負ける気せぇーへん、機械兵やし 作:長い犬
これから暫く溶鉄と救国の間の期間の話になります。つまり間に何を挟み込んでもいいってことだぁ!
どうも、100日目を乗り越えた男バルスやで。機械兵やから性別とかないやろとかナシな?普通に泣くから。まあ泣くなんて機能もないけど。
宿舎襲撃から数日が経った。あれから敵があんまり進軍しなくなった。一つの戦線を崩すために仰山兵力を投入したのに、何の成果も得られませんでした状態やからな。さもありなん。
せやから暫くは小康状態が続くやろうと睨んでいる。東部戦線は束の間の安らぎを得ることになったのだ。
なのでライカも久しぶりの休暇を手に入れたらしい。現に今めっちゃうきうきしながら編み物してる。手の動きが通常の二倍くらいの速度なのが気になるけど、まあそんだけ嬉しいんやろ。知らんけど。
キリの良いところまで進めたのか、一旦手を止めて伸びをすると「そういえば」と口を開く。
「バルスって何年ぶりにここに戻ってきたんだっけ?」
「そうやな……確か卒業して以来やから、多分三年ぶりくらいやな。そう思うと久しぶりやな」
「それなら卒業式の日に行った商業施設に行かない?いろいろ新しい店も増えたのよ」
「ああ~、行きたいのは山々なんやけど……」
こんなメカメカしいやつが行けるはずがないねんな。100%憲兵にしょっぴかれる。ライカにも迷惑かかるし、ここはやんわりと断るしかないなあ。
「当然だけど変装してもらうつもりよ。あんたをそのままの格好で行かせるわけないでしょ」
「変装ぅ?これをどうやって隠すんや?」
「これを使うのよ」
そう言って近くの棚から男物のコートやズボン、手縫いのマフラーなどを取り出してきた。
「……これならまあ、着れんことはないけど」
俺のフォルムはほぼ人間に近いから袖は通る、と思う。まあ他の服とかも大丈夫やろ。
でも一つだけ気になることがある。
「ちなみにこれ、どっから持ってきたん?」
「買ったのよ。あんたと会ってから次の休暇に一式用意してたの」
「へ、へぇ~」
ライカと再び会ったのは二ヶ月近く前。その時からこの状況を見越して買い揃えてたんか?めちゃめちゃ行く気まんまんですやん。
まあそんなこと口に出すまい。わざわざここまで用意してくれたんやから、野暮なことせずにしっかりと好意を受けとめよう。……それでもちょっとくらいからかってもバチは当たらんやろ。
「デートの準備バッチリやな。俺がエスコートされる側なんて面目ないで」
「そんなこと気にしなくていいわよ。純粋にデートを楽しむだけで十分よ」
そうライカは微笑んだ。あれ?なんか想像してたんとちゃうな?昔なら顔真っ赤にして動揺したはずやのに、なんやこの余裕は。
「それより早く着なさいよ。デートで女の子を待たせるつもり?」
「お、おう。すぐ済ませる」
機械やから裸ではないんやけど、生前の感覚が抜けへんからついユニットバスのほうに逃げてしまった。なんか目の前で着るのがすごい気恥ずかしい。分からへんかなこの感覚。機械兵なったら分かるで。
急いでユニットバスに駆け込むあいつの後ろ姿を見て思わず笑ってしまう。別に気にしないのに、変なところで気を遣うやつね。
……ふふ。あいつ、見事に狼狽えてたわね。デートって言ったくらいで私が照れると思ったのかしら?もう私はそんな年頃じゃないのに。
それにさっきの発言は嘘でもなんでもない。全部本当のこと。
本来こうしてバルスと会えるのは奇跡でしかない。あいつは機械兵になってしまったけど、中身はなんにも変わっていない。それがどれだけ私にとっての救いだったか、あいつは全然わかってないのだろう。
手紙が来なくなったときから覚悟していた。いつかこんな時が来ると理解していた。それでも、卒業式の日に交わした約束を果たせないと思うと涙が止まらなかった。
それがどういうわけか、今再びバルスと話すことができるのだ。私はそんな奇跡を手放すつもりはない。
今日のデートでそれを思い知らせてやるわ。もし今日で伝わらなかったら明日、それが駄目なら明後日。完璧に伝わるまでやめてあげない。
だから、早くあの約束を果たしてね。バルス。
○
商業施設の賑わいは、あの日と同じどころか寧ろ増していた。
