【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう 作:むにゃ枕
ルウム戦役が終わった。連邦軍はジオンに勝利したが、それ以上の動きを見せなかった。戦争で大切な誰かを殺された市民は、この連邦軍の鈍重さを痛烈に批判した。
賢明な知識人さえ、連邦軍の活動の低調ぶりをあげつらっていた。こういった市井の反応は、連邦軍中枢の情報が秘匿されていることの現れであった。
ジオン軍もまた、連邦軍の不気味な沈黙を恐れていた。
「兄上、地球侵攻とは正気なのですか?」
「私は至って正気だとも。キシリア。貴様も参謀本部から上がった文書を読んだのだろう? 連邦軍が攻勢に出ない理由は、彼らが攻勢限界に直面しているからだ」
ジオン軍の首脳部を集めた会議で、ギレン・ザビは地球侵攻作戦を声高に主張した。ジオン軍参謀本部は、連邦軍が攻勢に出ない理由を、ルウムの復興と要塞化のためだと考えていた。
連邦軍は、コロニーの庇護者でなければならない。スペースコロニーは卵だ。コロニー内部を守る外殻は薄く、簡単に割れてしまう。たった1隻のムサイが艦砲射撃を行えば、そのコロニーはおしまいである。スペースコロニーという環境は、攻めるに易く、守るに難い場所なのだ。
ルウムを守るためには多数の艦隊が必要となる。連邦軍は、ルウムの守備に艦隊を割きすぎており、艦隊戦力の充実まで攻勢に出られない。それがジオン首脳部が導き出した答えだった。
「ギレン兄さん。地球全土に降下というのは、些か大袈裟すぎるんじゃないかなぁ。ルウムでの戦闘で、軍にも被害が出ている。兵を休ませるべきだと思うな」
「ほう。ガルマ。お前が意見するとはな……地球降下作戦の狙いはお前が言った部分にある。同時多発的な降下作戦を行うことで、連邦軍の対応能力を破綻させるのだ。そして、連邦軍を麻痺させたところで、電撃的にジャブローを陥落させる」
ギレンが力強く、机を叩いた。居座る将官は、空気に呑まれ反論することが出来なかった。
「ギレン総帥。宇宙攻撃軍司令官ドズル・ザビ中将は、地球降下作戦に反対する。俺たちはソロモンを橋頭堡とし、宇宙に睨みを利かせている。ソロモンへの輸送船はまだ無事だ。連邦の連中は馬鹿じゃない。必ず補給を遮断する。
連邦軍のキャノン付きは強敵だ。ザクとも互角なんだ。戦場に立ったことがないから分からんかも知れんが、アイツにザクがやられたのを見たことがある。ルウムで俺たちは敗北した。連邦軍は、何かを企んでいる」
唯一反論したのは、ドズル・ザビだった。ドズルが作戦に口を挟むのは珍しいことだ。立場を押してでも、反対しなければならないと思ったのだろう。
「ドズル。お前の物言いに根拠は有るのか? それは全て、お前の想像でしかない。参謀本部が上げた全てのデータが連邦軍の活動が低調であることを示している。
連邦軍の実態は烏合の衆だ。それぞれの派閥の利益によって動いているだけの集団だ。最精鋭であるレビル艦隊がルウムに掛かりきりなのだ。ジオンに対する攻撃といった高いリスクを取る者などいない」
それでもドズル・ザビは食い下がった。
「俺は、兄貴のように賢くはない。だが、俺でも分かる。戦いは数だよ兄貴。ジオン軍は連邦軍よりも数が少ない。戦力分散は悪手なはずだ」
「やけに食い下がるな。ならば、代案を提示してみろ」
ドズルがキシリアにアイコンタクトする。キシリアが提示したのは、ヨーロッパや北米といった重要地点への降下のみに絞ったものだった。また、現状維持での早期和平や、早期停戦についての可能性をキシリアは提示した。
「兄上、連邦と外交チャンネルを開くべきです。我々はコロニー落としで連邦に打撃を与えました。連邦の戦意を挫けたと考えるには、十分ではないかと」
「駄目だ。我々はルウムで敗北した。ここで、停戦することはジオンの敗北を意味する。戦争には幾つかの段階が有る。その中でも、この戦争は絶滅戦争なのだ。
