【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう 作:むにゃ枕
エドワウ・マスは飛び級で大学を卒業し、コロニー公社に入社した。優秀な彼がコロニー公社に入ることを残念がる人は何人かいたが、彼の進路を本気で止めようとする人間はいなかった。
コロニー公社に入社したエドワウは、リボーコロニーに赴任した。そして、平穏な日々を過ごすこととなる。しかし、そんな平穏な日々は、突然、妹が軍人を志したことで終わってしまった。
ザビ家により生活をめちゃくちゃにされたことから、エドワウは他人の生活には無闇に介入すべきでないと考えていた。家族と言えど他人であり、妹の決断には口を挟むべきではないと自重していたのだ。
本音を言ってしまえば、セイラが軍人になることには大反対だった。しかし、エドワウは彼女の決断を尊重した。
二度と家族を失わないように、守る力が欲しいというセイラの志望理由は、真っ当なものだった。彼女の決意は固く、エドワウが何を言おうとも、決心を曲げるようなことは無いだろう。
「クリスさん。妹が軍人になってしまったんだ。僕は、あまりそれを嬉しく思えない」
「あー。それは大変よね。私の両親も私が軍人になることに、あまり良い顔をしなかったわ。でも、私がどうしても軍人になって、皆を守りたいと言ったら納得してくれたの」
「理解はしているんだ。軍人というのは立派な仕事だよ。国家のために生命を捧げることは、僕には出来ない。無事を信じて、妹を待つ身になるとは思ってもなかった」
クリスは、エドワウという新しい隣人と親しくなっていた。エドワウとの関係は、そこそこ深いプライベートの話が出来るくらいの友人と言える。
ここ最近のエドワウの悩みは、もっぱら妹が軍人を志望したことだった。道端で顔を見合わせた時に、エドワウはもっぱらこの話をするのだ。
「妹さんが心配なのね。でも、軍人になれる年頃なんでしょう? そんなに心配する必要はないわよ」
「セイラはまだ17だ。人生は長いのだからもっと考える時間を持つべきだよ」
「下士官コースなの?」
「士官学校だよ」
「まあ、驚いた。妹さん、とても優秀なのね」
セイラ・マスは弱冠17歳で連邦軍士官学校に入学していた。かなり異例では有ったが、首席入学の彼女の資質にケチをつける人間はほとんどいなかった。
「ジオンは、間違いなく戦争を仕掛けてくるだろう。その時に、妹が戦場に出たら……そう考えるだけで、不安で息が苦しくなるんだ」
「世の中の親の気持ちね。権力者が、兵士を1個の数字ではなくて大切な人間だと思えたら、戦争の引き金も重くなるんでしょうね」
「つまり、戦争は起きると?」
「それは軍事機密よ」
クリスは茶目っ気のある笑顔を見せると、自宅の玄関を開き、エドワウに手招きをした。戦争に関する話は、立ち話で済ませるには、重すぎると判断したのだろう。
ジオンの宣戦布告は、つつがなく行われた。ジオン公国軍は連邦宇宙軍に対して、同時多発的に電撃戦を仕掛けた。この宣戦布告と共に行われた奇襲は、多大な衝撃を連邦軍に与えた。
衝撃を受けきれなかった連邦宇宙軍は、サイド1、サイド2、サイド4の諸コロニー都市を失陥する。更に、グラナダ、フォン・ブラウンといった月面都市の支配権をもジオンに奪われることとなった。
連邦軍は無能ではない。ジオンの侵攻は予期されたものであり、シナリオについても連邦軍は予想していた。
連邦MS開発の父であるミノフスキー博士と、その弟子であるテム・レイ。彼らが近代化改修したガンキャノンは、ジオンのザクとも対等に渡り合った。一部のエースが乗る機体は、ジオンに手痛い打撃を与えている。
