負ける気せぇーへん、機械兵やし 作:長い犬
しかも全部辛い。何が辛いって本人たちは何も悪いことをしていないのに、全員が環境に苦しめられてること
こんなのってないよぉ!
私には年の離れた兄がいた。兄は昔から勤勉で、努力を欠かさない人だった。その上、よく私に構ってくれたりおやつを分けてくれたりする。まさに完璧な人だった。
だけど、どこも隙がない完全無欠というわけではなかった。たまにふざけて怒られていたり、課題の提出期限を忘れていて焦っていたり。そんな欠点とも言える面が、私に親近感を湧かせた。
そんな兄が、私は大好きだった。けれど、もう兄はどこにもいない。
最後に手紙が来たのは二年半前。兄は仕送りと共によく私向けに書いた手紙を送っていて、私はそれを楽しみの一つにしていた。しかし、北部の戦線に向かうことになったという旨の手紙が来てから、仕送りも手紙もパタンと途絶えた。
何度か手紙を送り返した。だが、梨の礫だった。認めたくはないが、否が応でも認めるしかなかった。最愛の兄が戦場で散ったことを。
そのことは、私の胸に埋まることのない、どこまでも続く穴を穿った。
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昔、私がまだ初等教育を受け始めたときの頃。この頃の私には仲のよい友達たちがいた。近所に住んでいたので、自然と関わっていたのだ。
生活は苦しかったけど、それでもあの時笑いあって過ごしていた日常は、嘘ではなかった。
初等教育が始まってから私たちはいろいろなことを学んだ。国語や算数、自国の歴史、偉大な最高指導者、そして階級制度について。
私の家庭は7等級国民だった。それはこの国では下位の等級に該当し、貧困な家庭が多いと学んだ。どうやら10等級以下からは人権が保証されず、更生施設に送られるとも。
そして、7等級なのは私だけだった。近所の友達たちはみんな私より一つ上の等級で、全員が中位の等級だった。
当時それを学んだ私は、特に何の考えも抱いていなかった。へぇ、そうなんだぐらいしか思っていなかった。
でも、友達たちは違った。そのことを学んだ次の日から、急に私は無視されるようになった。今まで楽しく話していたのがまるで嘘だったように、冷たくあしらわれた。
今にして思えば、子供は自分たちと違う存在について、恐怖を抱きやすいのだろうと推測できる。だから、私が村八分状態になったのも納得できる。
当然、子供だった私はそんなこと理解しているはずもなかった。どうして無視するの?なんでこっちを見ないの?私は悲しさと苦しさでどうにかなりそうだった。
なんとかしたい一心で、私は教師や親、近所のおばさんに助けを求めた。突然みんなが無視するの。どうしたら元通りになるの?と。
そして誰もが同じ言葉を返した。
「学業や仕事に励み、等級を上げろ」と。
呆然とした。等級、それだけで過去の行いも絆も全てないことにされたことに。親愛があると思っていた友人は、数字が一つ違うだけで手のひらを反したことに。
もう、何も信じられなくなった。"私"という存在はどう足掻いても7等級というラベルが貼られた、下位の国民にすぎないという事実は幼い私には耐え難いストレスとなった。
口数も減った。性格も変わった。何にも期待しなくなった。もう、裏切られるのは嫌だった。
だけど、一人だけ。兄だけは、違った。軍学校で寮暮らしをしていた兄は、月に一回帰ってくることがあり、変化した私を帰るまで知らなかった。
私の顔を見るなり兄は顔つきを瞬時に真剣なものに変え、兄は自分の部屋に私を連れていった。
兄の部屋には、兄が軍学校に進学してから入ったことがなかった。特に用事もないし、プライベートな空間だから。
久しぶりに見た部屋の内装は、いつか見た時となんら変わりがなく、細かい変化はあるかもしれないが、記憶のままの姿で部屋の主を待っていた。
私をベットに座らせ、兄は勉強机に付随している椅子を引っ張り、それに座る。掃除は親がしてくれているため、ベットはフカフカしていた。
「リシチカ、どないした。俺がおらん間に何があった」
リシチカ。名前を呼ばれただけで嬉しくなった。だって、私の名前を呼んでくれる友達はもういなくなったから。
つい笑みを浮かべてしまう。その表情を勘違いしたのか、兄は深刻な表情になってしまった。
「……リシチカ。辛いなら言わんくてもいい。けどな、これだけは覚えといてくれ。俺は何があってもお前の味方や。どんなことでもいい、俺を頼ってくれ」
「お兄ちゃん……」
心のどこかで、そんな言葉は欺瞞だ、結局お前も私を裏切るんだ、と叫んでいる。けれど、それ以上に、兄に対する信頼が私を支えていた。
