知り合いはさいつよ決闘代理人   作:秘境と聖杯ダンジョン

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お水のお裾分け

今日も今日とて趣味の狩りをするため、フォンテーヌの地を歩……きたかった。

いま僕がいるのはパレ・メルモニアの大きな執務室。

そう。フォンテーヌの最高審判官さんのお部屋。机に向かって書類を処理するヌヴィレットさんを横目で見つつ、僕は一刻も早く解放される事を願いながら貴賓用のソファに座っていた。

まさか家の周りをメリュジーヌ達に包囲されるとは。要件を聞く間もなく連れ出されて、僕はヌヴィレットさんとサシでお話しすることになってしまったという訳だよ。

 

「すまない。予定通りに進んでいれば今頃君との時間を作れていたのだが、緊急で処理しなければならない仕事が来てしまった。あと少しで私の仕事は終わるので、もう少し待っていてほしい」

「い、いえ……お気になさらず……」

「お詫びと言ってはなんだが、菓子と水を運んでもらった。良ければ感想を聞かせてくれ」

「い、いただきます」

 

うん。緊張で味がわかんない。

なんでこんな事になったんだろうね、ホント。

とりあえず適当に感想言って誤魔化しておこう。

ヌヴィレットさんだし、水の感想を言っておけば何とかなるでしょ。

 

「ここのお店のケーキは相変わらず美味しいですね。僕もよく食後に買って帰ったりするんですよ。それにこのお水も、なんだか安心するような味で……」

「そうか。それは良かった。その水は君の故郷スメールの、アビディアの森の泉から採られた水だ。取り寄せた甲斐があったよ」

 

危うく噴き出しそうになったよ。

まるで僕が水を飲んで故郷を想いホームシックになってる人みたいになってるじゃないか。

ヌヴィレットさんも表情変わっていないけど、どこか朗らかな顔になっているような気がする。

 

「長らくフォンテーヌにいれば故郷が恋しくなることもあるだろう。その水は十箱買うと二割引きだったため二十箱確保してある。良ければ持って帰るといい」

 

すみません、適当に感想言っただけで水の味なんてそんなわからないんです……。

流れで水をいっぱい貰ってしまった。しばらくは汁物が増えそうだ。

 

「すまない、待たせてしまった。こちらは終わったので、早速本題に入るとしよう」

「ああ、はい」

 

向かいのソファに座ったヌヴィレットさんが、いくつかの書類をテーブルに広げた。

その書類に書かれていることは、とても覚えのあるものだ。

 

「先日はエピクレシス歌劇場の周りの害獣駆除に協力頂き、感謝する」

「いえいえそんな、軽い頼み事みたいな物でしたし」

 

要件ってこれのことだったのか。

 

「この件については、私の方から正式な仕事として君に依頼する予定だったのだが、それよりも早く君の方へ情報が渡ってしまい、君一人で駆除に赴くことになってしまった。本来ならば作業に必要な人工を君に決めてもらった上で作業に当たるはずだったのだが、君にも無駄な労力をかけさせてしまった」

「もう過ぎた事ですし、構いませんよ」

「報酬の方も、私が用意するはずだった額よりかなり少ない。これは最高審判官として、そして個人的にも見過ごすことはできない。よって先日の報酬に上乗せという形で、受け取ってほしい」

 

ヌヴィレットさんが紙を一枚めくり、二枚目の紙を僕の方へ。

 

うん。うん。うん。

 

「こんなに貰えません」

「足りなかったか?」

「多すぎって意味ですよ」

 

この紙に書いてある報酬額、僕が日に稼ぐ金額と比較すると三、四年は何もしなくてもいいくらいの額だぞ?

 

「すまない。相場がよく分からず、導入予定だった人件費等を全て君の報酬額に宛てたのだ。君の相場に合わせて訂正しよう」

「え、あー……じゃあ、モラはいらないです。代わりといってはなんですけど、もし僕の身に何かあった時、個人的に助けてくれればそれで」

「……君がそれを望むなら、私は構わない」

「ありがとうございます。では── 」

「しかしそれとこれとは話が別だ。優秀な働きに対して、対価が支払われていないこの状況は好ましくない」

 

ええ……いい感じに終われそうだったのに……。

結局、以前の報酬額に六割上乗せしてもらうという事で落ち着いた。

 

「ヌヴィレットさん、一ついいですか?」

「ああ」

「なんで僕にそんな良くしてくれるんですか?」

 

フォンテーヌはその辺寛容だけど、僕はスメールから来た外国人で、狩り人なんてやってる変な男だ。

そんな僕を、この国の実質的なトップである最高審判官がここまで気にかけてくれる意図がわからない。

 

「ふむ……君は私の部下であるクロリンデや、元水神であるフリーナと仲良くしてくれているだろう。それにフォンテーヌ邸の人々やメリュジーヌ達も君の事を良く話している。特にクロリンデは、君の事を良く思っている。今後とも彼女たちと仲良くしてやってくれ」

「は、はぁ……」

 

なんだかはぐらかされたような気がする。ヌヴィレットさんの真意とか全然わからないね。

言葉通りに受け取るなら、子供たちと仲良くしてくれてありがとう、今後もよろしく頼むよ。みたいな感じだろうけど、なに目線だよって感じだし違うかな。

んー、やっぱりわからないな。

 

「そういえばヌヴィレットさん、フリーナ様の食生活についてなんですけど」

「発言を許可する」

「一人暮らし始めてからずっとパスタ生活してるみたいです」

「ふむ……大方、パスタを作り置きし一週間程でソースのサイクルを作っているというところか」

「お、すごい」

「加えて彼女の事だ。間食にケーキ等を食べていることだろう。体調面に影響が出るかもしれないな。フリーナの食育については君に任せたいのだが、いいだろうか」

 

え?

 

「クロリンデから聞いている。料理を作るのが上手だと」

「は、はは……」

「……くくっ、いや失礼。冗談だ。フリーナの食生活に関しては、私から一言言っておこう」

 

ヌ、ヌヴィレットさんが笑った?

ヌヴィレットさんから、冗談?

あのヌヴィレットさんから?

 

その日、僕はどうやって帰宅したかあまり覚えていない。

それからしばらく、僕の耳からヌヴィレットさんの笑い声がこびりついて離れなかった。




ヌヴィレット
「彼の料理の腕前については二人から聞いている。時と場所によって出来栄えが違うのだとか。話は変わるが、彼は釣りが趣味らしい。今度リオセスリ殿と釣りをすることになったのだが、彼も誘ってみるとしよう」

スメール産の水をいっぱい貰った人
「そういえばヌヴィレットさんって、なんで僕がスメール出身だってこと知ってたんだろ。隠しちゃいないけど言ってもいないぞ」

法廷所属の決闘代理人
「私が教えました」
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