殺人ピエロは連邦生徒会長を狩りたい……♠︎   作:GT(EW版)

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 トランプを武器にする、純情だけどちょっとえっちなミステリアス奇術師系ボクっ子美少女って要素だけを見たら覇権取れそう……❤︎
 カルカの敗因はスートのムダ使い❤︎


殺人ピエロは風紀委員会も狩りたい……♣︎

 状況は、控えめに言ってややこしいことになっていた。

 罪の無いラーメン屋を爆破した便利屋68。

 その場に居合わせ巻き込まれた対策委員会と先生。

 便利屋68を捕らえに来たゲへナ学園風紀委員会。

 それだけならばシンプルに便利屋が悪いだけで終わる話なのだが、この状況をさらにややこしくしているのが「アビドス高校の管理下」である「アビドス自治区」に、外部の武装集団である「ゲへナ学園風紀委員会」がフル装備で現れたことだ。

 原則的に、このキヴォトスでは外部の自治区における無許可の武力行使は禁止されている。いかに規則違反者の取り締まりという目的があろうとも、管轄外の自治区内に部隊を派遣するには相手側に対して然るべき話を通しておく必要があるのだ。

 

 尤も今回はゲヘナ学園の意思と言うわけではない。

 便利屋68を捕らえに来たというのも建前に過ぎず、全ては「シャーレの先生を確保する」という目的の上に移した天雨アコの独断にあった。

 

 連邦生徒会長の失踪により情勢が不安定なこのキヴォトスに、突如として出現したシャーレという超法規的機関。それは近日中に「エデン条約」の調印式も控えているゲへナ学園にとって得体の知れない脅威となり得る、行政官にとって看過できない不確定要素であった。

 

 便利屋68の室長、鬼方カヨコがその思惑を看破すると、越権行為の後ろめたさを自覚しているアコは苦虫を噛み潰し、何も知らされていない銀鏡イオリら実行部隊は「どういうことだよアコちゃん?」と一様に困惑を見せる。

 尤も彼女ら実行部隊もアコの命令を待たずに「公務を妨害する者は全員敵だ!」と制止を訴えていた対策委員会にまで砲撃を仕掛けていたため、彼女らも彼女らで政治的に問題のある行動をやらかしていた。

 ゲヘナ自治区内ならば問題行動ではない。何なら自由人の巣窟とも言える今のゲヘナなら、突然ラーメン屋が爆破されることさえも日常風景な末法ぶりだった。

 尤も、今回の一件の被害者が爆破されたラーメン屋の店主たる柴大将と、勝手に縄張りを荒らされたアビドス廃校対策委員会であることに間違いは無いだろう。

 

 

「先生は渡さない。便利屋も私たちの獲物」

「そうよ! 部外者は引っ込んでなさい!」

「気をつけましょうね〜♦︎ 人に撃ったら謝らないといけないですよ♣︎」

『ノノミ先輩、笑顔が怖いです……』

 

 

 現在通信でのやりとりとなっている奥空アヤネは爆発により負傷した柴大将を護送している為この場にはおらず、彼女らの会長である小鳥遊ホシノも別件の為この場にはいない。

 しかし今日までたった五人で学校を守り抜いてきたアビドス廃校対策委員会として、ゲヘナによるこれ以上の横暴は到底許容できるものではない。ここにいるのは三人だけだが、全員やられっぱなしではいられない性分だった。

 そんな彼女らは天雨アコからの要求に対し、その全てに反抗していく。

 

 

 しかしここで、「蝶の羽ばたき」ならぬ「ピエロの背中押し」によって──この状況は「元々の運命」から、幾つかのズレを起こしていた。

 

 

 その最たる例が彼女──清楚な和服を纏いながら、その目は苛烈極まりない憤怒に染まっている狐坂ワカモの存在である。

 彼女だけはアコとの会話の間も便利屋68に対する攻撃の手を止めておらず、先生を傷つけた(当人は無傷。今も懸命に「落ち着いてワカ!」と制止を訴え続けている)報いを与えるべく、諸悪の根源たる陸八魔アルを討ち取ろうとしていた。

 そうはさせまいと社長を守ろうとする浅黄ムツキと伊草ハルカの妨害を物ともせず、ワカモは大立ち回りを演じていた。

 それは圧巻の大活躍であったが──風紀委員会介入の口実としては、致命的な「隙」となった。

 当然、行政官はそれを見逃さない。

 

