ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「…………んぁ?」
意識が浮上する。
どうやらLPが全快したようだ。あれからどれくらい時が立っているだろう。
「起きたか」
「ホン゙ゴウさん……」
「はは、ひでぇ声。ほら、水」
水分不足でガラガラになっている声を笑って、ホンゴウさんからグラスを受け取った。
目覚めの冷たい水が沁みる。
「さぁ、起きたならそろそろ来るぞ」
「え?」
「ゆ゙どり゙ー!!!!!」
部屋のドアが大きく開いて、大泣きしたルフィくんが突撃してきた。
僕のベッドに飛びつく勢いで、そばに寄ってくる。
「遊鳥……! ごめ゙ん゙!!」
「えっ」
「おれが……おれがあいつらの言葉を我慢できなかったから! おれが弱かったから! 遊鳥がこんな傷を負うことになっちまった!」
ルフィくんは僕の布団に大きくシミを作っていた。どれだけの後悔と雪辱をこの子に味合わせてしまったのだろう。
この子は何も悪くないのに。
「ルフィくんは何も悪くないよ、ホンゴウさんにも怒られたけど、あれは僕の判断ミスだったんだ」
「それでも原因になったのはおれだ!」
「うーん、こればっかりは気にしないでとしてか……ほら、もうどこにも傷が残ってない、元気だよ」
グルグルと腕を回してみたら、「よかった!!」とさらに泣いてしまった。
困ったようにホンゴウさんを見たら、無視の一択。大人しく受け取れと言うことだろう。
「二ヶ月も寝てるから、もう起きねぇんじゃねぇかって! 死んじまうんじゃないかって不安だったんだ!」
「そっか、二ヶ月も寝てたのかぁ……そりゃ心配させちゃったね」
こちらとしてはおやすみ三秒からの夢も見ない一瞬の起床なわけだけど、そうか、二ヶ月か……想定よりも長い期間寝ちゃったな。
「あれからどうなりました?」
「山賊の奴らはちゃんと“処分”した。村の奴らは誰も怪我したりしてないから、お前の起床をずっと待ってただけだよ。村は平和だ」
「よかっ……処分……? いや、聞かなかったことにしておきます。」
おそらくは……ね。まぁ確実に仇を取ってきてくれたんだろうなぁ……。
それにしても、村の人にも随分心配をかけただろう。元気を知らせねば。
「ルフィくん、そろそろ泣き止んで? 村の人たちに元気になりましたって挨拶に行こう」
「うん……ありがとう、遊鳥」
「うん、こっちもごめんね、心配かけて」
*
村の人たちは僕が目覚めたことを我が事のように喜んでくれた。
村の英雄だなんて言われたこともあったけど、丁重にお断りした。僕はただルフィくんを庇っただけだ。それなら山賊をやっつけたシャンクスくんたちのほうが英雄に相応しいと思う。
中には泣いて食べ物なんかをくれる人もいて、ありがたいやらそこまで心配をかけていたことが申し訳ないやら……。
「随分お祭り騒ぎだな」
「ただ目が覚めただけなんですけどね……。ありがたいですけど」
「なぁに、二ヶ月も寝てたんだ。このくらい当然だろ!」
「それにしてもすごいなぁ、あの大量に傷が跡もなく治ったんだろ? すげぇ治癒力だよ」
なかなかにボコボコにされていたから、能力で傷跡が残らないのはありがたかった。顔や目立つところに大きな傷があるだけで、怖がる人は怖がるだろう。
旅の中では警戒心を抱かせないと言うのも大事だ。ギブ&テイク、なんてヴォルフさんは言ってたっけ。あの人も元気かなぁ。
「ルフィなんて、毎日あんたの部屋に通ってたんだぜ! アンタが起きるなら肉だって我慢するって言ってたんだ」
「あのルフィくんが? それは……本当にすごい心配かけちゃってたんだ。トラウマになってないといいけど」
「まぁ本人がもうこんなことにならないよう強くなるって更に鍛え始めたから、いいんじゃねぇの? ま、おれの船には乗せないけどな!」
シャンクスくんが酒を飲みながらガハハと笑った。今日も今日とて、シャンクスくんはルフィくんと戯れあっている。なんだか親戚の叔父さんと姪っ子のやりとりを思い出す風景だ。コウシロウさんとゾロ君のやりとりも思い出す。
