ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「……っと、ここにシャンクスくんの気配がするの? シムルグ」
降り立ったのは風車が何台も設置された和やそうな村だ。こんなのどかの語源みたいな村にシャンクスくんがいるのだろうか。
「……確かにド派手な船があるね」
ジョリーロジャーが掲げられたそれはまさしく海賊船。たぶんおそらくきっとこれがシャンクスくんの海賊船だ。
なんだか確信がある。
「それにしても、どうしてこんな村に……? まぁ事情はいいか」
シャンクスくんのことだし、ここで略奪を行うみたいなこともしてないだろう。
僕はこざっぱりとした村の中を歩く。
そこで、一際賑やかな酒場があった。まるで宴でもしているかのような騒がしさだ。
「ルフィー、まだ海賊になるなんて言ってんのかよ、いい加減諦めろって!」
「そーそー、海賊は良いもんだが、過酷なとこは過酷なんだぜ!? おめーはこの村で大人しく泳ぐ練習でもしてな!」
どこか聞き覚えのある声だ。低くなっているし、言葉遣いも変わっているけど、あの時の名残が感じられる声。
シャンクスくんはこの酒場にいるんだ。
「こんにちは〜」
「あらいらっしゃい! 初めて見る顔ね」
突然の若いお姉さんにドキッと(恐怖的な意味で)なりつつ、僕は至って平静を装って辺りを見回した。
海賊らしい格好の人たちが銘々酒を飲んだり肉を食っている。
その中に、一際目立つ赤があった。
「シャンクスくーん!!」
「うわっ!? 遊鳥ぃ!?!?」
声をかければ、あちらも心底驚いた、という顔で持っていた酒瓶を落とした。
他のメンバー……船員だろう人たちは、なんだ何だとざわついている。
「シャンクスくん、大きくなったねぇ! 久しぶり、僕のこと覚えててくれたんだ!」
「そりゃ、あんな宴忘れらんねーって! お前、どっこも変わってないのな!」
背丈も。と小さく呟かれたのを僕は聞き逃さなかったが、何も言わないことにしてあげた。
「お頭ー、その子どもは誰だよ? 知り合いかぁ? おれたちも知らねーぞ!」
「そりゃあ知らなくて当然だ! こいつは旅人だからな。あと、おれより年上だ!」
「えええええええ〜!?!?」
年上、という言葉に目玉がとびでるほど驚くメンバー。いやまぁ、そろそろこのリアクションも天丼になってきたな。
「はじめまして、遊鳥旅途です。流れの旅人をしています。シャンクスくんとは小さい時に遊んだ仲です。あと僕は41歳ですよ」
「最後のが信じられねぇな」
「なー」
「ふふ、とりあえず……あ、あの、ジュースを一杯貰えますか?」
「あら、お酒じゃなくていいの?」
「医者に止められてるので」
マルコさんの教えはちゃんと守っています。お医者さんの意見は聞くべきだし、僕の場合能力が能力だから洒落にならない事故を引き起こす場合がある。うっかりあの
僕は恐々お姉さんにジュースを受け取る。女の人、こわい。
「シャンクスくんは本当に大きく立派になったねぇ。見習いだった頃が嘘みたい!」
「おいおい、その話を今されると……」
「なにー!? お頭のちっさい頃の話!? めっちゃ聞きたいぜ!!」
「ほら! 弄りたい奴らが飛んでくるだろー!」
とは言っても、本当に立派になって……もうシムルグに乗ってキャーキャーと笑っていたあの頃とは違うのかしら。
でもなんだかんだ今でも楽しんでくれそうだな。うん、純な所はまだまだ持ってそう。
「なー、兄ちゃんは海賊なのか?」
「ん? 君は……」
「おれはルフィ! いつか海賊になる男だ!」
「自己紹介ありがとう。僕は遊鳥旅途、旅人であって海賊じゃないよ」
そう、僕は海賊では無い。まぁ白ひげ海賊団と宴したり、海軍の人に加勢したりするただの一般人。
そう言えば、ルフィくんは僕から興味を失ったようだ。海賊にこだわりがあるらしい。
「お前なー、遊鳥はすげーんだぞ? なんたって、おれの船より高く飛べるんだぜ」
「え! そんなジャンプができるのか!?」
「いやいやいや、シャンクスくん、話を曲げて伝えない。『鳥で』飛べるんだからね」
「鳥でとぶ? 兄ちゃんは鳥に乗れるのか?」
「うん、お兄さんは鳥に乗ってここまで来たんだよ」
するとルフィくんは、キョロキョロと辺りを見回した。
少年の純粋な行動は見てて楽しい。そしてやっぱり僕は子どもと縁があるみたいだ。
「鳥なんていねぇよ?」
「そりゃ、この酒場より大きな鳥をここに入れるわけには行かないでしょう」
そう言って、僕は手の中にこっそりと《ふわんだりぃず×ろびーな》を召喚する。
そして、ルフィくんの目の前に手を差し出した。
「今出せるのはこの子くらいだよ」
「ちっちぇー鳥だ! いつのまに!?」
おそらく悪魔の実という存在を知らないのだろう。手品か何かを見たように目を輝かせるルフィくんを、僕はにこやかに見つめる。
いつだって子どもの笑顔は尊い。
「今度大きな鳥に乗せてあげようか。高いところが怖くないならシャンクスくんの船が見下ろせるくらい高いところまでいけるよ」
「すげぇ! すげぇ! おれも乗ってみたい!」
「ふふ、見てよシャンクスくん、昔の君そっくり」
「言うなって! 船長のしめしがつかない!」
「いつだっておれたちの船長はかっこ悪いから大丈夫だ」
「おい!?」
そういえば、シャンクスくんがどうして東の海にいるのか聞いてなかった。ルフィくんの相手をろびーなに任せ、僕は改めてシャンクスくんの隣に座る。あーもう、どうしてこの世界は椅子の高さが全体的に高いのかな。
「白ひげのところでホンゴウに会わなかったか?」
「え? ああ、会いましたよ。ちょうど数日前に」
「あいつを待ってるのさ。今はちょっと医療についてマルコと話し合いたいことがあるらしくてな……あっちの船にうちの船員が何人か乗ってんだ」
「へぇ、ついでにのんびり休暇?」
「まぁそんなもんさ、ルフィの遊び相手をしてやってる」
ルフィくんは今、ろびーなを捕まえようとして腕を伸ばしては、避けられて遊ばれている。
微笑ましい光景に店員のお姉さんもニコニコと笑っていた。
「遊鳥のその変わらなさは……悪魔の実の力か」
「たぶんね。おかげでいまだに10代に間違われるよ」
「あっはっは!! そりゃ笑えるな!」
大笑いされた。僕にとってはなかなかに屈辱というか、年相応に見られたい気持ちもあるんですけど?
身体が変わらないからか精神にもあんまり成熟が感じられないし、もっとシルバーでロマンスグレーなおじさまを目指したかったのに。
「まぁなんだ、つまりお頭の古い友人ってことなんだろ? じゃあ飲もうぜ!!」
「お酒はこわいお医者さんに止められてるので、ジュースで失礼しますよ」
この世界のお酒は全体的に度数が高いし、みんなお酒に強いので僕なんて簡単に吐くほど酔ってしまう。そして僕は酔った時記憶が残らないタイプ。やっちまったらいかなシャンクスくんと言えども土下座待ったなし。
僕はほどほどにジュースを飲みながら、たまに《ふわんだりぃず×すのーる》を出したりして宴を楽しませた。
ほら、シャンクスくんは村で平穏に過ごしてる!