連邦軍が敗北した理由は、端的に言ってしまえば、アセスメント不足だった。具体的に言えば、連邦軍はジオンのリソースマネジメントを見誤ったのである。
連邦軍が想定したシナリオは、ジオン軍が戦時国際法と、
連邦政府は、コロニー住民などの民間人に対する識別や、保護などに、ジオン軍がリソースを割くと考えたいのである。
しかし、現実は想定よりも甘くなかった。ジオン軍は、民間人を巻き込んだ戦闘や、コロニー宙域での核兵器の使用。さらには、コロニー住民の虐殺などを行った。
これらを、連邦軍は想定していなかった。ジオンの攻勢限界を見誤り、戦力展開と迎撃に失敗したのである。その結果、アイランド・イフィッシュがオーストラリアのシドニーへと落下することになった。
サイド5ルウムにおいて、連邦軍はジオン公国軍を迎撃することとなる。この迎撃戦における連邦軍の主戦力は、宇宙軍最精鋭であるレビル艦隊だ。
レビル艦隊は、ミノフスキー粒子下の戦闘に十分に順応しており、最新MSであるガンキャノンを大規模運用出来る能力も持っていた。また、ティアンム艦隊も練度では劣るものの多数のガンキャノンを運用していた。
連邦軍はジオン軍と同等以上の艦隊運用能力、戦術指揮能力、兵器運用能力を持っていた。練度もジオン軍と同等以上だった。
ジオン公国軍は戦術有利を持たぬまま、3倍以上の敵戦力と対峙することとなった。そして、当然の結果として敗北した。
ジオン公国軍は連邦艦隊の撃滅、ルウムの占領といった2つの戦術目標を達成できず。2回目のコロニー落としといった戦略目標も達成できなかった。
連邦軍はジオンの意志を挫くことに成功した。つまりは、ルウム戦役で勝利したのだ。
後に一週間戦争と呼ばれることとなる開戦からルウム戦役までの一連の戦闘は、地球圏に無視できない影響を与えた。
それは、中立を宣言したサイド6においても同様であった。サイド6は、連邦軍の基地を持たないと宣言したが、それは嘘である。
エドワウ・マス襲撃事件もあり、リーア政府はジオンを信用していなかった。リーア自衛軍の基地とは別で連邦軍基地を持っており、そこではMSのテストも行われていた。
「うわぁ。エドワウくんがすごい顔をしてる」
「クリスか……戦争がはじまってしまったんだ。セイラが心配でどうしようもないんだ」
「あの子なら大丈夫でしょう。セイラちゃんはすごくMSへの適性が高いわ。これは秘密なんだけど、あの子は、教導役をしていた私をシミュレーターで簡単に倒したわ。天才なんてものじゃないわよ。あれがニュータイプなのかもしれないわね」
「才能なんて有ったら、前線に送られてしまう。凡庸で良かったんだ」
「エドワウくん。本当に妹に甘いし心配性よね。浮いた話の1つもないし……」
エドワウ・マスに何やら特殊な事情があることを、クリスは悟っていた。上官からそれとなく監視をするように命じられたこともその根拠となった。
クリスは自分自身の立ち位置を、監視役というよりも、彼の友人だと思っている。エドワウにとってもそうであれば良いなと彼女は思っていた。
慎重なクリスは、セイラには自分とエドワウの関係を知らせていない。エドワウからこれほど溺愛されているのだ、セイラがブラコンであることも容易に想像できる。
「人はそれぞれ、抱えてるものも、思っていることも違うわ。でも、私はエドワウくんの友達として一緒に重荷を背負ってあげるくらい出来るわよ」
「……友人だからこそ、話さない方が良いこともある。僕の過去で君の態度が変わるとは思っていないが、みすみす危険に巻き込むわけにはいけない」
「考えすぎよ。友達って言うのはもっと気楽な関係なんだから」
人工的に作られたコロニー。天候さえも人工的に作れる環境だ。空はまだ、薄曇りだった。