ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「いつかの山賊じゃないか」
シャンクスくんの平常心な声が頭に響く。打撲と切り傷で頭に血がいってないのか、どこか思考がぼんやりとしている。
地面に伏せたまま、僕は黙って痛みに耐えていた。
「遊鳥……お前のおかげでルフィが傷付かずに済んだ」
「ぁ……えへ……」
「喋るな、傷に障るぞ」
ホンゴウさんが気を遣ってくれる。
そんなことお構いなしに、山賊は僕のことを踏みつけた。また掠れた吐息が漏れる。これは……肋骨もイッてるかな。
「頭吹き飛ばすぞ、ハハハハ!」
「……銃を抜いたからには、命を賭けろよ」
まだシャンクスの声はいつもの愉快な声のままだった。だけれど、どこか奥底に、確かな怒りを感じる。山賊たちは気づいていないのか? 彼は、確かに今、怒っている。
「そいつは脅しの道具じゃねぇって言ったんだ」
銃声が響いた。
ラッキー・ルゥさんが人を撃ったんだ。頭ど真ん中、確実に死んだ。
それを山賊たちは卑怯だと、動揺して叫んでいる。僕としては、どの口がと思うのだけれど。
「お前らは優しい男の提案を蹴ったらしいじゃねぇか。おれたちはそんな優しくないぜ」
目の前にいるのは、海賊だ。
そう言うシャンクスの瞳は見えなかったけど、確かに怒りに燃えていたと思う。
なんせ声が、気配が、向けられていない僕にすらヒリヒリと届くくらい怒気を帯びていたから。
「いいか山賊……おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、つばを吐きかけられようがたいていの事は笑って見過ごしてやる」
だがな! と黒いマントが翻った。
「どんな理由があろうと! おれは友達を傷つける奴は許さない!!」
「はは……」
僕はどっちかって言うと、君たちの保護者だってレイリーさんから言われてたけどね……。なんて、笑うことすらもう痛くて敵わない。
怒りのままに襲いかかってきた山賊を、ベックマンさんが一人で無双して行く。
あっという間に瀕死の山の出来上がりだ。
僕はと言うと、今だに山賊のカシラに腹を踏まれていた。
「っ……チッ!!」
「っうわっなんだぁ!? はなせコノヤロー!」
「しまった! 煙幕だ!!」
辺りが煙に包まれる。
ルフィくんが、今まで光景を見ているばかりだったルフィくんが連れ去られる
だから僕は…………
「《霧の、谷の……風使い……》」
霧の中を生きる風使いに、この程度の煙幕なんてそよ風のようだろう。
山賊には逃げられてしまったが、ルフィくんは奪取できた。
最後の最後に召喚できてよかった……。
「ゔっゔっ、遊鳥ぃ〜!!」
「だい、じょ……オェェ……」
「動くな、下手に起き上がると骨がズレる」
ルフィくんが泣きながら風使いから身を離し、僕に縋りつこうとする。が、ホンゴウさんに止められた。
僕は慎重に担架で運ばれて、治療を受けることになる。大量の切り傷も打撲跡も、折れた骨すらも、名誉の傷だと思った。ルフィくんは無傷だ。
「全く……どんな無茶だ! 人を殺す覚悟がない奴が下手に武器を持った奴を請け負うな!」
「ごめんなさい……」
腕に包帯を巻かれながら、僕はホンゴウさんに懇々と怒られていた。なんだかロー君にも同じことされたような……?
なんならコウシロウさんにも……? あれ、僕そんな過酷な旅してたっけ……。
「……だが、ルフィをいち早く逃した事は誉だ。判断はすこしズレていたが、身を挺してよく守ってくれた」
村長さんがそう言う。
最後の最後でルフィくんが連れ去られていたら、全てが台無しになっていた。だから、ここぞと言うところで腕が動いてよかったと思う。ホンゴウさん曰くヒビ入ってるらしいけど。
「お前が優しいってのはよーくわかった! でもな、こういう荒事はある程度覚悟を持って、堕ちる判断をした奴がやるもんだ。お前はルフィと一緒に逃げるべきだったんだよ」
「でも、それだと逃げ切れるかはわからなかったし、他の村の人に被害がいくかもしれなかった。旅人である僕が始末をつけるのが丁度いいと思ったんです」
そう言うと、ホンゴウさんはため息をつき、村長さんは頭を抱えた。
「私たちはお前さんを部外者とは思っていない。もう立派な、この村の一員だと思っておる。お前さんが傷つくと、わしらも痛いのだ」
「…………」
「おれたちだって、同じ宴を共にした仲じゃねぇか。もう立派な、友達だと思ってるんだぜ」
その言葉に、ほろほろと涙が溢れる。申し訳ないことをしてしまった。僕の覚悟が足りなかったから、この人たちを傷つけてしまった。
でもやっぱり、僕には人を殺せない。そんな勇気、いらない。
平穏で、平和で、平静な旅をしていたい。たまに賑やかな宴をして、そしてまた静かな旅に戻る。
そんな生活をずっと続けていたい。
「ルフィくんが無事でよかった……」
「あいつもな、泣いてたぞ。おれが我慢できなかったからって、強くなかったからって」
「…………」
ルフィくんは何も悪くないのだ。あんな純粋な子を、あんなにも怒らせた山賊が悪い。
今、シャンクスたちは一人逃げた山賊のカシラを追ってくれている。おそらく、命は無い。
ホンゴウさんのみ、僕の治療のためここに残ってくれたのだ。
「胸が痛い……」
「肋骨も折れてっからな。こればっかりは湿布貼るしかできる事はない」
「頭も痛い……」
「貧血だ。お前血液型は?」
「O型です……」
「は?」
一部ロー君と同じやりとりをして、神にされかけたことも話すと、ホンゴウさんはさらに深いため息をついた。
「お前はなんと言うか……なんと言うかもう……馬鹿だな」
「すごい簡単な罵倒が出てきた」
「馬鹿だ、お前はお頭よりも馬鹿だな。うん、馬鹿だ」
「馬鹿馬鹿って……」
「そうだな、馬鹿だな」
「村長さん!? ゔっ」
叫んだら肋が痛い。はー、あとで《ふわんだりぃずの旅じたく》とかで回復しておこう……LPは5200か、これは暫く眠りそうだ。
「すいません、僕はこれから暫く昏睡状態になると思います」
「はぁ?」
「怪我を負いすぎました。たぶん一ヶ月……半くらいは寝てると思いますが、この数値が回復するまでの期間なので心配しないでください」
「いやするわ! 悪魔の実のデメリットか」
「はい」
今回はカードの使いすぎってわけじゃないが、普通にダメージがでかい。起きたまま完治を待つより、眠った方が早く回復するだろう。どうやら眠っている時の方がLP回復スピードが早いらしいのだ。
100LP減ったとしたら、二日で治る傷が6時間睡眠で治るみたいな感じ。
「それじゃあ僕は寝るので……ルフィくんとシャンクスくんにはお礼を言っておいてください……」
「え、ちょ、せめてお頭が帰ってきてから」
「おやすみなさい……」
そうさて、僕は夢の世界へ旅立った。
ネムレリアではない、本当の夢の中だ。
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