ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「町で突然出すと騒ぎになっちゃいますね! 海岸とかの方行きましょうか!」
「おいおい、お前酔ってるな? 明らかにハイになってるよい」
「決闘者は自分のカードを自慢したい生き物なんです!」
「デュ……なんだって?」
強制的にお会計を済ませ、僕とパイナップルのお兄さんは町外れの海岸に来ていた。
ニッコニコでお兄さんの手を引く僕を、お兄さんは拒まない。良い人だぁ〜!
ちょうどよくスペースがありそうな広い砂浜で、僕は誰を出そうか考えていた。
戦闘ってわけじゃないので、リリースは必要ないし……候補は色々いるけど、どうしようかな……と思案してると、一枚のカードがガタガタと主張してきた。
まるでパイナップルのお兄さんに見せて欲しいように。
「《雛神鳥シムルグ》を召喚!」
デュエルディスクのモンスターゾーンにカードを置けば、翡翠の翼を持つ小さな雛鳥が実体化する。
ちまちまと小さな脚で、雛神鳥はパイナップルのお兄さんの周りを駆けた。
「随分ちまこいのが出てきたな」
「この子、お兄さんが気になるみたいです。よければ抱っこしてあげてください!」
「そうなのか? よっと」
小さな羽をパタパタとさせて、抱っこをせがむ雛神鳥をお兄さんは軽々と抱き上げた。
背が高いからなかなかに高度があるけれど、雛神鳥はキャッキャと喜んでいる。
「かわいいやつだよい」
「なんだか、お兄さんが憧れらしいですよ? 僕はなぜかわかりませんが……」
「あー……お前、おれの正体がわかってるのか?」
「──! ──!」
「『かっこいい! いつかお兄さんみたいに飛びたい!』みたいなこと言ってますね」
「……そうかよい」
何故なのだろう? お兄さんはなにか鳥関係の職に就いているのだろうか? それを雛神鳥が感じ取ったとか?
と思っていたら、急にお兄さんの右腕が炎を纏う鳥の翼へと変わった。
「ええ!?」
「おれは悪魔の実モデル“不死鳥”の能力者……。お前さんはこれを感じ取ったのか?」
「──!」
肯定。
つまり、パイナップルのお兄さんは不死鳥のお兄さんだった……ということ?
たしかに獣の特徴を持つようになる悪魔の実があることは教えられたけど、不死鳥とかアリなんだ。ラーの翼神竜に会わせてみたいな。神のカードは僕の力じゃまだ制御できなさそうだし、ラーはふわんだりぃずと相性悪いけど。
いや、スフィアモードならギリ……? でもそこからヒエラティックテキスト唱えないとだし……。
雛神鳥はキャイキャイとお兄さんの翼に自分の翼や頭を擦り付けている。親鳥に甘える雛鳥のようで、とても微笑ましい。
「すごく懐かれてますね」
「ああ、悪い気はしないよい」
「……よければ、その子を連れてってあげてくれませんか?」
「……はぁ!?」
雛神鳥シムルグはお兄さんに懐ききっている。
それこそ、師匠と拙い言葉遣いで鳴いているほどに。それはなんだか、このままこの日だけでの縁で終わらすのは惜しかった。
雛神鳥は完全にお兄さんに着いていく気だし。
「と、突然言われてもなぁ……」
「お願いします! この子は貴方の盾にも剣にもなる気でいますし、いざとなったら身を挺して貴方を守るでしょう。力は弱いかもしれませんが、ひとつ、弟子を取るような感じで!」
「いや、そんな覚悟はいらないんだが……」
「もーこんな懐いてるの僕以上なんですよ! きっとこれも何かのご縁! 是非是非!」
「圧が強い!!」
雛神鳥がこんだけなつくんだ。良い人だし、預けても問題ないはず!
