知り合いはさいつよ決闘代理人 作:秘境と聖杯ダンジョン
今日は狩りは程々に昼までで済ませ、夕方からエピクレシス歌劇場に来ているよ。
審判じゃなくて、リネさんとリネットさんのマジックショーを見に来たんだ。クロリンデさんに誘われてね。丁度仕事が空いていたのと、上司からマジックショーのチケットを二枚貰えたらしいから、相伴に預かった。
「ナヴィアさんやフリーナ様を誘えば良かったのに」
と言ったら、ナヴィアさんはもうチケットを購入していたし、フリーナ様も同じ人から貰っていたらしい。
せっかく誘ってくれたのを無下にする訳にはいかないし、僕も大魔術師のマジックショーは見てみたいと思っていたんだ。
以前のマジックショーは行きそびれちゃったし、その時は事故やら事件やらでてんやわんやだったそうだけど、今回は執律庭が安全確認を徹底しているらしいから問題は起きないでしょ。
指定席は中段真ん中辺り。当たり前だがクロリンデさんが隣り。反対隣りは知らない人。
「楽しみですねー、クロリンデさん」
「ああ。フリーナ様の護衛としての立ち位置からショーを見た事はあるが、観客として見るのは初めてなんだ」
「お、では参考までにどんなショーだったか聞いてもいいですか?」
「生憎だが、君の質問には答えられそうにないな。護衛として周囲に意識を割いていたから、ショーをずっと見ていた訳ではないんだ」
「じゃあクロリンデさんもちゃんと見るのは初めてなんですか」
「そうだよ。ただ、マジックが成功した時の歓声は凄いものだった」
「なるほど、尚更楽しみになってきましたね」
待つこと数分、開演のブザーが鳴り照明が落ちる。
ブザーが鳴り終わると、パンッ!とクラッカーの音が鳴り幕が上がった。軽快な音楽と共に、白煙が立ち込める。
スポットライトが荒ぶるように動き、ドラムロールが段々と大きくなっていく。
一拍置いて、ドン!と一際大きなドラムの音と共に、白煙を払って大魔術師が登場した。
手始めと言わんばかりに、空の手から山ほどのトランプをバラバラと出して見せながらの登場だ。
「──本日はお忙しい中、エピクレシス歌劇場へ起こしいただきありがとうございます。本日のパフォーマー、リネです。こちらは僕の妹で、僕の最も重要なアシ──あれ?」
リネさんが手を向けた先には何も無い。
「おーいリネットー?どこだーい?」
大袈裟に舞台を右往左往するリネさん。なるほど、もうショーは始まっているということかな。
「お、おお?帽子が、揺れて!?ハッ!」
リネさんが被っていたハットを空中に投げると、途端に膨らんで破裂した。破裂した帽子の代わりに一枚の大きな布が宙を舞っている……かと思ったら、シュルシュルとリネさんの隣りに回転しながら落ちてきた。
そして、その布が払われると、何とリネットさんが!
「じゃじゃーん」
どわっ!と歓声と拍手が会場に響く。僕も思わず声が出てしまったし、勿論拍手で迎えたよ。
「はは。なんて所に隠れてるんだい」
「あそこなら自分で移動しなくていいから便利」
「全く、帽子が無くなっちゃったね。代わりを出さないと」
リネさんが黒い棒状の物を取り出すと、手で回転させ始め、パチン、という指鳴らしと共に棒がハットに変化した。
おーすごい、こんな所でもみせてくれるんだ。
それから、二人のマジックショーが本格開演した。
さっき出したばかりのタネも仕掛けも無いはずのリネさんのハットから何匹もの鳩が飛び出て来たり、密室脱出マジック、リネットさんによるリネさん切断マジック、観客を一人舞台に連れて行う入れ替えマジック。
そのどれもが素晴らしく、完璧な成功を納め、楽しいマジックショーは終わりを迎えた。
「本日のショーはこれまで、また次回の公演をご期待ください」
「さーい」
二人が舞台袖に歩いて降りていった。
帰りはマジックで姿を消したりするワケじゃないんだね。
「はー、面白かった……凄いですね、マジックショー」
「ああ、観客席から見るマジックショーは迫力も違うな」
クロリンデさんとショーの感想を言い合いながら歌劇場を出てポート・マルコットへ向かっていると、ポート手前の噴水広場に、件の大魔術師さんとその助手さんが居た。
