食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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この小説も、遂に第百話です!

とはいえ、導入が零話なので百一個目の話という感じになります。


エンデュミオン編
鳴護アリサという少女


 朝の光が穏やかに差し込むダイニングには、焼きたてのパンと炒りたての卵の香りが漂っていた。

 

結絆は、手元のカップに注がれたカモミールティーを一口すすると、テーブルの向こう側でトーストにバターを塗る操祈をちらりと見やる。

 

「もぉ、当麻ぁ。ちゃんと野菜も食べなきゃダメなんだゾ☆」

 

「うっ、サラダは最後にとっておく派なんだよ......。」

 

当麻は、苦笑しながらフォークを手にする。

 

テレビからは、軽快なニュース番組のテーマ音楽が流れ始めた。

 

『本日のトップニュースです。オービット・ポータル社が建設を進めていた宇宙エレベーター“エンデュミオン”が、本日未明に正式完成し、学園都市内でその全貌が公開されました!』

 

「......は?」

 

当麻のフォークが空中で止まり、目が丸くなった。

 

画面に映し出されたのは、地上からはるか上空へと延びる、まるで神話に出てくる天への階段のような構造物。

 

青く輝く柱は陽光を受けて幻想的に輝き、背景の空と見事に調和していた。

 

「うわ、これって本当に学園都市にあるのかよ......?赤道じゃなくても宇宙エレベーターって作れるもんなのか?」

 

当麻が呆れたように口を開けたまま言うと、操祈は「ふふっ」と可愛らしく笑った。

 

結絆はティーカップを置き、画面を見つめながらわずかに眉をひそめた。

 

「宇宙エレベーターを建てるなら、通常は赤道直下......地球の自転の影響が最も安定するポイントを選ぶものだよお。けど、ここは......北緯三十度を超えてる。しかも、地震だの風だの、自然の干渉も少なくない土地だろうに......それでも完成させたってのは......ちょっと異常だよねえ。」

 

「異常って......どういう意味だ?」

 

当麻が思わず聞き返す。結絆は目を細めて、画面のエレベーターをじっと見た。

 

「オービット・ポータル社......表向きは民間宇宙企業ってことになってるけど、裏じゃ魔術サイドと繋がってるって噂もあるんだよねえ。あんな構造物を作れるってことは......技術的にも資金的にも、通常の企業の域を超えてる。誰が、何の目的でこのプロジェクトを許可したのか......気になるねえ。」

 

操祈がカップを持ち上げて、やや不安げな目で兄を見た。

 

「お兄様、何か良くないことに繋がるってことかしらぁ......?」

 

「んー、まだそこまでは断言できないけどねえ......」

 

結絆は背もたれに身を預け、両手を組んで顎に当てた。

 

「ただ、“軌道エレベーター”ってのは、地球と宇宙を繋ぐ道だ。誰かがその道を使って、何かを運び込もうとしてるとしたら......それは、俺達が想像してる範囲を超えてる“何か”かもしれないってことだよお。」

 

部屋の空気が一瞬だけ静まり返った。

 

テレビからは、エンデュミオンの展望デッキから見える絶景や、開業予定の軌道シャトルの紹介が続いている。

 

当麻はそれを見て笑いながら頭をかき、「ま、何があってもお前らがいれば大丈夫って気はするけどな」とぽつりと漏らした。

 

結絆はその言葉に少しだけ頬を緩め、やれやれと肩をすくめた。

 

「まったく、君はほんと無自覚で厄介なこと言うよねえ......でも、そういうところ、嫌いじゃないよお」

 

そう言って、再び温かい紅茶に口をつけた。

 

宇宙を繋ぐ塔が完成したその朝、結絆の心には、微かな不安が芽生えていた。

 

 

 

 一方、午後のファミリーレストランには、甘いデザートの香りと控えめなBGMが心地よく漂っていた。

 

窓際の席に並んだ4人の少女達は、それぞれスイーツやドリンクを前に、思い思いの時間を楽しんでいた。

 

「おいし~、やっぱりチョコパフェは正義だよね~!」

 

佐天涙子が満面の笑みでスプーンを口に運ぶと、向かいに座る初春飾利がにこにこと頷いた。

 

「本当ですね。ここのは果物もたっぷりで見た目もかわいいですし。白井さんもどうですか?」

 

「私はお姉様のご注文と同じものをいただきますの。お姉様と同じ味......なんて、ふふっ」

 

黒子が熱い視線を美琴に送ると、美琴は苦笑しながらストローをくわえ、アイスカフェオレを啜った。

 

