殺人ピエロは連邦生徒会長を狩りたい……♠︎   作:GT(EW版)

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殺人ピエロはカイザー・コーポレーションを狩らせたい……♪

 目には目を。

 越権行為には越権行為を。

 

 風紀委員会はカルカの吐いた薄っぺらな嘘に騙され……或いはその方が都合が良かったのか、空崎ヒナが下した委員長命令により速やかに退去していった。

 その際には表情こそポーカーフェイスを保っていたヒナだが、行政官を見据える瞳には何かこう、親に隠れて悪いことをしていた子供を見るような呆れが滲んでおり、学園に帰ったらお説教と反省文が待っていることだろう。

 

 

 そうしてこの場に残ったのは、未だ痛々しい爆破痕が広がる瓦礫の山と便利屋68、対策委員会と災厄の狐、シャーレの先生に殺人ピエロである。

 風紀委員会が去ったとは言え、メンツの濃さは据え置きだった。

 

 

「さて……じゃあ続きをやろうか」

『えっ、この空気でまだ戦うんですか!?』

「シロコ先輩、そんなに戦闘狂でした!?」

「ん、流石に冗談」

「安心しました〜」

「……でも、あなたの決めた処分の内容次第ではそうするよ? 揃カルカ」

「くくく……♦︎」

 

 

 もちろん、アビドス廃校対策委員会からしてみればこれで問題が解決したということではなく、ただ振り出しに戻っただけである。

 風紀委員会が去って即戦闘再開とまではいかないまでも、私たちには矛を納める理由が無いと──本人は冗談めかしてはいたが、砂狼シロコには物事の本質が見えていた。

 

 そんな彼女の視線を小気味良く受け止めながら、カルカは改めて彼女が持つ戦士の資質に興奮する。

 

 

「イイね♣︎ やっぱりキミも美味しそうだ❤︎」

 

 

 ねっとりとした怪しい眼差しに、セリカとノノミが小声でひそひそと話し合っているのがわかる。「私たち……この人に任せて大丈夫なの?」「もちろんダメだと思いますよー」と心配している彼女らの心情は、この上無く的確なものだった。

 そんな一同の眼差しもどこ吹く風の態度で、変態殺人ピエロはこのアウェーの地で勝手に仕切り出す。

 

 

「さて……♣︎ まずは状況を整理しないとね♦︎ ボクが見たのはラーメン屋が爆破された後のことだから、その前のことは何も知らない♦︎ 一体何がどうしてこうなったのか……お互いの言い分を聞いてみないことには処分の下しようも無いからねぇ♠︎ 案外冷静に話し合ってみたら、それも誤解やすれ違いから始まった不幸な事故だったのかもしれないし♣︎」

「い、意外とまともね……」

『……もしかして、さっきまでのは演技……? 道化師だけに、道化を演じたとか……』

「ありえません」

「ないですねー⭐︎」

“ないのか……”

「くく……♦ 信頼されてるねェ……♥」

 

 

 連邦生徒会役員の名を笠に調停者を名乗り出た者として、カルカは怪しい目つきはともかくとして常識的な切り口から始めていった。

 このように変なことを言ってもまともなことを言っても言葉の裏を勘繰られるのはトリニティ総合学園のようなお嬢様学校ではよくある話だが、このピエロにも部分的には当て嵌まる部分があった。

 

 

 そう──揃カルカはゲへナの野蛮さとトリニティの狡猾さ、両方の性質を併せ持つ♥

 

 

 気分次第で悪魔にも天使にもなれると言えば、彼女の衣装が示すようにジョーカー的存在と言えなくもない傍迷惑な人物であった。

 そんな彼女の言葉に全面的に従うわけではないが、対策委員会共々、便利屋のメンバーと落ち着いて話をしたい気持ちは確かに一致していた。

 

 

「うん。私もちゃんと事情を聞いた方がいいとは思ってる。私にはあなたたちが、そこまで悪い人に見えなかった」

「……随分、甘いこと言うのね」

「あっ、やっと喋った。大丈夫アルちゃん?」

「ええ、ええ大丈夫よ! この私を誰だと思ってるのかしら」

「アル様……!」

 

