知り合いはさいつよ決闘代理人   作:秘境と聖杯ダンジョン

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最終回の話を少し細かく、二人の視点から書いただけです。


夜明け

 

 

 

ずっと、ずっと、ずっと。明けない夜を彷徨っているようだった。

陽の光も、火の明かりも無い、夜の闇の中を。

 

 


 

 

「君には『これ』が何か分かるか?」

 

カフェ・リュテスで相席していたクロリンデさんがコーヒースプーンを手に取り、僕に見せてきた。

僕の手元にもスプーンはあるし、意図がよく分からないな。

 

「そのスプーンがどうかしたんですか?」

「……そうか。これは私の師匠が私に教えてくれた事の一つで、心理テストのような物だ。ファントムハンターが武器を取る事の意味、そしてその先にあるもの。私は今、このスプーンで君の前にある角砂糖を指し示したんだ」

「あ、そういう……心理テストってことは、僕はどうだったんですか?」

「ファントムハンターが武器を取るのは、平穏を守り、勝ち取るため。勝ち取った先の平穏な日々には、当然ファントムハンター自身も含まれていなければならない。そして、角砂糖を取るための手段がこのスプーンだ」

 

そう言ってクロリンデさんはスプーンを使って角砂糖入れから角砂糖を掬い、コーヒーに入れた。

 

「なぜ戦うのかを明確にし、『戦い』そのものが目的になってしまわないようにすること。でなければ、スプーンだけ見えて角砂糖の見えない愚か者になってしまう。と私は師匠に教えられた───その顔を見るに、君にも心当たりはあるようだな」

 

もしこの場に鏡があったなら、酷く滑稽な顔をした僕が写っていたことだろう。

 

 

 

考えないようにしていた、分かっていた、分かりたくなかった。

 

僕はあれから全く変わってなんかいなかった。

あんなことをして、結局狩りを辞められなかった。

趣味だと言い訳し、弓剣に理由を付け、先へ行かないよう数を制限して。

 

 

結局、狩りにのまれてる。

 

 

 


 

 

「やはり、するべきではなかったか……」

 

コーヒースプーンを見つめながら、彼の事を思い出す。

酷く青ざめた顔をしながら、私の呼び掛けにも応えずに店を出ていってしまった彼の事を。

止める事もできたが、今の彼には落ち着ける時間が必要だと判断した。

 

「後で彼に謝りに行かないとな……」

 

そろそろ、昼休憩の時間も終わる。パレ・メルモニアに戻らないと。

 

その日、仕事が終わってから彼の家を訪ねたが、彼は居なかった。

翌日も、その翌日も、翌々日も、彼は帰らなかった。

 

 

あれから一週間。彼は未だ戻っていない。

今日は代理決闘があった。無論負けてないが、剣に迷いが出てしまう。決闘前のルーティンの武器の手入れも、身が入らなかった。原因は分かっている。

 

 

あれから二週間以上が過ぎた。彼はまだ戻っていない。ティナリさんと閑雲さんに手紙を送り、彼が居ないか尋ねてみたが、二人の所には戻っていないと返ってきた。千織のところにも、情報は入っていないらしい。

ナヴィア達とのテトシアも、楽しめきれない。

まさか彼一人にここまで感情を揺さぶられることになるとは思わなかった。

 

「クロリンデ、大丈夫?」

「ああ。問題無い」

「ウソ。分かるって言ったでしょ」

「……そうだったな」

「彼がいなくなってから、もう二週間くらい経つのかい?」

「今日で十八日になります」

「全く、どこほっつき歩いてるのかしらね。クロリンデをほったらかして」

「ナヴィア……」

「でもさすがに心配だ。僕からもヌヴィレットに彼の行方を調べられないか聞いてみるよ」

「フリーナ様……」

 

あぁ、良い友人を持ったものだ。

今日はもう解散となり、自宅に帰る事にした。

 

その途中でリネに会った。

 

「こんばんは、クロリンデさん」

「ああ、こんばんは」

「彼、まだ帰ってきていないようですね」

「ああ……」

「──ここだけの話なんですけど、僕の()()が最近、野生動物の死骸をよく見かけるようになったと言っていました」

「──それは」

「あくまで僕個人が、友人のために調べ物をしただけです。これ、目撃のあった地点を示した地図です。お役に立てればと」

 

リネから封筒を受け取った。中にはフォンテーヌの地図と、死骸の写真。

地図にはいくつかのバツ印と日付が書かれている。動物の死骸があった場所と見つかった日付だろう。

それに規則性は見つけられない。彼らしくはないが、手がかりにはなる。

死骸の写真を見ると、彼の使う矢の刺さった死骸から判別のつかないほど刻まれたものまである。彼がこのような狩りをするとは、考えたくないが……。

 

「……ありがとう。今度また、彼を連れてあなた達のマジックショーを観に行くよ」

「お待ちしてります、では」

 

リネと別れ、走ってフォンテーヌ邸を出た。

 

 


 