そこから堰を切ったように私の思いが溢れた。友達が急に無視してきて悲しかったこと。どうにかしたいと思って周りの大人に相談しても、等級を上げろとしか言ってこず何の助けにもならなかったこと。もう何も、自分自身ですら信じられなくなったこと。
兄は、静かに私の話を聞いてくれた。時折相槌を打ち、決して適当に聞き流そうとはしなかった。
「……成る程な。そうか、等級か……。よっしゃ、そうなら俺に任せとけ」
「どうするつもりなの?」
こてんと首をかしげる。
「そっちも聞いたと思うけどな。等級は何か成果を出さへんと上げれるもんやない。そっちが今からどんだけ努力しても、等級が上がんのは大学のときくらいやな」
でもな、と前置きをしつつ兄が語る。
「俺は今は軍学校におるけど、あっちゅう間に戦場や。そこでなら幾らでも武勲を立てれる。そしたら、すぐにでも等級は上がる」
「でも、お兄ちゃんが危ないよ?」
「大丈夫や。お前の兄貴は案外強いんやで」
不敵に笑う兄は、少しキザに思えたが、何よりも頼もしくあった。
「正直、今すぐに友達との仲を修復すんのは難しい。けどな、絶対に諦めんといてくれ。等級が違うからって仲良くでけへんわけちゃう」
真剣に、けれどどこか優しさを孕んだ兄の瞳が私を貫く。
「実は俺も軍学校で冷遇されてる。理由は勿論、俺が7等級やからや。けどな、そんな俺とも仲良くしてくれるやつもおんねん。しかもそいつ3等級やで?上位の国民や」
にわかには信じられなかった。私の学校には高くても5等級しかいなかったから。想像もできないくらいだ。
「結局大事なんは等級やない。心や、そいつをそいつたらしめる精神や。それがわかってへんやつが等級なんかの見かけ倒しに振り回される。けどそれを大事にすれば、お前はきっとええ友達に会える。まぁ無理やったら、俺が無理やり等級上げたるけどな!」
それは冷静に考えれば、兄は等級を気にするやつはどうしようもないと思っていたことの裏返しだった。けれど、もう等級はどうでもよくなっていた。本当は、ただ真摯に相談に乗ってほしいだけだった。私を信じさせてくれるものを、探していたのだ。
「ありがと、お兄ちゃん」
私の欲しかったものをくれたお兄ちゃんに、心からの感謝の言葉を。本当はもっといろんなことを言いたかったけど、口数が少なくなっていた私はこれが限界だったのだ。
「ええてええて、リシチカの気持ちはよう伝わったから。言葉に乗る重みからわかる」
そんな私の気持ちはお見通しだったようで、お兄ちゃんは私の頭を撫で回した。少し乱雑だけど、愛情の込められた手から、優しい暖かさが伝わった。
その時のことは、今でも深く胸に残っている。
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そして私はこの日を切っ掛けに、自分を信じることにした。兄の励ましに、応えたかったから。
完全には戻らなかったが、性格も少し改善した。できるだけネガティブになるのもやめた。あまり否定的に捉えないように努めた。
だからといって友達との仲が直ったわけではない。けれどその心を持つことが大事なのだ。そうすれば、また以前のように話すことができると信じているから。
……でもね、お兄ちゃん。お兄ちゃんが死んでから、私はそれを信じられなくなってきている。
お兄ちゃんには言ってなかったけどね。実は私は嘘を言ってたんだ。ごめんね、嘘つきで。
私は結局、どこまでいっても自分を信じられなかった。だから私は、私を信じるお兄ちゃんを信じたんだ。そうすれば不思議と自信が出てきたから。
けど、それは裏目に出た。現に今、私はもう何も信じたくない。以前よりも、ずっと強く。
そんな私の心の中で、小さく、でも暖かい思い出がなんとか私を保っている。しかし悲しいことに、それは日を跨ぐごとにほんの少しだけ薄れていっている。
それが消えてしまったとき、いよいよ私はダメになる。全てに否定的になり、私という存在は死ぬだろう。それが恐ろしく怖い。
それと、お兄ちゃんが死んでから、より戦争が勢いを増した気がする。これは勘だけど、これからもっと多くの人が戦地に赴くだろう。
ふと思うのだ。私も戦場に行けば、お兄ちゃんに会えるんじゃないかって。今は印刷会社でアルバイトをしてるけど、将来は私も兵士になりたいと思っている。
しかも最近は軍ではなく、民間軍事企業が兵士代わりのことをしているそうだ。これなら私でも、どこかの企業に潜り込めばお兄ちゃんのいた北部に行けるかも。
まだまだ先のことだと思う。けど、それほど遠くない未来に起きることとも思うのだ。
お兄ちゃんはこんなこと望んでないと思う。けど、ごめんね?もう耐えられないんだ。
……だから待っててね、お兄ちゃん。今行くから。
今のリシチカの状態は、原作ゲームの状態の一歩手前を彷徨いています。それにプラス希死念慮