知り合いはさいつよ決闘代理人 作:秘境と聖杯ダンジョン
どーもどーも、僕だよ。今日は特巡隊の拘留所からお送りするよ。もちろん、僕が拘留されている側ね。
どうしてこうなったのかなぁ。日頃の行いというやつだろうか。
日頃から進んで善き行いをしているワケではないが、悪行を働いたことだって無い。むしろ今日は人助けをしたくらいなのに。
いつものようにカフェ・リュテスでモーニングをした後、今日はどこで狩りをしようかなんて考えながら歩いていたら女性の悲鳴が聞こえてね。
「泥棒ー!」
と叫ぶ声と、こっちに向かって走ってくる荷物を抱えた男。
この人が下手人だと判断した僕は相手の前に立ち塞がり、こっちに襲いかかってきた所を躱して、服と腕を掴んで投げ飛ばした。その際、上手く荷物も取り返してね。
んで、荷物を返してあげようとしたところを後ろから特巡隊の人にタックルされて倒れちゃって。そのまま連行されちゃった。
逃げようと思えば逃げれたけど、それで逆に罪が付いたら笑えないからね。ちゃんと証言して釈放されようかなと。
ただ、目の前の特巡隊員さんは僕が引ったくりをしたと信じて疑っていないんだよね。どうしたもんかなー。
「──ご苦労」
「は!シュヴルーズ隊長!」
お、とうとう特巡隊隊長が出てきた。初めて見たなぁ。
「この者の尋問は私が変わろう。お前は持ち場に戻れ」
「はっ!」
特巡隊員さんは足早に部屋を出ていって、ここには僕と隊長さん、そして記録係の人だけになった。
「さて、君の噂はかねがね伺っている。最高審判官やフリーナ様、常勝無敗の決闘代理人を筆頭にな」
「それはどうも」
「そんな君がまさか引ったくりとは……クロリンデ女史も悲しむことだろう……ヨヨヨ」
「いや、やってませんって。周りに証人くらい居たでしょう」
「それで、動機は?あ、お腹が減っていて喋れないか?ならこれをやろう」
そう言った隊長さん取り出したのは、ポテトやポンコロ・ワッカリングなど大量のジャンクフードだ。どこから出したの?
「いえ、腹が減ってるワケじゃ……」
「そうか?では私が食べてしまおう」
元からそのつもりだったのか?
もしゃもしゃと食べ始めてしまった。結構なハイペースでどんどん彼女の口の中に消えていくジャンクフードたち。
何を見せられているんだろう。さっさと弁明して帰ろう。
「あの、僕は──」
「ああ、今朝のことならもう調べは着いたよ。物陰で伸びていた男の身柄を警察隊が確保していたんだ。被害者の女性の証言や、現場周辺の聞き込み調査の結果から見ても、警察隊で確保されている男の事で間違いないだろう」
「ならさっさと釈放してくれればよかったじゃん。なんだったんですかさっきの茶番は」
おっと。つい声に出してしまった。でもこの人、全部知っててヨヨヨとか言ってたんでしょ。
「すまないすまない。まあ私がわざわざ来るまでも無かったんだがな。後の仕事は君を直に来るであろう君の身元引受人に渡すだけだからな」
「引受人?」
誰だろ。閑雲先生は今日は日が昇る前からフォンテーヌ科学院の方に行ってるし、まだ暫くは戻ってこないはず……。
「ここに来る途中、たまたまクロリンデ女史にあったのでな。君がこういうことをする人物なのか聞いてみたらパレ・メルモニアへと駆け込んで行ってしまったのだ。向こうには君の身柄は支部の拘留所だと伝えておいたから直に来るだろう」
なんて事を。
まさかクロリンデさんにこのことを知られてしまうとは……何を言われるか怖い。
「それで、私がわざわざここに来た理由だがな。君を勧誘しに来たんだ」
「勧誘?僕を、ですか?」
「ああ。君の腕節については私も聞いている。君の能力があれば十二分に特巡隊でやっていけるだろう」
「いや、でも僕銃とかは」
「そこも勿論考慮している。銃は特巡隊の基本装備だが、君の弓の腕があれば必要ないだろう。よって特例として持たなくても構わないことにするよ。そのほかの訓練についても、君が参加したいと考える物のみ参加してくれればいい」
なにそれ、めっちゃ特別扱いじゃない?
