【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう   作:むにゃ枕

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08.奇襲

 セイラ・マスは野心を燃やしていた。実のところ彼女は自暴自棄になっているのだが、周囲も本人もそれには気が付いていなかった。

 発端は、セイラが兄エドワウの家をサプライズで訪ねたことだった。その家に兄の姿はなかった。外出しているのか、少し探しに出かけると、兄は女と肩を並べて歩いていた。そして兄は、啞然とした表情を浮かべているだろうセイラに気が付くことなく、そのまま女の家に入っていった。

 

 兄の恋人であろう女をセイラは知っていた。彼女はクリスチーナ・マッケンジー。セイラの指導教官だ。クリスは優秀な連邦軍人で性格も良く周囲から好かれるタイプである。

 セイラの方がMSの操縦では上だが、勝る点はそれくらいしかない。クリスはそれほどまでに優秀だった。

 

 優秀なクリスと最愛の兄が交際しているのだ。文句の付けようがない。セイラは2人の関係を祝福するべきなのだろう。

 しかし、自分に黙ってクリスと交際していた兄にも、指導教官として何食わぬ顔で自分を指導するクリスにも、腹が立った。

 

――異性として兄のことが好きだ

 

 セイラの感情はそう告げたが、理性が否定した。兄は大切な人物で、恋愛対象ではない。そのはずである。自分の兄で大切な家族だ。だからそういった不純な感情を持ち込むべきではないのだ。

 常識で考えたら、そんなことは許されない。家族に手を出すような卑しい人間になるつもりはセイラにはなかった。

 

――本当に、それでいいの?

 

 セイラの感情が揺らぐ。クリスに兄を渡したくなかった。最愛の兄を誰にも渡したくないという極めて幼稚な理由が、セイラ・マスを変えた。

 セイラ・マスという人物は秀才だ。天才の域に踏み込んでいると言ってもいい。兄という楔を解き去ったセイラは、自分の才能を全力で発揮したくなった。

 この戦争で出世する。そして世界を掻き乱してやるのだ。この世界に対して、兄を盗られた八つ当たりをしてやるのだ。

 

 しかし、セイラの思いとは裏腹に、彼女の配属先は出世できそうにないポジションだった。レビルの乗艦の直掩という立場である。会敵することはないだろうポジションだ。

 セイラの所属するヴァルト小隊は練度が高い。これが前線であれば頼れる味方だったのだが、ここは本陣である。おおよそ戦闘に恵まれそうにはなかった。

 

 

 ジオン軍は宇宙での最前線拠点となるソロモンを強化していた。ソロモンで連邦軍を迎撃する。そして、万が一ソロモンが陥落した後は、ア・バオア・クー要塞、もしくはグラナダで連邦を削る。これが、ジオンの本土防衛方針だった。

 

 兵力をソロモンに集中させるため、ア・バオア・クーはほとんど空っぽな状態だった。

 連邦軍のホワイトベースにより輸送船がバカスカ沈められていることもあり、ジオンはソロモンの維持に必死だった。

 

 兵站将校からは、兵と物資を沈められるために輸送しているようなものだと皮肉られたが、ソロモンの強化をやめるわけにはいなかった。

 

 ア・バオア・クーへ連邦軍が迫っている。その知らせにギレンは冷静に対処した。

 

「それは確かなのか??」

「はい。確かなことです」

「デラーズに親衛隊を預ける。ア・バオア・クーは陥落するぞ。本土防衛を急がせろ」

「グラナダはどうしますか?」

「グラナダもソロモンも間に合わん。連邦の狙いはここだ!」

 

 ア・バオア・クーは、連邦艦隊の10分の1程度の兵力で連邦軍の迎撃を行うこととなる。

 

「全艦、ソーラ・システムの射線上から退避しろ」

「ソーラ・システム準備完了しました。発射可能です」

「射線上の味方艦退避しました」

 

 連邦軍の管制官が、味方が移動したことを告げる。技官が充填を済ませ、発射可能状態であることをカニンガム准将に伝えた。

 

「よし、発射しろ!」

 

 ソーラ・システムの責任者となっていたカニンガム准将が命令を下す。光がア・バオア・クーを焼いていった。

 