 

『……そうですね。確かに便利屋68を捕らえるだけなら、この戦力はあまりに過剰過ぎるでしょう。しかしこの場にいるのが便利屋だけではなく……七囚人も一緒なのでしたら、これでもまだ不足しているぐらいです。そうでしょう? 「災厄の狐」狐坂ワカモさん』

「……っ」

『恐ろしく巧妙な擬態……! 私でなければ見逃してしまうところでしたが、この行政官の目は誤魔化されませんよ!』

 

 

 どやぁ……と突き付けたその言葉を横から耳にして、ワカモは戦闘を中止し初めて風紀委員会の存在に目を向けた。

 他所の自治区に、それもシャーレの先生に対し人攫いのような真似をするのであれば、風紀委員とて正当性は無い。そこを指摘され一度は唇を噛んだ天雨アコだが、常日頃から壮絶な舌戦に身を置いてきた彼女はまだ十分に舞う余力を残していた。

 

 それは、「指名手配中の大物テロリストの拘束」という口実である。

 

 ゲへナの風紀を司る者として、彼女は勤勉にも狐坂ワカモの素顔について調査したことがあった。

 その時は情報が少なく、大まかな特徴しかわからなかったが……今しがた彼女の並外れた力を見て、確信に至ったわけである。

 

 その言葉を聞いて動揺が走ったのはイオリたち実行部隊だけではなく──便利屋68、そして彼女と共にいた対策委員会の面々も同様だった。

 

 

「アルちゃんやったね! 災厄の狐にまで憎まれるなんて、ますます大物になったね!」

「…………」

「……ムツキ、これ以上社長を追い詰めないで」

「アヤネ、災厄の狐って何?」

『百鬼夜行から停学処分を受け、連邦矯正局入りした凶悪犯と聞いていますが……』

「えっ!? ワカさん悪い人だったの!?」

「そんな……一緒に銀行を襲ったり、ブラックマーケットを回ったりしたのに……♣」

“やっぱり、あの時の子だったんだね……”

「……はい。今まで騙しててすみませんでした」

 

 

 これまで彼女と共にいた対策委員会の面々もまた、彼女の正体については今になって初めて知ったのである。

 先生とは先日のシャーレ奪還の際に会ってはいるのが、その時のワカモは狐のお面を被っていたためか、怪しんではいたがこの時まで確信に至っていなかったようだ。

 因みにブラックマーケットで彼らと出会ってからの彼女は、一同に対して狐坂ワカモならぬ「小坂ワカ」と名乗っていたらしい。

 偽名にしては安直だが、このキヴォトスには「セリカとセリナ」、「ハルカとハルナ」というような一文字違いの似ている名前が割と多いため、名前が似ているだけでは誰も正体に結びつかなかったという余談である。

 

 そんな正体バレをしてしまったワカモを見て、勝利を確信した行政官が仕上げとばかりにまくしたてていった。

 

 

『なるほど確かに、私たちは性急な判断でそちらに攻撃を仕掛けてしまったのかもしれません。そちらは後ほど謝罪と弁償をいたしましょう。しかしそこに災厄の狐がいると知っていたからこそ、私たちは侵攻者の汚名を被ってもアビドスの風紀を正さなければならなかったのです! 彼女が次の被害者を生まない内に!』

「今思いついたばかりの口実をよくもまあ……」

「今日のアコ行政官、なんだか絶好調ですね……」

「いや、あれは睡眠不足が一周してテンション上がってるだけ……」

『さあどうしますかアビドスの皆さん! もちろん、狐坂ワカモを大人しく引き渡していただけるのでしたら直ちに部隊を退かせましょう。その際にはもちろん、同行者たる「大人」の責任として、先生には事情聴取に同行していただくことになりますが!』

「でも納得できない! 便利屋のこともワカさんのことも、アビドスのことなら私たちに任せなさいよ!」

「困りますね……♣︎」

 

 

 対策委員会の対応次第では、「指名手配中のテロリストを匿っている」と絶好の口実を与えてしまう。

 しかし、彼女らには正体を知ったところでワカモを今どうこうする気は無かった。

 

