってた感じだよい」
あれから10年以上経っているからか、船員も一部様変わりしている。新人も入ってきて、より大規模に、賑やかな海賊団になってきているようだ。
「ま、マルコさん、彼は……?」
「ああ、うちのスゥの元飼い主だよい。遊鳥が来たことを親父に伝えてきてくれ」
「はい!」
下っ端っぽい人が白ひげさんの元へ駆けていく。
「普通に挨拶に行きますよ」
「ああ、案内するよい」
船が大きくなって、見通しはいいものの辺りには貨物や武器がたくさん積んである。それをマルコさんはするする通り抜け、僕を白ひげさんのところまで導いてくれた。
相変わらずの巨体で、大きな白ひげを蓄えた顔はいかつい。あと、やっぱりほんのりピリピリとした圧を感じる。
「グラララララ……久しぶりだな、遊鳥」
「お久しぶりです。白ひげ海賊団も、とっても賑やかになっているようで」
「まぁな、スゥも一員としてよくやってくれている。下手な船員より古株だ」
「大事にされているようでありがたいです」
久しぶりの再会からか、スゥは僕の足元で珍しく甘えている。最初の頃はマルコさんにべったりだったのに。
「スゥ自身も白ひげ海賊団のお役に立てて嬉しいそうですよ」
「グラララララ、うちの姫は働きモンで助かる」
「親父、今夜は宴にするかよい?」
「ああ、久しぶりの客人だ。ああ、ノンアルコールもちゃんと用意しろよ」
その言葉に、昔やらかしたあの事件を思い出して顔に熱がたまるのを感じた。あの時は迂闊だった。
「そういえば……ロジャーさんは亡くなってしまわれましたね」
「まぁ、あの終わり方は本人が納得してるだろうよ。ロジャーのとこにいた奴らは独立したり自由にやっているようだしな」
「新聞を見て驚いたものです。もうだいぶ昔になりますが」
ロジャーさんが処刑されると新聞で見た時は、悲しさもあったが海賊として生きることの厳しさも感じた。
彼の一言が時代を変えたのは、彼自身のカリスマだろう。
「ま、赤髪のハナッタレやバギーのやつも好きにやってるようだし、どこかで会うかもな」
「ああ、彼らにも会いたいですね! 一体どれだけ大きくなっているんだか」
「ロジャーが死ぬ前に会ったが、その時点でお前の身長は軽く越してたぞ」
「うぐぅ……」
別に僕の身長が特別低いってわけじゃ無い……ないはずなんだ……。この世界の身長がおかしいだけなんだ……。
ブツブツと負け惜しみを言いつつ、懐かしい船の上で僕は宴の準備に加わることにした。
スゥはいつの間にかマルコさんの元へ駆けていってしまった。せめてもう少し甘えて欲しかったよ。