戦時中で物資状況が厳しい中、どの店も必死にやりくりしながら営業している。あの服屋は店主のセンスか敢えてパッチを当ててお洒落なポイントにしている。向こうの食料雑貨店はジャガイモの新たな加工品を取り揃えており、どれも美味しそうだ。どこも商魂逞しいわ。
「見てバルス。あのマグカップ可愛いわ」
「お~こりゃ柴犬か?珍しいな」
ライカは柴犬のプリントされた白のマグカップを気に入ったのか、手にとって眺めている。この世界にも柴犬はいるらしい。まあ原作にも日本っぽいとこがどうやらあるらしいから、そこの犬種だろうか。
他にも誰が欲しがるのかわからない宿舎に貼ってあるポスターを売る店もあった。軍は兎も角一般市民で欲しがるやつおるんか?
色んな店を冷やかしたりしてる内に時刻が昼を迎える。折角やからということで一階にあるフードコートで飯を済ませることにした。
俺は食べる機能がないからこういうとき残念やねんな。食欲も全くないというのは恐ろしいもんで、日に日に食べ物の味も匂いも忘れていく。興味が向かへんとそれに関することもあっという間に忘却されていくらしい。
ライカは俺に申し訳なさそうにしてたけど、全然気にせず食べてほしい。寧ろ俺の分までガツガツ食ってほしい。俺の身体でグルメスパイザーっぽいことできるから試したくなったら言ってくれな!
店やからまだまともな食べ物あるけど、これから先も食料事情は厳しくなる一方や。将来全員が満場一致で不味いと回答するであろう謎のゲルが登場する。だから今だけでもええもん食ってくれや。
ライカが飯を食べるのを眺めてるだけで、有意義に時間を潰せたので退屈ではなかった。いっぱい食べる君が好き。
それから商業施設を出て、周辺にある市場を見て回ることにした。ここは出店もいろいろあって、商業施設では見れないであろうニッチなもんも揃っているので見ていて飽きない。
「あのフライパン専門のとこ、前もあったなあ」
「謎にあんたが気に入ってたとこよね?今更だけど何が気に入ったの?」
「そんとき自炊してたからな。結構調理器具とかも拘ってたんよ。あんまし鉄も使われへんから、粗悪なやつが多くてやなぁ」
「ああ、分かるわ。今売ってる包丁の切れ味なんて酷いものよ。食パンさえノコギリみたいにしないと切れないもの」
「序でに包丁の店も見て行こか」
「いいわね。そしたら後あれも……」
会話してたら芋づる式に他にも気になる店が出てきて息をつく暇もなかった。まあ俺機械やからそんな機能(省略)
ここまでかなり色んな店に冷やかしに行ったが、今のところ俺の正体には全く気づかれていない。サングラスかけて、マフラー巻いて顔の下半分を隠しただけやのに意外とバレへん。俺の顔が人を模したものやから助かった。これでザクみたいやったらどうしようもなかった。
そろそろ俺の両手が荷物で塞がるくらい商品を買ったところで、思い出深い出店を見つけた。
「おっ、あのロケット買った店やん。ちょっと見に行こや」
「ええ、今はどんなものがあるかしら」
店先に配置された木製の机には、街灯を反射してきらきらと光るアクセサリーが並んでいた。あの時と同じでシンプルというか無骨なものが多いままだ。
「おや、そこの嬢ちゃん前に来た子かい?」
二人揃って眺めていると、奥に座っていた年配の店主がライカに声をかけた。肯定すると目元の皺を深くさせて穏やかに笑った。
「確かロケットペンダントを買っただろう?そうだとしたら隣のはあの時のツレかい」
「ええ、そうよ。最近久しぶりに会えたのよ」
「そりゃあ、何よりだねぇ。最近はより戦争の勢いが激しくなってきた。お互い無事なのが一番だ」
ライカも同意して二人は染々と頷いた。うーん気まずい、俺は無事じゃなかった人だから。
「あんたら、ちゃんと生き延びなよ。幸せも不幸せも命あってのもんだからね」
「胸に刻むわ」
「肝に銘じとくわ」
そうして冷やかしはその店で最後にして、俺たちは帰路に就いた。夜風が吹いてライカが身震いをする。
暑いのが嫌いやからといって、冬の寒さが好きなわけではあるまい。感覚のない俺が着てるのも無駄やろ。俺の着ていたコートをライカに被せた。一応言うけどちゃんとコートの中にも着てるからな!