 ブラックマーケットで先生だけを目当てに接触したワカモであったが──意外なほどに、彼女は対策委員会の面々と打ち解けてしまっていたのだ。

 元来他人を信用しきれず気難しい性格をしていた彼女だが、「気難しい人」との距離の詰め方には一家言あるノノミや彼女が嫌う「裏切り」とは最も無縁な正直者であるセリカ、年下ながら包容力に溢れたアヤネの三人とは特に相性が良く、今度はアビドス自治区内で一緒にショッピングに行こうと約束する仲にまでなっていた。

 そんな三人は心配そうな眼差しで彼女の背中を見つめ、セリカは納得できない苛立ちを行政官にぶつけていた。

 

 そんな彼女らの感情を受けて、ワカモはふっと微笑むように息を吐いた後──狐のお面を被り、声高に告げる。

 

 

「まったく……馬鹿な人たちですね。こんなわたくしの芝居にまんまと騙され、挙げ句の果てには銀行強盗にまで加担させられるのだから」

「ん、銀行は私たちが……」

「そう、この学園の方々は騙されやすいったらありません! お面を外しただけの簡単な変装に、今まで誰一人気づかなかったのですから」

“ワカモ……”

 

 

 自分が騙した──と強調するように告げたのは、ワカモなりに対策委員会のことを庇ったが故に出てきた言葉であることを、彼女らは全員理解していた。

 ひとえにそれは彼女らと過ごした一日少しばかりの時間が、ワカモ自身にとっても悪くなかったことを意味していたが……そんなテロリストが見せた人情に一同が意外そうな顔を浮かべ、先生は悲しげな目を向けた。

 

 

 ──そう……だから騙されていただけのあなた様には、何も責任はありません。どうか、お気になさらず……

 

 

 お面越しからではあったが、一度だけ振り向いたワカモの目は愛する先生に対し、確かにそう訴えていた。

 だから従う必要は無いと、これまであなた様がわたくしにしたことも、これからわたくしがすることも、あなた様には何の責任も無いことのだと──覚悟を決めた厄災の狐は「真紅の災厄」を取り出し、自分が、自分だけが悪として覚悟を決め、風紀委員会へと挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそこに、変なピエロが現れた。

 

 

 

 

 

「オチチが脱出しちゃったネ♥」

「ん、なんか出てきた」

 

 

 天雨アコの胸を見つめながらふざけた言葉を発し、突如として気配を「発」しながら気持ち悪い笑顔を浮かべたピエロが現れたのである。

 風紀委員会とワカモの間に突如として割り込んできた謎のピエロに一同が動揺する中で、彼女のことをよく知るワカモは色々と空気を台無しにされた怒りも込めてその眉間にとりあえず一発浴びせておいた。

 

 

「痛いじゃないか♦︎」

「出てくるならそう言いなさい」

 

 

 さて──長々と語ったが、それが前回までの彼女ら視点のあらすじである。

 ラーメン屋爆破から始まった超展開に、さらなる燃料を加えていくサプライズピエロ。これがRPGなら炎上ものである。

 そして困ったことに……実に困ったことに、このピエロにはこの混沌とした状況を収める算段があった。

 

 

「揃カルカ? それって、連邦生徒会長の懐刀だろう? なんで、そんな人物がここに?」

「さっきアコが言ったのと同じさ♦︎ もちろん、建前じゃなくて本音の方♦︎ ボクもシャーレの先生に用があったんだ♣︎ そ・れ・と……❤︎」

 

 

 額からダラダラ流れ落ちていく自身の血も意に介さず、ニタニタと気持ちの悪い笑顔を浮かべている不気味なピエロに対し、銀鏡イオリが銃口を向けながら怪訝な顔で問いかける。

 その言葉に、カルカは馴れ馴れしく弾んだ声で応じる。その際、間近に見た彼女に対する採点も忘れない。

 

 

 ──85点……❤︎

 

 

「うっ……なんだこの悪寒……?」

“大丈夫? 私の上着貸そうか?”

「い、いらない……」

「うん♪ イイ気配りだけど今のは2点♣︎ 出会ったばかりの女の子に、それはまだ早い♠︎」

“そっかぁ……気をつけよう”

「まっ、ボクは出会ったばかりの女の子に交際を申し込んだんだけどネ❤︎」

“すごい……で、結果は?”

「うん、わかった。下がっていいよって言われた☠️」

“ごめんね……"

「大丈夫♦︎ 何ヶ月かアピールを続けたらOK貰えたから❤︎」

“やるぅー!"

