食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回で、エンデュミオン編はおしまいです。


マジックシアターの歌姫

 幻想的なライブの余韻が消えゆく頃、結絆の元に一つの通信が届いた。

 

差出人は、学園都市を統括する存在であるアレイスター=クロウリー。

 

『上空のノイズが晴れた今、ようやく連絡が通じた。君に、感謝を述べる必要がある』

 

その一言から始まった声は、いつものように無機質で、それでいてどこか底知れない響きを含んでいた。

 

「アレイスター......」

 

結絆はその名を呟くと、アリサ達に一言断って、ライブ会場の裏手に位置する広場へと向かった。

 

そこには、瓦礫の陰に倒れ込んだまま気を失っている一人の少女の姿があった。

 

「......レディリー」

 

その不老不死の魔女は、結絆がエンデュミオンを消滅させた時の余波に巻き込まれ、意識を失ったまま放置されていたのだった。

 

「崩壊の中心にいて全くの無傷とは......不老不死は恐ろしいねえ。」

 

結絆は彼女の身体を軽々と抱き上げると、そのまま無言で歩き出す。

 

向かう先は、窓のないビル。

 

そこで、アレイスターが待っている。

 

結絆は原典の力を使い、アレイスターの元にたどり着いた。

 

謎の液体に逆さまに浮かぶその姿は、今も変わらず、学園都市を俯瞰する神の如き風格を漂わせていた。

 

「来訪、感謝する。食蜂結絆」

 

「君に礼を言われると嬉しいねえ」

 

結絆は笑いながらも、アレイスターの眼差しから逃げずに視線を合わせる。

 

その腕の中には、まだ意識を取り戻していないレディリーの姿。

 

「彼女を拾ってきたよお。君が連れてきてほしそうにしてたからねえ」

 

「......なるほど」

 

アレイスターは一瞬、沈黙する。

 

「レディリー=タングルロード。彼女は不老不死という概念への重要な手がかりとなるだろう」

 

「つまり、彼女を研究材料にするってことかい?」

 

「他に使い道があるとでも?」

 

アレイスターの声に迷いはなかった。

 

「彼女自身も、終わりのない時間の中で解放を求めていた。ならば、我が知と技術が彼女に終わりをもたらす糸口になるのなら、それは彼女にとっての救いにもなろう」

 

結絆はふと、レディリーの穏やかな寝顔を見下ろす。

 

その表情は、皮肉にも安らかだった。

 

「......それも、彼女の願いなのかもしれないねえ」

 

「それにしても、君の存在はますます興味深い」

 

アレイスターの言葉が、ゆっくりと結絆に向けられる。

 

「悪魔――ムルムルを出し抜き、その力を自らのものとした。音楽の魔神の本質を掌握した上で、人の心を癒すために使うという選択。それは神でも魔でもなく、まさしく人の意思だ」

 

「お褒めに預かり光栄だよお。でも、ムルムルも、心の底には寂しさがあったと思うんだよねえ。」

 

「ふむ......その寂しさすら取り込んだ君は、もはや一つの調和の象徴ともいえる。人と異形の力を、矛盾なく融合させた存在......その進化の形は、非常に面白い」

 

アレイスターの目がわずかに細くなる。

 

「上条当麻と共に、学園都市の危機を救ってくれたこと、心より感謝するよ。それと同時に、君の成長を今後も観察しようと思っている」

 

「監視って言った方が正しいんじゃないかなあ?」

 

「好きに解釈するがいい。君のような“逸脱”がどう未来を変えるか、私の関心を引くには充分だからな」

 

結絆は肩をすくめ、軽く笑った。

 

「まったく、君は相変わらずだねえ。でも、俺は俺なりに動くだけだよお。......自分の大切な人達のためにね」

 

「それでいい。人としての在り方を貫くならば、その力も、まだまだ進化を遂げるだろう」

 

アレイスターの言葉と共に、黒衣の研究員達が現れ、慎重にレディリーを運び始めた。

 

彼女の運命は、ここで新たな局面を迎える。

 

不死の研究のための被験体として、そして――いずれ、再び誰かの希望となる日が来ることを願って。

 

結絆はその背を見送ると、再びアレイスターを見上げた。

 

「じゃあ、俺は帰るよお。皆が待ってるからねえ」

 

静かな言葉を背に受けながら、結絆は帰るべき場所へと向かう。

 

闇の中でも、その背には確かな光が宿っていた。

 

 

 

 翌日

 