 

 銃を向けながらではあるが対話の第一歩を踏み出した彼女らの前に、今回の事件を引き起こした張本人である便利屋68の社長、陸八魔アルが出てくる。

 

 これまで貝のように口をつぐんでいたのは、この目まぐるしい状況変化の中で事態がどう動くか冷静に見極めていたからであろう。冷静な判断だ。風紀委員会が去ったのを幸いとして退散しようとしなかった彼女の判断は、極めて賢明である♦

 

 この位置から最も近い遮蔽物に飛び込もうとしたところで、それまでに掛かる時間は早くてもおそらく0.2~0.3秒。自ら背を向けた相手なら、ワカモなら十分に撃ち抜ける時間だろう。

 それこそ突然辺りが暗闇にでも包まれれば話は別だろうが、ここは流れを切って大きな隙を晒すリスクよりも、あえて流れに乗ることを選んだのは良い判断だとカルカは賞賛した。

 

 

 ──この状況から推察される陸八魔アルの性格……!! 理知的で頭の回転が速く秘密主義者の上に……基本は冷徹……!!

 

 

 もちろん的外れである。

 

 

「うん❤︎ いい心がけだ❤︎ 逃げようとするならボクもボクの仕事をする為に闘わざるを得なかったから助かるよ♠」

「……あんた、そんなに真面目な役員だったっけ?」

「ボクはどうでもいい仕事はしないけど、このまま見過ごすのが惜しいと思った時だけこういうことをする♠︎ 奇術師の気まぐれって奴さ♣︎」

“リンちゃんたちとは違うタイプなんだね……”

「あの子が固すぎるのさ♦ あの子はある意味会長より真面目だから♦︎」

 

 

 さて、依然全員銃は持ったままだが、両陣営とも一応の対話の意思はあると見て良いだろう♠

 

 残る気がかりは一番彼女に敵意を抱いている狐坂ワカモがどう動くかだが……カルカにとって幸いだったのは、この間にも彼女の怒りをどうどうと宥めているシャーレの「先生」の言葉が、予想以上に効いていたことだった。

 

 どうやら彼女は本当にゾッコンだったらしい♦ 友人の新しい一面を間近に見て、カルカは内心割と本気で驚きながら彼女に声を掛けた。

 

 

「ワカもそれでいいだろう? だから今は、狐坂ワカモの仮面を被るのはやめなよ♦︎」

「……はぁ……わかりました。貴女に借りを作るのは癪ですが……今は感謝します」

 

 

 今ここにいるのは指名手配中の「七囚人狐坂ワカモ」ではなく、事件に巻き込まれた「一般市民小坂ワカ」であると──連邦生徒会役員の名を使ったカルカが、公的に告げた白々しい発表である。そんなカルカの意思表示に、ワカモは複雑そうな顔をしながらも銃を下ろす。

 そしてその様子は第三者的には「ワカモが対策委員会の友人ワカでいる限り見逃してあげる」と、連邦生徒会役員でありながら反社会的存在にも理解のある寛大な人物に見えなくもなかった。

 

 約一名、言葉の表面を素直に受け止めて困惑している生徒もいたが。

 

 

「良かったぁ……ワカさんが狐坂ワカモだって話、やっぱりあの行政官の勘違いだったのね!」

『セリカちゃん……』

「セリカちゃん、いいですよね……」

“いい……”

「な、何よそんな微笑ましいものを見るような目をしてっ」

「……感謝します。黒見……セリカちゃん」

「ワカさんまで! あ、ちょっ、頭撫でないで」

 

 

 驚いたことに、そんな無垢な反応に誰よりも心が解けていったのが狐坂ワカモその人であった。

 彼女は呆れたように溜め息を吐いた後、道端の子猫を甘やかすようにワシャワシャとその髪と猫耳を撫で回していった。

 あまりにも目の保養に良いその光景を心の底から尊いと感じながら、カルカは思わず感想を呟いた。

 