 

 

 カルカは連邦生徒会長との対決を気持ち良く行う為ならば、時に大きな善行も為していた。それはかつてのアビドスだけでなく、彼女ら風紀委員会の所属するゲへナ学園でも同様である。

 それが「揃カルカ」の名を一部の者たちが英雄視する大きな一因であったが──詳細は長くなるため、ここでは割愛する。

 

 カルカは語らない。

 カルカは過去を語らない。過去にあんまり興味がないからだ。明日にはここで見た風紀委員の顔さえ大半は忘れているだろう。

 

 ともかく彼女はゲへナ学園生には何かと縁があり、同学年である天雨アコや鬼方カヨコとは以前から面識があった。

 しかし雷帝時代よりもずっと活き活きとしている彼女らの姿を見渡し、カルカは満足げに頷いた。

 

 

「くくくくく♦︎ やっぱりだ❤︎ 直に見るとよくわかる……♣︎ 随分垢抜けたんじゃないか? 良い後輩にも恵まれたね❤︎」

「お、おい、アコちゃん……コイツ本当にあの揃カルカなのか? 私にはどう見ても頭のイカれた変なピエロにしか見えないんだけど……」

「揃カルカ……かつて連邦生徒会からスパイとして万魔殿に送り込まれ、雷帝の戦略兵器を破壊した英雄……と聞いていますが」

『……合ってますよ。下級生のあなたたちが覚えているのは万魔殿に潜入していた頃の猫を被っていた姿でしょうが……本性は四六時中いやらしい目で私たちを見ていた変態ピエロなんです。ゲヘナの英雄は』

「ええ……」

「うわぁ……」

 

 

 急に現れた不気味なピエロに対して、彼女のことを知るアコは深いため息を吐き、知らなかった二年生のイオリや一年生の火宮チナツら下級生たちは困惑する。

 そんなヒソヒソ話もどこ吹く風といった様子で、カルカは他の風紀委員たちもよく教育されているのがわかる♦︎とご満悦だった。ラーメン屋爆破以上の蛮行が常日頃から繰り返されている混沌の街ゲヘナ自治区の風紀を取り締まっているだけのことはあり、先日のヘルメット団とは部隊の質が違って見えた。

 

 そして、何と言っても便利屋68である。

 

 ゲヘナに連なる粒揃いの面々に囲まれて、カルカはじゅるりとよだれを垂らした。

 

 

「ボクの見込んだ通り……キミたちはどんどん美味しく実る❤︎」

 

 

 ヘルメット団やスケバンたちではピクリとも反応しなかった愛銃が、今か今かと抜かれる刻を待って脈動しているのがわかる。

 その興奮が、欲望が身体の端から滲み出ているのが彼女らにも伝わったのか、一同は緊張しつつ酷く破廉恥なモノを見るような目でカルカの様子を窺っていた。正しい反応である。

 

 しかし、今はまだその時ではない♠︎

 カルカは興奮から漏れ出た吐息のリズムを整えながら自らの身体を抱きしめるように抑え、自制を促した。

 

 

「おっと、いけないいけない……❤︎ やだなぁ♣︎ キミたちに囲まれていたら、興奮してきちゃったよ❤︎ 鎮めなきゃ……♠︎」

「……何しに来たのですか? わたくしたちと闘いたいのでしたら、貴女昔複数人は好きじゃないとかどうとか仰りませんでしたか?」

 

 

 困惑する一同の中で、最もカルカの人となりを理解しているワカモが再び銃口を差し向けながら真意を問い質す。

 下手なことを言うなら、次こそ本気で力を「練」り上げた弾丸をぶち込むぞという無言の警告に、カルカは「怖い怖い❤︎」とおどけたように応じた。

 

 

「そうだねぇ♣︎ 確かにこんなに美味しそうな果実を、たった一度のパーティーで消費するのはもったいない❤︎」

『なら、何故貴女はここに?』

 

 

 貴女のことです。殊勝に街のパトロールをしていたわけではないでしょう──と続いたアコの言葉は、カルカの性格を正確に把握していた。

 

 

 カルカがこのタイミングで出てきたのは、便利屋68──陸八魔アルに助け船を出す為である!

