知り合いはさいつよ決闘代理人 作:秘境と聖杯ダンジョン
「こら、いつまで寝ているつもりだ。もう日は昇っているぞ」
ペシペシと頭を叩かれ、目が覚めた。
わざわざ閑雲先生が僕を起こすなんて珍しいな。
「ふぁ……おはようございます。どうかしました?」
「いや何、フォンテーヌは粗方観光したのでな。妾はそろそろ璃月に戻る」
「ああ、そうですか。お気をつけて……」
僕はまだ寝たいんで。夢見月さんの心理療法を受けてから、なんか良く眠れるようになったんだよね。いくらでも寝れる感じがする。
「二度寝しようとするでない。あまり寝てばかりいると後が辛いぞ」
「うい……」
上半身を起こし、伸び。おお、ゴキゴキ鳴るね。
「まったく。それが師を送り出す弟子の態度か」
「すみませんね。お見送りしますよ」
「うむ」
見送ると言っても、玄関先までだけど。飛んで帰るだろうし。
「お前はこの土地で良くやれているようだから心配は要らぬだろうが、もし何かあればいつでも璃月に戻ってくるといい」
「いや、ボクの故郷はスメールなんですけど」
「巣立った弟子の帰り場所になってやるのもまた師の努め。それに、スメールよりも妾の下の方がお前も帰り易いのではないか?」
「……まぁ」
それは、そうなのかもしれない。
もしここに居られなくなって、何処に行くかといったら僕はガンダルヴァー村よりも閑雲先生の所を選ぶだろう。
「勿論、何も無くても偶には顔くらい見せるように。口には出さぬが漱玉も会いたがっているだろうからな」
「分かりました。多分、次の海灯祭も行くと思うのでその時はよろしくお願いします」
「うむ。ではな」
ヒュウ、と先生は風に乗って空を蹴り、羽ばたいて飛び去っていった。
……僕も着替えて狩りにでも……いいか、今日はなんもしない日でも。
休日にしよ。年中休日みたいなモンだけど。定職に就いてないしね。
あ、そうだ。読み途中の本でも読むか。稲妻で買っちゃったんだよね、娯楽小説。結構面白い。
今まで本っていったら論文だとか資料だとかレシピ本だとかそういうのばっかだったからね。新鮮だよ。
小説を読んでいると、コンコン……と玄関を叩く音がした。
誰だろ。今日は月初めの三日じゃないから閑雲先生が飛んでっても問題ないし、法廷の人じゃない……ハズ。
はいはいどちら様ですかー。
「おはよう」
「あ、クロリンデさん。おはようございます。珍しいですね、わざわざ尋ねて来るなんて。何か用ですか?」
法廷の人ではあったね。
「先日メロピデ要塞に行って公爵に稲妻のお土産を渡したんだ。そしたらその礼にと良い紅茶の茶葉を貰った。お土産は私と君からの物だったから、この紅茶も二人でいただくべきだと思ったんだ」
そう言ってクロリンデさんは手に持っていたマジックポケットの中を見せてくれた。茶葉の缶が三つと、お茶菓子が入っている。この銘柄……本当に良いとこの紅茶じゃん。
「お裾分けですか」
「それもいいが、どうせなら一緒に飲もう。せっかくの良い紅茶だ。……君の予定が空いていれば、そうしようと思っていた」
クロリンデさんが、マジックポケットの中からマイカップを取り出してそう言う。
どこかに行くつもりも他になにかやる気もなかったから丁度いいかな。
「全然、問題無いですよ。せっかくなので、旅行の感想を話しながらいただきましょう」
「そうだな。お邪魔するよ」
いつも出している璃月のお茶の代わりに、リオセスリさんからいただいた紅茶を淹れる。
……急須も璃月の陶器だけど問題ないかな?淹れ物で味変わるからな……。今後のために紅茶用のポットも用意しておこう。
「どうぞ」
「ああ。ありがとう」
その日はクロリンデさんと紅茶を飲みながら稲妻旅行の感想を話したよ。
もちろん、道中のスメールでの事も含めてね。もしスメールへ行くならどこに行こうかとか。
ぶっちゃけ僕としては観光できるような場所なんて今回寄ったシティとオルモス港、行く人によるけどキャラバン宿駅くらいだと思ってるんだよね。フォンテーヌの人はきっと砂漠無理よ。あとは山と森の中に遺跡があったりとかしか無い。
「──そうだ。次の海灯祭、また行こうかと思うんですけど、クロリンデさんもどうですか?」
「構わないが……珍しいな、君から誘われるのは」
「そうですかね?」
思い返せば確かに、僕からクロリンデさんを何かに誘った事はあまり無いかもしれない。基本的にクロリンデさんから誘ってくれるか、僕が狩りをしている時にクロリンデさんが現れて一緒に行動するか。
「海灯祭の時期に合わせて休みを取れるようにしておこう」
「ありがとうございます。ナヴィアさんやフリーナ様、リネさん達みんなにも声掛けておきますね。楽しみだなぁ」
ホント、良いお祭りだよ。海灯祭は。国をあげての祭りだから賑やかなのもそうだし、その起源もね。
「……あぁ。その方がいい」
……?どうしたんだろう。クロリンデさん、少し不機嫌になった?
「どうかしましたか?」
「なんでもない。ナヴィアやフリーナ様も誘うのは当然の事だ」
そう言ってカップの紅茶を飲みきり、おかわりを催促してくるクロリンデさん。
紅茶を淹れながら、理由を考えてみる。
…………。
そういうこと?
「その、クロリンデさん……」
「…………」
コクリ、と。クロリンデさんが頷いた。
顔が熱くなっていくのを感じる。
「……君は、嫌だったか?」
「……嫌、じゃない、です」
それはズルいと思います。
余程の事が無い限り、僕がクロリンデさんのこの『お願い』を断れる日は来ないだろう。
その後、日が暮れてクロリンデさんが帰るまで雑談をしていたよ。
「じゃあ、今日はこれで。今日は楽しかった」
「僕もです。本当に送っていかなくて平気ですか?」
「当然だ。では、また」
「はい。また」
手を振ってクロリンデさんを見送り、姿が見えなくなってから部屋に戻り、椅子に座る。
「あ゙ー…………」
途端に脱力。だらしない呻き声が出てしまう。
平静を装うのは大変だね。あんな爆弾を落とされてからずっと緊張してたからなんか疲れちゃったよ。
「……いい加減、向き合わないとマズいよなぁ……」
これだけ想いを向けられて、気付かなかったり勘違いしたりできるほど僕はバカじゃない。
勘のいい狩人
「ホント、どうしようか」
決闘代理人
「……難しいものだな、この手のものは。初めての事とはいえ、自分自身の感情に振り回されるとは、私もまだまだということか」