【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう 作:むにゃ枕
ジオン軍の破綻は宇宙からはじまった。宇宙攻撃軍の護衛艦と輸送艦が、連邦軍により沈められるようになってきたのである。ドズルは船団護衛方式を徹底させてきたが、焼け石に水だった。
長く伸びた補給線を維持することは、ルウム戦役で多くの艦隊を失ったジオンには不可能だった。
次に破綻したのはオデッサを中心としたジオンヨーロッパ方面軍だ。守勢だった連邦軍が、攻勢に回ったのである。ジオン軍の防衛戦は連邦軍の物量の前に破れた。資源を獲得するという目的は果たせず、単に兵と物資を失っただけの結果に終わった。
「ギレン総帥。我が軍は敗北しています。総帥はこの結果を予知しておられたのですか?」
「いや、全くもって想定外だ。しかし、そのようなことは些事だ」
「些事とは…? どういうことです?」
「セシリア。ジオンと連邦の対立は運命なのだ。ジオンの民は他のスペースノイドとは違う優等種だ。種の保存のために私は、スペースノイドの雑種を駆逐した。30億匹の雑種を駆逐したのだ。アースノイドは劣等種だが、雑種とは違う。劣等種が雑種を支配しようともジオンは残る。
ジオンが勝利すればそれは素晴らしいことだ。しかし、ジオンが敗北しても、ジオンは雑種を駆逐したという前提条件において勝利している。連邦政府は構成主体であるジオンを根絶やしにするようなことは出来ない。連邦が我が軍の奇襲を防げなかった時点で、私の目的は達成されている」
近年のギレンは思想家や宗教家としての側面が強くなっていた。僅かな側近のみと話し、その思想を結晶化させていった。IQ200と喧伝されようとも、間違った情報を間違った物差しで解釈し続ければ、破滅しか出力されないのである。
ギレンが引き篭もりになり僅かな側近しか近づけさせなくなった理由は、大規模なダイクン派の反乱にある。
隠棲していたキャスバル・レム・ダイクンをザビ家が暗殺しようとした。その噂は瞬く間にサイド3に広がった。
キシリア機関によりメンツを潰されたリーア政府が工作を働いたからであった。リーア政府は、秘密裏に反体制派であるダイクン派に接触し、キャスバルの暗殺未遂について赤裸々に語っていたのである。
ダイクン派の中でもランバ・ラル率いるラル派は、サイド3から脱出した。しかし、その他のダイクン派は、ザビ家に対する決起を選択した。
リーア政府が手を回したことで、ギレン暗殺計画が実行された。キンツェムコロニーと首都バンチズムシティでの反乱は、多大な打撃をジオン中枢に与えた。ギレンは死ななかったが、ギレン派の重要人物は何人か命を落とした。
この一連の反乱は、ズムシティ本土に駐留している軍だけでは収拾を付けられず、宇宙攻撃軍、突撃機動軍の介入により何とか終わった。
「歴史認識の話なのだよ。宇宙棄民によってジオンの民は苦しんできた。いわばジオン民族は苦難の歴史を歩んできたのだ。これは、連邦政府の圧政によって起きたことであり、連邦に味方するスペースノイドも我々を見殺しにしようとしていた。まずは日和見のスペースノイド共を殺す。そして彼らを苦難の中に引きずり込む。さすれば、スペースノイドはジオニズムに共感し、連邦政府を打倒するはずだ」
「さすが総帥です。総帥の意思はジオンの意思ですから」
ジオン市民の感情として、連邦政府に肩入れするスペースノイドが憎いという感情は確かにあった。スペースノイド独立のためというよりも、ジオンの鬱屈とした感情をぶつけるという意味でのコロニー虐殺が行われた。
一部の市民にとっては、遠い連邦政府よりもスペースノイドで有りながら連邦に味方する同胞に対し、より強い憎しみを持っている者もいた。
ギレンの思想の優劣は、勝利に何の影響も及ぼさない。軍部に対する介入は単なる害悪であった。ジオンは凋落に向かいつつあった。
「ルナツー方面軍、サラミス級アリソン。照合完了。確かに確認した。入港許可を出す」
「入港許可に感謝する」