「まったく、黒子は相変わらずね......。でも、まぁ、こうやってたまにのんびりするのも悪くないわね」

 

店内のスピーカーから流れるポップなメロディが、ふと佐天の耳に留まった。

 

彼女は曲に合わせて小さく口ずさみ、ふと目を輝かせた。

 

「ねえ、御坂さん。この曲知ってますか?ARISAってアーティストの新曲なんですよ!」

 

「アリサ......ああ、あの子ね。そんなに人気なの?」

 

ちなみに、美琴は過去にアリサが不良に囲まれていた所を助けたことがある。

 

「うん!最近すごいハマっちゃいまして......歌声に力があるっていうか、聞いてると元気出るんですよね!CDも買っちゃったし、動画も何回も見てますし!」

 

「佐天さん、凄いテンションですね......」

 

佐天のテンションの高さに、初春は少し驚きつつも笑った。

 

その様子を見て、美琴はふと思い出したようにスプーンを止めて言った。

 

「そういえば、アリサ、最近結絆のマジックシアターで歌ってるらしいわよ」

 

「......えっ!?うそっ!?あんないい所で歌ってるんですか!?」

 

佐天の大げさなリアクションに、美琴はくすっと笑って肩をすくめた。

 

「うん。この前、結絆に会ったときに聞いたのよ。どうやらアリサ本人と何か繋がりがあるみたいね。あのマジックシアターって、いろんな意味で特別だから......歌手にとってもいい経験になるのかも」

 

「すごい......ああ~、久々にマジックシアターに行ってみたいなあ......でもチケットってほんとに手に入らないんだよね。ネットでも秒で完売だし......」

 

「佐天さん、もしかして本気で狙ってるんですか?」

 

「もちろん!生でARISAの歌が聴けるなら、何でもするって気分ですよ!」

 

佐天が両手をぎゅっと握りしめて力説する中、黒子がふと窓の外を見て、話題を変えた。

 

「ところで皆様、エンデュミオンの完成ニュース、ご覧になりまして?」

 

「朝のニュースでやってたやつよね。あれ......すごかったわよね、空に伸びる塔って感じで」

 

美琴が腕を組みながら頷くと、初春が携帯を取り出して、映像を再生してみせた。

 

「これです。エンデュミオンの完成記念セレモニー。映像だけでも鳥肌が立ちますよね......」

 

「ほんとだ......なんていうか、神殿みたい。まさか学園都市に宇宙エレベーターができるなんて、思いもしなかったなぁ」

 

佐天はスマホを覗き込みながら目を輝かせた。

 

「でも、宇宙エレベーターって、本当に宇宙まで行けるの?地球から?」

 

「うん、理屈の上ではね。宇宙エレベーターって、静止衛星軌道にまで直接繋がるから、宇宙船を使わなくても物資を運べるの。コストも安全性も、従来の方法より優れてるって言われてるのよ」

 

美琴が真面目に説明すると、黒子が感心したように頷いた。

 

「お姉様の博識さ......さすがでございますわ」

 

「いや、別に......ちょっと興味があっただけよ。学園都市の技術って、やっぱり気になるじゃない?」

 

佐天が手を組んで空を見上げるようなポーズをとった。

 

「もしかして、宇宙って普通に行けるようになるのかな。あたし達みたいな普通の学生でもさ!」

 

「行ってみたいですよね!無重力体験とかしてみたいです~」

 

初春の頬がほんのり赤くなるのを見て、黒子も「ふふっ」と微笑む。

 

「宇宙に行くお姉様......きっと素敵でございますわ」

 

「いや、私が宇宙に行ったら、静電気で何か壊しかねないし......やめといた方がいいかも」

 

美琴は、冗談を言って場を和ませる。

 

一同はくすくすと笑い合いながら、どこかで「いつか本当に宇宙へ行ける日が来るのかもしれない」と思った。

 

まだ見ぬ空の先に、彼女達の未来が少しずつ広がっていく。

 

そんな予感を抱かせる、平穏な午後だった。

 

 

 

 マジックシアター、学園都市の片隅、煌びやかな光と幻想的な演出に彩られたその空間は、まさに"夢"そのものだった。

 

舞台の奥から流れる音楽は、現実と幻想の境界を曖昧にし、観客達をまるで異世界に誘うように包み込む。

 

それはショーの終幕、フィナーレの幕開けだった。

 

舞台中央に一筋のスポットライトが降り注ぎ、その中心に立つ少女がゆっくりとマイクを持ち上げる。

 

