知り合いはさいつよ決闘代理人 作:秘境と聖杯ダンジョン
「ん?」
「あれ、ヌヴィレットさんと……あ、予言の時の方舟の人ですよね?あの時はどうも。お二人はどういう……ていうか、何してるんですか?こんな所で釣竿持って」
「君か。丁度良かった。これからリオセスリ殿と釣りをする予定なのだが、君も一緒に来ないか?」
「釣りですか?この辺に魚が釣れるような場所なんて……ちょっと待って、リオセスリ殿……って、あの?」
「その『公爵』だ。そういえばあの時は自己紹介しなかったな。メロピデ要塞の管理をしている、リオセスリだ。名前でも『公爵』でも好きな方で呼んでくれて構わない。君のことはクロリンデさんやヌヴィレットさんから聞いているから、自己紹介は不要だぞ」
参ったなぁ。ド偉い御二方に捕まってしまった。片やご存知フォンテーヌの最高審判官、片やその最高審判官が有罪を下した者が収監される監獄・メロピデ要塞の管理者である『公爵』リオセスリさん。
そんな二人と並んで川に釣り糸を垂らしているこの状況。
フォンテーヌの表と裏のトップ二人の密会になぜ僕が連れられているんだ。誰か助けてよ。
僕はただ狩りがてらにピクニック気分でこの辺を歩いていただけなんです、何も悪い事なんてしてないよ。
当時は知らなかったけど、僕とリオセスリさんは一度だけ面識がある。
あの予言の日。海面上昇によってフォンテーヌが海に沈んだ時。
ナヴィアさんから情報をもらった僕は、郊外の住民さんへの避難勧告で奔走していた。
ほら、僕って純スメール人で溶ける心配はなかったからギリギリまで人に呼び掛けて避難用の船に乗せてたんだけど、肝心の僕が船に乗り損ねちゃってね。
海に溶ける事はないし、フォンテーヌの海なんだから泳げばいいだろって?
僕泳げないんだよね。沈んじゃうの。
頑なに海に潜らなかったのはこれが理由ね。
フォンテーヌの海は元素力のおかげで呼吸できるからまだ良いけど、他の国の海とか川とかだと溺れて死にかねない。
泳げないが船ももう乗れない。解決策を考えるにも、そうしているうちに水嵩はどんどん増して行って、あっという間に流されちゃったんだ。
呼吸できるとしても、やはり泳げないので、藻掻きながらどんどん沈んでいく僕の身体。
どうしたもんかと考えていたら、海底から何かが浮上してきてね。それが予言の日に多くの人を助けた方舟だったのさ。
何とか船体にしがみついて、船と一緒に水上へ上がれたってワケ。
何とか助かったーって甲板で寝転がってたら、一番最初に出てきたリオセスリさんに会ったんだ。
『おいおい、まだ救助活動は始めてなかったと思うんだがな。キミ、立てるかい?』
って手を差し伸べられた時は危うく惚れるかと思ったよ。
船はもちろん、船上も救助活動で駆け回っていたので、ちゃんと挨拶する余裕もなく、気が付いたら全てが終わってて、それから会う機会もなかったから。
でもまさかあの時のあの人がメロピデ要塞の『公爵』だとは思わないじゃん。
ポワソン町の近くで釣りしてる時、たまに隣で海を眺めてた人がファデュイの執行官だと知った時と同じくらいの衝撃だよ。
ていうか、魚釣りもなにも、こんな浅瀬で魚が釣れるわけないでしょ。御二方は何を考えてここを釣り場に選んだんだ?
二人して寡黙な方だから会話もほとんどないし、超気まずいんだけど。
普段からボーっと釣り糸を垂らしている事が多い僕だが、流石にこの時間は楽しめそうにない。仕方がないので、ちょっと二人に声をかけてみることにしよう。
「……つ、釣れませんね」
「そのようだ」
「だな」
つ、続かねー。せめて会話のキャッチボールをしようと努力くらいして欲しいです。
「──時にリオセスリ殿」
「……なんだい、ヌヴィレットさん」
「最近は息災だろうか?」
「おかげさまで。水の下でも快適にやっているよ」
「そうか。それは何よりだ」
……。なんか、不器用な父親と不器用な息子の会話か?