「ふふ、ありがと」
ふんわりと笑うと、ぶかぶかなコートを羽織る。黒のコートがライカの白い髪を映えさせていた。
そのまま無言で歩き続けて、不意にライカが聞いてくる。
「ねえ、今日は楽しかった?」
「そらモチロンよ。機械兵なってから初めてこんな人のおる場所に来たからな。めっちゃ楽しめたわ。ありがとうな」
「どういたしまして」
また沈黙が俺たちを包む。街灯は夜の闇の中でぼんやりと光っており、どこか頼りない。混ざって夜に溶けそうな明るさだ。
それから数歩進んで、唐突に立ち止まった。俺もつられて立ち止まる。こっちを見ずに、また聞いてくる。
「あんたは卒業式の日にした約束、覚えてる?」
「……ああ、ハッキリと」
「そしたら、私に何かを言うことがあるんじゃないの?」
「…………」
「あの日から状況が変わったわ。特にバルスはそうでしょうね」
表情は見えない。拳を固く握るのは見えた。
「認めたくはないけれど、バルスは死んだ。そして機械兵としてまた生まれ変わった。だから色んなしがらみがあるのは分かっているのよ」
でも。
「私は今でもあんたからの言葉を待っているのよ。自己同一性とかそういうのもあるかもしれない。それでも!あんたがバルスなら、私に言ってよ!」
「………ライカ」
「あの日の約束を、果たしてよ……」
そう言うと力なく項垂れた。その背中はあまりにも小さくて、すぐに消えてしまいそうだ。
俺は、深く後悔していた。自分のことを信じていなかったことに。
機械兵は人を使った兵器である。しかし人の脳丸々一つ使って作っているわけではない。培養したものを用いて数十から数百の機械兵を作るのだ。
そうなれば今の俺はどうなるか。そう、俺は俺としての意識が出てからずっと自分のことをクローンだと思っていた。紛い物でしかない偽物が俺だ、と。
そんな自分はライカに約束を果たすことを恐れた。オリジナルの俺ではない俺が、そんなことを言っていいのかと。
しかし、想像していたよりずっとライカのほうが強かったらしい。彼女は受け入れる覚悟を決めたのだ。ウジウジ悩んでいる俺よりずっと、彼女は強かった。
それならば。ここで言わな男が廃るというもんよ。
黙ってライカに近づいて、後ろから抱き締めた。暖かさは分からんけど、心臓の音が響いていた。
「ライカ」
「………何よ」
「お前のことがずっと好きやった。本当は卒業式に言いたかったけど、俺は臆病やから逃げてしまった。許してくれ」
「……遅いのよ、バカ」
ライカは振り返って俺を抱き締めた。人間じゃない俺の身体は鉄みたいに固くて、人間味なんて存在しないだろうに、しっかりと抱き締めてくれた。
「あんたはちゃんと、あんたのままよ」
「そうか、そうか……」
それから無言で、ずっと抱き締めあった。不思議なことにライカの心臓の音を聞くと、身体が暖かくなるように感じた。
多分、故障だろう。
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