知り合いはさいつよ決闘代理人 作:秘境と聖杯ダンジョン
今日は夜中に狩りに出ているよ。と言っても、いつもの獣狩りじゃなくて、魔物狩りの下調べなんだけどね。
最近、パレ・メルモニアの付近に夜になると騒がしくなる魔物の群れが出没しているらしい。
近々執律庭の方で討伐することになっているらしいんだけど、その前に執律庭から冒険者協会に魔物の具体的な数と群れを構成している種類、可能であれば首領の調査が依頼されてね。
大抵そういう依頼ってあんまり受理されないんだ。危険だし。それで困ったキャサリンさんが僕に事情を話してきたんだ。報酬を協会の方から更に上乗せしてくれるというので、受けることにしたよ。
騒がしくしてるって話らしいから、アベラント系の線は薄そうかな。多分ヒルチャールの群れとかじゃないの?そんでアビスが音頭とってるんでしょ?
なんて思ってた僕の予想は半分当たり。そんでもって考えてたより面倒くさそう。
げぇ……ヒルチャールレンジャーが率いてるのか……ヒルチャールレンジャーは基本群れないんじゃないの?
レンジャーはなぁ……ちょっと賢いからな……アビスとは違う方面で面倒。これなら岩兜や雷兜の王とかの方が楽だったかもしれないね。
そして群れてるヒルチャールも数が多い。斧持ち盾持ちそれぞれ二匹、以下棍棒持ちボウガン持ちシャーマンなど合計二十匹くらい。いや多いな。
この辺に集落なんてなかったはずだから、よく調べておく必要もあるね。もしくは、ボスであるレンジャーに着いて一緒に放浪してるのか?どちらにせよ、このまま放置しておくのは危険だね。
情報共有のために写真も何枚か撮っておこう。パシャリと。
よし、これで僕の仕事は終わり。帰って報告書に纏めてキャサリンさんに提出すれば達成だね。
ん?ヒルチャールが一匹、群れに駆け込んできたな。なんだ?
…………群れが移動を始めた。東の方……霧の幽林道の方か。そっちに集落を構えてるのかな。もう少し探っておこう。
移動するヒルチャール達から距離を取りつつ、身を隠しながら尾行していくよ。
──幽林道に着いた途端、一匹のヒルチャールが一目散に駆け出した。他のヒルチャール達も、それぞれがバラけて走り出す。
今まで感じられた統率のようなものは感じられない。
ヒルチャール達の様子から感じられるのは、恐怖。
まるで──天敵から逃れる被食者のよう。
殿を務めていたであろう、ボスのレンジャーは武器である鎌と風スライムを構えながら辺りを注意深く警戒している。
木々の間に鎌を向け、何かを叫んでいる。……何かがいる?
林の中でヒルチャールレンジャーが叫ぶ声が響く。
カチャリ、と。音が聞こえ、辺りが静寂に包まれた。
それは撃鉄を起こす音。その音を、僕はよく知っている。
ならば当然、次に続く音も分かる。
銃声。撃たれたと同時に、ヒルチャールレンジャーはジグザグと木々を盾に走り出した。
続いて、二発。林の中に木霊する。ヒルチャールレンジャーは何度も方向を変え、敵から距離を取ろうとする。
その手法も、よく知っている。
その場から離れたはずのヒルチャールレンジャーは同じ場所へと戻ってきていた。当人もそれに気がついたらしく、辺りを何度も見回している。
木々の間から、狩人が姿を現した。
……クロリンデさん、なんかめっちゃ不機嫌じゃない?