 

「子供は無垢だね♦ 大人ならムクムクだね♥」

 

“やめなさい”

 

「?」

「?」

「???」

 

 

 その独り言が聞こえた瞬間爆速で反応したのが先生。

 何言ってるんだコイツと首を傾げているのがハルカとアル、意外にピュアなカヨコの三人である。ムツキはひっそりと笑いを堪えていた。

 

 

 

 そんなほのぼのとした一幕に空気が和んだのもあってか、一同の間ではカルカの思惑よりもスムーズに、情報交換を行うことができた。

 

 

 

 何故、柴関ラーメンは爆破されなければならなかったのか……?

 

 そこに至る経緯は──思っていた以上に、全面的に便利屋68が悪かったのでカルカは困惑した♠︎

 

 

 

 陸八魔アルは語った。

 あの優しさに溢れた柴関ラーメンの中にいたら、自分が自分ではいられなくなる気がした──今までの誓いや決意が揺らぎ、どんどん絆されていく自分が気に入らなかった……と。

 

 つまり、彼女はハードボイルドなアウトローに戻りたかったのだ!

 

 残忍で冷酷なアウトローの自分に戻って! 何も気にせず! 対策委員会と徹底的に戦いたかったのであろう。その気持ちはわからなくはない♠︎

 

 

 しかし実際問題これはシリアスな問題である。

 連邦生徒会長の懐刀として働いていた頃に制圧したどこそこのテロリストのリーダーから何度か聞いた憶えがある。彼女のように若くして悪の組織を率いろうとする者はまず最初に自らの甘さを払拭する為、旗上げの際にはあえて自分自身さえも逡巡するような大きな罪を犯すことがある。

 

 この道から二度と引き返せないように──と。

 

 尤もそういった行為は、上の人間が下の人間を洗脳する為の手口として用いることが多かった記憶だ。

 

 そうやって指示通りに動く人形みたいにされた子と闘うのは、一気に萎えたものである♠ 中には目を見張る実力者もいたのだが、早々に興味を失ってしまったものだ。

 

 あれは何と言う組織だったろうか……アリ……アリ? アニマルプレイには興味が無い♣

 

 

 ──それはさておき、調べた情報によると便利屋68は最近になって台頭してきた組織らしく、陸八魔アルは今後もアウトローとして組織の名を上げていく為、あえて悪党らしいことをしてみたかったのだろうとカルカは推測する。

 

 裏社会の若い組織にはよくある話である。尤も、表社会の者たちからしてみれば傍迷惑極まりない行動であることに変わりはないが。

 

 

「……呆れた。ならあんた、社長の言うことには何でも従うってこと?」

「は、はいっ! アル様の言うことは絶対です!」

「クズめ、死で償えと言われても?」

「はい私はクズなので死にます……悪いのは全部私なので、この命をもってお詫びいたします!」

「それをするのは柴大将に謝ってからにしましょうね〜♣︎」

『いや死ぬのはダメですよ……』

 

 

 「悪」たらんとする便利屋68の社長陸八魔アルと、その意図を素早く察しすぎてしまった伊草ハルカ。どちらが悪いのかと言えば、どちらも悪いのが一般論であろう。こうして話を聞いてあげている対策委員会の者たちが、大概の大人たちよりもよっぽど大人の対応をしていると感じるほどに。

 

 一同が戸惑いを浮かべる中、砂狼シロコが透き通るような眼差しでアルを見つめ、問いかけたのはその時である。

 

 

「一つ、聞いていい?」

「……何かしら?」

「なんで……自分を助けてくれた人を傷つけられるの?」

 

 

 カッ

 

 

「……なぜでしょうね……いや、本当になぜでしょう……? 改めて言われると、答えにくいわね……親切にしてくれたからじゃないかしら? ……い、いやこの言い方だと最低すぎるわね……普通の道から外れているのがアウトローだけど、人の道から外れたらただの外道よ……いや、だ、だけど案外、そこに私の目指す道がある……?」

「真顔で何言ってるのアルちゃん。って言うか今の間何?」

「……❤︎」

 

