ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
シャンクスくんとルフィくんたちが山賊に絡まれた。
それはホンゴウさんたちが村に合流してきてしばらく経ったある日のことだった。
僕はここで宿の代わりに畑仕事なんかを手伝ったりしていたから、その時はその場にいなかったのだけれど……どうやらかなり厄介な絡まれ方をしたらしい。
ルフィくんはシャンクスくんが反撃しなかったことを怒っていたけれど、下手に刺激するよりは大人の対応だったんじゃないかな。
でも、まだこれはルフィくんには早い感覚かもしれない。
「随分男前なことしたみたいだね?」
「ま、ああいう手合いはどこにでもいるからな、いちいちキレてたらそっちのが疲れる」
「バギーくんとよく喧嘩してた君がねぇ……ふふ」
「昔の話を出すのはやめてくれよ……。というか、問題はルフィがゴムゴムの実を食べちまったことだ」
そう、ルフィくんがお宝として獲得していたゴムゴムの実を誤って食べてしまったらしい。それで彼がゴム人間になってしまったのだ。
「まぁこの際お宝を一つ失ったことはいいけどよ、あれでまだ海に出たいっていうんだ。まったく懲りないやつだぜ」
「君に似たんじゃないかなぁ」
「お前なぁ……いい加減ちっさい頃のおれを頭からけしてくんないか」
「無理だなぁ〜あんなにかわいかったんだもの」
なんだかんだ今も変わりなく面白おかしく過ごしてるみたいだし……。
僕は航海に置いていかれるルフィ君がすこし可哀想になってきた。あんなに焦がれているのだ、海の青色はそんなにも人を冒険に駆り立てるのだろうか。
「先にフーシャ村に帰ってるね。ルフィ君がそろそろ拗ねてそうだ」
「おー、俺たちはもう少し航海を続けるよ」
僕は《護神鳥シムルグ》に乗って少し離れたフーシャ村を目指した。
ルフィ君は高いところから落ちても平気になったからか、鳥たちと大空を飛ぶことがとても楽しいらしい。雲の上に行くのだって平気だ! と大きく笑っていた。
「ルフィくん、まだシャンクスくんのこと許してないの?」
「無理だね、げんめつした。男にはやらないといけないときがあるのに」
フーシャ村に帰ると、ルフィくんはいつものマキノさんのお店でジュースを飲んでいた。
「そっかぁ、そうだよねぇ。彼も君みたいにおっきな海賊に憧れてた時もあったんだ。きっとルフィくんもいつか大物海賊になれるよ」
「いつかじゃだめなんだ。おれは今海に出たいのに!」
うーん、拗ねた子どもの相手は難しい。こればっかりはいつも慣れない。
僕もマキノさんに(流石にお水をもらうくらいは慣れてきた)グラスを貰いつつ、ルフィくんと僕以外客がいない酒場で困ったように笑う。
まだシャンクスたちは航海から帰ってきていないようだ。
そんな時。
「邪魔するぜぇ」
やけに低くしゃがれた声が、客の少ない酒場に響いた。
マキノさんの身体が強張る。ああ、この人たちが前言ってた山賊か。と直感する。
「俺たちぁ客だぜ! 酒だ!!」
そう不躾に言う山賊。
僕は冷めた目でその人達をチラリと見て、カウンターに視線を戻した。関わらないほうがいい。
マキノさんには悪いけど、今ここで僕がつっかかったら村自体が危ない。
しかし、ルフィくんはそういう
「シャンクス達をバカにするなよ!!」
そう叫ぶルフィくんに、思わず状況を考えず痛快だと思ってしまう。彼の言うことは正しかった。僕だって、シャンクスくんたちが馬鹿にされているのを黙って聞いているのは辛かった。
それでも、この言葉は悪手だ。
「ルフィくん、落ち着いて」
「無理だ! アイツらシャンクスたちを馬鹿にしやがった! 許せねぇ!」
その言葉に同意はするけども、このままだとルフィくんは山賊たちに暴力を振るわれるだろう。なんなら、殺されてしまうかもしれない。