学園都市は、次なるイベントである大覇星祭に向けて静かに、だが着実に動き始めていた。

 

しかし、その舞台裏では膨大な作業が残されていた。

 

戦闘の余波で破壊された建物群。

 

吹き飛んだ街路灯やモノレールの支柱。

 

ガラスの破片が散乱する歩道......。

 

華やかな祭典を迎えるには、都市の顔を取り戻すことが第一だった。

 

そして今、その先頭に立つのは、統括理事会の一員にして数々の危機を乗り越えてきた存在、食蜂結絆であった。

 

「さーて、みんなあ!今日中に仕上げちゃおうねえ!」

 

その軽やかな声が、現場全体に響き渡る。

 

学園都市の中心部、エンデュミオンの周辺区域には数百人の作業員が集結していた。

 

その最前線に立ち、自ら作業着に袖を通して指示を飛ばすのが――金髪の青年、結絆だった。

 

「第一区画の壁面は、耐震素材で組み直して!配管のルートはこっちの図面どおりに変更するんだよお!」

 

その言葉に応じて、作業員達は一斉に動き出す。

 

だが、その中で最も目立っていたのは、やはり結絆本人だった。

 

「よっとお!」

 

彼は軽くジャンプしながら、壊れた高層ビルの壁面に駆け上がると、その手に持った特殊な合成素材を瞬時に壁のフレームに展開させた。

 

「空間固定、圧縮材注入――はい、完了っとお」

 

時空間の原典を使い、別空間に保管していた建材を即座に展開、さらには能力による精密な手作業で、職人顔負けの修復スピードを見せる。

 

「お、おい......あれ、本当に人間か?」

 

「一瞬で柱三本建て直しやがった......」

 

「いや、あれが“食蜂結絆”なんだよ。この街の顔だぞ......!」

 

呆然とする作業員達に、結絆はにっこりと笑いながら手を振った。

 

「そっちも頼むよお?サボってると差が広がっちゃうからねえ?」

 

その言葉に、一人の作業員がハッと顔を上げた。

 

「......ったく、あんな若造に言われてる場合かよ!」

 

「俺達の仕事だって、誇りあるもんだ!なあ、皆!!」

 

「おうよ!!」

 

一気に士気が上がる。

 

そこからの作業は、もはや競争だった。

 

結絆がビルの外装を一面仕上げれば、作業員達が内部の配線を整える。

 

彼が空中で構造材を操れば、地上では大型重機が一糸乱れぬ動きで支柱を支える。

 

まるでオーケストラのような見事な連携が生まれ、作業は恐るべきスピードで進んでいった。

 

その中で、結絆は決して上から命令するだけではなかった。

 

分身体を用いて重機の運転席に乗ってコンクリートを搬送し、時にはレンチ片手に足場のネジを締め、破片を片づけ、作業員の水分補給の手配まで行う。

 

統括理事でありながら、誰よりも現場にいる存在。

 

「おい、食蜂さん、こっちの資材、もう少し欲しいんすけど!」

 

「了解~、10秒で持ってくるねえ」

 

次の瞬間には、光と共に必要な素材が目の前に積まれる。

 

「......マジかよ......秒で来たぞ」

 

「この人がいれば、一週間の仕事が半日で終わるってマジだったんだな......!」

 

そんな声が漏れる中、結絆は軽く汗を拭ってから、空を見上げる。

 

青空に、白い飛行船が浮かぶ。

 

飛行船の液晶には、大覇星祭の広告が流れている。

 

「......間に合いそうだねえ」

 

彼の呟きと同時に、最後のビルの外装が取り付けられ、学園都市の重要な移動手段であるモノレールも復旧した。

 

その瞬間、作業員達から自然と歓声が上がった。

 

「やったぞー!!」

 

「全部終わった!マジで、半日足らずで終わった!!」

 

「信じらんねぇ......けど、俺達......やり遂げたんだな!」

 

皆が達成感と共に喜ぶ中、結絆はヘルメットを外し、太陽に目を細めながら微笑んだ。

 

「うん、最高のチームワークだったねえ」

 

その笑顔に、誰もが心からの敬意を感じた。

 

たとえ異能を持ち、理不尽な力を操る存在であろうとも、人と共に歩み、汗を流し、共に街を築くその背中には、まぎれもない人としての強さがあった。

 

「食蜂さん、マジでありがとうございました!」

 

「こちらこそ助かったよお。......さて、あとは大覇星祭を思いきり楽しむだけだねえ!」

 

再び動き出す学園都市。

 