 

 率直に切り込んだシロコの言葉に、アルは改めて自らの内面を掘り下げていくように自問自答を繰り返していく。その姿は表社会の者たちからは到底理解できない彼女の異常性が……アウトローのアウトローたる精神が垣間見えるように映った。

 

 ──実際のところは自分の行いを客観的に振り返るほど「うわっ、私本当に酷いことしたわね……! 柴大将ごめんなさい!!」と自分自身の悪業にドン引きし、良心の呵責に押し潰されながら何を言えば良いのかわからなくなっているだけなのだが、その単純すぎる事実にカルカは気づかなかった。

 

 尤も気づいたとしても、それはそれとして彼女に対して「面白い子……❤︎」と好感度がさらに上がっていたのは変わらないだろう。

 

 

「……いや、そんなものじゃなかったわね。私の憧れたハードボイルドなアウトローは」

 

 

 

 

 

 ──私は一体、何の為にアウトローを目指した……?

 

 

 

 

 真っ白い背景の中で自分自身の本質に訴えかけ、陸八魔アルは長考する。

 

 目指す未来と、置いてきぼりにしてきた過去──捻れながらグルグルと繋がっていく螺旋の中で、次第に答えが見つかったのか彼女はその目を開き、シロコの無垢な眼差しと向き合った。

 

 

「全ては社長の私の不得の致すところよ。言い訳はしないわ。ハルカは私の命令に従っただけ……」

「何よ……それ」

「……ただ、私もハルカも大将を傷つけたくてやったんじゃないわ。あんな親切な人、傷つけたいわけ、ないじゃない……」

「…………」

「ごめんなさい」

 

 

 

 覚悟を決めた眼差しで対策委員会と対峙したアルは、銃を放棄するとその場に正座で座り込み、堂々と沙汰を待った。

 そんな社長の行動に誰よりも動揺したのが彼女の部下であり、爆破の実行犯である伊草ハルカだ。

 今にも腹を切って詫びそうな社長のことを庇うように駆け出そうとした彼女に気づき、カルカは胸の内の愉悦を隠しながら忠告しておいた。

 

 

 ──その首に、トランプの先を突きつけながら。

 

 

「動くと切る♠︎」

「……っっ!?」

 

 

 銃剣に手を添えたワカモよりも先んじて動き、ハルカの肩を掴むなりその首筋に突き付けてやったのはカルカなりの親切心である。そうしなければ、彼女はワカモに斬り伏せられていたからね……♠︎

 

 そしてカルカとしても、リーダーとして責任を取ると言った陸八魔アルの高潔な精神に水を差すのは──自分以外の誰にも許したくないな♠という独占欲めいた感情があった。

 

 図らずも部下を人質に取る形になったことで、鬼方カヨコと浅黄ムツキからは強い殺気を向けられたわけだが……もちろんその眼差しはカルカを気持ち良くするだけだった。

 

 そして気分が良くなったからこそさらに、カルカの舌はこの状況でよく回ってくれた。

 

 本当はボク、人見知りなんだけど……♣

 

 

「くくく……♦︎ ワカモと言い、キミと言い……学園の生徒が、一人で責任を背負わなくていい♣︎」

「はあ?」

 

 

 緊張に包まれる便利屋68の空気を和ませるように、カルカはニタリと笑いながらハルカの首筋に突き付けていたトランプを「アーラ不思議❤︎」と一瞬にして薔薇の花束へと変えていった。

 

 カルカはこう見えて、実は奇術師なのである! 故に、タネも仕掛けもあるマジックは彼女の十八番だった。

 そんな突然の手品に対して素直に驚いてくれたのは先生とノノミだけだったが、それを多いと取るか少ないと取るかは人それぞれであろう。

 

 いずれにせよ再び衆目を引きつけるには十分な効果があり、その花束を近くにいた先生に──渡すのは色目をつかうみたいでワカモに悪い気がしたので、いつの間にやら手品師の助手のように傍らに立っていたノノミに渡しておいた。

