【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう 作:むにゃ枕
サイド7はその日も晴天だった。誰もが平和で何事もない一日がはじまるだろうと思っていた時に、それは起きた。
隔壁で仕切られた工事ブロックが爆発したのである。早朝のことであり、寝ていた人間が多かったことも被害の拡大に繋がった。
アムロ・レイは、けたたましく鳴り響くサイレンで目を覚ました。
「至急シェルターに避難してください!! 気密レベルが低下します! 至急避難してください!」
スピーカーから切迫した声が聞こえる。それは避難を呼び掛けるものだった。
「なんだってんだ…?」
「アムロ……TVの音量を下げろ……」
死人のような顔色のテム・レイが、のそのそと顔を出す。夜勤明けのテムは、今すぐにでもベッドに戻りそうだった。
「父さん。避難しろって言ってるよ」
「……なんだと!? ジオンの襲撃か。アムロ。ベイに急ぐぞ。ホワイトベースにアレックスの積込みは完了している。アレさえ載せていれば他はどうでも良い」
テムは、カフェイン錠剤を水で一気に流し込んだ。それから、コートとIDカードを掴むと、アムロを連れエレカで軍港へ向かった。
「ちっ。混んでるな。警備も居ないのか……」
エレカから降り、避難民でごったがえすベイに乗り込む。
「技術士官のテム・レイだ。誰か居ないのか?」
「テム・レイ大尉! ブライト・ノア少尉です! 爆発物によるテロ攻撃で、私以上の階級の者は残っていません。直に気密が無くなります。避難民たちを脱出させなければ」
テムはブライトという少尉に見覚えがあった。ホワイトベースの見習い士官だ。ブリッジクルーだったことを覚えていた。
「手の空いてる者は、列を作る手伝いをしろ! 軍艦は広い! 押すな! 落ち着いて行動しろ!」
技術者であるが、士官教育を受けているテムは、仕方なくブライトと共に誘導に回った。避難民を詰め込んだホワイトベースの練度は暗澹たるものだった。
技術士官のテム・レイが最高位の軍人である。指揮官をブライト・ノア少尉が務め、その他の民間人の中にチラホラ正規の軍人が居るという状況である。
「ブライトキャプテン。レーダーに敵影有り! ムサイ級が3隻います!」
民間船と共にサイド7を脱出したホワイトベースは、運悪くジオンの輸送艦隊と遭遇することとなった。ジオン輸送艦隊は、連邦の襲撃を避けるために非正規の迂回ルートを使い、地球へ向かっていたのである。
「迎撃しろ! ジョブ・ジョン伍長。頼む!」
「は!? 私一人ですか? ガンキャノンの訓練は受けていますが、実戦ははじめてです……」
リュウ・ホセイ軍曹は死亡しており、正規のパイロットはジョブ・ジョン伍長だけだった。伍長はシミュレーター訓練だけの予備パイロットであり、実機の経験も乏しかった。
縋るような目をブライトに投げているが、どうすることも出来ない。
「ブライト少尉。私は技術士官だが、作ったものの操縦くらい出来る。伍長はガンキャノンを。私はガンダムで出る」
「テム・レイ大尉。自信のほどは?」
「生憎、全くないとも」
ジョブ・ジョン伍長のガンキャノンだけでは迎撃は不可能だ。ムサイ級に袋叩きにされて、沈むのがオチである。それ故、テム・レイはガンダムに自分が乗ることを決めた。
自分が設計したMSであるガンダム。テムでも、必要最低限は動かすことが出来る。
「ガンダム2号機。頼むぞ」
ジョブ・ジョン伍長のガンキャノンとテム・レイ技術大尉のガンダム2号機が、ホワイトベースのカタパルトから射出される。
「伍長。キツイな」
「ええ。震えが止まりません」
ムサイ級3隻とザク9機。それをガンキャノンとガンダムで迎え撃つのである。絶望的な戦いだった。
「当たった? 当たったぞ!!」
「私もだ。ビームというのは、強力だな」
素人のラッキーヒットで、2機のザクを落としたが2人に出来るのはそれだけだった。訓練不足の伍長と、技術士官である。数の差を覆すほどの能力は2人にはない。