ジオンが焦土となるか、連邦が滅ぶか。二者択一である! ジオンと連邦軍との戦争は世界最終戦争となるのだ! 我々はスペースノイドの未来のためこの戦争を続けなければならない。我々が、連邦政府の圧政を打破し世界を一新するのは運命である。戦争の勝利のためには地球降下作戦が不可欠となる! ジーク・ジオン!」
ギレンの宣言により、戦争の流れは決まった。将官たちが立ち上がり、ジーク・ジオン! と凱を上げる。不承不承といった様子を見せながら、ドズルとキシリアもこれに続いた。
「スペースノイドのためと言いながら、俺はスペースノイド虐殺の指示を出した。俺たちはこの戦争に勝利できるんだよなぁ? そうでなきゃ犠牲になったスペースノイドも死んだ将兵も浮かばれん」
「権力というのは人をおかしくするもの。兄上も、その魔力に抗えなかったのでしょう」
ドズルとキシリアには、ギレンへの不信感が芽生えつつあった。しかしそれは、単なる作戦を巡る意見の相違でしかない。ジオンはまだ一枚岩を保っていた。
「鷲は舞い降りた! 繰り返す! 鷲は舞い降りた!」
「……成功だ」
「まさか、連邦軍がここまで弱体とは」
電波の中継基地となっているソロモンに、作戦成功を伝える符丁が流れてきた。
「ドズル閣下。作戦は成功しました」
「本当か?」
「はっ。確かであります」
「……信じられん。なんだ。連邦は何を考えている?」
「連邦なんてものは形骸なのでしょう。腐った納屋のようなものです」
「そうだと良いのだがな」
ジオン軍は破竹の快進撃を繰り広げた。連邦軍は戦闘を避けたのだ。敵の兵士にやる気が無いというのが、ジオン兵の中での答えだった。
ガルマ・ザビが北米ニューヨークにて盛大な演説を行う。ジオン軍は勝利に浮かれていた。
「マ・クベ。まだオデッサは落ちぬか?」
「はい。連邦軍は屈強です。我が軍は攻勢に出ておりますが、その勢いは押し止められています」
「鉱物資源の採掘に、着手すら出来ないほどか?」
「残念ながらそうです。連邦軍は我が方の意図を読んでいるようです。抑えたい場所に強固な陣地を築いています」
執務室で報告を聞いていたキシリアは、スクリーンに映し出された戦況図を睨む。
「MSでの優位は、我が方に有るのではないか?」
「キシリア様、残念ながらそうでは有りません。連邦軍のガンキャノンは我が方のザクと同等のMSです。たとえMSが優れていても、陸の戦いというのは結局、歩兵が占領地を維持しなければならないのです。
遺憾ながら我が軍は、土地勘がなく兵数が少ない分、連邦に比べ不利です」
「現状については分かった。しかし、援軍は送れない。突撃機動軍は、ほとんどの兵を地球降下作戦に注ぎ込んでいる。送ろうにも送れる兵がいない」
マ・クベが肩を落とした。しかし、嘆いたところで兵が増えることはない。
「連邦軍が攻勢に転じた時に、我が軍は崩壊します。ドズル閣下か、総帥閣下にお力添えを頂いては?」
「ドズルのところは、船団護衛に手一杯だ。総帥の親衛隊にも碌な部隊が残っておらぬ。それにだ。私は兄上を好かん」
「……キシリア様。このマ・クベ、是非ともオデッサを陥落させましょう」
キシリアは、戦後のザビ家内部の抗争に向けて力を蓄えなければならない。そのためには、オデッサの占領と鉱物資源を得ることが必要だった。
そのために腹心と言えるマ・クベ少将をオデッサに派遣したのである。しかし、結果は思わしくなかった。
このままでは、ギレンとの抗争など夢のまた夢である。ギレンごと連邦軍に押し潰されてしまう。
「ニュータイプの可能性にかけるしか有るまい」
自身の勢力圏であるグラナダに作り上げたフラナガン機関が、強化人間を製造している。この強化人間を使い、連邦とギレンに勝利する。オカルトに縋る以外の道は、キシリアに残されていなかった。