知り合いはさいつよ決闘代理人 作:秘境と聖杯ダンジョン
今日こそ魚が釣れる気がする。朝起きた時の直感を信じてポワソン町近くの釣りスポットに来た僕だよ。
朝から暫くデラロッシュさん特性の餌を針に仕掛けて釣り糸を垂らしているけど、今のところ全く成果がない。いやでも、今日こそは釣れるはずなんだ。きっと釣れるさ。
なんて思っていたら、来訪者が。しかも知ってる顔のヤツ。
「おや、そこにいるのは……久しぶりじゃないか。璃月以来だな。それとも、俺の審判を見に来てたりした?」
「げぇ、『公子』」
「なんだ、もう前みたいにあだ名で呼んでくれないのか?」
「呼んで欲しい?」
「まさか。魚、釣れてるかい?君は釣りが下手だったけど、少しは上達したかな?」
「うっせ」
『公子』ことタルタリヤとは、以前璃月で少しほんのちょっとだけ一緒に行動したことがあるんだよね。
絶雲の間の近くをうろちょろしていたコイツに声をかけたのは若干後悔してるよ。いきなり戦闘を仕掛けてくるし、相手している途中で宝盗団に絡まれて一緒に追い払ったらなんか気に入られちゃったし。その時はタルタリヤがファデュイの執行官だってこと知らなかったんだよな。後から鍾離さんに聞いて知った。
──まぁ、タルタリヤ個人の事は嫌いじゃないよ。ただファデュイで執行官でっていうのがね。コイツ自身も悪人の自覚はあるけど、どこか憎めない。兄弟想いなヤツだからかな。
「ンな事より、旅人からスネージナヤに帰って療養してるって聞いたけど、こんな所でなにしてんの?」
「ちょっと野暮用でね。慌てて船から抜け出して来たんだ」
「何やってんの」
自分が重傷人だってこと忘れてんの?
「その甲斐あって君と再会できたんだ。喜ばしいことだろ?」
「そうでも無いね」
「ハハッ、そう言うなよ。それより聞いたぞ。君、あの決闘代理人と良い仲なんだろ?」
「誰から聞いたんだよ。クロリンデさんとはただの知り合いだよ」
「君から彼女に俺と本気で戦り合うよう頼んでくれないかな?」
「何言ってんの?自分が重傷人だってこと忘れてんの?」
おっと、声に出てしまった。
「忘れてないさ。これでも大分治ってきたし、あの決闘代理人が本気で戦ってくれるって言うなら残りもすぐ治してやるさ……ゲホッゴホッ……」
「無理すんなって」
戦闘狂なんだよなぁ。何がタルタルをこうしてしまったのか。僕は知らないけれど、少し気の毒に思うよ。こんなこと本人に言ったら怒られるだろうけど。
「それだけの為にわざわざ抜け出して戻ってきたワケじゃないんでしょ、野暮用って?」
「野暮用っていうのは……最近この近くにいる同僚に会いに来たんだ。少し調べ物をしてもらってて、その結果を聞きに来たんだ」
この近く……同僚……早いとこおいとましようかな。魚は釣れなかったがこの際仕方ないよね。朝イチの直感なんて当てにならないわ。
「ちょっと急用を思い出した。僕はこれで──」
「待たせてしまったかな、公子。おや?君も居たのか」
「俺も今さっき着いたところだよ」
「あっ」
『召使』さんからは逃げられない。
いやアルレッキーノさんのこと嫌いとかそういうワケじゃないんだよ。ただこう、畏まっちゃうというか。悪い人じゃないのは知ってるけどさ……フリーナ様がアルレッキーノさんの事を異様に怖がる気持ちも分かるというか……そんな感じ。
「ど、どうも本日はお日柄もよく……」
「フフッ……」
「笑ってんじゃねえよタルタル」
『召使』さんことアルレッキーノさんとも僕は面識がある。と言っても、ファデュイ執行官で会ったことあるのってこの二人だけだけど。
