【安価・ダイス】ワイ、キャスバルに転生してしまう 作:むにゃ枕
宇宙要塞ソロモンに駐屯するジオン軍と、ジオン地球方面軍の連携は見事なものだった。彼らは連邦軍の隙を付き、ソロモンで合流を果たしたのだ。
その背景には、連邦軍の宇宙艦隊がレビル中将らのジオン本土侵攻に割かれており、地球軌道への圧力やソロモンへの圧力が弱くなっていたことがあった。
「よく無事だったな。ガルマ」
「ドズル兄さんこそ、無事でよかった」
ドズルは華奢なガルマを包み込むように抱擁する。このところジオンには悲報が続いていた。そのため、ガルマとの再会はドズルにとって喜ばしいことだった。
「兄さん、ズムシティとグラナダが陥落したというのは本当? 父さんや兄さんはどうなったの?」
「そのことについては、概ね事実だ。ズムシティは陥落し、グラナダも降伏した。連邦軍は、非道な手段を使い本土を陥落させたのだ」
「やっばり噂は本当だったんだ」
「ああ。しかし、俺の軍はまだ健在だ。俺の軍とお前の軍でズムシティを連邦から奪還する! 連邦軍はこちらの動きを追いきれていないはずだ」
地球方面軍は連邦軍の隙を突いて宇宙へ脱出したのだ。決して連邦軍が意図的に穴を開けたのではない。
もしこれが連邦軍の罠だとしたら、奴らは余りにも狡猾かつ迂遠な策を用いたことになる。
「ガルマ。これは連邦の罠だと思うか? お前が無事に脱出出来たことも、俺たちと合流出来たことも連邦軍が仕組んだと思うか?」
「あり得ない。連邦軍はこちらに追撃を仕掛けてきた。あれは必死な動きだった。間違いなく僕は隙を突いた」
「なら良いんだ。我々はズムシティを奪還する。ジオンの意地を連邦軍に示そうではないか」
ソロモンは入念な偽装を施した上で放棄された。ドズルは、妻のゼナを離縁させた。ミネバをゼナから奪い彼女を、完全にザビ家と関係のない人物に仕立てた。ドズルはゼナに何としても生き延びて欲しかったのだ。
ガルマもイセリナ・エッシェンバッハを地球へ置いてきていた。放棄され連邦軍に接収されるだろうソロモンには、軍属や家族の居る者を残してきた。ドズルには、この戦いが厳しくなることが予想された。
「バカな!? 連邦軍が布陣しているだと!? 全艦、分散しろ!! このままでは全滅する!!」
「間に合いません!!」
「俺のミスだ。許せ」
「まさか、許さないも何も有りませんよ。ドズル閣下のもと戦えたのは光栄でした!!」
ドズルの指揮する本土奪還艦隊は、ソーラ・システムによりスペースデブリに変わった。生存者は僅かだった。
これにより、ジオン軍は宇宙での組織だった戦闘能力を完全に喪失した。
地球上のジオン公国軍も、ほとんどの部隊が宇宙へと脱出していたために連邦軍の反攻作戦になすすべもなく敗北していった。
連邦軍は、ドズルの動きを予測できていなかった。ジオン地球方面軍が宇宙に上がってしまったことは完全に予想外だったし、ズムシティに向かうことも想定していなかった。
たまたま、ソーラ・システムの展開能力があるカニンガム准将の艦隊が控えていたこと。ティアンム中将の艦隊が偶然にもカニンガム艦隊を支援可能な位置に存在したこと。意図していなかった偶然が重なり、ジオン艦隊を撃滅できたのである。
つまるところ、連邦軍は幸運で、ジオン軍は不幸なだけだった。
戦争というものは、相手よりも多い兵力と国力を用意し、ミスが少ない方が勝つものである。ジオン軍には勝利条件を満たす何かを得られなかったのだ。
地球連邦軍はサイド3に厳しい占領統治をおこなった。サイド3の人民を徹底的に調査し、思想によってコロニーごとに分割し収容したのである。ザビ家に同調したもの。ダイクン派を含む反ザビ派と親連邦派。ジオンはこの二つに分けられた。
連邦軍はアクシズを解体させ、そこにいた人員を本土に呼び戻した。彼らもまた、ダイクン派は東ジオンに、ザビ派は西ジオンにといった具合に分けられた。アクシズの責任者であったマハラジャ・カーンは、後に東ジオンの首相となる。