 そうしてカルカはハルカを解放しながら、マジックショーの司会のように一同に語りかけていった。そう言えば、「カルカ」と「ハルカ」も一文字違いで似ているね❤︎と思ったのはその時である。どうでも良かった。

 

 

「キミたちもだ♦︎ 狩る相手を見誤ったらいけないよ♠︎」

 

 

 くくっ、とツボに入った笑いを堪えるカルカは、その目を上弦の月のように歪める。

 元々お気に入りの玩具と認定した以上、便利屋68のことはそれらしい言葉で弁護しながら全力で見逃すつもりだったのだが……事情を聞いたところ、思った以上に彼女らに落ち度があったことと、リーダーである陸八魔アル自身に逃亡する気が無く、「全面的に自分が悪い」と認めてしまったことで彼女の完璧な無罪放免が難しくなってしまった。

 

 

 なら、どうするか? その罪を第三者に押し付けてやればいい♠︎

 

 

 そこからの、カルカのすり替えは早かった。

 

 

「キミたち対策委員会にとって、コレは逆転のチャンスだ♣︎ ここで全て便利屋が悪いと彼女らを裁いてしまうのは、とてももったいないとは思わないかい?」

「もったいない……?」

『……どういうことですか?』

「彼女ら便利屋68は、依頼を受ければどんな非道も厭わない生粋のアウトロー❤︎ それがたとえ、「自分たちの土地で不法営業しているラーメン屋を退去させろ。どんな手段でも構わない」という冷酷な命令でもね♠︎」

“──! それって……!”

 

 

 先生は頭の回転が早いようで、いち早くこの事件の黒幕──黒幕かもしれない組織の存在が脳裏に過ぎったようだ。そう誘導した結果であるが。

 そんな彼の反応に気を良くしたカルカは、独自ルート──「失踪前に会長がこんなことを言っていたなぁ❤︎」という漠然とした情報ソースをもとに、さも「ボクは全てわかっているよ♠︎」感を出しながら重大情報を明かしていった。

 

 

「言ったろう? このアビドスの土地の大半はもうカイザー・コーポレーションに買収されているって♣︎ その土地の整理をする為に、便利屋68は名前通り悪いオトナに利用されただけなのだよ♦︎」

「……じゃあ、この人たちを雇ったのっていうのは……」

「キミたちもよく知っている企業さ♠」

 

 

 

 ──カイザー・コーポレーション……!!

 

 

 

 答えは、一つだった。

 その名前が浮かんだ瞬間、対策委員会の面々が怒りを滲ませた。

 そんな彼女らの感情をさらに煽り立てるように、カルカは「巨悪」の存在を仄めかす。

 

 

 

「そう、便利屋68にラーメン屋を爆破しろと命令したのも……♦」

 

 

 

 ──カイザー・コーポレーション……!!

 

 

 

「アビドス生徒会に借金を背負わせたのも……♦︎」

 

 

 

 ──カイザー・コーポレーション……!!

 

 

 

 途中で「あっこれ私が扇動する時よくやる奴です」と気づいたワカモがカルカと目配せし、阿吽の呼吸でそれに乗っかりながら。

 

 

 

「今、わかりました。便利屋68とアビドス高校がここで潰し合うことで一番得をする存在……それこそが!」

 

 

 

 ──カイザー・コーポレーション……!!

 

 

 

 一同の怒りが一気に頂点まで達する。

 これまで自分たちを苦しませてきた悪徳企業……それと関わってしまった旧生徒会が悪かったのだと、理性の部分では理解している。

 だが彼らが柴大将までも害そうとしていたと──その事実を知った瞬間、キヴォトスきっての善良集団……善良?集団である一同の感情はもはや止めることができそうにない。

 

 

 

『元をと言えば、私たちが銀行を襲うことになったのも……!』

「ん、それは私の提案」

「そこは譲れないんですね……」

 

 

 

 ──が、悪い方向に暴走しかけた彼女らの熱は空気を読まない砂狼シロコの無邪気さによってクールダウンしていく。ワカモが小さく舌打ちしたが、少しだけ安堵の表情を浮かべていた。

