ヒトヒトの実モデル“決闘者”withふわんだりぃず 作:月日は花客
「まずい! 取り敢えず碇を上げろ! 出航だ!」
「近くに孤島があった筈、そこに向かうぞ!」
「親父ー! どうする!?」
ロジャー海賊団が近くに来ているというのは大変な事のようで、甲板は一気に大騒ぎの大喧騒となった。
僕は早々に客室に雛神鳥と押し込められ、何が何だかわからぬまま外の音を微かに拾っている。
「テメェら落ち着け! 孤島に向かって前進、デカい戦いになる事を覚悟しておけ!!」
白ひげさんの声がビリビリと扉越しに響いた。ロジャー海賊団と戦うらしい。
ロジャー海賊団は、悪い海賊なのだろうか? わからない、でも今この船が危険にさらされていることに間違いないだろう。
船員の人に「何があってもここから出るな」と言われていたし。
「──! ──!」
「わっ、落ち着いて雛神鳥! 外に出ちゃダメだって!」
大慌てで、マルコさんの元に行こうとしているのだろうか……暴れる雛神鳥をなんとか宥めつつ、僕は扉越しに耳を当て状況をわかろうとする。
「グララララ……久しぶりだなぁロジャー」
「おう、元気でやってたか? いい酒を手に入れたんだよ、後で飲もう!!」
「……その前に、やる事があるだろう」
「そうだな……遠慮なく行かせてもらおうか!!」
ブワッと巨大な気配……なんだろうか、巨大なドラゴンでも目の前にしたかのような、迫力そのものが物体を伴ってぶつかってきたような勢いが僕の体を襲った。
それに意識を持っていかれそうになるも、雛神鳥が……いや、なんだろう、何か別のものが僕をそっと包み込んだような気配がして、意識を持ち直す。うっかりすると気絶しそうなほどのプレッシャーが今もまだぶつかり合うように火花を幻視させている。
きっと、戦っているんだ。白ひげ海賊団とロジャー海賊団が。
腹に轟く鬨の声や悲鳴、剣戟の音が、この世界の過酷さを物語っているように僕の脳裏に染み付いてくる。
小さな戦争だ。これは。
「──! ──!」
「お、落ち着いてって……」
雛神鳥はさっきのプレッシャーの波に一瞬怯んだものの、今度こそマルコさん達の元へ行くのだと必死に暴れ回る。
「マルコさんたちは今きっと命懸けで戦ってるんだ! 僕らが下手に行くと逆に危険になるかもしれない。ここは言われた通り大人しくいていよう? ね?」
「──! ──!」
そう言っても、雛神鳥は聞かない。
扉にドンドンと身体を叩きつけている。
「うう……大人しくって──わああ!!」
鍵がかかっていた筈なのに、雛神鳥の攻撃力(ゼロ)に耐えきれなかった扉がバタリと開いてしまった。
僕と雛神鳥はそのまま戦場に放り出される。
「──!!」
雛神鳥が、全速力でマルコさんの元へ向かう。その小さな脚で、戦場の人々の間を縫って駆けていく。
そして、マルコさんに迫ろうとしてた弾丸を……その身で受けた。
「なっ……!?」
「何だこの鳥は!!」
守備力1600は鉛玉くらいなら弾ける。雛神鳥はそのままマルコさんに向けられる銃口を警戒し、撃たれた物を全て打ち落としていった。
「お前……一丁前に手助けか。やってくれるよい」
「──!」
雛神鳥はやる気だ。
そして、同じように部屋から飛び出してきた僕にも視線が向かっている。まずい、非常にまずい。
これで白ひげさんに迷惑がかかったら……っていうか、僕が死ぬような目に遭ったらどうしよう!?
でも、雛神鳥はその小さな体でマルコさんを守ってみせたんだ。なら、主人である僕も頑張らなくてどうする!!
「──
「新手だ! ただのガキだが油断するな!」
「ろびーな、とっかん、いぐるん、すとりー! 殺さなくていい。ただ……翻弄しよう!!」
僕としては人を殺す勇気はまだ無い。
なので、ここは小型のモンスターで固めて、敵っぽい奴らにちょっかいをかけまくる!
