ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「こんにちは! 戦闘中に失礼します!」
「何者……の前に、君は味方かい?」
「あの海賊を捕まえようって言うことなら……味方です!」
ハーピィやシムルグ、いぐるんが海賊の船を翻弄している。さっきまで海軍との戦いに集中できていたけれど、突然の強襲に、しかも未知の鳥達に襲われててんやわんやだ。人質は護神鳥シムルグがまとめて海軍の船に保護してきた。
ダークネス・シムルグに乗ったまま、僕は声をかけてきた男の人にそう答える。
船上では依然、ハーピィ・チャネラーとふわんだりぃず×いぐるんが撹乱してくれている。
「人質らしき人たちはこれで全員ですかね?」
「船内にまだいるかもしれないが……少なくとも、これで甲板には弾を打ち込みやすくなったな」
「よーし! じゃあこのまま僕は撹乱を続けますので、捕縛はよろしくお願いします!」
「その前に、アンタ何者だ?」
「ただの旅人です。一般人が巻き込まれているのが許せないだけの!」
さぁいくぞー!
「《ハーピィ・チャネラー》と《護神鳥シムルグ》でリンク召喚! 現れろリンク2、《ハーピィ・コンダクター》!」
ボンテージを着た長身のハーピィが現れる。まるでオーケストラの指揮者のようにコンダクターは腕を振るう。その度に風が巻き起こり、海賊たちの動きを乱した。
「お前たち! 今が好機だ! 一気に攻め入れ!!」
モサモサ頭の人が多分一番偉いんだろう。その言葉を合図に、海軍の軍艦は海賊船の間近に進み、海軍たちは船に乗り込んで海賊たちを倒し始めた。
モサモサ頭の人も、身体から氷を出して戦っている。能力者なんだろうな。
「クザン中将! 確保完了、人質にされていた民間人も完璧に保護が完了しました!」
「はい、了解。その他は各自で積荷の確認や民間人の身元確認を頼むよ〜。おれはこの子と話をするからさ」
完璧に海賊を叩きのめした海軍たちは、負傷兵の治療や船の修繕なんかの作業に戻って行った。
僕は《ダークネス・シムルグ》から降り、軍艦の甲板に立っている。
随分と背の高いモサモサ頭の人は、クザン中将と呼ばれていた。
「それで……旅人なんだって? まずは名前を聞こうじゃないの」
「遊鳥旅途といいます」
「なんだってこんな戦いに突っ込んできたわけぇ? アンタが危険に晒されるかもしれなかったのに」
「一般人の人が巻き込まれているのに我慢できなくて……お邪魔でしたらすいませんでした!」
そう言って腰を九十度に曲げる。
あれでもし作戦か何かがあって、僕のせいでそれが崩れてしまったのなら申し訳ない。
クザンさんは冷えたため息を吐いたが、それは彼が氷を操る能力者だからと察した。
「助かった、と言うのは事実よ。なんせ人質をこれ見よがしに甲板に縛り付けてたからね。鳥が人質を連れてきてからは自由に動けたし」
「なら良かったです! それではお邪魔しましたー!」
「ちょちょちょ、待って! せめてお礼くらいはさせなさいよ!」
「僕の自己満足なので、大丈夫ですー! お仕事頑張ってくださいねー!」
そう言って、僕は足早に海軍軍艦を後に飛び立った。まだグランドラインは出ていない。東の海に早く行きたかったのもあるし、これ以上話してたら僕が白ひげ海賊団なんかと繋がりがあるとボロを出してしまいそうだったからだ。
それに海軍の人と話すこともあんまりないしね、組織だった人たちだから宴とかもしないし。
海軍って、いわゆる警察とか公務員的な感じなんでしょ? たぶん。
なら無理に居座ってお邪魔するわけにもいかないよね。
さーて、引き続き東の海を目指していこうじゃないか。
*
クザンはまた冷えたため息を吐いた。
さっきの旅人のことについてだ。
あの鳥……女性らしき者もいたが……を操る姿は、まるで手練の軍師のようだった。
自身は安全な空中で指揮をとり、鳥たちはその体躯と素早さで撹乱する……遊撃班としては100点の動きだった。
「せっかくなら、海軍に勧誘しようと思ったのにねぇ……」
さっさと逃げられてしまった。
もしや脛に傷でも持っているのかと思ったが、あの空気感や雰囲気は善人その者で、むしろ善良な民間人に近い。
本人に警戒心が薄いと言うか、なんというか……ポヤポヤしている。
その分をあの鳥たちが警戒して補っているようだ。
「未知の悪魔の実の能力者が、善良な旅人……か」
悪魔の実を手にした人は二極化しやすい。
海賊として自分の力を誇示し、悪逆を働くか。
海軍として己の正義に従事するか。
それらのどちらにもつかず、ただ自由に旅をする……それはクザン自身少し憧れがある過ごし方だった。しかし今の自分は「ダラけきった正義」を掲げる海軍の人間である。
「あんな未来もあったのかねぇ」
ヒエヒエの実の能力は強力だ。自然系なだけあり物理攻撃は効かず、覇気による一撃がないとパンチの一発すら与えられない。
だからこそこの海軍で中将まで上り詰め、叩き上げとしてその力を振るっているのだが……。
もし、海軍に入らなかったら。
自転車を漕ぎながら、誰か友人と一緒に海を渡るなんて事をしていたのかもしれない。
まぁサボる時にちょくちょく自転車は漕いでいるのだが。
「でもなぁ……欲しいよなぁ、ああいう人材は」
撹乱、攻撃、保護と海軍に必要な要素を大半持ち、かつ一人で何体も鳥を召喚できるなら数も補える。
鳥自体もかなり洗練された動きをしていたし、なにより警戒心の足りない主人に変わって守りを固める忠誠心もある。
海軍に入れば、みるみるうちに育ちそうな人材だ。
クザンはセンゴクやガープほど後進育成に興味は無かったが、ああいう素直な手合いなら鍛えてやってもいいかもしれない。
悪魔の実を食べる連中は一癖も二癖もある人間だ。なにより上下関係を嫌ったり、変に捻くれている奴も多い。クザンも自分はそれに当てはまると自覚していた。
だから、ああいう素直な後輩ができたらかわいいだろうなぁ……とありもしない去ってしまった旅人について考える。
「一瞬の出会いだったのに、こんなに記憶に残る部分は他の能力者といっしょだな」
あのまま逃げられていなかったら確実に海軍に勧誘して入隊の判を押させていただろう。たぶんセンゴクやボルサリーノも好きなタイプだ。
見たところ16歳程度だろうか? 海軍に入隊するには丁度いい年齢だ。センゴクなんかは息子か孫のように可愛がるんじゃなかろうか。
「惜しい事したなぁ〜まぁテキトーに報告だけしておきますか」
クザンは海賊船を氷で砕き沈めながら、旅人が飛び立って行った大空を眺めていた。