夜に釣りをしているとたまにアルレッキーノさんがここに立ってる事があってね。夜風を浴びてたんだって。
この人がファデュイの執行官だって知ったのも大分後だった。たまたま僕とアルレッキーノさんが居たタイミングで通りかかった旅人が教えてくれなきゃ知らないままだったかも。
「君も元気そうでなによりだ。それに丁度よかった、君に一つ頼み事をしたかったんだ」
「頼み事、ですか?」
「ああ。私が用意した謝意の品をフリーナ殿に渡してほしい。以前の会合の際、彼女にも事情があったとはいえ私は彼女に対して高圧的に接してしまったからな。その他諸々を含む詫びの品だ。本来なら私からフリーナ殿に直接渡すべきなのだが、いつ訪ねても留守だからな……」
多分居留守じゃないかな。
フリーナ様、前にちょっとアルレッキーノさんの話題が出た時、目に見えて動揺してたからなぁ。
「だ、誰のことだい?めしつかい?わ、分からないなぁ、そんな怖いやつのことなんて……」
って。
外交関係で会合をしたことがあるってヌヴィレットさんと旅人さんから聞いてたんだけど、余程アルレッキーノさんのことが怖かったらしいね。
「分かりました。その品はどちらに?」
「ポワソン町にいる壁炉の家の子供たちに預けてある。以前から君のことは話してあるから、あの子たちから受け取ってくれ」
「了解です」
この場を去る口実ができた。
早いとこポワソン町に行って品を受け取ってフォンテーヌ邸に避難しよ。
「改まってる君を見るのはなんか新鮮だな」
言ってろタルタル。
「じゃ、僕はこれで失礼しますね。タルタルもまたな、テウセル君によろしく伝えといて」
「ああ、俺もまたどこかで君と会える日を楽しみにしてるよ」
「フリーナ殿によろしく頼むよ……あぁそうだ、リネとリネットのマジックショーを見に来てくれてありがとう。あの子たちも喜んでいたよ。また見に行ってやってくれ」
「機会があれば、必ず。では……」
二人に別れの挨拶をして、ポワソン町の壁炉の家の子たちの拠点でフリーナ様宛の品を貰ってフォンテーヌ邸に急ぎ足で戻ってきたよ。
この時間帯なら、多分家にいらっしゃるかな。訪ねてみよう。
ノックノーック。お届け物でーす。
「なんだい。新聞勧誘なら間に合ってるよ」
「ならこの数量限定のケーキは僕がいただきますね」
「待った待った!」
フリーナ様のご登場だ。
「これ、お優しい方からのお届け物です」
「ケーキと言っていたね?どれどれ……」
「ご迷惑おかけしましたので、と言ってましたよ」
「──ん?こ、このケーキ!見覚えがあるぞ!というか、食べた事もある!これってまさか……」
「想像通りだと思いますよ」
「だ、大丈夫かい?毒とか入ってたり……」
「失礼な人だな、僕がいただいちゃいますよ」
「わ、わー!分かったから!……うー、でもなぁ……そうだ!君にこのケーキを僕とシェアする権利をやろう!」
「え、いや別に……」
「遠慮するなって。ほら、上がった上がった」
「あ、ちょっ……だから男を簡単に部屋に上げない方がいいと散々──」
「君に限ってはナイナイ。ほら、美味しそうなケーキだぞ」
フリーナ様に引っ張られクラバレッタさんに背中をどつかれながら家の中に連れ込まれた僕は、ケーキを少しいただいて帰宅したよ。
釣り下手
「そういえば僕、無意識にタルタリヤの事あだ名で呼んでたな」
公子
「君が釣りにハマってくれて俺も嬉しいよ」
召使
「喜んでくれたなら良かった。次は子供たちの手作りを贈る事にしよう」
フリーナ様
「もしかして召使って実は優しかったり……いやいや、あんな恐怖人間がそんな……ゆ、夢に出ないでおくれよ……」