カルストンライトオの夫婦漫才
「トレーナーの足は本当にすっとろいですね。ナウマンゾウですか?」
「君に比べたら全人類は牛歩の歩みだよ」
「そうでしょうか。私とて生き物、後はもう動きは遅くなるばかりのはずですが」
どんなウマ娘にも、肉体と精神のピークはある。最高速に到達し、更に極めたカルストンライトオも例外ではない。
月日の流れにより、これ走っても後は速度が落ちるのを抑えるだけ。トレーナーとそう判断したライトオは潔く引退を決意した。
「……未練はないかな?」
「ありません。トレーナーのおかげで私はバクシンオーもチーターも超える最高速を手に入れました。全盛期に得られる最高速に届いた確信を持って引退するのです。というわけで感謝のチョコをどうぞ」
「唐突だな……ありがとう」
ライトオはいつも通り真っ直ぐ過ぎる瞳でトレーナーを見ながらチョコレートを渡した。
ライトオから渡されるチョコは毎年変わるが、全てが直線で構成されているのは変わらない。
「ライトオは、引退後の進路は決めてるのか?」
「わかりません。今までは最高速で走ることだけ考えていましたし、引退することはさっき決めましたから」
「君らしいな」
「なので今から一緒に考えましょう。まず私の母親は研究者です。なので研究者になった私を想像します。ちょうど身近にタキオンもいますし簡単でしょう」
「研究者は簡単になれるものじゃないけどな」
一度言い出したことは最高速でやってしまうのがライトオだ。
「ついに完成したぞ、この薬を飲めば人間でもチーター並みの速さで走れる。というわけで飲んでくださいトレーナー」
「わかった。……おお、体に力がみなぎってくる!」
ままごとのように虚空に何かを持って差し出してくるライトオに、それを受け取り飲むジェスチャーをするトレーナー。
「飲んだ直後にいきなりパワーアップするわけないじゃないですか。舐めてます?」
「そこはリアルじゃなくていいだろ!?」
唐突にハシゴを外される。とはいえライトオとの付き合いではよくあることだ。
「次行きましょう。私の父親は検察官。真実を突き止める証拠品を持って悪人の言い逃れにムジュンを突きつけるのです」
「できるのか?」
「というわけでトレーナー、適当なウソをついてください」
唐突に言われて少し考えるトレーナー。
「実は俺━━」
「異議あり!! その発言は明らかにムジュンしている!!」
「まだ何も言ってない!」
「失礼、先走りました。考えるのが遅かったのでつい」
相変わらずの速度が全てな清々しさに笑うトレーナー。
「なんにせよ、進路はすぐ決められることじゃない。ライトオが納得できる道を進めばいいさ」
「そうですね、ですが一つだけ決めていることがあります。前からずっーと」
「進路以外にやりたいことがあるのか?」
トレーナーが聞くと、ライトオはさっとトレーナーのそばに寄って腕を組んだ。ホールドしたとも言う。
「トレーナーの足は遅い。しかし貴方こそが私を真の最高速に導いてくれた。私の速さに振り落とされずに付いてくれた。ならばこれからの人生は貴方の歩む隣を一緒に歩きたい。たとえそれがナウマンゾウより牛の歩みより遅くなろうとも」
「ライトオ……本気で言っているのか?」
「当然です。具体的には両親に話は通してあります。卒業した11日後が結納の日になると」
「はやいはやい。応えられない」
「フフッ、本当のことです」
「そこは冗談であってくれ!」
「いくら肉体が衰え足が動かなくなろうと私の最高速に終わりはありません。ただ貴方を振り落とさないよう、全力でホールドして生きますから。一生一緒に、一直線に一途に。よろしくお願いします」
そして翌日。ライトオはトレーナーにこう言った。
「という夢を見ました。しかしまだ引退するつもりはありませんので今年も最高速を極めましょうトレーナー」
「その話をチョコを渡されながら聞く俺の身にもなってくれ。さすがにドキドキする」
「ドキドキしてくれたんですね。きゅん。おそらくタキオンが漫才をした夢の話を聞いたせいですね。見事な夫婦漫才の夢でした」
「ライトオ〜〜〜!」
カルストンライトオとトレーナーの最高速を極める走りはまだ終わっていない。まだ湯煎したチョコのように関係は固まっていない。
しかし、いつかはそんな日も訪れるのだろうと内心思う2人だった。
漫才は半分建前で引退したライトオに「これからはトレーナーのすっとろい歩みに合わせて隣で生きていきたい」というセリフを言ってほしくて書きました。