「《ふわんだりぃず×とっかん》! ルフィくんを連れて逃げて!!」
「!?」
とっかんが素早く召喚され、ルフィ君を表に連れて行く。
僕は酒場に残ったままだ。一緒に逃げたら、わざわざルフィくんを外に逃した意味がない。
「どういうつもりだ? お前……」
「……子どもの言うことです。水に流すってことはできませんか」
「無理だな。あいつぁおれたちに逆らった。耳障りだったぜ」
「それはあなた方の失礼な物言いのせいでしょう? 自分が言ったことも忘れたんですか?」
「お前……!!」
わざと煽るような口調で、ルフィくんを相手の意識外に出す。
こちらに引き金が向くように、こちらに刃が向くように。
「表に出ろ。……あのガキと一緒に、ちょっと遊んでやる」
「…………」
僕だって、何も無策に突っ込んだわけじゃない。少なくともここで痛めつけられる予定ではない。
まずはルフィくんを山賊の手が届かないところまで逃すこと。そしてなんとか村に被害がない形で場を納めること。
これが目標だ。
この村の人はいい人ばっかりだ。数ヶ月過ごしてそれなりに親睦を深めてきたと思っている。
でも、僕はあくまでも旅人。ここの人間じゃない。
旅人と山賊……部外者同士の戦いに終わらせて、このイザコザをなんとかする。
それが僕が咄嗟に弾き出した答えだ。
「僕一人にこんな大勢ですか。山賊って卑怯なんですね」
「いくらでも言ってろ。おい、やれ」
山賊のカシラが部下に指示を出す。殴りかかってくる腕が見えたので、デュエルディスクを盾に防御する。
甲高い金属音が響いた。
「いってぇ!!」
「《ふわんだりぃず×とっかん》! 《ふわんだりぃず×すとりー》! 頼んだ!」
召喚した二体の鳥を、向かわす。
とっかんはピストル持ちを、すとりーはサーベル持ちをそれぞれ相手取る。
僕はさらに《ダークネス・シムルグ》を召喚しようとして──
「がぁっ!?」
「へへ、油断したなぁ!!」
クソ、すとりーととっかんで押し切れなかった! 頭に響いた衝撃に、思わず肺から息が漏れ出る。
カードは取り落とさなかったが、デュエルディスクに収めることもできない。なにより、意識が一瞬ブレた。
ああでも、すとりーが奪ってきた剣を使えば、今すぐここで、こいつを、殺せ────
その瞬間、ゾッと血の気が引いた。
「なんだぁ、この鳥たち、おれたちを必要以上に攻撃してこねぇぞ!!」
「殺す気がねぇんだ!! 存分に使い手をやっちまえ!」
「舐めやがって!!」
僕が、人を殺す? 人殺しになる?
この世界でも人殺しは罪だ。その前に平和な日本で育った倫理観が、これからの抵抗を邪魔する。
とっかんの嘴も、すとりーの脚も、やろうと思えば人を簡単に殺せてしまう。今だってそうだ、僕が指示を出せば、ここのあたり一面に血の海が……
「がはっ、ぁ、ぐぅ!!」
「殺す勇気もないただのヘタレだ! 適当に嬲って……いや、せっかく珍しい鳥を操れるんだ。調教して見せ物小屋に売るってのもいいな」
「っあぁ!!」
ゴキ、と足の骨が折れた音がした。激痛も走る。
でも、ルフィくんのことは完全に意識から飛んでいるようだった。
なら良い、なら良いんだ。
まだ命は落としていない。骨が折れたくらいならカードでいくらでも治せる。
僕はなんとかカードを持とうとするも、その度に腹や背中を蹴られて防がれた。
しまいにはすとりーから取り戻したのか刃物も出てくる。
鋭い痛みと鈍い痛みに同時に襲われながら、僕はただ、シャンクスくんが気づいてくれないか、とか細く思っていた。
「お願いだ! 金なら渡す! その人を離してくれ!」
ああ、村長さん。土下座なんてしないで。
それじゃ山賊の、思う、つ、ぼ……。
「ルフィがやけに騒ぐんで、何事かと思えば……」
その低い声に、僕はそっと涙と砂で歪んだ視界をもたげた。