この艦は確かにルナツー所属であった。しかし、それは過去の話である。アリソンは、ジオン軍との戦闘において鹵獲されていたのだ。
「どうやら上手くいったようだな」
「案外、連邦軍ってのもザルなんですね。データの書き換えが終わっていないとは」
ジオンの仮装巡洋艦アリソンはサイド7に入港した。鹵獲したサラミス級をそのまま用いているため、照合をすり抜けてしまえば障害は残っていない。
連邦軍の新型MSを奪取する計画は、連邦軍の高官であるエルラン中将が持ちかけたものだった。エルラン中将の命令書が、何故かジオンに渡ってしまい、何故かサラミスのようなジオンの艦がガンダムを受領してしまうという計画だった。
港湾に入ったアリソンを、ジオンの艦と疑う者は誰もいなかった。
「命令書にサインをしました。これで受領は完了ですね」
「ええ。確かに受領しました」
連邦軍士官に変装したハーディ・シュタイナーは、無事に積荷であるガンダムを受け取った。特にトラブルはなく、すんなり連邦軍を騙すことに成功したのだ。
「エルラン中将によろしく言っておいてください」
「勿論です」
会話を終え、その場を離れようとする時に邪魔が入った。眼鏡を掛けた中年の男性が割り込んできたのだ。
「少し待ってもらいたい!!」
「テム・レイ技術大尉か。なんです? 積込みは完了していますよ」
「そこの君たち。君たちは、本当に連邦軍なのかね? 我々技術者には、何も知らされていない。ガンダムを引き渡すということは伝わっていないのだ」
シュタイナーは、頭を掻いた。そして苦笑を浮かべる。
「我々も、単に積荷を運べと言われただけですからなぁ。それが新型MSだということも、命令書を開いてはじめて知ったばかりなんですよ」
「むっ。そうかね。しかし、納得出来んな。君の出身はどこかね?」
「オーストラリアのシドニーですね」
「シドニーは今頃、雪景色ではないかな?」
「まさか。南半球ですよ。今頃夏でしょう。地軸が狂って、雪なんてこともあるかもしれませんけど」
「すまん。君を疑ったよ」
「いえ、仕事です。何も問題は有りません」
少々のトラブルは有ったが、アリソンは無事にサイド7を離脱した。
「あの大尉、惜しかったな」
「ええ。正解だったんですけどね」
偽連邦軍であるアリソンのクルーは、連邦軍の制服に身を包んだままそんなことをボヤく。
アリソンが降ろしてきた積荷には、時限爆弾が仕込まれていた。アリソンが安全圏に到達した後に、爆発するだろう。そうなれば、追撃など出来ない。
爆発事故により裏切りの証拠は残らず、エルラン中将の身も安泰ということだ。連邦軍の新型MSは爆発に巻き込まれ失われたというシナリオが成り立つのである。
「しかし、連邦軍の中将は何故裏切ったのかね?」
「金に目が眩んだようです。戦死したマ・クベ少将と繋がりが有ったようで。メカニックがこのガンダムを整備してますが、大したものですよ。コイツは」
「ほう。それほどかね?」
「ええ。装甲はザク・マシンガンを通しません。エネルギーゲインもザクの5倍は有る」
鹵獲したガンダムは優れた機体だった。ジオニック社のラボに送られて、テストされるのだろう。テスト後には、サイクロプス隊に戻ってくるかもしれない。
「ミーシャ。ジオニックから戻ってきたらお前の機体にしたらどうだ?」
「まさか。乗り慣れた機体が1番ですよ」
シュタイナーは、新入りのバーナード・ワイズマンにこの機体を預けようと考えた。ベテランが新しい機体に乗るよりも、新米を新しい機体に乗せたほうが戦力としてマシになる。
ベテランは、古い機体でも性能は出せるが、新米はそうではない。
「ワイズマン伍長。ガンダムはお前に預ける。励めよ」
「はっ。が、ガンダムを自分にですか?」
「ああ。そうだ。もっともジオニックから戻ってくる前に戦争は終わっているかもしれないがな」
シュタイナーは、この戦争の出口が明るいものだとは思えなかった。ワイズマン伍長にガンダムを預けたのも、無意識に彼を生き残らせようと考えたからかもしれない。