「あ、どうもクロリンデさん。……と、そちらは?」
「私の連れだ」
「どうも」
僕たちは軽く挨拶し合って、同じ巡水船に乗った。行く先は勿論フォンテーヌ邸。
「お二人共、今日は僕たちのショーを見ていただきありがとうございます」
「ありがとう」
「こちらこそ、楽しいショーだった」
「初めてマジックショーを見たんですけど、あれらのマジックってどうやってやってるんです?」
「はは、それは魔術師の秘密です。種明かしはしませんよ」
「ちぇー」
秘密って言われちゃうと気になるなぁ。でも、僕程度の頭じゃ理解できないかな。
なんて話しているうちに巡水船がフォンテーヌ邸に着いた。
ガイドのエルファネさんの少し気だるそうだが、しっかりとフォンテーヌ邸での注意事項や観光スポットを伝えるアナウンスが聞こえる。
四人でエレベーターに乗って、一階のセントラルポートホールへ下りた。
「そうだリネ、これを彼にお願いしてもいいだろうか」
そう言ってクロリンデさんがリネさんに渡したのは、一通の手紙。
……彼?誰だろ。
「あぁ、フレミネへですね」
「ああ。マシナリーのおもちゃの礼のカードだ。旅人から、直接礼を言うよりこちらの方がいいと聞いてな」
「分かりました。フレミネもきっと喜ぶと思います」
「頼む」
「それじゃあ、またどこかで」
「ばいばーい」
リネさんが会釈、リネットさんが手を振って帰っていった。
「あのー、クロリンデさん」
「なんだ?」
「つかぬ事をお聞きしたいのですが」
動揺と緊張で変な聞き方しちゃったし、声も上擦ってる。恥ずいよ。
「普通に聞いてくれ。今の君の態度は記者を連想するから嫌だ」
「あ、すみません。その、フレミネさんって?」
気になった事を聞いてしまった。
「ああ、そういえば君には言っていなかったな」
これで恋人とか言われたら、僕はショックで寝込む自信がある。なんと言えばいいだろうか、僕自身にチャンスがあるとは微塵も思っていないが、仲のいい女性に特定の相手がいたら、誰でもショックでしょ?不特定な相手とかだったら寝込むどころか二度と目を覚まさないだろう。
クロリンデさんに限ってそんなことは万に一つも有り得ないが。
「彼は──」
一瞬が永遠に引き伸ばされるような感覚がする。
永遠はここにあったんですか。
クロリンデさんの次の言葉を、聞きたくもあり聞きたくなくもある。
「原始胎海に侵されているところを助け出した事があってな。その時の礼に小さくも精巧なマシナリーのおもちゃと、感謝の意を示すカードを貰ったんだ。さっきリネに渡したのは、それの礼のカードだ」
「そ、そうですかぁ……」
よ、よかったぁ。アレな関係なワケじゃなかったんだぁ……。
ふぅ……何とか持ちこたえたよ……。
「……どうかしたか?」
「え、いえ、なんでも……」
「フレミネさんの事が気になったのか?」
ぐふぅ……なんだろう、僕の知らない男の名前だからか、初めて味わう類いのダメージを喰らいまくってる。ヌヴィレットさんやリオセスリさんの名前がクロリンデさんから出てもこんなことないのに。
「ほ、ホントなんでも無いですから……そうだ、お昼に狩った獣肉を家で冷凍保存してあるんですよ、良かったらどうですか?」
「いいのか?ならお邪魔しよう」
ふぅ。話を逸らしたはいいけど、クロリンデさんを家に招待してしまった。
思えば、いつもはクロリンデさんから訪ねてくるか、勝手に着いてきてなぁなぁでご馳走するばかりで僕から招待したことはなかったな。
……今夜のご飯はいつも以上に丹精込めて作ったよ。
挙動不審勘違い野郎
「考えただけでキツイ」
フレミネさん
「えっと、ぼくは何もしてない……よね?」
大魔術師
「お父様から聞いていた以上に愉快な人のようだね」
パパラッチを訴えるか悩んでいる
「私がカフェで一人休憩しているタイミングを狙ってくる記者が多くいるのだが、最近は意中の相手はいるのか付き合っている男性はとか、そういった事ばかり聞いてくるようになった。いい加減にしてほしい」