 

 

 客観的に見て、この状況で一番不利な立場にいるのは絶対的な加害者である彼女らだ。

 経緯はわからないがそもそもの発端はラーメン屋を爆破した彼女らにあり、彼女らもまた「アビドス自治区で問題を起こしたゲヘナ学園生」となる。対策委員会からの心象がどうであれ、その事実を陳列するだけでもアビドス側が彼女らを裁くには十分♦

 何ならその責任をゲヘナ側の管理者に徹底的に追及しても良いし、便利屋を引き渡す代わりに法外な賠償金を強請り、借金返済の足しにするのも選択肢の一つだろう。そのやり方を、小鳥遊ホシノが選ぶかは別として♣

 

 いずれにせよ、100:0で便利屋が加害者であるこの状況では、彼女らを擁護するのは中々に無理がある。

 しかしカルカとしては、せっかく見つけた面白い玩具を……特に「陸八魔アル」という逸材をゲヘナやアビドスの牢獄で腐らしておくのは実に惜しかった。

 

 

 ──さて、どうするか……♠︎

 

 彼女らを見逃したい、という本当の目的を話したら、ワカモはもちろん対策委員会と風紀委員会が同時に阻止しにかかるだろうな……♣︎

 それはそれで面白いんだけど、これだけの玩具をパーティプレイで一度に消費するのは勘弁だな♠︎

 

 

 今の愉しみと後の愉しみを頭の中で天秤にかけ、より楽しめる選択を無駄に冴え渡った思考から瞬時に導き出していく。

 そんなカルカは薄ら笑いをたたえた表情を一片も曇らせること無く、彼女らに一つ嘘を吐くことにした。

 

 

「先生とアビドスの子たちに、伝えに来たんだ♦︎」

 

“私たちに?”

 

 

 嘘を吐く時のセオリーは、真実の中にさりげなく隠すことにある。

 真実の割合が大きいほど、忍び込んだ嘘は些事として見落としてしまう♠︎

 

 

「今キミたちが荒らされているこのアビドスの土地……実は大半がキミたちのモノじゃない♣︎」

「はぁ?」

『……どういうことですか?』

 

 

 その真実は、思った通りこの場のアビドス生は全員知らなかったようでカルカは安堵した。

 

 

「なんだ知らなかったのか♦︎ この自治区の大半の施設はもう、カイザーコーポレーションに買収されているんだよねぇ♦︎」

「っ……!」

「セリカ、やった?」

「私じゃないわよ!?」

『……それは、本当ですか?』

「調べればわかると思うよ♦︎ 気になるなら後でホシノに聞いてみるといい♣︎」

 

 

 カイザーコーポレーションとはキヴォトス有数の大手企業の名であり、今のアビドス高校が莫大な借金を抱えている相手でもある。

 そんなカイザーコーポレーションだが、書類上では今しがた爆破されたラーメン屋も含めこの土地の大半の所有権を持っていた。

 おそらくはかつてのアビドス生徒会が借金を返そうとした結果、徐々に売るものが無くなっていき、最終的にはカイザーコーポレーションに土地まで売り払うことになったのであろう。これは本当の話だ♠︎

 

 ──因みに何故それをカルカが知っているのかと言うと、連邦生徒会にいた頃に会長から聞いていたからである❤︎

 

 そんなカルカの持つ「連邦生徒会長の懐刀」という唯一無二の肩書きが役に立ち、対策委員会の面々にはその口がつらつらと並べた情報をデタラメと笑い飛ばすことができなかった。その事実に衝撃を受け、言葉を失っていた。

 

 その隙に、会話の主導権を握りに行く狡猾なピエロである。

 

 

「それはそれとして……今回の件は、ボクに預からせてもらえないかな♣︎ こう見えてボクは連邦生徒会でも特別な役職に就いててねぇ♦︎ 自治区同士の諍いで話がまとまらない時は、調停役として間に挟まる権限を会長から与えられてるんだ♦︎」

『……本当ですか?』

 

 

 もちろん嘘❤︎

 

 その権限を持っている……持っていたのは今は無き「SRT特殊学園」という特殊部隊であり、揃カルカではない。過去には連邦生徒会の名のもとに武力介入を行うこともあったが、その際はいずれも連邦生徒会長の命令を受けてのものであり、今回のように現場判断で勝手に他所の自治区の問題を預かる権限は渡されていなかった。

 

 基本的に会長はカルカに甘かったが、そんな権限を与えたら碌なことにならないことを理解していたのである!