いつも涼しい顔をしてるけど、今日のは限りなく無。迷惑記者を相手してる時より無。
なのに体全体から発せられる凄まじい殺気。さっきまで全く感じなかったのに。素晴らしき気配遮断、あるいはその殺気をヒルチャール達にだけ向けていたのか。
ヒルチャールレンジャー一匹だけなら、僕が援護する必要は無いね。ちょっと様子を見ておこう。変に手を出してクロリンデさんに怒られたくない。
怯えを振り切ったヒルチャールレンジャーがクロリンデさんに武器を振りかぶるも、クロリンデさんは左手に持つ銃を撃ち迎撃。銃弾を食らって怯んだ所に、雷元素を纏った剣による致命の一撃が振り下ろされた。
一瞬かぁ……流れるような動きだったけど、いつもとは全然違ったね。やっぱりめっちゃ機嫌悪いみたい。
ヒルチャールレンジャー?雷元素に焼かれて塵になったよ。
さっき逃げていったヒルチャールたちが次々にクロリンデさんへ向かっていく。敵討ちかな。
ただ、この数相手だとね。クロリンデさんなら大丈夫だと思うけど、多少お手伝いをば。後方支援はお任せあれってね。
まずはクロリンデさんにシールドをっと。
あ、こっち見てる。手を振ってみると、クロリンデさんは僕に向かって頷いて再び戦闘態勢に入る。
よし、拒否られてないね。じゃあこのまま援護を続けよう。
クロリンデさんがヒルチャールの群れを殲滅してしまったよ。
いやー凄かったね。雷元素で作ったらしい分身とかも出てた。人ってあんなことできるんだね。僕なんか元素力でまともな武器すら作れないのに、自分の分身て。なんかこう、凄いよね。
「お疲れ様です、クロリンデさん」
「ああ。すまなかった、見苦しいところを見せてしまって。ストレスの発散をしたかったんだ」
「何かあったんですか?」
「……君にならいいか。日中に代理決闘があったんだ。その相手というのが、同僚や部下に猥褻行為を働いた者だったんだ」
「……あの、無理に話さなくてもいいですよ」
「まあ聞いてくれ。その男は法廷で有罪判決を受けたが代理決闘を申し込んだ。そして私に向かってこう言った。『私は武器を使わない、素手で決闘に挑む』とな。勿論、公平を期すために私も武器を置いて格闘のみで決闘に臨むことにしたんだ。大方、素手ならば女である私を下せるとでも考えているのだろうと。当然、決闘には勝ったよ」
そりゃあそうだ。クロリンデさんが強いのは武器がどうとか、そういうものじゃない。決闘ゲームで毎回完敗、ハンデ貰っても負けてる僕が言うんだから間違いない。
「ただ、決闘の最中、胸や腰の辺りを何度か触られてな……私に勝てないのは分かっていたから最後に愉しませてもらったと……何をしているんだ?」
「ああ、ちょっと用事ができたのでメロピデ要塞に……」
勢いよく弓を剣に変形させ、首や肩を鳴らす。こういうのは久しぶりだから腕が鈍ってないといいが……ああ心配しないでください、僕の弓剣なら誰にもバレずに暗殺できますよ。もしバレたとしても、そいつのイチモツだけは確実に切り落としてきます。
「落ち着いてくれ。決闘が終わったあと、ヌヴィレット様が法廷侮辱罪を付け加えてメロピデ要塞へ送監してくれた。公爵にも言い含めておくと言っていたので、水の下でもいい生活はまず送れないだろう」
「……分かりました」
メロピデ要塞で公爵に目を付けられる事がどれだけの意味を成すかは理解している。それが悪い方なら尚更。
だけどなぁ。怒りが治まらないよね。こっそり行ってこっそり始末……でも僕泳げないんだよな。フリーナ様にチクればヌヴィレットさんも丸め込めるかな……無理か。
「そんなことがあって魔物狩りをしていたんだ。ストレス発散には丁度いい。君は何故ここに?」
「あー、ちょっと依頼で。もう解決したので大丈夫です」
偵察の依頼だったけど。殲滅しちゃった。
どう報告しよ。報酬の話だけじゃないし、ちょっと大変そうかな……まあ何とかなるでしょ。
「これからフォンテーヌ邸に帰りますけど、一緒に帰りますか?」
「そうだな、そうしよう」
ポート・マルコットから巡水船に乗ってフォンテーヌ邸に戻ってきたよ。エルファネさんのガイドは話が短く纏まってて聞きやすいね。アイベルさんの話しが長いってことじゃないからね。あの子のガイドは元気を貰えるよ。
「クロリンデさんも一階でいいですか?それともパレ・メルモニアの方へ?」
「私は上だな」
「分かりました。今リフトを呼ぶので先に使っていいですよ」
「ありがとう」
セントラルポートのリフト、結構待ち時間が長いよね。タイミングよく乗れればいいんだけど。
「そうだ、少し手を貸してくれないか?」
「手?どうぞ」
なんだろう。クロリンデさんが僕の手を引いて、そのまま────
「やはりな。君になら触られても嫌じゃないみたいだ」
「へ……?」
「ん、リフトが来たようだ。今日はありがとう。君に会えて良かったよ」
クロリンデさんは行ってしまった。
まもなく下階行きのリフトが到着したけど、リフトは僕を置いて下に降りて行った。
手のひらを眺める。そこに残る感触が忘れられない。思考能力が全てそこに持っていかれてしまったかのようだ。
巡航から戻ってきた巡水船から降りてきたエルファネさんに叩かれるまで、ずっとそうしていたよ。
巡水船のホームでずっと手のひら眺めてた人
「理解が追いつかない。どういう、なにが?」
セクハラされた決闘代理人
「ストレス発散には狩りがいい。狩りの対象はなにも動物だけとは限らない」
エルファネさん
「あの人、さっきクロリンデさんと一緒に降りた人よね?何をしているのかしら。本日の運行はおしまいよ、早く帰った方がいいわ」
執律庭の人
「威力偵察の依頼をしたら目標が駆逐された。仕事が減って良かった良かった」