ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「やめておくれ! やめておくれ! それは大事な商品で……!」
「ンなこと関係ねぇ! さっさと食糧全部と金をよこせって言ってんだよ!!」
パン屋の前で、どうやら強盗騒ぎが起こっているようだった。
腰にサーベルを下げた物騒な男が、おばさんを脅している。
棚に並べられたパンはいくつかが可哀想に潰れて砂に塗れていた。
「オレは泣く子も黙るカーゾ海賊団の船長だ! 懸賞金2000万ベリーだぞ!」
「ああ……ああ……」
銃を向けられ、泣きながらお金を袋に詰めていくおばさんの姿に、僕の何かが切れた。
「すのーる、思いっきりやって良い。あの海賊にダイレクトアタック!」
すのーると三鳥を喚びだし、僕はあの賊を指差す。
すのーるたちはコクリと頷くと、その翼と鋭い爪を持った脚に力をこめて弾丸のように飛んでいった。
すのーるは、シロフクロウがモデルになっている。つまり、猛禽類だ。
かわいい見た目をしていても、その攻撃力は2900。3000には届かないものの、かなりのものだ。というか3000あったらちょっと壊れてたと思う。
そんなすのーるの凶悪な爪が、不意打ちとして海賊に襲いかかる。
バリ、ともゴリ、とも聞こえるエグい音があいつの肩から聞こえた。
「ぎゃああああ! な、なんだぁこの鳥は!?」
「更に《ふわんだりぃず×いぐるん》! 行ってこい!」
同じ猛禽類繋がりで鷹であるいぐるんを召喚する。
攻撃力は800しかないけど、人間相手にどれくらいの攻撃力が効くのか実験的な意味もあった。
すのーるが攻撃し続けていたら殺してしまうかもしれない。殺人者になることだけは避けたいし。
「すのーる、死なない程度にね! 大丈夫ですか、おばさん」
「あ、あの鳥たちは……?」
「えーと、僕の相棒です。それよりも怪我は?」
「い、いいや、大丈夫だよ」
すのーるといぐるん、そして三鳥だけで海賊はボッコボコにされていた。
翼で打たれ、爪で抉られ、嘴で突かれてもう無数の怪我ができている。まだ暴れるのですのーるたちも攻撃をやめない。
僕は海賊の相手を彼らに任せ、おばさんの介抱に回った。
「怖かったでしょう、もう大丈夫ですよ。あんな強盗にお金を渡す必要なんてないんです」
「ああ……ありがとう、ありがとうねぇ……」
おばさんは安心したのかひそひそと泣き出してしまったが、僕はそっとハンカチを渡すだけに留めておいた。
そろそろすのーるたちが仕事を終えそうだったからだ。
「誰かロープなど持ってませんか? 捕縛します!」
「おお兄ちゃん、これを使ってくれや!」
近くのおじさんがちょうど良く縄を持っていたので、気絶した海賊をぐるぐる巻きにしてサーベルと銃を没収する。
「ふぅ……、これで取り敢えず一安心、かな」
「兄ちゃんすごいなぁ! あっという間にコイツを倒しちまった!」
「いや……相棒達のおかげですよ、僕は何も」
すのーる達が褒めて欲しそうに僕の周りを飛ぶので、その頭を存分に撫でてやる。いぐるん、頭に乗るのは地味に痛いのでやめてほしい。
「その鳥たちは兄ちゃんの護衛なのか! かわいい見た目をしてなかなか凄まじかったな!」
「助かったわぁ。貴方は私の恩人よ。これ、お礼のパン! 持っていってちょうだい!」
「ねーねー! わたしもその鳥さん撫でたーい!」
あっという間に、街の人たちに囲まれてしまう。
パン屋さんからはどっさりと、一抱えある紙袋にミッチミチのパンをいただいてしまった。あとですのーる達と分けて食べよう。
ふわんだりぃずは絵柄がとてもかわいいテーマなので、子ども達もあまり怖がっていないらしい。帽子の子を恐る恐る撫でる姿は微笑ましかった。