ずっと、ずっと、明けない夜の中を彷徨っている。

どれだけ前へ進もうとしても、日は昇らない。

僕はあれから、一歩だって進めていない。

狩りに酔うあの感覚が忘れられない。

 

「……そこ」

 

足音から獣の位置を見つけだし、矢を射って獣を狩る。食料にしよう。

草の擦れる音がした。そこにもいる。獣を狩る。余った方は売ろう。

鳴き声。狩る。……。

呻き声、狩る。物音、狩る、咆哮、狩る、攻撃、狩る、逃げた、逃がさない、狩る、狩る、狩る。

逃げる獣を狩る。向かってくる獣を狩る。攻撃してくる魔物を狩る。射抜く、射抜く、煩わしい、斬る、斬る、斬る、斬る。

ああ、なんて、キモチイ────

 

 

「──随分と探したよ」

「……あ、」

 

 

声。声だ。声がした。この声。知ってる。

 

「クロ、リンデ、さん」

「ああ。久しぶり」

 

 

 


 

 

リネから情報を貰って二日。ヌヴィレット様からも情報を貰った。共律庭の方でも件の調査が始まるそうだ。

できれば、それより早く見つけたい。この二日の捜索で数箇所のアタリをつけた。今日はそこを回って、見つからなかったら虱潰しだ。

一箇所目、付近に動物の姿が見えない。散った後だろうか。走って次へ向かう。

二箇所目、同じ。次。

三箇所目、同じ。次。

四箇所目──まだ動物の気配がする。ここには来ていない。ここから探す──必要は無さそうだ。動物達が逃げ始めた。

彼とは思えない粗雑な狩りだ。これがもし彼でなく魔物だったら鬱憤を晴らさせてもらおう。

 

──見つけた。雰囲気はかなり違うが、見間違う筈がない。ボロボロで、擦り切れ、血の匂いを発しているが、あれは彼だ。

できれば見間違いであってほしかったとも、言える。

弓矢で獲物を無駄に傷付けることの無い狩猟を行っていた彼とは思えない、無駄の多い狩り。必要以上に獲物を切りつけ、切り刻み、突き刺す。

 

これが彼の言っていた獣の姿か。

 

……私がその引鉄を引いてしまったのか。

剣を捨て、銃を落とし、歩いて彼に近付いていく。

無論、彼を遺して死ぬつもりなんてない。

謝罪に、武器は不要だろう。

 

「──随分と、探したよ」

「……あ、……クロ、リンデ、さん」

 

──声の出し方を、忘れていたのか。

この三週間、どれほどあなたは……。

 

「……ああ。久しぶり」

 

彼は蹲って、呻き声を上げ始めた。

きっと、己の内の獣と戦っているのだろう。

 

「ずっと、君を探していた。謝りたかったんだ、この前の事を。軽はずみな話題であなたを苦しませてしまった……ごめんなさい」

「……違、ぞれは、ぼぐが……ヴぅ……」

「答えは急がなくていいんだ。こんなに急いで、あなたがいなくなってしまったら、私は悲しい」

「……うぁ……」

「私にも手伝わせてほしい。あなたの狩りの意味を探すことを」

「ああ、ああぁああ──」

 

もう深夜だ。この状態の彼を連れて帰るのは難しい。野営の準備をしよう。

道具など持ってきていないから焚き火だけだが、無いよりはいいだろう。身体が暖まれば、少しは落ち着く筈だ。

 

 


 

「──落ち着いたか?」

「……」

「……久しぶりに、君の手料理が食べたいと思っていた。頼んでもいいか?」

 

コクリ、と彼は頷き、先程刻んでいた動物の肉を切り出して焚き火の火にかけ始めた。

前は下処理や味付けをおこなっていたが、それどころか調理器具すら使用していない。

渡された肉も、表面は黒く焦げてしまっている。

これが、今の彼の状態か。

 

「ありがとう。いただくよ」

 

一口。ガリ、と音がする肉を咀嚼する。当然、焦げた味しかしない。

だが、またこうして君の手料理が食べれて私は嬉しく思うよ。

 

「……」

「……不味いな」

 

彼の目を見て、告げる。初めて彼の作る料理を不味いと言った。

唖然としている彼に、私がしてあげれることをする。

木に成っているバブルオレンジをもぎ取り、彼が仕留めた獣の肉を使って料理を始める。火を通し、果汁で味付けをするだけのシンプルな物。それを彼に渡す。

それを食した彼は、再び涙を流した。嗚咽混じりに、私に謝罪しながら。

 

あなたは何も悪くない。こう言うのは簡単だ。しかし、それがあなたを苦しめるということを知っている。だから私は、あなたが泣き止むまで待つことを選んだ。

 

「……クロリンデさん」

「落ち着いたか?」

「はい……」

「なら良かった」

「あの、こんな僕を探してくれてありがとうございます。僕に意味をくれて、ありがとうございます」

「意味?それはまだ──」

「僕の狩りの意味、もう見つけましたから。──クロリンデさん、以前の勧誘はまだ有効ですか?」

「──ああ。誓いから順に、一つ一つ君に教えよう」

「お願いします」

 

 

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