 怒りに身を任せて銃を取る──自分と同じ道に彼女らが行かなかったことを、どこか安心しているような表情だった。

 

 

 

「ま、目に見えるものだけが真実ではないってコトだね♦ 歴史的にもアビドスの子は人が良くて騙されやすいから注意が必要だ♦」

 

 

 さて、手品の常套手段は、相手の注意を隠したいものから遠ざけることにある。今回は便利屋68に対する彼女らのヘイトを分散させる為、因縁ある彼女らの雇い主について明かしてみた次第だ。

 カルカとしても少し無理があるか♣︎とは思っていたが、これが予想以上に食いつきが良かった。彼女らはよほど、かの大企業に辛酸を舐めさせられてきたのだろう。

 

 

 ──アビドスの子は単純一途だからね❤︎

 

 

「ん、何それ?」

「ボクが考えた学園別性格分析さ❤︎ 血液型性格判断と同じで、根拠はないけどね♦︎」

 

 

 これは連邦生徒会という中立的立場にいるから、と言うよりはカルカの趣味である人間観察の賜物としての個人的解釈である。

 カルカから見て、キヴォトスの生徒たちは各学園ごとに性格の傾向がはっきり分かれているように感じていた。

 

 

「アビドスは単純一途❤︎」

 

 

 ビシッと黒見セリカを指差しながら再び語る。この中では、一番わかりやすい性格をしていたからだ。

 アビドス高校は生徒自体が少なすぎるため統計としては弱いが、小鳥遊ホシノや梔子ユメを含む彼女の先輩がたから鑑みても、その分析が個人的にしっくり来ている。

 

 

“あってる……”

『あってます?』

「私は単純じゃない」

「でも、私たちはみんな一途ですよねー⭐︎」

「……まあ、そうじゃなかったら五人ともここにいないでしょ」

 

 

 「単純」という指摘はともかくとしても、「一途」という点については本人たちも納得している様子だった。

 彼女らの先輩である小鳥遊ホシノが時に危うさを感じるほど一途な性格をしているのが象徴的であり、後輩である彼女らはそんなホシノの姿をリスペクトしてきたのだからさもありなん。

 そのように、生まれ育ちが違えば性格にも傾向は出るものだ。それは陸八魔アルたちゲヘナ学園の生徒も同様だろう。

 

 

「因みにゲヘナは気まぐれで嘘吐き♠︎」

「くふふっ」

「あってる……」

「……どうかな。私たち三年生はそんな感じだけど、中には誠実な子もいるよ?」

「誠実なのと嘘吐きなのは矛盾しない♣︎ だろ? カヨコ♥」

「……それは、まあ……」

 

 

 自由な校風が行くところまで行ってしまっている今のゲへナ学園では、カルカのように気まぐれで嘘吐きな生徒は多い。今の万魔殿のトップが象徴的だが、しかしもちろん、単純一途と比べてその性格が悪いということはない。

 

 嘘吐き(みえっぱり)ではあるが本質的には善良であるが故に、最後まで自分を偽りきることができない陸八魔アル然り。

 

 本当は割と気まぐれな性格をしているのだが、それ以上に頑張り屋で責任感が強いが故に今日も激務の中遥々駆けつけてきた空崎ヒナ然り。

 

 一括りには扱ったが、「気まぐれで嘘吐き」の中にも語りきれない個性が各々にあるのだ。強引なこじつけと言えば否定できないけど♥

 

 

「だからキミたちは相性いいよ❤︎ 性格が正反対で惹かれ合う❤︎ とっても仲良しになれるかも♦︎」

「そう……」

「かなぁ?」

 

 

 横で「百鬼夜行も知りたいです……!」と言いたげなワカモの視線を華麗にスルーしながら、カルカは再び一同の様子を一瞥する。

 

 実際のところカルカは、便利屋がカイザー・コーポレーションからどのような依頼を受けてきたのか全部知っていたわけではない。半分ぐらいはノリである。

 しかし彼女らの顔を見るに、これらの推測は全部正解とは言わないまでも、当たらずとも遠からず似たような言質は取っているのだろう。

 