シモツキ村にもどこかしらで寄らないとなぁ。
「おれはもっと強くなる! 強くなって、あんな奴らぶっ飛ばせるようになるんだ!」
「ルフィくんは、まだ海賊になることを諦めてないの?」
「ああ! でももうシャンクスの船に乗せろなんていわねぇよ。自分で自分の海賊団を作るんだ!」
ジュースを飲んで、お祝いのお肉──僕がもらって食べきれないと判断したもの──を食べながら、ルフィくんはにかっと笑った。
シャンクスくんの部下というか、傘下に入るわけではなく、ルフィくん自身の海賊団を作ることにしたらしい。
「そっかぁ、じゃあもっと強く大きくならないとね」
「ああ! 仲間もたくさん集めるんだ! 音楽家だろ? コックにー、あ、ロボも欲しいな!」
「夢が広がるね」
航海士や操舵手が最優先なんじゃ……? とも思ったが、子どもの夢物語なので茶々を入れないことにした。
そっか、彼もいつか海に出るのか。
「それじゃあ、そんなルフィくんに祝福をあげよう」
「しゅくふく?」
「そうだな、ルフィくんに似合うのは……《真炎王ポニクス》」
ポンっと、丸々としたフォルムの赤い鳥がルフィくんの目の前に現れる。ふわんだりぃずとは相性は良くないカードだけれど、彼に似合うのはこのモンスターな気がした。
「この子は君についていく。君を守ってくれるモンスターだ。大事にしてくれると嬉しいな」
「ポニクスっていうのかー! よろしくな、お前はじゃあ、おれの海賊団の最初の仲間ってことになるなー!」
「────!」
「ふふ、ポニクスも君のことが気に入ったみたい。マスター権限移していいよ、ポニクス」
ポニクスはぷわぷわと鳴いて、ルフィくんにマスター権限を移した。僕との繋がりが途切れる。
ようはロー君にやったのと同じだ。ポニクスは時に身を挺して彼を守ってくれるだろう。
ルフィくんとポニクスくんは早速仲良くなったようで、いっしょに料理をパクパクと食べ始めた。
子どもがたくさんご飯を食べてる光景は見てて楽しい。ルフィくんはフードファイターになれそうだ。
「いいのか? 大切なカードなんだろ」
「彼になら任せてもいいかなって思えたんだ。なによりポニクスが彼を気に入ってる。ついでに、この前みたいな無茶をしようとした時のストッパーってわけ」
「なるほどなぁ……おれの時はくれなかったのに」
「君は勝手に強くなりそうだったからね」
なによりバギーくんやレイリーさんらストッパーがいたし。
「そういえばバギーくんは? 一緒じゃないの?」
「あいつはあいつで海賊団を作ってんだ。グランドラインじゃ名を聞かねぇから、何してるかは知らんけどな」
「ふぅん、どうせなら会いたかったのになー」
しっかり者の彼のことだし、着実に準備してグランドラインに向かうつもりなんだろうか。
「そろそろ、おれたちもこの村から出航しないとな……」
「グランドラインに戻る?」
「ああ、一年ちょっとの拠点だったが、良いところだった」
ルフィくんは寂しがるだろうか? それとも修行に明け暮れるだろうか。
僕も旅に戻ろうかな。
「ああそうだ……遊鳥」
「なに?」
「人を傷つける……殺す勇気が無いなら、いつまでもこのままの能力でいちゃいけない。この世界は過酷だ。そのまんまのお人好しに細い体じゃ、近いうちに死ぬぞ」
「…………」
「ルフィと同じように、お前も鍛えろ。身体だけじゃない、能力もだ。覇気だって死ぬ気で習得しろ。この海で旅人を続けたいならな」
「……わかった、忠告ありがとう、シャンクスくん」
人を殺せない、というのは僕の旅にとって大きな弱点となるだろう。
だから、僕は強くならなきゃいけない。人を殺さず逃げられるような、場を納められるような力が、必要だ。
「頑張らなくちゃね……ルフィくん」
「ん? ああ! ポニクス、お前も修行に付き合えよ!」
「──!」
ポニクスの可愛らしいが勇ましい鳴き声が、酒場に響いた。