「皆さん、今日は......本当に、ありがとうございました」

 

そう言って微笑んだのは、鳴護アリサ。

 

最近になって頭角を現した、奇蹟の歌姫。

 

今日は、彼女にとって新たな一歩となる特別なステージだった。

 

観客席の最前列──そこに座る上条当麻と食蜂操祈も、静かにアリサの姿を見つめていた。

 

当麻は思わず息を呑み、隣の操祈はまるで祈るように手を組み、舞台を見つめている。

 

「......毎回思うけど、なんか、すごい空気だよな。マジックシアターって......名前のとおりだ」

 

「アリサちゃんの歌、楽しみよねぇ」

 

会場全体が息を呑むような静けさの中、アリサの歌声が響いた。

 

♪───

 

彼女の声は、まるで透き通るような光。

 

まるで聴く者の心の奥底に、そっと触れるように優しく、けれど確かな力で胸を打つ。

 

歌詞は、不安を越えて未来へ向かう強さを綴っていた。

 

当麻達は、ただ黙ってその歌に聴き入っていた。

 

操祈は目元を拭いながら、小さく呟く。

 

「いい歌......よねぇ......すごく......心にくる」

 

「......ああ、本当にな......」

 

音楽がクライマックスを迎えると、ステージ後方に星空のような照明が広がり、まるで宇宙そのものを包むかのように観客を魅了した。

 

ラストの一音がホールに響き渡った瞬間──

 

「......っ!」

 

拍手が、爆発するように湧き上がった。

 

熱気と感動が入り混じり、誰もがひととき夢を見たような表情を浮かべていた。

 

アリサはステージの上で深く頭を下げ、涙を拭いながら笑顔で手を振った。

 

その瞳は、誰よりも強く、輝いていた。

 

 

 

 その後、ショーが終わり、関係者の控室にて、アリサは舞台衣装のまま、結絆の前に立っていた。

 

彼女の顔には達成感と感謝の入り混じった、晴れやかな表情が浮かんでいる。

 

「結絆さん......本当に、ありがとうございました......!」

 

アリサは深く頭を下げる。

 

「私......こんなに大勢の前で、歌うことができるなんて思ってもいませんでした。怖くなかったって言えば嘘だけど......でも、こんな舞台に立たせてもらって......本当に、嬉しかったです!」

 

そんな彼女の言葉に、ソファに腰掛けていた食蜂結絆は優しい笑みを浮かべながら、手にしていた紅茶をそっとテーブルに置いた。

 

「うん、よかったよお。君の歌......本当に、心に響いたからねえ」

 

その声音は柔らかく、けれど真剣で、舞台で歌った者に対する最大の敬意が込められていた。

 

「実はね、俺、君と会ってすぐに決めたんだ。君の歌は、きっとこの舞台にふさわしいって」

 

「......え?」

 

「出会ったのは、たった1週間前だったけど......君の声は、ただ綺麗なだけじゃない。強くて、優しくて、聞く人の心を動かす力がある。そんな歌なら──マジックシアターのフィナーレにぴったりだと思ったんだよお」

 

アリサは目を丸くして、言葉を失っていた。

 

そして、ふいに口元を手で押さえ、ぽろりと涙が一粒零れる。

 

「......そんなふうに、面と向かって言ってくれる人、初めてです......」

 

「ははっ、照れちゃうねえ。でも、本音だよお。俺は、音ってのは魔法だと思ってる。だからこそ、魔法の舞台には、本物の魔法使いが必要なんだ」

 

結絆の言葉に、アリサは静かに頷いた。

 

「結絆さん......これからも、歌っていいですか?たくさんの人に、もっと、私の歌を届けたいです!」

 

「もちろん。歓迎するよお。君が望む限り、マジックシアターはいつでも君の居場所だからねえ」

 

そう言って結絆は立ち上がり、アリサの肩にそっと手を置く。

 

「また一緒に、夢を見ようじゃないか──アリサ」

 

アリサは胸に手を当て、小さく、けれど強く頷いた。

 

こうして、鳴護アリサは歌手としての新たな一歩を踏み出した。

 

マジックシアターという幻想の舞台から、彼女の歌は本当に世界に羽ばたこうとしていた。

 

そして、その始まりを見届けた者達は、誰もがその歌を忘れない。

 

それが、心に響く"魔法"だったから。

 

 

 

 その後、結絆とアリサはにこやかに談笑していた。

 

