【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう   作:むにゃ枕

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02.襲撃

 キャスバル・レム・ダイクン。そしてアルテイシア・ソム・ダイクンはムンゾから姿を消した。反ザビ家のテロリストによって誘拐された2人は、非業の死を遂げたのである。少なくとも報道と、それを目にする市民の中ではそうなっていた。

 2人を誘拐したガンタンクは、連邦軍の攻撃により原型を留めず焼け落ちた。そしてその中からは真っ黒で性別すら判別できない遺体が2つ見つかったのである。

 

 マスコミは、この黒焦げの遺体をアルテイシアとキャスバルとして大々的に報道した。勿論この報道には、ザビ家の意図が反映されている。

 民衆はこの悲惨な出来事を、悲劇として楽しんだ。そして、3日後にはそのことを誰も話題に出さなくなった。

 

 ダイクン派などの反体制派や知識人は、この事件の真実を追究しようとしたが、権力の壁に阻まれた。

 

 実際、遺体は、子供のものにしては幾分大きすぎた。更に、その首からは連邦軍のドックタグがぶら下がっていた。しかし、その事実はザビ家によって意図的に無視された。

 勿論、この事実が世に出ることはない。政治的に利用価値のあるダイクンの子を、そっくりそのまま奪われたのだ。公にしてザビ家の失態を宣伝する必要はない。

 

 デギン・ザビはダイクンの子に関心を持っていなかった。キャスバルとアルテイシアは、旧友ダイクンが正妻を顧みずに、妾との間にもうけた子である。所詮は妾の子であり、気に留める程ではないと思っていたのだ。

 それどころか、デギンは2人に対して同情的だった。同い年の息子であるガルマの存在も、デギンから冷徹さを奪っていたのかもしれない。

 

 ダイクンという男は、思想家としては極めて非凡な才を持っていた。ムンゾをジオンへと改名させるほどの熱狂を人々に与えたのだ。ザビ家がポピュリズムに迎合し、ダイクンを意図的に象徴化していたとはいえ、ダイクンの思想は紛れもなく偉大なものだった。

 

 その反面、政治家としてのダイクンは凡庸。悪く言えば無能だった。健康面を蔑ろにし、全てを思想に捧げたダイクンの生活は破綻していた。破綻した生活の末に、議会で頓死したのだ。政策についても有用な物は残せず、思想という熱病をサイド3に流行らせただけだった。

 

 ギレン・ザビもダイクンの遺児については、デギンと同じように考えていた。何故なら、思想家の子が、必ずしも偉大な思想家になるとは限らないからだ。ニュータイプ論でも、遺伝子と環境の両方が引き合いに出されるように、人間は血筋だけでは決まらない。

 

 思想家の子を恐れて殺害するほどの病的さを、ギレンは持っていなかった。ギレン・ザビはその外見から連想されるほど繊細ではなかったし、どちらかといえば豪胆な人間だった。

 

 キシリアのみが、キャスバルとアルテイシアの行方を追っていた。キシリアは、彼らを抹殺したかった。政治的には利用するべきである。しかし、キシリアは自身を侮辱し、多大な屈辱を与えた対象を生かしておくほど人間が出来ていなかった。

 

 キャスバルが投げつけた言葉は、キシリアの胸を深く穿っていた。自身がギレンに嫉妬し、コンプレックスを抱いていることは意識していた。女を武器にしたことも、少なからずある。

 年を重ねた大人なら、キシリアの内面を見抜けるだろう。しかし、キャスバルは大人ではない。12歳の子供が、それを言ったのだ。

 

 自身ではないものを見ているような見透かした視線。それは、キャスバルがキシリアを無視しているような印象を、彼女に与えていた。自身を無視し、胸を揉み、あまつさえ侮辱した男。キシリアには、キャスバルを生かしておく理由は残っていない。

 

 アナハイムに潜入していた部下が当たりを引いた。アナハイム社副社長のチェルシーが、ジンバ・ラルと会ったのだ。キャスバルらは、巧妙に外界と連絡を絶っていたが、ようやく尻尾を出した。

 キシリアの口角は無意識に上がっていた。一口、紅茶に口をつけると、確実にキャスバルを始末するよう命令を下した。

 

 

 セイラ・マスは兄と難民キャンプへ来ていた。セイラは診療所の医療ボランティアをしているのだ。兄エドワウも、時たまセイラと共に、ボランティアに参加している。

 

「セイラ、スタンダード・プリコーションは徹底した方が良い。医療者が患者から感染しては、患者にも迷惑がかかる」

「……お兄さん、どこでそんなこと知ったの??」

「色々さ……」

 

 この兄は物知りなのだ。どこで知ったのか分からないことも、時折セイラに話してくれる。

 