「ジオン艦隊消滅しました。ア・バオア・クーから敗残兵が逃亡していきます。グワジン級がまだ健在です。ギレン親衛隊は殿軍となり味方を逃がすようです」

「この味方機は? このMSはなんだ?」

「ホワイトベースのアレックスかと。例の機体です」

「ああ。例のか」

 

 殿となり味方を庇っていたグワデンが、アムロ・レイの駆るアレックスにより沈んでいく。もう一機のガンダムもアレックスと共に、ジオン艦隊の数を瞬く間に減らしていく。

 

「恐ろしいな、ニュータイプとは。もっとも、それは戦術単位の話だ。結局はニュータイプよりもソーラ・システムの方が良い。人間は裏切るが、機械は裏切らないからな」

 

 

 ア・バオア・クーに最低限の勢力を残した連邦軍は、電撃的にズムシティに進行した。

 

「ジオンから外交的な接触はないのかね?」

「まだ、そういった報告は入っていません」

 

 ワッケイン少将、カニンガム准将、レビル中将。タカ派である彼らは、ジオンを攻め滅ぼす気だった。

 

「中将が妨害をされたのでは有りませんか?」

「まさか。私はそのようなことはしていない。ア・バオア・クーが陥落し、本土決戦が迫っているというのに、彼らは一体何をしているのかね?」

「ジオンにも、ソーラ・システムに匹敵する大量破壊兵器が有るのでしょう。それを使い、我々を撃滅できるとでも考えているのかもしれません」

「ワッケイン少将。掴んだのかね?」

「ええ。エルラン中将が愚かなことをしてくれたおかげでね」

 

 レビルの瞳が、モニタ越しにワッケインを強く睨む。エルラン中将を泳がせていたのは、ジャブローのハト派だった。この失態のおかげで、レビル派はジオンに対し強く出ることが出来ている。ルナツーの基地司令であり、純粋なレビル派というわけではないワッケイン少将を、レビル自身はあまり信用していなかった。

 

「レビル将軍。そう睨まないでもらいたい。私に考えが有ります。囮です。原始的な考えですが、囮を用いればいい。もちろん、発案者である私と麾下の艦隊が囮となりましょう」

「ワッケイン少将。あまりに危険ではないか?」

「なに、寒い時代ですから。我々軍人が、大人として責任を果たすときなのです」

 

 ダミーバルーンを用い、艦隊数を多く見せかけたワッケイン艦隊がズムシティに向かう。ワッケインの予想が正しければ、ジオンは大量破壊兵器を使用するはずだった。

 ダミーバルーンの操作には人員が必要であるため、指揮官が変な動きをし敵に動きを気取られないため、なによりワッケイン自身は死ぬ覚悟がとうに出来ていたため、彼は囮艦隊に残った。

 麾下の大半はレビル艦隊に預けている。ワッケインと共に囮艦隊に残っているのは、彼に心酔した死にたがりの馬鹿だけだ。

 

「高熱源体!! レーザーです!!」

「……勝ったな!」

「ええ。勝ちました」

 

 ワッケインは、光の中で自らの死に直面しながら、連邦軍がこの戦争に勝利することを確信した。

 

「ワッケイン艦隊消滅しました! 少将とも連絡が付きません」

「悪い予感が当たってしまったな……核の全面使用を許可する。それと、サイド2の生き残りや、バスク少佐には注意しろ。彼らの行動を止める必要はないが、迅速な確保は必要だ」

「了解しました。勝利のため、手を尽くしましょう」

 

 ジオン軍は必死に抵抗したが、大量の核ミサイルの前には無力だった。連邦軍はサイド3の民間人への誤爆などは一切気にせずに、核を行使した。

 

「総帥閣下……毒です…………GGガスがコロニー内に注入されました。デギン公も死亡したようです」

「もはやこれまでだな。連邦め。随分とやってくれた。が、面白い相手だった」

 

 ギレン・ザビは、セシリア・アイリーンが毒を呷ったのを確認すると、自らの口腔内に拳銃をねじ込み引き金を引いた。地球連邦軍は、不幸な事故がズムシティに発生したことに対して弔慰を発し、実行犯であったサイド2の大佐や、バスク・オム少佐などを処刑した。

 

 この一連の奇襲で連邦軍の勝利は確定した。ジオン公国はもはや形骸だった。

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