ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
海軍基地は案外早く着いた。
ダーク・シムルグがグングン飛ばしてくれたからかもしれない。波をかき分けて船を曳く黒い大鳥はカッコよかった。
海軍基地に近づく時、海賊の船で直行してしまうと相手に迷惑かもしれないので、少し離れたところに一度船を停め、ダーク・シムルグに乗って海賊を連れてきたことを知らせることにした。
すのーる達と話し合った結果だ。
「えーと、インターフォンとか……無いのかな。無いよね、たぶん」
アポを取った方が良かったのだろうが、電話やそれに類するものを僕は持っていないし知らない。
突然門を叩くことしか出来ないのだが、突っ返されないだろうか。
すこしの不安を抱きつつ、僕は海軍基地に向かって声を張り上げた。
「すいませーん! 旅のものなんですがー!」
「なんだなんだ!? 鳥に乗った……人!?」
「海賊を捕まえたので、そちらで引き取って欲しいんですー!」
上空から、敷地には入らない程度の距離感で自分の訪問理由を説明する。
島で暴れていた海賊を海賊船ごと捕縛し、近くに停留してあること。島の人に海軍に引き渡せば良いと言われたこと。連絡の仕方がわからず突然の訪問になってしまったこと。
それらを喉を疲れさせながらも伝えれば、海軍の人たちは納得して、船を出して海賊船を引き取ってくれた。
仕事が早い。
「いやぁ、コイツは最近ここら辺をちょこまかと逃げ回っていた厄介な海賊団でね。君が捕縛してくれて本当に助かったよ!」
「いえ……僕は良くしてくれた人が被害に遭っていたのを助けただけで」
「君のような正義の心を持った人がいるというのは、海軍にとってとても嬉しいことなんだ。待ちたまえ、すぐに懸賞金を持ってこよう」
そうして、ドサリと袋に詰められた札束が応接室の机に置かれた。ダーク・シムルグたちは今はカードの中で待機してもらっている。
船長の他にも懸賞金をかけられていた船員がいたそうで、合計にして3500万ベリー。パン屋のパンが大体200ベリーと日本とそう変わらない相場だったので、まぁ日本円3500万と考えて良いだろう。
大金を持つと手が震えるというのは本当だったんだ。
「これが今回の懸賞金分の報酬だ。確かに渡したよ。……それにしても、あの鳥は君の仲間なのかい? いつの間にかどこかへ行ったようだが」
「ええと、僕の仲間なのは確かです。今はこのカードに戻っているんですよ」
そうして、僕は胸ポケットに入れていた《ダーク・シムルグ》のカードを海軍基地で一番偉い人……少将らしい。に見せた。
「ふむ……君は悪魔の実の能力者なのか」
「悪魔の実?」
「おや、知らないのかい?」
少将さん曰く、この世界に散らばる不思議な果物のことを「悪魔の実」と言うらしい。
それを食べれば超常の人智を超えた力を得る。体から氷を出せたり、獣になれたり、体の一部が無機物になったり……。それを食べた人の戦闘力は常人を凌駕する。
その代わり、食べた人は海に嫌われる。水に触れれば力が弱り、泳げなくなり、能力も消える。
「これは、悪魔の実の力なんでしょうか……」
「あと、悪魔の実は想像を絶する不味さらしいぞ。食べた記憶はないかい」
「……あ」
そういえば、あの不審な宗教団体に食わされた変な飾り切りの果物! あれは本当に、二度と食べたくないほど不味かった。
あれか! あれが悪魔の実か!
「食べ……ました……」
「きっと、それが悪魔の実だったのだろうね。とりあえず、海に落ちることに気をつけると良い。その力は簡単に人を殺せてしまう力だ、使い方を誤らないように」
「はい、情報をありがとうございます」
「海軍は一般市民の味方だからね」
良い人だ。
僕のこの世界でのスタートは最悪だったが、その後は良い人に巡り会えているのが運がいいところだろう。
「これからどうするんだい、よければ海軍に入らないか? 君のような誠実な心を持った能力者は大歓迎だ」
「……すいません、僕はもうちょっと、この世界を仲間と見て回りたいんです」
船を曳いてもらいながら、僕は考えていた。この世界での身の振り方を。
海賊なんているし、ネットや遊戯王も無い世界だ。物騒だし。そんな世界で生きていくには、ある程度ポジティブな目的や目標を持つことが大事だと思う。
幸いデッキにはふわんだりぃずやその他のモンスターがついていてくれるし、名前を呼べば僕を守ってくれる。
なら、旅がしたいと思った。
見知らぬ世界、常識が違う島々。まさに僕にとって異世界で、何も知らない僕はこの世界をゼロから楽しむことができる。
なら、旅がしたい。
いろんな島や大陸を見て回って、国を巡って観光して、たっくさんのいろんな経験をしてみたい!
僕のデッキのみんなと、一緒に旅をするんだ。空を飛んで海を渡って、この世界の綺麗なところ全てに行ってみたい!
パンを食べながら、僕が出した結論はそれだった。
「そうか……気が変わったらいつでも海軍基地を訪ねるといい。海軍は君を歓迎する」
「はい、ありがとうございます。……もう出発しようかな」
僕は外に出て、《霧の谷の巨神鳥》を喚び出した。
海軍基地と同じくらいある体躯の鳥に、海軍の人たちの驚く声が聞こえる。
「親切にありがとうございました! それではー!」
「……はは、とんでもない能力者だ」
僕は飛び立つ。
行く宛はまだ決まっていない。僕は旅行ではあまり計画を立てず、気分の赴くままに行ってみよう。
巨神鳥に任せるのもいいかもしれない。
悪い海賊がいたら退治して海軍に送る。海には落ちないように……もし落ちた時はどうしよう? 能力が使えないと言うことはモンスターの召喚も行えなくなるのだろうか。
「うーん、まずは自分の能力についても知らなきゃ」
悪魔の実によって得た力というのはわかったけど、じゃあ具体的にどう言うことができて何ができないのかって話だ。
そもそも今はデッキをリュックに、喚び出しているカードを胸ポケットに入れているのだが、それは落としそうで普通に不安だ。
「うーん、かっこいいデュエルディスクとかあれば……そこにデッキをセットできるんだけ……ど……」
なんて考えていたら、ぐにゃりと左腕が歪んで腕に翼の形をしたシルバーのデュエルディスクが創り出された。
えっそんなこともできるの。
カードをセットすればきちんとガッチリカードをホールドしてくれて、モンスターゾーンや魔法罠ゾーンもある。シャッフル機能なんかもついているようだ。
思わぬ便利アイテムの登場……というか生成? に、僕は思わず絶句した。悪魔の実って本当に常識外れなことができるんだ。
コツコツと叩けば金属の感触が返ってくるけど、明らかに今僕の体から生成されてたよね? どうなってるの、これ。
考えるだけ無駄なのかもしれないが。
「で、デッキ問題はこれで終了、かな……? なんだか自分の体が怖くなってきたぞ」
きっと宗教団体の連中は悪魔の実の不思議な力で、僕を都合の良い神に仕立て上げようとしたんだな。
決闘者の能力なら神のカードを使えば本物の神だって喚び出せるだろうし。本当に危なかった、捕まらなくて良かった。
「巨神鳥、今は好きなように飛んで。島があったら、そこに着陸してみて」
飛行先を巨神鳥に任せ、僕は自分の能力についてもう少し考えて実験してみることにした。