その時、アリサのポケットに入ったスマートフォンが震えた。

 

「あ、電話だ......ちょっと失礼しますね!」

 

アリサがスマホを取り出し、画面を見た瞬間、ぱっと表情が変わる。

 

電話に出たアリサの声は徐々に弾み、目が大きく見開かれていった。

 

「えっ!?エンデュミオンで......!?私が......!?本当に......!?はい、はいっ!もちろん歌います!絶対に!!」

 

通話を終えたアリサは、興奮と驚きの入り混じった表情で結絆のほうを振り返った。

 

「結絆さんっ!聞いてください、私、エンデュミオンのオープニングイベントで歌うことが決まりましたっ!」

 

「へえ、あの宇宙エレベーターのねえ。そりゃまた、大舞台だあ」

 

結絆は感心したように目を細め、紅茶のカップを置いてから、ふっと笑った。

 

「お祝いしなきゃねえ。どうかな、アリサ。今夜は俺と......食事でもどうかな?」

 

「えっ......あ、えっと......!いいんですか?」

 

「もちろん。今日は君の門出の日なんだからねえ。いい店を紹介するよお」

 

アリサは笑顔で頷いた。

 

「行きたいです!すっごくお腹すいてるし!」

 

結絆はその一言に小さく吹き出した。

 

「ふふっ、よかった。じゃあ、ちょっと特別なお店にしようかあ」

 

二人が向かったのは、学園都市第七学区にある隠れ家的な創作和食レストラン。

 

木目調の落ち着いた店内に、ふわりと漂う出汁の香りが食欲をくすぐる。

 

カウンター席に並んで座ったアリサは、メニューを開いた瞬間から目を輝かせていた。

 

「うわ......どれも美味しそう......!あの、結絆さん、いっぱい頼んでも大丈夫ですか......?」

 

「ん?もちろんいいよお。好きなだけ頼んだらいいよお」

 

「やったぁっ!」

 

その直後──

 

「じゃあ、天ぷら盛り合わせと、煮魚定食、それから刺身五種盛りと、出汁巻き玉子も......あ、海鮮釜飯もお願いしたいですっ。あと、茶碗蒸しも!」

 

結絆は、一瞬だけ目を見開いた。

 

が、すぐに柔らかな笑みに戻る。

 

「ふふっ、なんだか嬉しそうだねえ。やっぱり歌の後はお腹が減る感じかなあ?」

 

「はいっ!実は、けっこう......食べる方なんですよ、私」

 

料理が運ばれてくるたびに、アリサは子供のように目を輝かせて箸を動かす。

 

その手際の良さと、どこか品を保ちながらも容赦なく食べ進める姿は、まさに“ギャップ”そのものだった。

 

「......ほわあ......煮魚、味がしっかり染みてて最高です......!あ、結絆さんもひと口どうですか?」

 

「いやあ、いいよいいよお。今日は君のごちそうだし」

 

「うぅ、そう言われるともっと食べちゃいますよ?」

 

釜飯が空になり、さらに出汁巻き玉子を追加注文しながら、アリサはにこにこと食べ続ける。

 

結絆はそんな彼女を眺めながら、ふと呟いた。

 

「......君って、舞台の上と、舞台の外で、こんなに違うんだねえ」

 

「えっ、そうですか?」

 

「うん。歌ってるときは凛としていて、まるで“音の精霊”みたいなのに、今は......なんだか、普通の女の子って感じで」

 

アリサはちょっとだけ恥ずかしそうに笑った。

 

「そりゃあ、私も人間ですから......お腹もすきますし、甘いものだって食べたいですっ」

 

「うんうん、それがいいんだよお。人間らしさがあるからこそ、君の歌は心に響くのかもしれないからねえ」

 

「......そんなふうに言ってもらえると、ちょっと照れちゃいますけど......」

 

やがて、デザートのあんみつが運ばれてくると、アリサは最後の一口までしっかり食べ切り、満足げにため息をついた。

 

「はぁぁ......しあわせ......」

 

結絆は紅茶を啜りながら、優しく笑った。

 

「うん。よかったよお。これで、明日の練習も頑張れそうだねえ」

 

「はいっ!」

 

こうして夜は更けていく。

 

奇蹟の歌姫と、その歌を導いた男の、ささやかだけれど温かなひととき

 

それは、アリサにとっても、結絆にとっても、忘れられない夜となった。




六十二話以来、久々にアリサが出てきました。

二週間ぐらいの間に、結絆は様々な事件に巻き込まれてますね。
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