「万事休すか。あとは頼んだぞ伍長」
テム・レイのガンダムは盾を構え、ザク・マシンガンをいなしていたが、耐久が限界を迎えていた。テムは、自分がもうすぐ死ぬことを察した。脳内では、走馬灯が流れ始める。
「ん? ザクの反応が消えた」
目前に迫っていたザクが消えていた。そして目の前には友軍機がいた。
「親父! 無事か!?」
「……アレックスだと!? パイロットはアムロなのか…?」
アレックスは、ニュータイプ向けに設計された機体である。オーガスタ研究所の強化人間が搭乗するために作られたガンダムのバリエーション機であり機密の塊であった。ホワイトベースに搭載されているが、実戦に出る予定は無かったはずなのだ。
そんなものに息子が乗っている。テム・レイは、一瞬、意識が飛びかけた。
「バカな。アレックスの性能を十全に発揮している…!」
アレックスは7機のザクと、3隻のムサイ級を瞬く間に葬った。その姿はまさに白い死神と称するに相応しいものだった。
「アムロ。無事か? アレックスに乗ったんだ。あんな苛烈な機体に耐えられるはずがない。大丈夫なのか?」
「無事だよ。親父こそ、ザクにボコスカ撃たれていたけど大丈夫なのか?」
「ああ。2号機は使い物にならなくなったが、私自身は無事だ。装甲の厚さに救われたな」
ジョブ・ジョン伍長のガンキャノンと、テム・レイが乗ったガンダム2号機は、廃棄もしくはオーバーホールが必要なほどボロボロだった。
アムロがアレックスで出撃していなければ、2人は間違いなく死んでいただろう。
アレックスは、ジオンの輸送艦を残らず沈めていた。降伏した艦はホワイトベースが自沈させた。民間人ばかりの中に捕虜となったジオンの輸送船乗りが混じり、ホワイトベースはカオスな空間になっていた。
「ルナツーで捕虜と民間人は引き取って貰えたが、兵員はこのままとは……」
「ブライトキャプテン。アムロが居るからホワイトベースは大丈夫ですよ」
初戦で7機のザク、3隻のムサイ、10隻の輸送艦を沈めたアムロ・レイは生きる伝説となった。
アムロが、アレックスに適合し恐ろしいほどの戦果を叩き出した原因は、テム・レイが自宅にシミュレーターを持ち込んでいたからであった。とはいえ、アムロのスコアは異常だ。テムは、色々と覚悟を決めていた。
「ミライ。せめてマシなパイロットを寄越して欲しかったとは思わないか?」
「ブライトキャプテンよぉ。随分な言い草じゃないの」
「スレッガー中尉、あなたのことではない。ルナツーから乗ってきた強化人間の彼女のことだ。それと、彼女のお付きの奴らだよ」
「ああ。あれねぇ」
ガンダム3号機に乗っている強化人間は、ララァ・スンと言った。天然物のニュータイプである。アレックスは元々彼女のために作られた機体だったのだ。
「俺は軽キャノンで十分だよ。あの2人には敵わん」
アムロ・レイとララァ・スンは、パイロットとして別格の能力を持っている。スレッガーもそれは認めていた。
「盗まれたガンダム1号機ってのも凄いのか?」
「まさか。パイロットの才能有ってのMSでしょう。テム・レイ大尉が2号機をスクラップにしましたからね」
「あちゃー。あのおっさん、そんなことしたのかよ」
ガンダム1号機は盗まれたが、特に戦局を揺るがすようなことにはなっていない。1号機はジオニック社に送られ、解析されるようだった。少なくとも0079年内には戦場に出てこれないという情報が得られている。
ガンダム2号機は、スクラップとして処分されることとなった。3号機にはララァ・スンが、アレックスにはアムロ・レイが乗り込む。
ホワイトベースには、アムロ・レイのアレックス。ララァ・スンのガンダム3号機。スレッガー・ロウの軽キャノン。ジョブ・ジョンのガンキャノンといった機体が乗せられていた。
これからは、遊撃部隊として運用されるという。2人のニュータイプを乗せたホワイトベースは、第13独立部隊としてジオン軍の輸送艦狩りで猛威を振るうこととなる。