 社長のアルもまた肯定を口にはしなかったが、依頼主がカイザー・コーポレーションであることを否定せず、かの企業に対しては色々と思うところがある様子が見て取れた。

 

 

「今度からは、依頼を受ける相手と場所を選ぶことだね❤︎」

「……考えておくわ」

 

 

 ──さて、そろそろホシノが帰ってくる頃かな? 帰ってきてほしいなぁ……♥

 

 

「いずれにせよ、ここから先はホシノが帰ってからだね❤︎」

『それは……そうですね』

「ホント、先輩ったらこんな大事な時にどこ行ってるのよ」

「ノノミは何か聞いてる?」

「んー♣︎ 多分、病院じゃないでしょうか」

“病院?”

「ヒミツの密会❤︎って奴だね♪」

 

 

 カルカとしてはこの談合、便利屋68に向いていた対策委員会のヘイトをカイザー・コーポレーションに擦り付け、どうにか彼女らの間で共闘展開に持っていき、何かこう「スケバン同士で芽生える友情」的なノリで和解させられればベストじゃない?という方向でアバウトなライブ感に任せていた。

 

 何なら細かなことはここにいる「大人」や帰還後の小鳥遊ホシノに任せ、用が済んだら自分はさっさと退散する気満々である。

 

 そんな無責任で身勝手なピエロだが、しかし彼女が帰ってくるまでの間はもう少しだけ居座ることにした。

 もちろん、今ここでこの子たちと()る気は無いが……何も戦いとは、武力に拘る必要は無いのだ♦

 おあつらえ向きに、今のカルカの手元には51(・・)枚のトランプがあるのだから。

 

 

「ホシノが来るまでの間、時間潰しにゲームでも楽しみながら、じっくり話し合おうか♣︎ そうだね……ババ抜きババ抜きでもどうかな?」

「何それ」

「ババ抜きババ抜き?」

「何をわけのわからないことを……ババを抜いたらババ抜きにならないでしょう。それ以上頭をおかしくなさらないでください」

“それってジジ抜きのことじゃない? 面白いよね、やるやる”

「そう♪ 先生は知ってるんだね♦︎」

「流石ですあなた様! ババ抜きならぬジジ抜きとは、とても楽しそうですね!」

「ん、恐ろしく早い変わり身……私じゃなくても見逃さないね」

「流行ってるんですかその言い回し……」

 

 

 カードゲームの良いところは、真面目な話をしながらでも不真面目な話をしながらでもプレイできることだとカルカは考えている。

 そして話に夢中になっている間はイカサマし放題なところも好みだ♥ 今回は勝ちに拘る状況でもないので、あえてそんなことをする気は無いが。

 今回の目的は性欲の発散を兼ねた時間潰しと──単に、彼女らと遊んでみたくなっただけだ。

 そんなカルカは瓦礫の一つを座布団代わりに拾い上げ、その上に腰掛けてトランプを配った。

 

 

「くくっ♦︎ 実はこのトランプ、ハートのエースが欠けていてね❤︎ この枚数でババ抜きをやろうとしたらジョーカー以外に一枚余ってゲームにならないんだ♣︎ だからスペード、ダイヤ、クローバー、三つのエースの内どれかをババに見立てたババ抜き……ジジ抜きをヤろうというわけさ♠︎」

「ん、確かにちょっと面白そう」

 

 

 さあ、始めよう。

 便利屋68とアビドス高校の運命を賭けたジジ抜きを……なんてね❤︎




 今後便利屋68はちょっとだけ依頼を受ける相手は選ぶようになります♦︎ それはそれとして騙されるのは変わらず♠︎

 ブルアカ原作を読み返して思いましたがラーメン屋爆破の件はセリカ以上にシロコの地雷踏み抜いてそう……♠︎
 自分を救ってくれた恩人を傷つけるのって色々と刺さりすぎてるねェ♣︎

 次回でとりあえず完結予定です♦︎
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