僕は半ば押し付けるように雛神鳥をお兄さんに渡すことを決めた。ラッキーカードってやつなんだろう、きっと。
実体化していて意思がある。それはもうきっとカードの精霊のようなものなのだろうし、それなら彼らの好きにさせたい。
このとーり! と頭を下げれば、お兄さんはようやく納得してくれた。
「ただ、コイツはお前の能力で実体化してるんだろう? 離れて大丈夫なのかよい?」
「一度実体化してしまえば破壊されるまでは僕の意思以外でカードに戻ることはありません。この子は攻撃も守備も弱いので、大砲の一撃くらい喰らうと破壊されちゃうのには注意ですね」
「いや、それは丈夫な方だよい」
モンスターは人間の耐久値とはまた違う。《ふわんだりぃず×とっかん》が銃弾を軽々避けていたように、数値が0でもなければある程度は耐えれるし避けれる。
雛神鳥も斬られたり撃たれたりはある程度耐えれるだろう。流石に船の巨砲とか出されたら無理だけど、破壊されたらカードに戻るだけだ。
「……とりあえず、連れて行けば良いんだな?」
「はい!」
「押しの強い……船に乗せるからには親父の許可が必要だよい。説明ついでに一緒に来てもらうからな」
「船ですか? わかりました!」
船ってことはお兄さんは船乗りなのか。商船とかそういうのだろうか?
もう日が暮れて夜になってしまっているが、お兄さんは炎の鳥になってついて来いと地面を離れた。雛神鳥は背中に乗っている。
僕も《ダーク・シムルグ》に乗ってそれについていく。
「へぇ、そんなデカいのもいるのかよい」
「普段はこの子達に乗って旅をしています。乗り心地良いんですよ」
絶対に海に落とさないという安心感も感じられるし。能力者は海に堕ちたら終わり。ということに僕以上に警戒しているようだ。
雛神鳥はまだ飛べない鳥なので、初めての空にキャッキャと笑っている。それが微笑ましい。今後はよりお兄さんを師匠と慕うことになるだろう。
しばらくお兄さんと夜間飛行を楽しんでいると、大きな大きな船が見えてきた。
白い船頭が鯨になっている、特徴的な帆船だ。そこには髭の生えたドクロマークが……。
ん? ドクロマーク?
「あれがうちの船……白ひげ海賊団の本船だよい」
「お兄さん海賊だったんですか!?」
「えっ今気づいたのかよい」
やばい、僕殺されるかもしれない。
海賊って、あの略奪ヒャッハーしていた3500万と同じ奴らじゃないか!
そんな奴らの根城にヘラヘラ笑って来てしまった。酔いが覚めていくのを感じる。
「えーと、許可をとる親父さんっていうのは」
「船長の白ひげの親父だよい。まぁ一般人に手荒なことはしない人だから安心するよい」
「はえ……船長さん……」
船長って一番強い人でしょ? 3500万よりずっと大きくて立派な船の船長さん。
絶対やばい。
めちゃくちゃ逃げたいけど、雛神鳥の笑顔の手前逃げられない! もう完全にお兄さんを親みたいな目で見ている。マスターの僕そっちのけ。ちょっと悲しい。
「降りるから、ついてくるよい」
「ア、ハイ。ダーク・シムルグ、お願いね」
僕としてはもうなんか、まな板の上に乗る鯛の気持ち。
よくよく考えたらお兄さんからすごい攻撃力と守備力を感じるし、なんか船からも複数のプレッシャーを感じる。
そんな船の中心に降り立つとか、獲物以外の何者でもなくないか?
僕は僕の軽率な行動を恨みつつ、やはり酒は控えようと強く反省した。ここまで、完全に酒のテンション。
降り立った先には沢山の船員と、船頭の方には人間離れした体躯のおじさんが見えた。
その傍にはクソデカい薙刀。
ああ、僕の人生ってここで終わってしまうのか。短い生だった……。
「なんだぁマルコ、そいつ誰さ?」
「でっけぇ鳥! 今夜の晩飯にでもするのか? 四番隊呼んでくる?」
「ちげぇよい、ちと親父に話があるんだ、コイツと一緒に」
肩に手を置かれるが、取り敢えずもう成り行きに任せるしかない気がしている。
ええい、どうにかなれー! というやつだ。
僕はマルコさんと船頭へ足を向けた。