「…………エドワウくん。こっちこっち」

「ああ。ジニさん」

「ふふ。君と話したいという子はたくさん居るわよ」

「駄目よ! お兄さん! また女の子たちのところに遊びに行くんでしょう!」

 

 兄の数少ない欠点に、人を疑わないところがある。この兄は非常に女の子に甘い。背が高く顔立ちも整っており優しいのだ。これでモテないはずがない。

 難民キャンプの女の子は、明らかに玉の輿として、兄を狙っている。兄も満更でもないような感じなので、セイラがしっかりするしかないのだ。

 

「ジンバおじさんが怒っていたわよ。お兄さんが、おじさんの話を馬鹿にしたんだって?」

「ああ。あの人は少し妄想癖がある。ジオン・ズム・ダイクンという人に強いこだわりがあるみたいなんだ。何の根拠もない話を真実のように語るからね。つい、指摘してしまった」

 

 セイラもジンバのことは、好きではない。キャスバルがジンバを露骨に無視し、その授業から抜け出すため最近のジンバは以前にも増してヒステリックになっていた。

 

「お兄さん。本当にジンバおじさんと相性が悪いわね」

「出来ることなら別の家で暮らしたいな。テアボロさんは良い人だからね。僕はここでの暮らしがけっこう気に入っているんだ」

 

 セイラはエドワウの手を握った。なんとなくそうしたくなったからだ。

 

「勝手なことをなさっては困る!! 厚生省の役人!? ウソをおっしゃる! あれはアナハイムのチェルシー副社長だ! 私の商売敵だった男です!」

 

 2人が難民キャンプの診療所から家へ戻り、シャワーを浴び終わると、テアボロがジンバに向けて声を荒げていた。

 

「お兄さん。アレって…?」

「ジンバさんが、余計なことをしたんだ。ザビ家の奴らにこの場所が知られてしまったかもしれない」

「それって……?」

「殺し屋が来るってことだよ」

 

 兄の真剣な表情に、セイラは思わず息を呑んだ。

 

「大丈夫。セイラは僕が命に代えても守るから」

「私だってお兄さんを守るわ」

「そんなことはしなくても良いよ。僕はお兄ちゃんだからね」

 

 エドワウの懸念は、現実となった。テアボロ邸は、破落戸による襲撃を受けたのだ。ザビ家が糸を引いているのは明らかだった。エドワウは隠していた散弾銃を構える。

 銃声が近づく前に、セイラとエドワウは部屋から逃げ出した。 

 

「警察はまだ来ないの??」

「ゴロツキが居なくなるまでは来ないだろう。警察だって死にたくないはずだから」

「じゃあ、私たちどうなっちゃうの?」

「問題ないよ。そのための銃だ」

 

――カツン、カツンと廊下を歩く高い音がした。

 

「誰か来てる?」

「みたいだね」

 

――足音が明らかに早くなった。足音の主が、セイラのベッドが空であることを発見したのだろう。明らかにセイラとエドワウを探している。

 

「兄さん!!」

 

 セイラが、エドワウに縋り付く。

 

「下がってて。大丈夫。大丈夫だ」

 

 エドワウはセイラを下がらせると散弾銃を構えた。現れた足音の主は、古めかしい西洋甲冑に身を包んでいた。おそらくは、ゴロツキの中に身元を隠して本来の任務を達成したい人物が居たのだろう。それに合致したのが西洋甲冑だったということだ。

 

「クソっ! うあぁぁぁ!!!」

 

 エドワウは、甲冑から放たれた突きを躱し、散弾銃を相手の鼻先目掛けて撃った。衝撃を殺しきれなかったのか、西洋甲冑はそのまま窓を突き破り落ちていった。

 

 その場に荒い息だけが、残った。

 

「兄さん!? 大丈夫!?」

「ああ。怪我はない。でも、変なんだ。相手の記憶が中に入ってくる。……気持ちが悪い」

 

 セイラは、兄がどこか遠くに行ってしまうような気がした。今、兄を止めなければならない。泣きながら必死に兄に縋り付いた。

 

「泣くなセイラ。お兄ちゃんはどこへも行かないから」

 

 一夜が明けた。テアボロ・マスは重傷だったが生きていた。会話も問題なく出来る。包帯に塗れているが生命に別状はなかった。

 ジンバ・ラルは無惨な死体で発見された。けれども、ほとんどの人がその死を悲しまなかった。

 

 葬儀も終わり、テアボロはこの場所から退去することを決めた。彼が安住の地と考えたのはサイド6だった。

 

「兄さん。私たちどこに行くの?」

「サイド6。リーアさ。地球よりは安全だと思うよ」

「どんな場所でも大丈夫よ。兄さんは私が守るから」

 

 セイラの中に、兄を守りたいという小さな決意の火が灯った。




ちょっと時間がないので、感想返し出来ません。感想は見てます。いつもありがとうございます。
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