まあ心はもう決まっているんだけどね。
「君の腕を見込んでの提案だ。どうかな?」
「ありがとうございます。でもすみません。まだ暫くは狩りが趣味の根無し草でいるつもりなんです。それに──」
バンッ!と大きなドアの開く音で、僕の言葉は掻き消された。でも、隊長さんには届いたみたいだね。
「クロリンデ女史。お早い到着だな」
「当然だ。彼の身は私が引き受ける。構わないな?」
「ああ。君、ウチの隊の者が済まなかったな。彼はまだ配属されたばかりで、職務に熱が入ってしまったんだ。大目に見てやってほしい」
「大丈夫ですよ。彼にも気にしないよう伝えてあげてください」
「後日、誤認逮捕の謝意と犯人逮捕の謝礼としての品を君の住所に届けるよう手配しておくよ」
「それはどうも」
軽く礼をして、クロリンデさんと一緒に拘留所を後にした。
なんか久しぶりにお日様を浴びたような感覚だ。もう日は天辺を過ぎていて、これからどんどん沈んでいくだろう。
んー、狩りはいいかな。今日は色々あったし疲れたよ。
「──君が逮捕されたと聞いて、驚いたよ」
「まあ勘違いでの誤認逮捕でしたけどね」
「その事を聞いた時、居ても立ってもいられなかった。シュヴルーズ隊長の言葉も聞かず、真っ先にヌヴィレット様の所に向かったんだ。君がそんなことする筈がないからな」
「ヌヴィレットさんにも後で謝りに行かないとかな」
「必要ないよ、今回の件は特巡隊のミスだ。君は堂々としていればいい」
慰めと励ましが心に沁みるよ。ありがたい。
「事の真相を知った時、安心したよ。君が悪事に手を染めていなくて、冤罪であることが直ぐに判明して、本当に良かった」
「クロリンデさん……」
「もし、君がそのまま審判にかけられて、君が自身の名誉の為に代理決闘を申し込んだとしたら……考えたくもなかった」
……ええ、分かってますよ。
今回の事はそんな大事じゃないけど、クロリンデさんにとっては大きいも小さいもない。
その可能性がある事自体が、恐ろしい。
「僕は代理決闘を申し込むような事はしませんよ。約束します」
「審判されるような事はしない、とは言わないんだな」
「それはほら、無いとも言いきれないですから」
実際、このフォンテーヌでは何がキッカケで告訴、審判されるか分かったもんじゃない。結構長くフォンテーヌにいるけど、この国の法律を半分も覚えていないのだ。
「クロリンデさん、今日の予定は?」
「ヌヴィレット様には半休を使うと言って来た。今日はもう無いな」
「なら、晴れて自由の身になった事ですし狩りに行きますか。そのまま一緒に夕食でも」
「──ふふ、楽しみだな」
そうそう。悲しい顔より、楽しそうな顔の方が似合うよ。
誤認逮捕された人
「後日謝礼として大量のジャンクフードが届いたのでシュヴルーズさんにお裾分けした」
ジャンクフード大好き特巡隊隊長
「代理決闘において常に冷静沈着、冷徹無比なクロリンデ女史の焦った顔はなかなか見応えがあったな。そうそう、彼への品は私セレクトだ」
クロリンデ女史
「久しぶりに壁を駆け上ったよ。パレ・メルモニアまでのリフトを待つのが煩わしかったんだ」
フォンテーヌ邸の人々
「それはもう驚いた、通りを何かがすごいスピードで駆け抜けて行ったんだ。それが通り過ぎた後にはピリピリとした元素が残って見えるほどだったんだ」