「えーと、でもこの海賊をこのまま放置しておくわけには……」
「なら近くの海軍基地に行けば良いさ! 賞金ももらえるし、海賊も引き取ってくれるよ」
「ただなぁ、そいつは海賊団の船長と言ってたろ? 仲間が報復に来るかもしれん」
「なら、その海賊団ごとまとめて倒してしまいましょう。船長を人質にとればあちらも動きにくいはず」
そう言えば、島民たちはザワザワと話し合いを始めた。僕の身の危険やら、この島の危険やらで不安なのだろう。
僕も大人数相手は無傷で行けるかわからないけど、こっちには船長がいる。脅して怯んでいるうちにふわんだりぃずメンバーで滅多撃ちにしてやる。
親切にしてくれたおばさんに銃を向けたんだ。報いは受けてもらわねば。
「海賊ってことは船がありますよね? 船長に案内してもらいましょう。ほら起きろ」
「おお……兄ちゃん、案外容赦無いのな……」
船長とやらをビンタで起こし、強制的に船に案内させる。
ワーギャーと小煩い文句を並べていた為、いぐるんに睨ませて黙ってもらった。今は人質になっているという事を忘れない事だ。
「船長!!」
「なんだ!? 捕まっているぞ!!」
船は立派な、まさに海賊船と呼ぶに相応しいドクロマークのついた船だった。
船員達はボコボコにされた船長に驚愕している。
「海賊団全員に告ぐ! 船長をどうこうされたくなかったら全面的に降伏して、銃や剣を全て海に捨てる事!」
「なんだぁ!? 船長が捕まってやがるぞ!」
「ふざけるな! 船長を返せ!」
「逆らったら船長とやらがどうなっても知らないぞ」
僕はいぐるんを船長の頭に乗らせる。ギチギチと爪が食い込んで、船長は苦悶の表情をうかべているのだが……船員にはそれが見えてないらしい。
「ぷふー! なんだそのかわいい鳥ちゃんは! それで何ができるっていうんだ!」
「船長! そんくらいアンタならどうにでもできるでしょう! やっちまえー!」
とは言っても、船長はもう戦意喪失状態だ。散々爪やら嘴やらで脅したからね。
動かない船長に、船員達はようやく違和感を覚えてきたようだ。
「もう待つのも飽きたね。《ダーク・シムルグ》《ふわんだりぃず×とっかん》そしてすのーるたち。やっちゃって良いよ!!」
追加でデッキから戦力を喚び出す。
黒い大鳥と立派な嘴を持った南国の鳥が、船員達に襲いかかった!
突然現れたモンスター然とした鳥に船上は大混乱。銃を撃つ人もいるが、とっかんには避けられ、ダーク・シムルグには翼で弾かれていた。
次々と気絶させられ、床に張り付けられていく船員を、船長はガクガクと怯えながら僕の隣で眺めている。
全員が倒れるまで、十分とかからなかった。
「えーと、海軍の駐屯地はここから北か……。船の操縦なんてさっぱりだよ、どうしようね」
とりあえず船員達を全員縛り上げ、適当に船室の中に放り込んでおいた。
静かになった甲板で、僕は悩んでいた。なんせ船なんてろくに乗ったことがない。
この船は古き良き海賊船のようで、機械が自動でやってくれたり、スイッチを押すだけでエンジンがかかったりしない。
全部を手動でやんなきゃ行けない帆船だ。
そんなものを操縦する技術は僕にはなかった。
すると、ダーク・シムルグが垂らされていた碇のロープを徐に掴み、引っ張る。
すると船はぐらりと傾きつつも、前に進んだ。
「曳いてくれるの?」
「──!」
聞けば、低くも雄々しい鳴き声が「そうだ」と返事をしてくれる。
流石僕のモンスター! こういう時でも頼りになる。
僕はおばさんにもらっていたパンから一際大きいバゲットをダーク・シムルグの口に投げた。
とっかんやすのーる達にも、今回のお礼としてパンを配っていく。
「それじゃあ、お願いするよ」
出航! とパンを食べながら僕は海の波へと耳を傾けた。物騒な世界だけど、案外どうにかなるかもしれない。