その中心で、金髪の青年は静かに、そして確かに人々の未来を見据えていた。

 

 

 

 「ようこそ、マジックシアターへ!アリサ」

 

ステージの中央、鮮やかな光に包まれて歌い終えた少女の名を、結絆は静かに呼んだ。

 

鳴護アリサ、奇蹟の歌姫。

 

エンデュミオン崩壊後のライブで多くの人の心を癒し、そして今、結絆が率いるマジックシアターの新たな歌姫として、正式にその幕を開けた瞬間だった。

 

観客席からは惜しみない拍手が沸き上がり、ステージ裏では蜜蟻愛愉が「ふふっ、良い感じねえ」と笑い、帆風潤子が感慨深げに頷き、悠里千夜は「す~~~~っごくいいね!」と喜んでいた。

 

舞台裏へ戻ってきたアリサに、結絆は笑顔で手を差し伸べた。

 

「アリサ、今日の歌、凄くよかったよお。夢みたいだったねえ」

 

「ありがとう、結絆くん。......でも、まだ緊張してたかも」

 

「ふふ、そんなことないよお。堂々としてたし、皆の心に響いていたよお」

 

アリサは少しだけ頬を染めながら、小さく「うん」と頷いた。

 

そんな中、操祈がにこやかに現れて手を振った。

 

「お疲れ様、アリサちゃん。すっかり劇場の顔って感じねぇ?」

 

「ふふっ......ありがとう、操祈ちゃん」

 

「じゃあ、今日はお祝いだねえ」

 

結絆の一言に、周囲がぱっと明るくなる。

 

「おお、焼き肉だよな!?よっしゃー!」

 

「A5ランクの牛タンが食べたいですのー!」

 

「焼き肉、超楽しみです」

 

おなじみの顔ぶれがぞろぞろと集まり出し、食事処に移動する頃には小さな祭りのような賑やかさになっていた。

 

 

 

 結絆行きつけの個室焼き肉店「火焔」。

 

大人数にも対応できる奥座敷で、鉄板が次々と熱され、香ばしい肉の匂いが立ちのぼる。

 

「乾杯ーっ!!」

 

「お疲れ様、アリサちゃん!!」

 

「マジックシアターの新たな歌姫に栄光あれっ!」

 

全員が一斉にグラスを掲げ、部屋いっぱいに笑い声が響く。

 

結絆はというと、肉を焼きながら周囲の様子を見回し、皆の笑顔を一つ一つ目に焼きつけていた。

 

アリサが、いつの間にかそんな彼の隣にやってきて、そっと囁く。

 

「あのね、結絆くん」

 

「んー?なあに?」

 

「こうして皆と笑いあえる場所があるって......すごく素敵だね。私、ここに来て本当によかった」

 

結絆はその言葉に、少し照れたように笑ってから

 

「うん、俺もそう思うよお。アリサがここに来てくれて、皆がもっと明るくなったからねえ」

 

アリサはうれしそうに目を細め、それから肉をひと切れ、結絆の皿にそっと乗せた。

 

「じゃあ、お礼にこれ。私の特製焼き肉、食べて?」

 

「......おおっ、嬉しいねえ!これはきっと、奇蹟の味がするよお」

 

「あはは、ハードル上げすぎだよ」

 

そんな微笑ましいやり取りを聞いていた面々は、口々に言葉を交わす。

 

「やっぱり......アリサさんは、結絆さんに似合うと思いますの」

 

「ふふっ、でも私達も負けてられないわよねえ」

 

「アリサが加わって、マジックシアターはもっと素敵になったよね!」

 

「本当......この場所は、夢みたい」

 

そう言ってアリサが見渡す先には、笑い合う仲間達。

 

口いっぱいに肉を頬張る黒子と絹旗。

 

談笑しながら楽しそうに箸を動かす操祈と当麻。

 

それぞれが、それぞれの居場所を見つけていた。

 

結絆はそんな光景を静かに見つめていた。

 

「......これからも、守っていきたいねえ。この時間を、この場所を」

 

その声に、アリサもまた、強く頷いた。

 

「うん、私も、歌をいろんな人に届けていきたい。皆に、そして結絆くんに」

 

焼き網の上で肉がじゅうっと音を立て、香ばしい煙が立ち昇る。

 

笑顔と想いが交差する夜。

 

それは奇跡の歌姫が本当の居場所を見つけた、記念すべき一日だった。




アリサが、正式にマジックシアターの一員になりました。

次回からは、ミサカ編です。
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