 

 ……だがその事実を詳しく知っているのは連邦生徒会内にしかいない為、一同の多くはその言葉を真に受けてしまっていた。

 会長の失踪以来その権威は落ちていく一方である連邦生徒会だが、今でも面倒ごとの後ろ盾としてはなんだかんだでネームバリューがある。対策委員会、風紀委員たちの間で戸惑いの空気が漂ってきた。

 

 

「もちろん連邦生徒会の名にかけて、公平公正な処分を約束するよ♣︎」

「……と言ってますが、どうします?」

『信じられません! この人が連邦生徒会の名前を使う時は、大抵碌なことを企んでいませんから』

「残念♦︎ 委員長もそう思うかい?」

「アコの懸念は尤もだけど、私たちも身の丈以上の問題は抱えきれないわ。便利屋68と狐坂ワカモ……かもしれない生徒の対応をそちらでしてくれるなら、今のゲヘナにとってはありがたい話ね」

「だってさ♠︎」

『何を日和ったこと言っているのですか委員長! ……委員長!?』

「ええ、委員長よ」

 

 

 先ほどまで気配を「絶」っていた強烈な「神秘」の鼓動が、カルカの心身をトクンと脈動させる──!

 

 いつからいたのかはカルカにもわからないが、出てくるタイミングを見計らっていたのだろう。

 慌てた様子で驚愕の声を上げるアコをはじめ、一転して緊張に包まれた様子で整列するイオリたちの間を悠々と歩きながら、白い髪の少女が姿を現す。

 緊張しているのは風紀委員たちだけではなく、便利屋68の面々も同様である。彼女ら風紀を乱すアウトローにとって最悪の存在である風紀委員長──「空崎ヒナ」の到着は死刑宣告を意味するものだった。

 

 ……が、今の彼女の冷徹な眼差しは彼女らではなく、独断で委員たちを動かした行政官に向けられていた。

 

 

『出張に行ってたのでは……』

「今帰った」

「くくくく……♦︎ おかえり〜❤︎」

「相変わらずね、揃カルカ」

「みんなしてそう言う♦︎ そんなに変わってないかなぁ♣︎」

「ええ、全く変わってない」

「……♣」

 

 

 すれ違うなりカルカとそんなやりとりを交わす風紀委員長は、表情の変化こそ乏しいものの心底申し訳なさそうな目でそのままアビドス廃校対策委員会の面々と向き合った。

 

 

「この光景……何かの冗談だと思いたいぐらいだけど……今回はこちらの不手際で迷惑をかけた。ゲヘナ学園の風紀委員長として公式に謝罪する」

『えっ……は、はい……』

 

 

 風紀委員会のトップである彼女は、あっさりとこの状況の非を認めた。

 そしてカルカとワカモの姿を一瞥した後、この場にアビドス高校の生徒会長がいないことに気づき、ぼそりと呟いた。

 

 

「……そちらの生徒会長は……小鳥遊ホシノはいないのね」

「ん、外せない用事があるとか」

「ホシノ先輩のこと、知ってるんですか?」

「ええ、大切な友人よ。しばらく会っていないけど」

「意外と顔広いのよね、あの人……」

 

 

 一年生の頃、ボクが紹介したからね♥ その方が面白そうだったから♥

 

 ホシノがこの場を外していることを知った彼女は、心なしか寂しそうな顔をしている気がした。

 そんな彼女は今後風紀委員会がこの自治区に足を踏み入れることは無いと約束した上で、全軍の撤退を命じると早々に引き上げていった。

 その際には砂狼シロコが彼女の後ろ姿を見つめながら「せっかく強い人と闘えると思ったのに……」と呟いていたが、空崎ヒナは風紀委員会を止めに来ただけで戦闘の意思は全く無い様子だった。

 

 

「帰るよ、アコ」

『……はい……』

「それと……」

 

 

 踵を返していく中で再びすれ違ったカルカの耳に向けて、彼女は独り言のように告げた。

 

 

「帰ってくる気はないかって、マコトが言ってたわ。今度はスパイではなく、正式な一員として迎える用意があると」

「くくく断る♠︎」

「そう」

 

 

 その言葉を──伝言を嬉しそうに受け止めながら、殺人ピエロはどんどん増えていくおもちゃ箱の中身に一人絶頂していた。そんな彼女の相手をする時の空崎ヒナはまるで失踪前の連邦生徒会長のように、酷く疲れているように見えた。




 カルカはゲヘナの一般生徒からは割と評判がいい。
 ゲヘナ基準ではギリギリ優等生寄りだからだ。
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