僕はいぐるんに肩を掴んでもらい、大空に飛び立つ。そしてすとりーやとっかんに指示を出す。とにかく相手を翻弄するのだ。
遊戯王でキャラクターが死ぬことは割とよくあることとは言え、自分がその立場にはなりたくない。ろびーなに相手の視界を奪わせ、とっかんに銃身をぐらつかせ、すとりーが場を翻弄する。
ピピー! 人殺しなんて許さないぞ!
「うわわわっなんだこの鳥はぁ!?」
「お、俺の銃返してくれー!」
「うわ、ちょ、踏むなって!!」
僕に向けられた銃口はいぐるんが軽々避けてくれる。ぐら、ぐらと独特の揺れに酔いそうだけど、耐えながら自分なりに戦場を撹乱した。
遠くの島では白ひげさんが知らない人……おそらくロジャー海賊団の船長だろう。と戦っているのが見えた。やはり気を抜くと意識が持っていかれそうだ。
というか、戦場の何十人かはそれの余波で気絶している。敵味方構わず、泡を吹いて。
プレッシャー源の二人はなんか、二人だけの世界っていうか本気と書いてマジと読むみたいな……。しかし戦いを楽しんでいるようにも思えた。
「いぐるん、そろそろ疲れたでしょ? ダーク・シムルグに変わってもらうよ」
僕自身の肩も限界だ。痛い。
あれから数時間経つというのに、二人は戦いをやめない。むしろ激化している。
船員達の方は、だんだん両方とも消耗してきて、お互い隣に座りあって休憩しているレベルだ。ちょっと殺し合いの危機感が足りないのでは? と思う。なんだか顔見知りといった雰囲気も感じるので、こういうやり取りはもう何度も交わされたものなのかもしれない。
「おーい、遊鳥! そろそろ降りてきていいよい」
「マルコさん! すいません、こんな……」
甲板で負傷者の治療をしていたマルコさんに呼ばれ、僕はダーク・シムルグの翼から降りた。
周りにはとっかんに銃やサーベルを取られたままの人、すとりーに追いかけ回されてる人、ろびーながぴったり顔面に張り付いている人など、かなり……カオスだ。
「いや、お前さんが被害を抑えようとしてくれたのはわかってるよい」
「部屋から出たのも、僕が雛神鳥を抑えられなかったからで……」
「それでおれは鉛玉を受けずに済んだんだ。逆に感謝するのはこっちだよい」
マルコさんは足元に来た雛神鳥をそっと撫でる。
マルコさんは船医だそうなので、これから船員の治療にあたっていくそうだ。
船長達は好きに戦わせておけ、との事らしい。
「いいんですか? あんな……圧を放って殺し合ってるのに」
「会う度の通過儀礼みたいなもんなんだよい。それより、遊鳥はあの覇気が平気なのか?」
「はき? なんだかピリピリした感覚はありますが……ちょっと気を抜いたら気絶しそうなんで頑張ってます」
「頑張るで済むような物じゃない筈なんだがよい……」
覇気、というのはひとつの力で、相手を気絶させられたり、ろぎあ? に攻撃を当てられたりするらしい。
僕がその中でもかなり濃い覇気に当てられても即気絶しない事が、マルコさんは不思議なようだった。
「もしかしたら、デッキのみんなが守ってくれたのかもしれません」
「デッキのみんな?」
「カードには精霊が宿るって言われてて……きっと、僕が喚び出しているのもその精霊なんです。だから、カードの精霊が僕を覇気という精神的な脅威から守ってくれたのかも」
「へぇ……それはそれは……」
マルコさんがジッとカードケースを見る。腰元にあるので、なんとなくこそばゆい視線だ。
ダーク・シムルグがそっと僕に寄り添ったのを機に、「お前も休憩するといいよい」とマルコさんは仕事に戻っていった。
まだ、戦いの音は終わっていない。
コメント、お気に入り、評価、励みになっています。
ありがとうございます。