連邦軍の傀儡である東ジオンは、UC0080の1月、連邦軍に降伏した。遅れること3か月、西ジオンも連邦軍に降伏する。ジオン公国は東西に分割された。元々は1つの国家だったことなど噓のように、東西ジオンはお互いを憎み合った。
この東西ジオン冷戦時代は、後年、多くのスパイものの舞台となった。アナハイム社やルナリアンが黒幕となるスパイ映画シリーズは、歴史に名を残す傑作となっている。
連邦政府は、一年戦争の反省を生かしスペースノイドを監視する組織であるロンド・ベルを設立した。カニンガム准将を中心としたこの組織は、対テロ戦争において活躍した。
対テロ戦争において最も有名な事件は、ジュピトリス事件であろう。ジオン木星艦隊と連邦木星艦隊が結託しテロを準備していたものである。この事件の首謀者はパプテマス・シロッコ大佐(当時)だった。
後世では、パプテマス・シロッコはセイラ・マスと共に、全てのスペースノイドに選挙権をもたらしたことで有名な人物だ。木星船団出身でありながら連邦議長となり、地球連邦中興の祖と呼ばれることになった男である。
しかし、かつてのパプテマス・シロッコはテロリストだった。ジュピトリスにおいて連邦政府へのクーデターを計画していたのだ。この計画自体は、アムロ・レイ大尉と、ララァ・スン中尉の働きにより未然に防がれた。しかし、シロッコは逮捕され、処刑されそうになっていた。
獄中のシロッコに司法取引を持ちかけたのがセイラ・マス中佐(当時)である。彼女はジオン・ズム・ダイクンの娘であり、連邦政府も彼女の意見を無下には出来なかった。セイラの見込んだ通り、シロッコは優秀だった。
彼は、セイラに扱き使われることとなる。晩年のシロッコは、連邦首相時代についてこう語っている。
「当時の私は、ほとんどセイラさんの言うとおりにやっていましたよ。あの人はかなりスパルタでした。連邦政府の大改革をやれって言うんですから、そりゃあ当然、大変なわけですよ。私は、若く野心もありましたからね。ナニクソって感じで全部やり切ったんですよ」
「セイラさんは凄い人でした。ジオンの娘ってことを最大限利用してましたね。そんな人でも弱点は有るんですよ。お兄さんに弱くてね。兄夫婦とその子供をよく可愛がっていましたよ。今も独身ですからね。連邦政府と結婚したんでしょう」
連邦政府はセイラ・マスとパプテマス・シロッコにより改革が行われた。人々は、連邦政府に不満たらたらだが、大きな戦争を起こしていないことを指摘すると、その口を閉じてしまう。
連邦政府にはまだまだ問題も有るが、概ね上手く回っていた。
エドワウ・マスとクリスチーナ・マッケンジーは、一般市民として人生を送った。マニアックな歴史家であれば、セイラ・マスの兄と、幾つかの試作機に関わったテストパイロットとしてその名を知っているかもしれない。
多くの子に恵まれ、幸福な一生を送ったようである。
セイラ・マスは、アムロ・レイ、ララァ・スンと並ぶロンド・ベルのエースパイロットだった。また、少将まで出世し、パプテマス・シロッコのパトロンとして連邦政府の大規模改革を行った。ニュータイプのエースパイロットというよりも政治家として著名な人物となっている。生涯独身であり、鉄の女と呼ばれた。
パプテマス・シロッコはセイラ・マスの下僕としても、政治家としても存分に腕を振るった。彼はスペースノイド解放の父としても有名である。古いコロニーには彼の胸像が残っている場所も多い。
アムロ・レイとララァ・スンは結婚したものの、アムロの浮気により離婚した。アムロの父テムは、母さんに似たんだろうと、アムロの浮気を否定も肯定もしなかった。アムロ・レイでも嫁には勝てぬという諺が後世に残るほど、ララァ・スンとのエピソードは強烈であったようだ。
シャア・アズナブルという人物は無名のまま生涯を閉じた。エドワウ・マスのよき友人であったらしい。キャスバル・レム・ダイクンという人物も歴史には残らなかった。
セイラ・マスが、アルテイシア・ソム・ダイクンであることは歴史に残った。しかし、キャスバル・レム・ダイクンを知っている人間は殆ど居ないだろう。
歴史とは、ほんの小さなかけ違いで大きく変化するものなのだ。