二人の関係とかはよく知らないけど、過去に何かあったのかな。まあ、僕が聞くような事でもないだろう。
二人の会話はここで終わってしまったが、何となく空気が緩くなってくれたので、僕も黙って釣りをするとしよう。
ピチョン、と水面が揺れた。しかし、魚が掛かったワケでは無さそうだ。
ズンズン、と重い足音が複数、辺りに響き渡る。
「……ヴィシャップの群れ?」
なんでこんな所に。確かにこの辺に生息はしていたけど、こんな群れで出てくるほどだったかな。数十匹はいるし、なかなか大きい個体もいるな。
そういえば少し前に近くのウラニア湖の暴風暴水域が消失したんだったな、環境が変わったのが原因かな?
「なるほど。この近辺でヴィシャップに襲われたという被害報告が多数寄せられていたが、これ程までとはな」
「ヌヴィレットさん、アンタこれを知ってて俺らをここに連れてきたのか?」
「すまない、結果的にはそのような事になってしまった。君たちと別れた後、私一人で確認に行く予定だったのだが……」
「まあいいさ。せっかくのピクニックを邪魔されたんだ。多少暴れても目を瞑ってくれるんだよな?」
「構わない。私も同行しよう」
え、リオセスリさんもヌヴィレットさんも本当にピクニックで来てたの?何らかの密会とかじゃなくて?
「あ、僕は後ろから援護しますので」
「よろしく頼む」
「任せたぞ」
これでも狩人の端くれ、魔物であっても相手は獣。僕も参加しますよ。
草元素のサポートぢからを見せてやる。
いや、ヌヴィレットさんもリオセスリさんもメチャクチャ強いな。
僕、遠くから元素付着と二人に防御シールドの供給くらいしかしてないのにすぐに片付いた。
ヌヴィレットさんが強いだろうことは何となく分かっていたけど、まさかこれ程とは……公子を制圧してメロピデ要塞送りにしただけはある。
リオセスリさんも凄かった。一発殴る度にヴィシャップが飛んでく飛んでく。ヌヴィレットさんが濡らして、リオセスリさんが凍らせて砕くなんてこともしてたし、僕またいらなかったんじゃないかな。
「どーも、お疲れ様です」
「ああ。君の援護のおかげで楽に終わったよ」
「そうだな、助かったよ」
「え?いえいえ、お二人がほとんど終わらせたみたいなものじゃないですか」
「君の援護射撃のおかげで、ヴィシャップの注意が君に向くからやりやすかった」
「シールドのおかげで反撃を気にせず前に出れるしな」
お、おおう。面と向かって言われると照れるからやめれぇ……。
今日はこれでお開きとなったので、状態のいいヴィシャップを一匹いただいて、素材になりそうな部位は冒険者協会で、それ以外の部分はいつものお店で換金してから帰宅したよ。
「おはよう。聞いたよ、昨日のこと」
「おや、クロリンデさん。おはようございます」
カフェ・リュテスでモーニングをしていたら、クロリンデさんに声をかけられた。
昨日のこととはつまりあの釣り事件のことだろう。
「相席、構わないか?」
「いいですよ、注文は?」
「済ませてある。直に来るだろう」
流石。僕と並ぶ常連さんなだけはある。
通い始めたの、僕の方が後だけどね。
「ヌヴィレット様と公爵と一緒にヴィシャップ狩りをしたそうじゃないか」
「いや釣りです。ヴィシャップの方はたまたまそうなっただけで……」
「魔物退治はファントムハンターの使命でもある。君もなるか?」
「なりませんよ」
まだしばらくは、気ままな根無し草でいたい。その方がきっと良い。
「君ならそういうだろうと思っていたよ」
「僕のこと、わかってきましたか?」
「ああ。仕事を頑なに趣味と言い張る頑固な人だ」
「実際、狩りは趣味なんで」
狩りは趣味。それ以上のことはない。
「仕事にしたくなったらいつでも言ってくれ。ファントムハンターの誓いから順に教えよう」
「…………もし、その時が来たらで」
「その時が来るのを楽しみにしている」
それなりに強そうなサポーター
「できること?矢に元素力を溜めて射ったり、剣に元素纏わせて斬ったり、それくらいしかできないよ」
リオセスリさん
「彼は自分の実力を低く見積もりすぎだな」
ヌヴィレットさん
「泳げないのなら、私が教えてあげよう」
狩り友ファントムハンター
「定期的な草元素付着に味方への元素シールド供給。肩を並べて戦う時、凄く頼もしく感じるよ」